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[GDC 2009#08]NVIDIA,PhysXの可能性を広げる「APEX」の現状とデモを公開
同社はこれに合わせて,アジア太平洋地域の報道関係者に向けた電話会議で概要の紹介を行ったので,それを基に,APEXとは何なのかを簡単にまとめてみたい。
アーティストが直接利用できる
PhysXエフェクトインタフェースに
電話会議で説明を行ったのは,AGEIAの元CEOで,現在はNVIDIAのPhysX担当副社長を務めるManju Hedge(マンジュ・ヘッジ)氏。氏は冒頭,PhysXのこれまでを簡単に振り返ってから,APEXを,「(PhysXを用いた)グラフィックスデザインに存在する,三つの課題に対する回答」だと位置づけた。
Hedge氏の挙げる三つの課題は下記のとおりである。
- コンテンツの作成にプログラマーが必要で,それがアーティストの生産性を制限する
- コンテンツを,異なるプラットフォーム向けにカスタマイズするのには大変な手間がかかる
- レンダリング,AI,アニメーション,サウンドといった多くの部分にまたがる(=cross-functionalな)物理シミュレーションの実装が難しい
おそらく,最も重要なポイントは,1.であろう。
PhysXのプログラムインタフェースは,プログラマーから見るとそこそこ高レベルなのだが,あくまでそれは,プログラマーが利用するインタフェースの域を出ていないのだ。これに対してAPEXでは「アーティストは,オーサリングツールを利用して,PhysXベースのコンテンツをデザインできる」(Hedge氏)レベルに達しているという。
プログラマーしか利用できなかった物理シミュレーションを,コンテンツを制作するアーティストが使えるようになるわけで,これはPhysXの利用範囲を広げることに貢献してくれそうだ。
また,そうしてデザインされたコンテンツは,PhysXをサポートするマルチプラットフォーム上で利用可能というのも,APEXのウリである。
「APEXを使って,例えば『ハイエンドのGeForce GTX 280上で1万個のパーティクルを使って実行するPhysXエフェクト』を作成したとする。そのエフェクトを,より能力の低いプラットフォームで実行するときには,APEXのモジュールが,パーティクルの数を,5000個などへと自動的に落として実行してくれる」(Hedge氏)。
Hedge氏のいう「モジュール」は,APEXを構成するパーツのようなものだ。APEXはPhysX APIの上に実装されるフレームワーク(※ある機能を利用するために必要なツールなどをまとめたもの。アプリケーションの土台となる枠組み)だが,APEXが提供するエフェクトは,個々がゲームプラットフォーム上で実行可能なモジュールとして設計されている。
上のスライドに,Destruction(破壊エフェクト)やClothing(布地のエフェクト),Vegetation(自然の風景)といったブロックが見えると思うが,これがAPEXを構成するモジュール群。これらモジュールは,PCやゲーム機といったプラットフォームの能力に合わせられるように設計されているそうで,極端なことをいえば,GeForce GTX 295とWiiで,同じ物理エフェクトを利用できるわけである。……もちろん,パーティクルの数や見た目などは変わってくるが。
なお,APEXモジュールはすでに主要なゲームエンジンに組み込まれており,すぐに利用が可能とのことだ。
では,実際にどのようなエフェクトが利用できるのだろうか。NVIDIAはYouTubeに複数のデモムービーをUpしているので,そのなかからいくつかピックアップして紹介していこう。
●APEX Destruction
物を破壊するエフェクトで,例えば「物体を銃で撃つと破片に分かれてリアルに飛び散る」といった様子を再現する
●APEX Clothing
コスチュームや旗といった,布地をリアルに動かすエフェクト。「引き裂く」など,特殊なエフェクトも利用可能だ。オーサリングツールとしては3ds Max,Mayaなどメジャーどころがサポートされている
●APEX Vegetation
リアルな草木の動きや葉の動きを表現するエフェクトだ。GDC09でβ版が公開された,樹木を描くミドルウェア,「SpeedTree 5.0」でAPEXがサポートされているという
物理シミュレーションの
業界標準APIへと驀進するPhysX
以上,ざっくりまとめるなら,APEXは,複雑で面倒なプログラミングが必要とされていた物理シミュレーションベースのエフェクトを,プログラムのスキルを持つわけではないアーティストでも簡単に利用できるようにし,かつ,PCやゲーム機の垣根を越えて使うこともできるようにするという,かなり野心的なフレームワークということになる。Hedge氏はセッション中,何度も繰り返していたのだが,「今すぐ利用できる」点もポイントが高い。
業界内の実績という観点では,先行する「Havok Physics」があり,また,OpenCLベースで物理シミュレーションを行うことも不可能ではないが,少なくとも謳われている仕様は,業界標準を狙うNVIDIAの意気込みを感じさせるものになっているといえる。
とくに,APEXにより,アーティストのレベルにまで物理シミュレーションエフェクトが下りてくると,より気軽にPhysXを利用してくるケースも増えそうだ。
実際の完成度がどれほどかは,今後,どういうゲームが登場してくるかである程度見えてくるだろう。今後,マルチプラットフォーム対応で,物理エフェクトを用いたゲームタイトルが出てくるようなことになると,PhysXの未来は明るくなるはずだ。大きなハードルを一つ越えたように見えるPhysXの今後に期待したい。
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