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印刷2021/02/11 12:00

インタビュー

「GUILTY GEAR -STRIVE-」では独自のネットワークコードにより高い競技性が担保される――開発Dの片野氏に採用の経緯やメリットを聞いた

 アークシステムワークスが2021年4月9日にリリースする「GUILTY GEAR -STRIVE-」PS5 / PS4 / PC)。本作は同社の人気格闘ゲーム「GUILTY GEAR」シリーズの最新作ではあるが,過去シリーズから踏襲されてきたテクニックや“起き攻め”のループ性が見直されるなど,ゲームシステムに大きなメスが入れられている。

※起き攻め:対戦相手の起き上がりに複数の選択肢を用意した攻めを展開すること。「GUILTY GEAR」シリーズの起き攻めはとくに苛烈なものとされており,起き攻めのループだけで負けてしまうことも多かった。

画像集#010のサムネイル/「GUILTY GEAR -STRIVE-」では独自のネットワークコードにより高い競技性が担保される――開発Dの片野氏に採用の経緯やメリットを聞いた

 さまざまな変化と進化が与えられる本作であるが,そのなかでもとくに大きいものが,オンライン対戦で使用されるネットワークコードを従来のディレイ方式から「ロールバック方式」に変更したことが挙げられる。
 これまでのノウハウを一度捨ててまでロールバック方式を採用した理由とは――。今回4Gamerは,本作の開発ディレクターを務める片野 旭氏にオンラインでのインタビューを実施し,採用された経緯やメリットとデメリットなどを聞いた。

開発ディレクター・片野 旭氏
画像集#019のサムネイル/「GUILTY GEAR -STRIVE-」では独自のネットワークコードにより高い競技性が担保される――開発Dの片野氏に採用の経緯やメリットを聞いた

 本稿ではディレイ方式とロールバック方式の違いなどの説明はしていない。もし理解が不足していると思えたときは,以下の記事で補完できるので,こちらも合わせて目を通しておこう。
 なお,該当記事ではロールバックネットコード「GGPO」を解説しているが,「GUILTY GEAR -STRIVE-」のネットコードはアークシステムワークスが独自に研究開発したロールバックネットコードが使用されているとのこと。大まかな仕組みは同じだが,使われているコードは異なるので,その点には留意してほしい。

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 アークシステムワークスは,2020年10月29日から11月16日の期間,Steam版「GUILTY GEAR XX AC+R」において,ロールバックネットコード「GGPO」の導入に向けたβテストを実施している。国内向けの格闘ゲームではあまり採用されてこなかったGGPOのオンライン対戦を体験できたので,そのレポートをお届けする。

[2020/11/12 12:00]

「GUILTY GEAR -STRIVE-」公式サイト



4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。まずはじめに簡単な自己紹介をお願いします。

片野 旭氏(以下,片野氏):
 「GUILTY GEAR -STRIVE-」の開発ディレクターを務めます片野です。よろしくお願いします。

4Gamer:
 お聞きしたいことは多いのですが,今回はとくにネットワークコードのお話を聞かせてもらえればと思います。さっそくですが,「GUILTY GEAR -STRIVE-」でこれまでの国内の主流だったディレイ方式からロールバック方式に変更したのはどういった理由からなのでしょうか。

片野氏:
 「GUILTY GEAR -STRIVE-」では命題として,国内だけでなく,国外――とくに北米と欧州圏でのシェアを伸ばしていくというものが掲げられています。海外のプレイヤーからは,以前からロールバック方式を採用してほしいという声が多く届けられていたこともあり,1つの大きな柱として採用に踏み切ったわけです。

4Gamer:
 確かに国土の広い国やインターネットの整備が間に合っていない地域ですと,従来のディレイ方式では対戦にならないという声は以前から聞こえていました。

片野氏:
 おっしゃる通りです。開発にもその声はかなり前から届いていまして,とくに「GUILTY GEAR -STRIVE-」の発表後はより多くの意見が寄せられるようになりました。そういった背景もあって,命題をクリアするためにロールバック方式の採用は必須だろうという考えに至ったわけです。

画像集#002のサムネイル/「GUILTY GEAR -STRIVE-」では独自のネットワークコードにより高い競技性が担保される――開発Dの片野氏に採用の経緯やメリットを聞いた

4Gamer:
 そうなりますと,かなり早い段階――それこそ初期の時点でロールバック方式を採用することが決まっていたのでしょうか。

片野氏:
 開発がスタートした時点で,もう決定していました。そもそも「GUILTY GEAR -STRIVE-」の発表よりもっと前からロールバック方式への移行は検討が進んでいたんです。

4Gamer:
 発表前ということは,例えば前作にあたる「GUILTY GEAR Xrd -SIGN-」でも検討されていたと。

片野氏:
 そうですね。ただ,「GUILTY GEAR Xrd -SIGN-」のときは,開発コストと時間との兼ね合いもあって,見送る形になりました。今回が準備もコストもタイミングとしてはベストだろうということで,採用が決まりました。

4Gamer:
 昨年末にSteam版「GUILTY GEAR XX AC+R」でロールバック方式の導入に向けたβテストが実施されました。これはある意味で試運転と考えてよろしいのでしょうか。

片野氏:
 そういった側面があることは否定しませんが,実は「GUILTY GEAR XX AC+R」で使われているネットコードと,「GUILTY GEAR -STRIVE-」のものは違うんです。

4Gamer:
 それは知りませんでした。てっきり同一のものを採用すると思っていました。

片野氏:
 ご存知のように,「GUILTY GEAR XX AC+R」ではミドルウェアのGGPOが使用されていますが,「GUILTY GEAR -STRIVE-」では,弊社が独自に研究開発を進めた仕組みが使われています。どちらもロールバック方式ではあるのですが,まったく同じものを使用しているわけではないということは知っておいてもらえればと思います。

 ただし,違うものを使用しているといっても,「GUILTY GEAR XX AC+R」という非常にシビアなコマンド入力が要求されるタイトルで,大きな成果を得られたのは事実で,「GUILTY GEAR -STRIVE-」のネットコードの研究開発にも大きな影響を与えてくれました。そういう意味では試運転と言ってもいいかもしれません。

画像集#016のサムネイル/「GUILTY GEAR -STRIVE-」では独自のネットワークコードにより高い競技性が担保される――開発Dの片野氏に採用の経緯やメリットを聞いた

4Gamer:
 βテストでは,参加したプレイヤーの多くからポジティブな意見が寄せられていました。

片野氏:
 国内,海外ともに,好意的な意見がほとんどでした。βテストに関しては間違いなく成功だったと言えます。我々開発も実際にプレイした際は驚きました。過去のオフライン対戦で培ったテクニックがそのまま使えるというのは,歴史を持つ本タイトルにおいて本当に大きな意味を持っています。

4Gamer:
 実際に導入して改善点は何か見つかりましたか。

片野氏:
 βテストなので一部不具合はありましたが,トータルでは非常に良好な結果が得られたと言っていいでしょう。強いて挙げれば,快適に対戦するために表示されるPING値に応じて,入力遅延を設定する必要があったんですが,その設定がゲームの仕組みに精通している人でないと分かりにくかったかなと思っています。

4Gamer:
 そのあたりは「GUILTY GEAR -STRIVE-」では分かりやすく提示されるということでしょうか。

片野氏:
 入力遅延については,遅延を一律に入れておくか,ゲーム内で設定できるか,という2パターンで考えていまして,ここをどうするかは検討中です。設定してもらうほうがより快適に遊べるとは考えていますが,その場合は遅延設定の導線を分かりやすく提示する必要があると考えています。
 今後ロールバック方式でのオープンβテストを実施する予定となっており,ひとまずはそこで多くのプレイヤーに体験してもらい,我々もデータを収集させていただきます。そのうえで,製品版の発売に向けて,どのようなアプローチを仕掛けていくか考えたいですね。

画像集#013のサムネイル/「GUILTY GEAR -STRIVE-」では独自のネットワークコードにより高い競技性が担保される――開発Dの片野氏に採用の経緯やメリットを聞いた

4Gamer:
 そのオープンβテストですが,昨年の時点で2021年初頭に実施すると発表されていました。具体的な時期はいつ頃になりそうでしょうか。

片野氏:
 今回のインタビューが掲載されている時点ではすでに発表されていると思われますが,2月19日から3日間を予定しています。多くの方にとっては,ロールバック方式の「GUILTY GEAR」に初めて触れる機会になると思いますので,少しでも多くのプレイヤーに遊んでもらいたいですね。現在,調整を進めていますが,テスト環境下では日本-アメリカ間でも問題なく対戦が行えています。

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[2021/02/05 15:55]

4Gamer:
 日本とアメリカの対戦で問題ないのであれば,国内同士であればかなり快適に遊べそうですね。

片野氏:
 ただ,プレイヤーのネット環境はさまざまですので,どのような結果になるかは分かりません。このあたりは今回のテストでデータを取って,開発に反映させていきたいと思っています。

4Gamer:
 ちなみに前回のβテストでは,ディレイ方式が採用されていました。開発の初期からロールバック方式を想定していたとのことですが,何か意図があったのでしょうか。

片野氏:
 これはもう単純に開発が間に合っていなかったからです。ただ,検討中の案なのですが,ディレイ方式とロールバック方式を選択できるようにといった話も出てはいます。今回のテストはロールバック方式のみですが。

4Gamer:
 先ほど,「GUILTY GEAR XX AC+R」はシビアなコマンド入力が要求されるという話がありました。そもそもの論として,「GUILTY GEAR」シリーズは意図的な入力遅延が発生しないロールバック方式とは相性がいいようにも思えます。

片野氏:
 その点は我々も同じ意見でして,従来のディレイ方式では,シビアな目押しテクニックが成功するか否かが運になってしまうことが多くありました。技術というのは努力の結果であり,それが運になってしまうのはよくないだろうという考えですね。
 ロールバック方式であれば,入力タイミングがある程度固定されますので,プレイヤーの高度な技術がオンライン対戦でも生かしやすい。これはゼネラルディレクターの石渡が考える「優れるプレイヤーと技術は評価されるべき」という思想とも合致していますし,オンライン対戦であるならば,ロールバック方式のほうがより適しているだろうと思っています。

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4Gamer:
 ただ事実として,これまで国内向けの格闘ゲームでは,ほとんどでディレイ方式が採用されてきました。これはどういった理由からだと考えていますか。

片野氏:
 まず大前提として,国内のオンラインで遊ぶのであればディレイ方式でも安定して快適に遊べていました。ですので大きな問題が起こらなかったというのが要因としてあると思います。それと過去にもロールバック方式に対応した格闘ゲームはいくつもあったのですが,それらのほとんどが国内のインターネット環境が整う前のものでした。キャラクターが不自然な挙動を取ってしまうケースも多く,そのときの悪いイメージが強く残っていたのかもしれません。

4Gamer:
 確かにオンライン対戦が一般的に普及するより前の格闘ゲームでいくつかあったことを覚えています。当時はオンラインで対戦できるなんて夢みたいな話だと思ったものですが,実際に遊んでみたところ,正直に言って対戦になるものはなかったと思います。

片野氏:
 そういった土壌もあって,最近まで国内ではディレイ方式が優れているという認識が強かったのではないでしょうか。ただ,海外では日本とは逆に,ディレイ方式では快適な対戦が難しい。ほとんどのプレイヤーがロールバック方式を求めているわけです。ただ,遠方との対戦機会が少ない地域のプレイヤーからはロールバック方式よりもディレイ方式がいいという意見も届いており,これは地域ごとの通信環境によって変化するものだということも認識しております。

4Gamer:
 少し話が戻りますが,我々も「GUILTY GEAR XX AC+R」のβテストに参加して,ロールバック方式の対戦を体験してみましたが,想像以上に快適という印象を受けました。ある程度は調べて記事化もしましたが,未知の部分も多いというのが現状です。話せる範囲で構いませんので,技術的なお話を聞かせてもらえたりしますでしょうか。

片野氏:
 基本的な仕組みは4Gamerさんの記事で紹介されていたもので問題ないと思います。よくまとめられている記事だなと思いました(笑)。それ以上踏み込んだ仕組みについてのお話は,独自の研究技術であることもあってここでは少し控えさせていただければと思います。ただ,基本的な仕組みは4Gamerさんの記事を見てもらえば理解してもらえます。

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[2020/11/12 12:00]

 少し補足するなら,ロールバック方式だからといって遅延がまったく発生しないわけではありません。先ほど,導線が分かりにくいという話もありましたが,PING値に対応した遅延を設定することで,より快適な試合が楽しめるかと思います。
 また,対戦格闘ゲームでは入力遅延が低いほうがいいのは確かですが,それ以上に“遅延が変動しないこと”が重要なんです。そこが固定されるということはオフライン状態での練習の成果をオンラインでも生かしやすい。結果としてロールバック方式では,高い競技性が担保されるということにつながっているわけです。

4Gamer:
 ディレイ方式と比べての短所があまり見つからなかったのですが,明確に短所と言える部分はあるのでしょうか。

片野氏:
 PING値に対応した遅延を設定できるという前提があれば,ディレイ方式と比較しての短所はほぼありません。その設定部分が分かりにくいことが最大の短所と言っていいかもしれませんね。
 もちろん,状況によってはキャラクターがワープしたり,当たったはずの攻撃が当たっていないことにされたりということも起こるのですが,そのような状況ですとディレイ方式でも正常な対戦をするのは難しい状況になっていると思われます。比較してのデメリットにはなりえませんね。

4Gamer:
 オープンβテストの結果が良好だったこともあり,国内でもディレイ方式よりもロールバック方式のほうが優れているという認識になりつつあるように思います。

片野氏:
 それは我々も感じています。ただ,ロールバック方式が優れているのは確かですが,万能ではないということも知っておいてほしいですね。ロールバック方式であれば,いつでも誰とでも快適な対戦が担保されるなんてことはありませんので。

4Gamer:
 最後にオープンβテストと発売を楽しみにしているファンやプレイヤーにメッセージをお願いします。

片野氏:
 「GUILTY GEAR -STRIVE-」は「GUILTY GEAR」シリーズの最新作ではありますが,すべての要素を一から見直して制作しています。完全に新しいゲームをプレイする気持ちでまずはオープンβテストに参加して,ゲームを楽しんでもらえればと思っています。
 また,発売後の話になりますが,新型コロナウイルスの影響で今年もオフラインのイベントを実施するのは難しそうですが,代わりに昨年のARCREVO Japan ONLINEのようなオンライン大会を開催していきたいと考えています。これらのイベントにも期待していてください。

4Gamer:
 本日はありがとうございました。

――2021年1月20日収録

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