企画記事
2024年,個人的クィアゲーム大賞。LGBTQ+もそうでない人も楽しめるイカしたクィアゲームたちを,勝手に表彰します
4Gamer編集部所属。ADVが好き。2024年に一番遊んだソフトは「ユニコーンオーバーロード」。最近はみんながポケポケをやっているなか,ひとりで「ポケモンカードGB」にいそしんでいる。
Citizen Sleeper
ジャンル | アドベンチャー |
メーカー | Jump Over The Age |
公式サイト | https://www.fellowtraveller.games/citizen-sleeper |
2024年で最もすばらしいと感じたゲームである。
主人公はスリーパーと呼ばれる「疑似生命体」だ。企業に身体を売り渡してしまったことで過重労働に従事させられていたが,必死の脱出を経ておんぼろ宇宙ステーション「アーリンの瞳」にたどり着いた。
スリーパーに人間だった頃の記憶はほとんどなく,あるのは断片的な痛みの記憶のみである。何もかもを失ったスリーパーだが,アーリンの瞳の住人たちと交流し,人びとの手を借りたり,あるいは手を貸したりする過程で,少しずつ自らの生活を選び取っていく。
プレイし始めてすぐ,その文章量に圧倒された。主人公の内面を「あなた」という二人称を駆使して細やかに語る文体は,小説に近い読み応えがある(「ディスコエリジウム」を思い出すプレイヤーも多いだろう)。さらに物語はオートセーブ形式で後戻りができないため,プレイヤーはヘヴィなテキストと取っ組み合いながら,大量に現れるタスクに向き合わねばならない。
そこで語られるのは,何ひとつ持っていなかったスリーパーが,人びととの関わりの中に自身の居場所を見出していく過程だ。肉体労働のためにぼろぼろにされた身体で屋台を出す青年と互いの過去を語り合ったり,老いた植物学者の女性とともにキノコ栽培を研究したり。ひとつひとつの交流はささやかでも,その積み重ねが「自分はここにいてもいいんだ」と感じるための手がかりになっていくのだ。
キノコ料理の屋台を出すエンフィス。主人公とは良き友人になる |
「自分はここにいてもいいのか」――人としての歴史を見失っているスリーパーのこの問いかけは,多くのクィアにとって身近な感覚である。クィアであるということは,誰が自分のアイデンティティに敵意を抱いていて,誰が自分の味方なのか,何も分からない状況から見極め続けなくてはいけないという緊張の積み重ねそのものだ。この恐怖は生きている限り常にまとわりついてくる肌感覚であり,それが多くのクィアを追い詰めるものであることは間違いない。
それでも,何を考えているのか計り知れない人びとの群像に手を伸ばし,他者とともに生きようとするスリーパーの姿には,もしかしたらこの世界にも希望があるのか,と信じさせてくれるエネルギーがある。今の自分は孤独でも,いつか誰かとつながって生きられるのかもしれない。そのためにできることがあると,「シチズン・スリーパー」は教えてくれる。そのような光は,スリーパーが最終的にどこで生きていくかを決めるときも,そしてきっとそのあとも,スリーパーの生を照らし続けるのだ。
また,本作には主人公を含めジェンダーアイデンティティが明示されないキャラクターが複数登場し,それは翻訳にきちんと反映されている(翻訳者は以前連載「ゲーム翻訳最前線」にも登場した小川公貴さんだ)。その点も含め,さまざまなアイデンティティを持つプレイヤーに楽しんでほしい一作だ。2025年1月31日には続編のリリースも決定しているので,今から日本語版の配信を楽しみに待ちたい。
リードオンリーメモリーズ:ニューロダイバー
ジャンル | アドベンチャー |
メーカー | MidBoss |
公式サイト | https://chorusworldwide.com/neurodiver_jp/ |
前作「2064: Read Only Memories」はあまりに印象鮮烈だった。発売当時,売れないフリーライターという筆者にとって強い親近感を感じざるをえない設定の主人公,サイバーパンクシティであるネオ・サンフランシスコで巻き起こる奇妙な事件,何か事情のありそうな一癖あるキャラクターたちを相手に渡り合う緊張感,そしてほのかだが「分かる」形で漂うクィア・ロマンスの香り。今作は“あの”リードオンリーメモリーズの続編であり,それゆえに期待値も高かった。
はっきり言えば,本作は最初の期待値にきっちり応じきった作品ではないだろう。同価格帯のADVと比べてもボリュームは控えめだし,ゲームとして行わねばならない行動も少ないので,プレイヤーの能動的なアクションに重きを置く人にとっては物足りないところもあったかもしれない。
それでも本作をアワードに入れたいと強く感じたのは,やはり筆者にとって本作の主人公・ES88のライフストーリーが,とても愛おしく感じられたからだ。ES88はサイキックのエージェントとして,他者の記憶に潜り込み,記憶を書き換える超能力犯罪者「ゴールデン・バタフライ」に立ち向かっていく――物語の主題は確かにそこにある。だが筆者がどうしても見つめてしまうのは,魔法少女コミックに熱狂し,自身のボディガードである女性・ゲイトへの片思いでから回る,等身大のギークなクィアとしてのES88の姿だ。
わくわくしながら飛び込んだクィアコンテンツが,想像以上に「イケイケ」で辟易したことはないだろうか。私はある。どうしてもクィアカルチャーは華やかなクラブカルチャーや飲酒文化などと結びついていて,根暗なクィアにとっては「自分の理想像」や「友達になれそうなクィア・アイコン」を探すのに一苦労する,というのはよくあることだと思う。
だがES88はちゃんと暗いクィアに優しい。本当にずっと「マジカルコマンダー雪乃」(ES88のお気に入りの作品だ)の話をしているし,ゲイトに対する片思いも,家に誘っていいものかどうか,というかわいい迷いでおろおろしているくらいだ。オタクでクィアで奥手な,サイキックのエージェントーーこんなに「親しみやすくて頼もしいクィア・アイコン」に出会えたことが,筆者は何よりうれしい。
なお,前作ファンとしては,警察をやめて探偵になったレクシーが登場すること,そして「VA-11 Hall-A」の登場人物であるデイナとのツーショットが事務所に飾られているのもテンションが上がった(「リードオンリーメモリーズ」シリーズと「VA-11 Hall-A」は,製作者は違うが世界観がつながっている)。レクシーは「VA-11 Hall-A」にも隠しキャラとして登場し,デイナと一瞬付き合っていたことが明かされている。こちらも本作が誇る美しいドット絵のグラフィックスで描かれているので,よく探してみてほしい。
前作から引き続き登場するキャラクターも多いが,今作から始めても大丈夫 |
魔法使いの約束
ジャンル | 育成 |
メーカー | coly |
公式サイト | https://mahoyaku.com |
本作はcolyのソーシャルゲームで,2024年にリリースされた作品ではないが,筆者にとっては今年も極めて重要な作品であると感じているので,ここに含めた。個人的な観測範囲では,かなりクィア・オタク界隈における人気が高い作品である(実際に今回まきちゃんさんと被った)。
「他者と共に生きる」困難ときらめきを誠実に描く物語。5周年を迎える「魔法使いの約束」を全力でお勧めしたい
colyのスマホ向け育成ゲーム「魔法使いの約束」が,2024年11月26日で5周年を迎える。この記事では多くのファンを魅了し続けている「魔法使いの約束」のストーリーテリングに焦点を当て,あらためてそのすばらしさをお伝えしたい。
また,メインキャラクターたちはみな男性ジェンダーだが,ためらいも差別的なニュアンスも一切ないままに「あの人に愛の告白をされたらどうする?」という想像について語り合う場面もある(2.5周年記念ログインストーリー)。
魔法使いたちは常に流動性を持った存在であり,人間とはまた少し異なったあり方――つまり,長い長い寿命や魔法が介在する形――で,異性愛にも対人性愛にもとどまらないセクシュアリティや可変的なアイデンティティを抱えているのだ。
2024年のイベントストーリーの中では,「パヴォーネの雫に月を映して」が特に印象的だった。こちらは月に恋する魔法使い・ムルの友人として,猛毒を持つ樹木「忌孔雀」を愛する研究者のアンジェロが登場する物語だ。アンジェロは忌孔雀がその毒性ゆえに厭われているのを嘆き,解毒剤の開発にいそしんでいる。
このストーリーにおいてテーマになっているのは,意思疎通できない,なおかつ世間では憎まれている相手を愛することの困難と,「愛する相手が世間で憎まれていたとき,その相手が世間で受け入れられるようになってほしいと願うのは,身勝手な欲望なのではないか?」「自分の愛を承認されたいと願うのはエゴなのだろうか?」という複雑な問いかけだ。
アンジェロに対して,煽るかのように愛に関する質問を繰り返すムルの姿に,ついエーデルマンやプレシアドのような挑発的なクィア理論家たちを思い出してしまったのは,きっと偶然ではないだろう。今後のストーリーにも長く期待したいと思える,イチオシの作品だ。
総括
今回紹介した作品は,いずれも筆者の趣味によってビジュアルノベル/ADVに偏っており,今年のトレンドという意味ではまったく押さえきれていない(そういう意味で“個人的”を冠しているわけだが)。「ドラゴンエイジ:ヴェイルの守護者」や,「Life is Strange: Double Exposure」といった大型タイトルを取り上げきれなかったこと,2024年にリリースされて間もなく「明示的にアロマンティック(※)のキャラクターが登場する」と話題になった「18TRIP」などのソシャゲ分野をチェックしきれなかったことは,編集者としての心残りである。
※アロマンティック:何者にも恋愛感情を抱かないセクシュアリティのこと。
今年印象的だったのは,4Gamerにもたびたび寄稿してくれているライター/美術史研究者の近藤銀河さんによるゲーム批評本「フェミニスト、ゲームやってる」の発売だった。本書はクィアがはっきり出てくるゲームから,表立ってクィアと評価されたことがないであろう大型タイトルに至るまで,さまざまな作品をクィア・フェミニストの視点で読み解くものだ。ポップカルチャーに対するフェミニズム批評は,ときに敬遠されることもあるが,実のところ作品の読みを拡張してくれる極めて有益な視座であると,本書は雄弁に語っている。
書籍「フェミニスト、ゲームやってる」が5月24日に発売決定。「スプラトゥーン3」から「ディスコエリジウム」まで,多様な作品を批評する
晶文社は本日(2024年4月20日),近藤銀河氏による書籍「フェミニスト、ゲームやってる」を5月24日に発売すると発表した。価格は1980円(税込)。4Gamerにも寄稿している美術史研究者・近藤銀河氏の初の単著で,大作からインディーゲームまで,幅広い作品が取り扱われている。
冒頭でも述べたように,マイノリティの視点はプレイヤーから何かを奪うものでは決してなく,むしろその経験をより豊かにする可能性であるはずだ。筆者は今後も多様なキャラクターが出てくる面白いゲームにいくつも出会いたいし,それを批評する言葉も増えてほしいと心から願っている。
リー・エーデルマン氏が「未来は子ども騙し」なのだと述べたように,クィアにとって未来の話は必ずしも希望の話ではない。それでも私は,これを読んでいるあなたと,来年出るゲームの話がしたい,と思う。あなたがどんな人であれ,私もあなたもまた次の1年を(できる限り)生きなければならないのだから,人生という長い退屈を彩ってくれる作品について,一緒に考えたいのだ。
あなたは来年どんなゲームをプレイしたいですか。自分が何を求めているか分からなくなったら,今自分を抑圧している現実からの逃げ場を見つけたくなったら,いつでも4Gamerを読みに来てほしい。毎日新しいゲームの話を用意して,お待ちしています。
「それでも、この瞬間だけは、この場所に未来があることを教えてくれる。今ではあなたも確信する、守るに値する未来があることを。」 |
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- ライター:ラブムー
- ライター:まきちゃん
- 編集部:町田
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