企画記事
2024年,個人的クィアゲーム大賞。LGBTQ+もそうでない人も楽しめるイカしたクィアゲームたちを,勝手に表彰します
東京生まれ。ポップカルチャーを愛するライター,ゲーム翻訳者,詩人。大学では古今東西の恋愛論を研究。出版社勤務後,名曲喫茶を営む。翻訳した海外ゲームは「Milky Way Prince-The Vampire Star-」「Mediterranea Inferno」「CLeM」「Butterfly Soup2」(共訳・光藤リナ/今冬日本語実装予定)ほか。
Keylocker
ジャンル | RPG |
メーカー | Moonana |
公式サイト | https://serenityforge.com/games/keylocker |
音楽が,歌うことが禁忌と見なされている世界で,投獄されていたシンガーソングライターBOBOが支配者たちに立ち向かっていくターン制RPG「Keylocker」。本作の物語は監獄の中から始まる。舞台は「VA-11 Hall-A」や「2064: Read Only Memories」にも通じるサイバーパンク的世界観だが,プレイすると,本作の描いている世界が驚くほど現世界を反映していることに驚かされる。
脱獄し,地上に戻ったBOBOは,同じ目的を持った者たちと小さなコミュニティを形成しているが,彼らの外に広がる世界では,支配者たちが絶えず監視の目を光らせており,住民たちは見えない支配を受けている(その支配は「景観」となって,体制に疑いを持たぬ住民たちの目には映らない)。
「システムを打ち破ることができるのは音楽だけ!」という力強い冒頭メッセージからもうかがえるように,本作における音楽とは,虜囚からの解放を求める者にとっては武器であり,精神的な拠り所であり,人間性の象徴とも呼べるような存在である。
本作の表現はパロディ・戯画化に留まらない。現代を生きる我々にとっても,音楽とは個々がメッセージを直接に表現・伝達する媒介として――そしてそれぞれの魂を仮託する希望そのものとして――必要不可欠なものであるはずだ。無音となった世界の殺伐感,そこで音楽を奪取し,奏でること,歌うこと、恋愛(本作にもクィア・ロマンスがばっちり息づいている)のかけがえのなさを本作は最高にポップに(そしてロックに)際立たせる。
名うてのゲーム翻訳家・柴田泰正氏による絶妙な翻訳は,そんな本作の持つイキイキした世界観,ユーモア,クィアネスといった特質を,軽妙で心の通った日本語テキストに移し替えている。
Sorry, We are closed
ジャンル | サバイバルホラー |
メーカー | à la mode games |
公式サイト | https://store.steampowered.com/app/1796580/Sorry_Were_Closed/ |
クィア・バイブスの奔流とも呼べるような本作「Sorry, We are closed」は,2024年もたっぷりとリリースされた個性的なインディーゲームの中でも,ひときわ異彩を放つダークホースである。
主人公は芸能界で華々しい成功を遂げた元カノと別れたことを引きずり続けている,若きクィア・ミシェル。ミシェルはこの世界に茫漠とした違和感を感じながらも,のらりくらりと生きていた。
しかし,ある日彼女の部屋に現れた奇妙な悪魔的存在「侯爵夫人」は,自らの野望のために,彼女を別の世界へ誘い込む。そこで彼女は特殊能力「第三の目」と武器(斧と銃)を得て,再び現実世界に舞い戻る。
「見る」「戦う」能力を得ることで,ミシェルはそれまでの受動的・虜囚的な生活から,異なる位相に存在する他者――それは人間だけではなく,悪魔や天使やクリーチャーだったりする――と関わり,武器を用いて,文字通り「道を切り開いていく」運命を享受するのだ。
「アローン・イン・ザ・ダーク」,「killer7」,「サイレントヒル」シリーズ,「女神転生」シリーズをミックスしたかのようなサイケデリックな世界はおどろおどろしくも悦楽的であり,ぶっ飛んだ世界がサバイバルホラーチックな通奏低音でめくるめく展開していくさまは,あたかも「クィア・てんやわんや・ナイトメア(地獄篇)」といった趣き。
同一人物である(右は第三の目で見ることのできる姿) |
本作の白眉である点は,特殊能力「第三の目」を用いることで,キャラクターたちがまったく別の姿を表すことだ。たとえば,現実では無口でコンサバティブな装いのキャラクターが,第三の目で見るとヴィヴィッドで型破りな姿態を表し,性格も一変し,主人公に饒舌に喋りかけてくる。
このゲームシステムは,わたしたちの隣人や友人がけっして見た目通りの姿や性格ではないこと,現実とは別の位相に「もうひとつの世界」が脈々と息づいていることを示唆する。昨年,筆者は本特集で「クィアなゲームは,わたしたちが「人」という一見似たような形をしているけれど,その内は皆それぞれに謎があり,不定形なのだと気づかせてくれます。」と書いた。そんな自分にとって,本作はまさに「これこれ!」と叫びたくなるようなタイトルである。本作の魅力が凝縮されたトレイラーもぜひチェックしてみてほしい。
岩倉アリア
ジャンル | ビジュアルノベル |
メーカー | MAGES. |
公式サイト | https://game.mages.co.jp/iwakura-aria/ |
「岩倉アリア」は,メーカーが発売前に謳ったように「百合ゲーム」であり,「サスペンス・ドラマ」であり,「女性の同性愛」をメインに据えたノベルゲームであるが,そうした限定的なジャンルに留まらない――シスジェンダーや異性愛者にとっても,LGBTQ+にとっても強く響く力を持った作品だと思う。
本作は,2人の女性が出合い,恋愛感情を抱き,共闘し,社会的抑圧,優生思想,階級差別,家父長制,過去の因縁といった楔(くさび)から自分たちの意思で戦い,脱出するまでのプロセスを見事な筆致で描いている。あらゆるゲームファンに,すべてのクィアにオススメしたい(筆者がその魅力に詳しく迫ったレビューも読んでいただけると嬉しい)。
[レビュー]存在と存在が結びつくことによる解放。百合ファンもノベルゲームファンも,今すぐ「岩倉アリア」に触れるべき
2024年6月27日に発売されたノベル形式のアドベンチャーゲーム「岩倉アリア」は,百合作品でありサスペンスドラマでもある,挑戦的な作品だ。自由を奪われた二人の女性を主役に,「愛とは何か」という根源的な問いにまで迫る本作を,5000字のボリュームでレビューする。
本作の主人公である北川壱子と岩倉アリアはロマンスによって,自分たちが虜囚であることに気づき,互いを閉じこめている檻を破壊すべく,ともに手を取り,革命を起こす。そこに至るまでの道程は決して穏やかなものではないが(血も涙もたっぷりと流れることになる),気鋭のイラストレーター・100年氏による強烈なインパクトを持つキャラクターグラフィックスと午後ねむる氏による精緻で熱量の高いシナリオ,各キャラクターを演じた声優陣の魂がこもったボイスは,プレイヤー自身をも「岩倉アリア」の世界にどっぷり入りこませるエネルギーにみちみちている。
海外版/PC版(Steam)が2025年に発売予定とアナウンスされた本作。1960年代の極東の島国を舞台としたクィア・ロマンスが,海外のノベルゲームファンたちにどのように受けとめられるのか? 今から楽しみで仕方がない。
総括
今回「2024年,クィアゲーム大賞」では,「虜囚(りょしゅう)」という言葉を意識的に何度か使いました。それが今の自分のテーマでもあり,上記のクィアゲーム3本を語るうえで欠かせないワードであるように感じたからです。
アルメニアの思想家であるゲオルギイ・グルジエフ氏は,「もし牢獄にいるものに脱出できるチャンスがあるなら,まず,その人は自分が牢獄にいるということを認識しなくてはならない」という言葉を100年前に残しています。現代に生きるわたしたちはどうでしょうか? 何かに囚われているまま,自由であると錯覚した(させられた)まま,牢獄に閉じこめられているのではないでしょうか?
むろん,何にも囚われていない存在は(たぶん)ありません。この世界に産み落とされ,「人」という形を取って日々存在していること自体,虜囚にほかならないと感じる方もいるでしょうし,人としての生活は「社会」という巨大なシステム――見えない監獄の存在によって成立しているとも言えるでしょう。
しかしクィア・マイノリティには,人間的な対話が許されなかったり,いわれのない差別を受けたりといった,本来的な自由を奪われる状況があまりに多いことは確かです。今年,筆者がインタビューしたイタリアのゲーム作家・EYEGUYS氏は,以下のように述べています。
「マイノリティは発言することができないんだから,政府にとってマイノリティは存在しないも同然なんだよ。ぼくは自分たちの政府が大嫌いだ。パトリアーキー(男性優位社会)に代わるものは、シスターフッドであり、クィアネスであり、社会形態の流動だと思ってる。」
遠い国、イタリアにおいても,クィア・マイノリティは艱難辛苦と呼べるような状況に置かれています。
我々は「同性婚」を未だ認めていない現体制に,話の通じない相手に,あらゆる差別主義者の攻撃に抗い,止血し,声を上げて生き続けなければなりません。こうした現実は,当事者にとっては(当然)フィクションでも物語でもありません。「人が切られたら,その血は現実に流れる」のです。
しかしゲームをプレイすることは,現実という監獄から別の世界,別の理想を希求し,実際にそこに向かって働きかけるクィア的な行為の象徴でもあるようにも思うのです。いつか「クィア」という言葉を使う必要がなくなる日――あらゆる存在が,その存在が望むように,そのままで肯定され,肯定し合えるとき――が来ることを信じて。Let's Grab Brilliant Thrilling Queer-games!!!
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- 企画記事
- ライター:ラブムー
- ライター:まきちゃん
- 編集部:町田
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