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「FIFA 17」レビュー。最高のサッカーゲームに足りなかった2つのピースが,ついに見つかった
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印刷2016/10/27 11:30

レビュー

シリーズ最新作は“スペシャル・ワン”になり得る

FIFA 17

Text by MU


 エレクトロニック・アーツのサッカーゲームシリーズ最新作「FIFA 17」PC / PlayStation 4 / PlayStation 3 / Xbox One / Xbox 360)が発売中だ。筆者は毎年,新作がリリースされるたびに親指が青くなる(すごく痛い)までハマってしまう“FIFAフリーク”なのだが,「FIFA 17」はこれまでとはコンテンツと充実度が格段に違う。
 その理由である「2つの新要素」を軸に,「FIFA 17」の魅力を紹介してみたい。

マルチプラットフォームで展開している「FIFA 17」だが,今回筆者がプレイしたのはPlayStation 4版だ。プラットフォームによって,一部の収録コンテンツが異なるのでご注意いただきたい
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 FIFAシリーズといえば,その名のとおり,国際サッカー連盟(FIFA)の公認による膨大な選手やクラブ,リーグを実名で収録している点が最大の特徴だ。
 サッカーゲームとしては,とにかく「リアル」を追求し続けている印象を受ける。それは選手の外見的なグラフィックス然り,その動きやアニメーション,ボールの転がり方,接触時の反応,芝の質感,スタジアムの雰囲気なども然り。「サッカーをシミュレートする」ことにかけては,ナンバリングを重ねるたびに精度が増している。

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 「FIFA 15」以降はグラフィックスの進化に加え,選手個々の感情表現が搭載されたことで,まるでテレビ中継を見ているかのようだ(使い古された言い回しで恐縮だが)。相手と接触すればムキになって突っかかり,ミスをした味方を励ましたり,苛立ちを露わにしたりと,試合の流れや局面に応じたリアクションが雰囲気を盛り上げる。そのため,おのずと試合への感情移入度が強くなり,勝ったときはより嬉しく,負けたときはより悔しい。

 ゲームプレイの面では操作時のレスポンスが向上し,モーションが多彩になってことで,思いどおりに選手を動かしている感覚が強くなった。もちろん,リアルな動きをシミュレートしているので,トップスピードから急には止まれず,無理に反転すれば動きは重くなり,不安定な体勢ではボールに力が伝わらない弱々しいキックになる。

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 「FIFA 17」の特徴としては,グラウンダーパスのスピードが上がり,相手のDFラインの裏へ抜ける選手へのスルーパスが狙いどおりに出せるようになったことが挙げられる。また,ロングキックが得意な選手であれば,フィールドを斜めに横切るようなサイドラインからサイドラインへのロングパスも通りやすい。その理由は,スペースへと走る選手の判断力(つまりAI)が向上したためだろう。
 これだと「攻撃側優位」と思われそうだが,実際には攻守のバランスが非常にうまい具合で調整されている。当然,AIの向上はディフェンス側にも当てはまるので,ディフェンス時のポジショニングが的確になり,チェックとカバーリングの役割分担が自然と判断できるようになった。

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 プレイヤーはサッカーにおけるディフェンスの鉄則を踏まえることで,さらに失点を防げるだろう。ボールホルダーにプレッシャーをかけるべきか,どこまで追うべきか,味方の帰陣を促すために適度な距離を保ってディレイするべきか。決定的な場面を作らせないためには,状況に応じた正しい優先順位を知ることが求められる。この点でもシミュレートの精度が高いと言える。

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ストーリーモード「The Journey」


 さて,前置きが長くなったが,ここから本題だ。“FIFAフリーク”である筆者だが,これまでのシリーズ作品には足りないものがあると感じていた。その1つが「オフラインで気軽に楽しめるシングルプレイモード」である。
 そんな筆者の願いを知っていたはずはないだろうが,「FIFA 17」のPC / PlayStation 4 / Xbox One版には,1人の若者が英プレミアリーグで成長していく過程を描いたストーリーモード「The Journey」が搭載された。プレイヤーは17歳の主人公「Alex Hunter」を操作して,ピッチ内外の出来事を体験することになる。

 サッカーゲームと言えば,その核は「試合」。いわばストーリーモードは「おまけ」と言ってもいいはずだが,18か月の時間を費やして開発したという「The Journey」の完成度は「おまけ」の域を越えている。CGムービーのクオリティは高く,ドラマチックなストーリーラインは海外ドラマを彷彿とさせる。

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主人公のAlex Hunter。祖父はイングランドの伝説的選手だが,決して裕福ではない環境で育つ。彼の劇的な物語は,多数のプロ志願者が生き残りを賭けるトライアウトを勝ち抜いて,プロクラブの門を叩くことで幕を開ける
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Alexが加入できるクラブは,英プレミアリーグの全20クラブ。強豪クラブで優勝を目指すのか,それとも昇格したばかりのクラブで残留を懸けて戦うのか。もちろん,強いクラブになるほど,監督から要求されるパフォーマンス(評価点)は高い
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Alexは攻撃的な選手だが,最適なポジションは4つの中から選べる。祖父と同じくストライカー,左右のウインガー,そしてトップ下の司令塔(攻撃的MF)だ
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 基本的な流れは,シーズンのスケジュールに合わせてリーグ戦やFAカップの試合を戦いつつ,その合間にトレーニングを行う。もちろん,試合に出るためにはクラブ内のポジション争いに勝たなくてはならない。日頃のトレーニングで好成績を収めたり,出場した試合で結果を残したりすることで,監督にアピールを続けていくのだ。

当然ながら,プロになったばかりのAlexの基本能力は低いが,トレーニングや試合経験を積み重ねていくうちに伸びていく。「スキルポイント」を引き換えに「特性」を解除していく要素も
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ピッチ内外の会話シーンやインタビューでは,3つの選択肢が登場することがある。その内容によって,Alexの性格が形作られ,その後のドラマシーンに影響を与える
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所属クラブの実在選手だけでなく,マルコ・ロイス選手やアンヘル・ディ・マリア選手なども登場。プロサッカー選手としての日常が描かれていく
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 試合では,チーム全体を操作するのか,Alexのみを操作するのかを選べる。後者は「プロクラブ」と同じ要領だ。試合中もAlexのパフォーマンスに応じて,監督の評価が上下するので,安易なミスは厳禁だ。
 もし評価が下がったら? 目に余るような低いパフォーマンスを続ければ,当然,試合の途中でも交代を命じられるだろう。プレイヤーはあくまでも1人の選手なので,選手交代やチーム戦術を指示することはできない。監督が「下がれ」と命じたら,出場機会はそれまでだ。

得点やアシストをマークするのはもちろん,チャンスにつながるパスやディフェンス面での貢献によって評価が上昇する。反対にボールを奪われたり,絶好のチャンスを逸したりすると評価は下がってしまう
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チーム全体を操作する場合,プレイヤーが意図的にAlexにボールを集められるという利点がある。チームの勝利も大事だが,Alex個人のパフォーマンスを上げてアピールすることも重要だ
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当たり前だが,いきなりスタメン奪取とはいかないだろう。序盤は少ない出場機会を生かして,なんとか結果を残していくしかない
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試合によっては,3つのミッションを課されることも。うまくクリアできれば,自身の評価につながるというわけだ
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 「The Journey」の見どころは,ピッチだけにあるのではない。少年から大人へと向かう時期だからこそ直面する友人関係の難しさ,プロサッカー選手としての挫折,複雑な家庭環境による葛藤。テレビカメラには映らないプロサッカー選手の側面として,Alexのプライベートなドラマも描かれる。確かにAlexの置かれている境遇は特別だが,ときに悩み,ときに傷つき,やがて立ち直る。その姿は誰しもが成長の過程で辿るものだ。Alexに対して,徐々に共感を覚えるに違いない。

幼馴染みであり,ライバルでもあるGareth Walker。プレミアリーグのピッチで相まみえるとすれば,燃えないわけにはいかないシチュエーションだろう
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クラブのコーチに呼ばれたAlex。その理由が下部リーグへの期限付き移籍だったため,ひどく落ち込んでしまう……。トップチームでは出場機会を与えられない若手を,他クラブに貸し出すのはよくある話だ
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上昇と下降を繰り返すプロサッカーの世界で,選手の支えとなるのが家族の絆。ただし,Alexの父親も元サッカー選手だが,現在は家族の前から姿を消している……
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 プロ1年目のAlexがどんなキャリアを歩むのか。一喜一憂しながらその道のりを見守っていくうちに,感情移入が強くなっていくはずだ。テレビ中継に映らないプロサッカー選手の側面は興味深く,それでいて等身大の青年の成長物語は強く印象に残る。
 なお,試合の難度はモード中も変更可能だ。自分の腕に合ったレベルで戦えるので,まさに「オフラインで気軽に楽しめるシングルプレイモード」である。ただし,1シーズン中の試合数は40近くにのぼり,ドラマシーンのボリュームも大きい。じっくりと腰を据えて,気長にプレイするのがいいだろう。

「The Journey」の進行度に応じて,「FIFA Ultimate Team(FUT)」モードで使える特典が獲得できるのも見逃せない
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待望のJ1リーグ全18クラブ収録


 FIFAシリーズに足りなかったもう1つの要素,それはもちろん我々が最も身近な「Jリーグ」に決まっている。シリーズの歴史は20年以上にも及ぶが,Jリーグの収録は「FIFA 17」が初となる。

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 収録対象は現時点(2016年シーズン)でJ1に所属している全18クラブ。選手名やロゴ,エンブレム,ユニフォームが完全に収録されている。残念ながら,J2とJ3は未収録ということで複雑な心境のサポーターも多いだろうが,まずは歴史的な第一歩を喜ぼう。
 ちなみに2部以下も収録しているリーグは,イングランド,スペイン,ドイツ,イタリア,フランスの5つである。

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スタジアムはガンバ大阪のホーム「市立吹田サッカースタジアム」が収録。2015年に竣工したばかりの近代的なサッカー“専用”スタジアムだ
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 ヨーロッパの歴史ある名門クラブや南米の強豪クラブもいいが,やはりJリーグは思い入れが違う。出身地だったり,居住地だったり,はたまた「いつの間にか」だったり,クラブを応援する理由はさまざまだが,そんな老若男女がスタジアムに集結し,気軽に試合を見られるのはJリーグしかない。育成年代から選手の成長を見られるのも,Jリーグならではの強みだ。
 週末の試合に贔屓のクラブが勝てば,待っているのは最高の1週間。だが,負ければ「あそこで決めておけば……」と悔いが残るばかり。引き分けなら状況次第で前向きな気持ちになれるかもしれないが,やっぱり勝ちたい。

 筆者は断然,「代表よりクラブ」であり,好きなクラブもあれば,嫌いなクラブもある。なので,日本全国で開催されるJリーグの試合結果がすべて気になる。優勝争いや昇格レース,残留争いだけでなく,「ウチを出ていった選手は試合に出ているのか」「あの選手がウチに欲しい」「サポーターのネタ合戦」といったものもチェックしたい。

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 そんなJリーグが「FIFA 17」に収録されたわけだが,ユニフォーム自体の再現度はなかなか高い。一部の選手が採用している本名ではないユニフォームネームまで反映されているのが嬉しい。
 また,スカッド(選手リスト)もオンラインアップデートにより,最新の状態となっている。夏の移籍はもちろん,先月,名古屋グランパスに電撃復帰を果たした田中マルクス闘莉王選手も名を連ねている。
 
横浜F・マリノスの中澤佑二選手。もちろん,ユニフォームネームは「BOMBER」だ
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 ただ,惜しむらくは,大多数の選手のフェイスデータがあまり似ていないこと。試合中は気にならないが,入場シーンやゴール後のセレブレーションで雰囲気が損なわれるのは否めない。

槙野智章選手(浦和レッズ)や安田理大選手(名古屋グランパス)ら,フェイスデータが「似ている」と言い切れる選手は数少ない。ほとんどの選手が「うーん,分からんでもない」または「これは違う!」というレベル
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 それでも「キャリア」モードのカレンダーは,Jリーグの2ステージ制はもちろん,今シーズンから名称変更が行われた「ルヴァンカップ」のレギュレーションにも対応している。最終局面を迎えつつある2016年シーズンを,自分の手で新たな歴史へと塗り替えられるというわけだ。これは燃える!

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 近年,FIFAシリーズは「行き着くところまで行った」と思っていた筆者は,今後,マイナーアップデートのように緩やかな進化を続けているものと予想していた。しかし,最新作はいい意味でその予想を裏切り,「足りなかった2つのピース」が揃ったことで,まったく隙がなくなった。
 サッカーゲームに「リアル」を求めるのか,それとも「ゲーム」を求めるのか,人それぞれで異なるだろうが,もし前者の方向性に興味があるなら,「FIFA 17」は“スペシャル・ワン”となる可能性が高い。

EAが選出する「Team Of The Week」(週間最優秀チーム)のWeek3に永井謙佑選手(名古屋グランパス)がノミネート。J1第2ステージ第14節における活躍(ハットトリックを達成)が認められたもので,もちろんJリーグからの選出は史上初
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