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新型ハイエンドVR HMD「VIVE XR Elite」を西川善司が体験。優れたVR体験が可能な完成度の高さに唸らされる
その実力の一端に触れられる報道関係者向け体験会が,HTCの日本法人であるHTC NIPPONで行われた。発売前のVIVE XR Eliteをいろいろと試すことができたのでレポートをしよう。
なお,VIVE XR Eliteの概要やスペックは,発表時のニュース記事を参照してほしい。
HTC,新型HMD「VIVE XR Elite」を発表。バッテリーを外してメガネ型HMDとしても利用できる
HTCは,CES 2023にて,新型ヘッドマウントディスプレイ「VIVE XR Elite」を発表した。単体で動作するだけでなく,PCと接続してPC用VR HMDとしても使えることと,バッテリー装着状態でも重量が約625gと軽いことが特徴だ。発売日は明らかになっていないが,同社の公式Webサイトにて予約の受付が始まっており,税込価格は17万9000円だ。
ハンドトラッキングの性能や追従性はチェック!
最初に体験したのは,オーケストラの指揮者になってコンサートを行う「Maestro VR」(※リンク先はPC版)というゲームだ。こちらは,VIVE XR Eliteに組み込まれたSoC(System-on-a-Chip)上で動作する。
いわゆるリズムアクションタイプのVRゲームで,感覚はVRリズムアクションの名作「Beat Saber」に近い。楽曲の進行に合わせて3Dスクロールしてくる「指揮棒を振る方向」に合わせて,指揮棒に見立てたVRコントローラを利き手に持って振りまわすことが,基本的な進行となる。
Beat Saberにない要素としては,ゲーム側が指示する「ターゲットとなる楽団員」に対して,利き手ではない方の手で「指差し」のハンドジェスチャで演奏を促す部分だ。この部分は,VIVE XR Eliteが備えるハンドトラッキングの精度やレスポンスを調べる目安となりそうだ。
実際に筆者がプレイしたときの動画を掲載しておこう。初見プレイなので,少々たどたどしいところはご容赦いただきたい。
ゲーム側のタイミング判定が甘く設定されていたせいか,おおよそのタイミングで指揮棒を振るだけで「OK」判定となるので,演奏は快調に進んでいく。むしろ意外に難しかったのは,指差しのハンドジェスチャだ。
指揮棒のアクションは,VIVE XR Elite内蔵のカメラによる「インサイドアウト式」のトラッキングと,VRコントローラ内部の加速度センサーなどによるトラッキングを組み合わせて判定している。そのため,指揮棒アクションがやたら大げさな筆者の動きも,ちゃんと的確に認識してくれるのだ。
一方,ハンドジェスチャの指差しアクションは,完全にVIVE XR Elite側のカメラ映像によるハンドトラッキングだけで判定するしかない。あまりにも身振りが大きかったり,速すぎたりする指差しの動きは,VIVE XR Eliteがうまく認識してくれないようだ。
プレイ後半にHTCスタッフから,「なるべく指差しは,目の前で,コンパクトなアクションで行ってください」というアドバイスをもらい,これに従ったところ,OK判定の頻度が上がることになった。
ゲーム自体はとても楽しく,VRコントローラとハンドトラッキングの両方を使って楽しめるVIVE XR Eliteのデモ体験としては最高のコンテンツだったと思う。
このゲームをプレイしたあとに,ハンドトラッキングの遅延を目視で確認したところ,普段プレイしている60fpsの格闘ゲーム換算で,約5フレーム前後の遅延を実感した。秒数に換算すると約0.1秒くらいだ。遅延があることは確実に実感したが,それでもこの程度であれば,Maestro VRのようなゲームでは問題ない,ということかもしれない。
装着したまま部屋の中を動き回れるレベルのシースルービュー
VIVE XR Eliteの前面には,約1600万画素のRGBカメラが組み込まれている。このカメラは,VIVE XR Elite本体を装着したまま,周囲をフルカラー映像で見る「シースルービュー」実現のために使うものだ。
さらにHTCは,VIVE XR Eliteに周囲の立体構造を把握するための深度センサーを搭載しており,最終的には,RGBカメラと深度センサーの情報と組み合わせて,このシースルービューを立体映像化することを目標としている。ただ,最初期に出荷されるVIVE XR Eliteは,深度センサーが無効化されているそうで,発売後の近い将来に,ファームウェアアップデートで有効化するのだそう。
というわけで,今回の体験会で試せたのは,2D映像版のシースルービューだ。
2D映像ではあるが,解像感はそれなりに高いので,完全に実用可能なレベルに達していると感じた。掲載した動画は,キャプチャデバイスの仕様で筆者が見ていた映像と比べて,解像度が4分の1程度に縮小されてしまっているのだが,筆者の目では,手に持っているスマートフォンの文字を,VIVE XR EliteのRGBカメラ経由できちんと読めたほどだ。
また,キーボードのキートップの刻印や机の上の書類の文字や図版も見えるので,VR世界と現実世界を混在させた,いわゆる複合現実(MR)世界でのPC作業は十分に可能だと感じた。
録画開始前のことなので,映像には入っていないが,こんなこともできた。VIVE XR Eliteを装着したままのシースルービュー状態で,筆者は,体験場に設置されていた三脚の間をくぐり,自分の荷物が置かれた場所に行き,カバンからスマートフォンを取り出して,キーボードなどがおいてある机の前に苦もなく戻れたのだ。
VIVE XR Eliteのシースルービューは,かなり使える機能だと断言できる。
良好な装着性とVRコントローラの追従性を確認
続いて体験したのは,「YUKI」(※リンク先はPC版)という,和風テイストの世界観で繰り広げられるSFシューティングゲームだ。こちらも,VIVE XR EliteのSoC上で動作するVRゲームである。
YUKIのデモは,VIVE XR EliteのMR性能を体験するというコンセプトだったため,体験会場となった室内がシースルービュー越しに見えたままで,ゲームをプレイすることとなった。
この話だけ聞くと,いわゆる「ガンシューティング」タイプのゲームのように聞こえるが,実は,VRコントローラの位置に,バトルスーツを身に纏った妖精サイズの美少女が自機として描かれており,手の動きに合わせてこのキャラが追従するという仕組みだ。つまり,迫り来る弾幕は,手の動きに追従する自機を三次元的に動かして回避するのである。敵弾は,プレイヤーに当たってもOKで,あくまでも自機であるキャラクターに当たらないように動かなくてはならない。
敵や敵弾は全方向,前後左右のみならず上下からも出現するので,結果的にプレイヤーは,利き手をくねらせ,まるで踊るように動き回ってプレイすることになる。
この体験ではほかにも,インサイドアウト方式を採用したVIVE XR EliteにおけるVRコントローラの追従性がどうかや,体を激しく動かしたときに,かぶっているVIVE XR Eliteがずり落ちないか,重さを不快に感じないか,と言った点も評価できた。
まず,VRコントローラの追従性に関しては,不満はない。思ったとおりに自機を動かすことができたし,弾幕を華麗に避けることもできた。敵への攻撃も,狙ったところに到達する感覚が味わえ,不満なし。結果的に最初のボス戦まで到達し,ボスを撃破するところまでは行けた。
VIVE XR Eliteは,けっこう激しいアクション系VRゲームにも,うまく適合することだろう。
画質性能をPC VRタイトルで確認
最後に体験したのは,PC向けのVR作品「Kayak VR: Mirage」(以下,Kayak VR)だ。
PC用のVR作品なので,VR関連の処理全般や,グラフィックス描画処理はすべてWindows PCが担当する。PCとVIVE XR Eliteの接続は,Wi-Fi 6ベースの無線LANによるワイヤレス接続だ。ちなみに,体験で用いたPCは,第11世代Core i9プロセッサに,「GeForce RTX 3090」搭載グラフィックスカードを組み合わせた,かなりのハイスペックなマシンであった。
Kayak VRは,一言で言うならばカヤック・シミュレータだ。プレイヤー自身がバトルを漕くことでカヤックが進み,自由でのんびりとした美しい水上情景のVR世界を旅する。レースのようなモードもあるようが,今回の体験ではフリーローミングモードと呼ばれる,終わりのない観光モード的なゲームモードを楽しんだ。
デモでは,HTC NIPPONが独自に自作したオリジナルのパドルコントローラを用いた。このパドルコントローラは,棒の両端に,小型のモーショントラッカー「VIVEリストトラッカー」を1つずつ取り付けたもので,誰でも真似できるとのこと。
ちなみに,当日,プレイしたシーンは南極海のシーンだった。動画ではひたすら漕いでいる様子しか映っていないのだが,本当はこの前に,氷山や流氷の上で戯れるペンギンなどがいる楽しげな景色もあった。
Kayak VRでは,PC向けVRゲームにおける最高品質のグラフィックスがVIVE XR Eliteでどのように見えるのかという点と,Wi-Fi 6を使ったワイヤレスVRの体験に,どの程度遅延があるのかという点を評価した。
まずはグラフィックスだが,両眼合わせて4K解像度(3840×1920ピクセル)のVIVE XR Eliteは,これまでのVR HMDでありがちだった映像のドット感が激減しており,現実世界で直視型ディスプレイ機器を見ている体験にかなり近づいていると感じた。
法線マップによる微細な凹凸表現も,ドット画風に見えず,ちゃんと立体的な陰影感を感じられる。水面や氷の単色塗りに近い表現も,サブピクセルの分離感が生み出す「粒状感」(≒ウロコ感)が少ない。1ピクセル単位の緩い角度の線分表現にもジャギーは目立たなかった。
ただHTCは,両眼解像度が5K相当(4896×2448ピクセル)のVR HMD「VIVE Focus 3」を2021年にリリース済みで,正直,それを初めてみた見たときの感動は超えていない(関連記事)。
さらにいえば,筆者がCES 2023取材時に体験した両眼解像度6K相当(5760×2880ピクセル)の「Pimax Crystal」で,映像の精細さに衝撃を受けたばかりだったため,このVIVE XR Eliteの画質を見たときに,思わず「なるほど」と言ってしまった自分自身が憎らしくなった(笑)。
ただ,昨今,増えてきた両眼解像度4KクラスのVR HMDと比較しても,VIVE XR Eliteの映像は,まったく見劣りしないことだけは確かだ。
違いを挙げるとすれば,視野の中央だけでなく,外周までの視界全域の合焦精度が比較的良好だったこと。そして左右の目から見た反対側の領域――たとえば左目で見た右側――を比較的広めにとっているせいか,潜望鏡を除いているような印象が少なかったことなどが上げられよう。ここはVIVE XR Eliteにおける見え方の特徴と言えるかもしれない。
続いて,Wi-Fi 6によるワイヤレス接続の遅延については,パドルを目前で上下に動かして,その動きに対する追従性を目視で確認してみた。厳密な計測ではないのを承知のうえで言うと,体感では0.1秒前後の遅延を実感した。ただ,Wi-Fi 6接続から,デモの途中で,USB Type-C経由でのワイヤード接続に切り換えても,あまり遅延は変わらなかったので,もしかすると,これはゲーム側の方で起きている遅延かもしれない。
そもそもKayak VRは,カヤックを漕ぐ体験をするコンテンツであり,この程度の遅延はプレイのしにくさに影響しないこともあって,プレイ中の違和感はなかった。
なお,顔面を上下に動かしたときに生じる視界の追従性における遅延は感じていない。ただ,こちらの遅延については,タイムワープ(Temporal Reprojection)処理によって適切に隠蔽されているのかもしれない(関連記事)。
VIVE XR Eliteは完成度の高いVR HMD
欲しい人は急げ!
初期出荷モデルは,深度センサーが無効化されていたり,ハンドトラッキングやVRコントローラの追従性にわずかだが遅延を感じたりはするものの,VIVE XR Elite全体の完成度が高いことは,さすがはVRブームの立役者であるHTCの製品といったところ。
価格についても,競合であるMeta製VR HMD「Meta Quest Pro」(税込22万6800円)を下回る17万9000円という点も絶妙だ。海外市場に比べると,相対的に「ハイエンド志向なVRマニア」が多い日本市場では,結構な人気製品となるのではないだろうか。
実際,国内ではすでにHTCの想定をはるかに上回る予約受注が入ったそうで,発売日には予約者の手元に届けようと,HTC NIPPONは世界中で争奪戦を繰り広げているそうである。とはいえ,まだ予約は閉めきっていないそうなので,欲しい人は予約をお早めに。
HTCのVIVE XR Elite予約ページ
HTCのVIVE XR Elite製品情報ページ
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