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HTC,5K解像度になった新型VR HMD「VIVE Pro 2」と「VIVE Focus 3」を6月下旬に発売
発売時期は両製品とも6月下旬の予定で,VIVE Pro 2は5月12日,VIVE Focus 3は6月11日に公式直販サイトで予約受付を開始する。税込価格は順に10万3400円,13万900円だ。
両製品のポイントと,HTCが同時発表したビジネス向けサービスの概要を紹介しよう。
※2021年5月13日11:45頃,詳報版に更新しました
ビジネス用途向けに舵を切ったVIVE Focus 3
ゲーマーの注目を集めるのはVIVE Pro 2ではあるが,HTCが今回力を入れていたのはVIVE Focus 3のほうで,重要な説明もそちらに集中していた。そのため,本稿でもVIVE Focus 3から話を始めたい。
VIVE Focus 3は,業務用途(商用利用)を想定したVR HMDで,2018年登場の「VIVE Focus」や,2019年登場の「VIVE Focus Plus」の後継モデルになる。
HTCがあえて掲げている業務用というキーワードは,オンラインでの共同作業やトレーニング,教育,リモートワーク,さらにはアミューズメント施設での利用といった,VR HMDを使ってビジネスを行う用途に適した製品,という意味が込められている。
VIVE Focus 3は,PC不要で単体利用できるように設計されており,後段で説明するが,内部にはディスプレイだけでなく,PC機能を果たすプロセッサやメモリ,ストレージ,そしてバッテリーを搭載している。
大きな強化点であるディスプレイパネルは,2.88インチサイズで解像度2448×2448ピクセル(=ドット)の液晶パネルを採用する。これを片目ごとに1枚割り当てるので,両眼での解像度が4896×2448ピクセルのVR映像体験を実現する仕組みだ。
なお,ディスプレイパネル自体の最大リフレッシュレートは120Hzだが,VIVE Focus 3では,これを最大90Hzで利用する。
先代のVIVE Focus Plusは,両眼解像度が2880×1660ピクセルだったので,VIVE Focus 3では,約2.6倍に表示ピクセル数が増えたことになる。しかし,HTCは,「サブピクセル数は先代比で4倍に増加させた」と発表していることから,これまでのVIVEシリーズが採用していたペンタイル(千鳥足配置)型サブピクセル構造ではなく,ストライプ型のサブピクセル構造を採用していると思われる。
実際,HTCも「スペック表記以上の実解像感が得られるはずだ」と自信を見せていた。
VIVE Focus 3の視野角(画角,FOVとも)は,120度を実現した。一部の特殊デザインモデルを除けば,一般的なVR HMDの視野角は100〜110度台なので,120度はかなりの広視野角になる。
特殊な広視野角モデルのVR HMDでは,スマートフォンなどに採用される長方形のディスプレイパネルを使い,2枚の長方形ディスプレイパネルを「へ」の字型に角度を付けることでユーザーの顔を回り込むように配置させ,200度近い視野角を達成している。だが弊害として,ディスプレイパネル最外周付近で色ズレ(色収差)やフォーカスズレが大きくなる傾向がある。
部品のコストアップにもなるため,長大なディスプレイパネルは普及モデルのVR HMDには使いにくかったわけだ。
これに対してVIVE Focus 3では,接眼レンズにはこれまでどおりの平面型フレネルレンズを採用しながら,これに球面レンズを組み合わせることで,VR HMDで採用されてきた正方形に近い形状のディスプレイパネルで視野角拡大を実現している。視野中央よりも視野外周は解像度が下がることになるが,もともとVR HMDは,注視したい方向に顔を向ける傾向にあるのため,こうした解像度特性でも問題ない。
VIVE Focus 3のようなダブルレンズ光学系は,今後のVR HMDでトレンドとなる可能性が高いと思う。
瞳孔間距離(IPD)の調整幅も広くなり,57mmから72mmの範囲で調整可能となった。また,業務用VR HMDは着脱機会が多いと想定されるため,ワンタッチで脱着ができる特許取得済みの新しいクイックリリース構造を開発したそうである。
Qualcomm側の発表によれば,Snapdragon XR2は「CPU・GPU性能が『Snapdragon 835』の2倍,AIアクセラレーションは11倍」という高性能なSoCである。メインメモリ容量も8GBと,充実したものだ。
SoCに統合されたGPUは「Adreno 650」である。VIVE Focus 3における動作クロックが不明なため,あくまでも概算となるが,単精度浮動小数点(FP32)演算における理論性能値は,およそ1.2 TFLOPS程度はある。Xbox Oneが約1.3 TFLOPSくらいなので,おおむね同程度の性能と想像できるわけだ。
ただ,さすがに両眼解像度5Kの約1200万ピクセルを描画するのは荷が重いようで,採用液晶パネルがリフレッシュレート120Hzに対応していながら,スペック上は90Hzとなっているのはこのあたりの事情なのだろう。
VIVE Focus 3では筐体デザインも一新された。基本フレームにマグネシウム合金を採用することで,堅牢性と軽量性を両立させたという。結果,強度は樹脂の5倍となり,総重量は20%低減できたとしている(※公称本体重量は本稿執筆時点で未公開)。
本機は単体運用できるスタンドアロン型VR HMDであるがゆえに,バッテリーの搭載が必然となるが,これをヘッドバンドの後頭部側に割り当ているのがポイントだ。さらに,後頭部に配置したバッテリー部を,接眼部であるVR HMDのコア部分と重心バランスが釣り合うように設計している。その効果により,20%の軽量化を上回る体感上の装着感が得られるとHTCはアピールしていた。
なお,バッテリー部は,マグネット機構で組み付けられるヘッドパッド内側に収納されており,ワンタッチで着脱できる。
ユーザーの位置や頭部の向きを検出するヘッドトラッキングは,外部カメラやセンサー類が不要のインサイドアウト方式を採用する。HMD部前面の4か所にトラッキング用のカメラを装備して,周囲を検出する。カメラのほかに,加速度センサー,ジャイロスコープを組み合わせて,7×7mのプレイエリアに対応した6軸自由度(6DOF)対応のヘッドトラッキングを実現する仕組みだ。
もちろん,ユーザーの装着状況を検出するための近接センサーも内蔵する。
サウンド機能は,先代からの延長線上での拡張が行われた。
ヘッドフォンやイヤフォン不要で音声出力を行うために,片側2個のスピーカードライバーを左右2チャンネル構成で採用するデュアル指向性スピーカーをヘッドバンドの側面部分に組み込んでいるのだ。耳を覆うことも耳の穴に入れることもなく,オープン設計としたのは,やはり着脱機会の多い業務用途を想定しているためだ。ダイナミックレンジを稼ぐために片耳あたり2スピーカー構成というのは,VR HMDではかなり贅沢な設計である。
なお,没入感重視の用途向けとして,外部ヘッドフォン接続用にハイレゾ認証済みの3.5mmミニピンヘッドフォン出力端子も備えているとのことだ。また,マイクは,VIVE Focus Plusと同じく,2チャンネルのノイズキャンセル対応マイクを内蔵する。
インタフェースとしては,USB 3.2 Gen 1 USB Type-C端子を2系統装備する。伝送帯域幅は5Gbpsだ。VIVE Focus 3はPC不要のスタンドアロン機としての運用がメインに想定されているが,PCと接続しての活用には,USB Type-Cを利用することになる。USB OTG(USB On-The-Go)の仕組みを活用するようだが,この仕組みだと,USB 3.2 Gen 1の5Gbpsで映像伝送を行わなくてはならないため,ホストPCからは生フレームの映像伝送には対応できない。つまり,ホストPC側から映像圧縮してのストリーミング伝送になる。この仕組みだと,1フレーム程度の遅延は避けられないはずだが,PC接続時の性能に関する詳細は明らかになっていない。
このほかに,無線系インタフェースとしてはWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)とBluetooth 5.2+BLEに対応する。
業務用ということで,長時間着用を想定して,VIVE Focus 3には高効率な電動アクティブ冷却システムが組み込まれているという。エアーフローは下面吸気,上面排気となるそうだ。
VIVE Focus 3では,VRコントローラもデザインが刷新された。
VIVE Focus Plusのコントローラは,独創的なタッチパッド(トラックパッド)型の方向入力を採用していた。それがVIVE Focus 3では,伝統的なアナログスティックに変更している。他社のコントローラデザインに迎合した感じか。また,先代VIVE Focus Plusのコントローラでは底面側に2つあったトリガボタンとグリップボタンの位置も変更されている。
内蔵バッテリーによる駆動時間は最大15時間で,コントローラ自体の公称重量は約142gとのこと。
VIVE Focus Plusのコントローラは,ユニークな超音波トラッキングシステムを採用していたが,VIVE Focus 3用コントローラでは,加速度センサーとジャイロセンサーを組み合わせた慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)の仕組みに,VIVE Focus 3側のトラッキングカメラによるイメージベース技術を組み合わせることで,6DOFのトラッキングを実現するとみられる。
なおHTCは,今回の発表に合わせて「将来的には,フィンガートラッキングにも対応させる」という予告も行った。VIVE Focus 3の内蔵トラッキングカメラの性能が相当に高いことを覗わせる発言だ。
PC用のVIVE Pro 2も5K解像度に
ゲーマーや一般消費者向けVR HMDのハイエンドモデルであるVIVE Pro 2は,VIVE Focus 3に比べると短めの扱いだった。
筐体デザインは,先代の「VIVE Pro」をそのまま継承しているそうで,つまり,付け心地やセンサー類,サウンド機能はほぼ先代と変わらない。
最大の変更点は,採用するディスプレイパネルと光学系,そしてインタフェース周りだ。採用ディスプレイパネルや光学系は,完全にVIVE Focus 3と同一で,解像度や視野角,採用レンズ構成,両眼距離調整幅などはまったくVIVE Focus 3と同一になる。
ただ,接続先のPCは,VIVE Focus 3のSnapdragon XR2よりも高性能であることが期待できるので,VIVE Pro 2のリフレッシュレートは,90Hzと120Hzの両対応となっている。ちなみに,先代のVIVE Proは90Hzまでの対応だった。
VIVE Pro 2では,両眼解像度が4896×2448ピクセルになり,1フレームあたりの総ピクセル伝送量は1200万ピクセルを超える。しかも,これを120Hzで伝送する必要があることからDisplayPortの帯域幅は約37Gbpsが求められることとなってしまった。そこで,VIVE Pro 2では,DisplayPortインターフェースがVIVE ProのVersion 1.2(約17Gbps)から,Version 1.4(約26Gbps)へと刷新された。
ただ,37Gbpsの5K映像は,DisplayPort 1.4(約26Gbps)でも力不足だ。そこでVIVE Pro 2では,DisplayPort 1.4に含まれる非可逆映像圧縮技術「Display Stream Compression」(DSC)を使用することで,この帯域不足を解消する。ちなみにHTCによれば,「VIVE Pro 2はVR HMDでは世界初のDSC活用事例」とのことである。
HTCは,「VIVE Pro 2は,DisplayPort 1.2にも対応している」と下位互換性をアピールしていたが,いずれにせよ,5K/120Hzで利用するためにはDisplayPort 1.4対応が必須になる。現在までにDisplayPort 1.4対応を謳っているPC用GPUは,AMDならRadeon RX 400シリーズ以降,NVIDIAならGeForce GTX 10シリーズ以降だ(※一部のモデルはアップデートが必要)。とはいえ,5K映像を安定的に120fpsでレンダリングできる性能を持つGPUは,ここ最近の製品になるだろう。
VIVE Pro 2では,コントローラを初めとする,あらゆるVIVEエコシステムの周辺機器が,VIVE Proと完全な互換性があると,HTCは主張している。
対応を確認した比較的新しい周辺機器として,HTCは「Vive Facial Tracker」と「Vive Tracker 3.0」(関連記事),「Vive Wireless Adapter」(国内未発売)などの名前を挙げていた。気になるトラッキングシステムの「SteamVR Base Station」については,現行型の2.0はもちろん,旧型の1.0にも対応しているとのことだ。
VIVE Focusユーザーに向けて提供される「VIVE Business」
VIVE XR Suiteプラットフォームには,「VIVE Sync」「VIVE Campus」「VIVE Sessions」「VIVE Social」というソフトウェアが含まれる。なお,VIVE XR Suiteの存在が明らかになったのは,ちょうど1年前だったが,今回発表されたラインナップに,当時予告されていた「VIVE Museum」の姿はない。
各ソフトウェアを簡単に紹介しておこう。まずVIVE Syncは,中小規模のグループミーティングソフトウェアで,イメージ的には「Zoom」のようなオンライン会議システムのVR版に相当する。
VIVE Campusは,より大規模なVIVE Syncと言ったイメージで,大規模なオンラインミーティング(あるいはオンラインイベント)を実現するためのものだ。
VIVE Sessionsは,オンライン授業や講義,オンラインプレゼンテーションを行うためのもので,「講演者対大勢の聴講者」という体裁に特化したオンライン会議システムになる。
最後のVIVE Socialは,VR版SNSに相当するものだ。
説明だけ聞くと,各構成要素アプリが提供する体験や機能が似通っていることが分かる。今回の発表会でも,実際の画面を用いて解説していたのはVIVE Syncのみだったので,最も完成度が高くてHTCが訴求したいのは,VIVE Syncではないだろうか。
なお,VIVE XR Suiteはサーバーを利用するため,有償のサブスクリプション型サービスになるようで,初めて登録したユーザーは6か月間無料で使用できるという。
ほかにも今回の発表では,VIVE Focus系ハードウェアやソフトウェアの企業内一括管理システム「VIVE Business Device Management System」や,VIVE Focus系ユーザー向けの専用アプリストア「VIVE Business AppStore」も紹介された。
VIVE Business Device Management Systemは,いわゆる企業向けMDM(モバイル端末管理)システムに相当する。こちらも有償のサブスクリプション型サービスになるようで,初回は6か月間無料となる。
VIVE Business AppStoreは,一般消費者向けVIVEアプリストアの「VIVEPORT」のビジネスユーザー版に相当するビジネス用途のVIVE Focus系向けアプリストアになる。ユニークなのは,企業系ユーザーが「こういうアプリが欲しい」とアプリ開発者に提案することができるシステムがあり,アプリの発注や受注をストア内で行えるようだ。HTCは,VIVE Focus系企業ユーザーのビジネスエコシステムの中核となることを目指すという。
HTCは,こうした一連の,VIVE Focus系ビジネスユーザーに向けたソリューションに対し,「VIVE Business」という名称を与え,今後,HTC VIVEの新しいブランドとしてアピールしていくとのことだった。
HTCのVIVE Focus 3製品情報ページ
HTCのVIVE Pro 2製品情報ページ
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