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[GDC 2017]個性的かつ印象的な音楽はどのようにして作られるのか。「Fallout 4」に楽曲を提供したInon Zur氏がその秘訣を語る
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印刷2017/03/04 14:34

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[GDC 2017]個性的かつ印象的な音楽はどのようにして作られるのか。「Fallout 4」に楽曲を提供したInon Zur氏がその秘訣を語る

Inon Zur氏
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 2015年末にリリースされた「Fallout 4」PC / PlayStation 4 / Xbox One)は,賛否両論を呼んだものの,全体的に見れば大きな成功を収めたと言っていいタイトルだ。荒廃した大地でマイホームを作り続けている熱心なプレイヤーは今なお多い。

 そんな「Fallout 4」は,独特のBGMも大きな魅力となっている。その楽曲はどんな意図で作られ,またどのようなプロセスを経て生まれたのだろうか?
 作曲家であるInon Zur氏の「Originality/Signature Factor in Fallout Composition」と題された講演がGDC 2017の4日目に行われたので,その模様をお届けしよう。


「オリジナルである」とはどういうことか?


 Zur氏は1997年にゲーム音楽作曲家としてのキャリアをスタートさせたので,今年が20周年ということになる。この「厳しい業界」で長期間活動を続けられたのは,「独自かつ面白いものを作り続けてきた」からだという。ある意味で当たり前かもしれないが,「オリジナルであること」は,生存競争において有効なのだ。

 しかしながら,「オリジナルである」とはいったいどういうことなのだろうか?

 Zur氏は「新しい,または驚きのある要素を,馴染み深い前提やコンセプトの中に混ぜる」「それを何度も繰り返す」ことだと語る。
 この概念は,この講演における核心でもある。オリジナリティを追求することは,何もかも完全に新しいものを追求することとは異なる。新奇な要素は全体の20%程度に抑え,残りの80%は従来の方法で進めることが重要だというのだ。

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 実際にFallout 4の楽曲制作で行われたこととして,以下のようなものが紹介された。

●一般的な音楽で普通に使われている要素を,オリジナルの要素と入れ替える
 これは例えばギターをパーカッションとして使うなどして楽曲を構成していくことだ。
 Fallout 4は,ゲームの中で「異なる現実」(オルタネイト・リアリティ)を作り上げている。従って楽器もまた,その異なる現実の中で「このように使われる可能性があったのではないか」ということを考えながら,普通とは違った使い方をする。

●あまり一般的ではない楽器の組み合わせで曲を作る
 Zur氏は特にチェロの音を好むが,Fallout 4の持つ寂しい雰囲気を強調するため,チェロに霧笛とボーカルを合わせるという,一般的ではない組み合わせを採用した。
 またこれは楽器だけでなく,あまり一般的ではない音源と,あまり一般的ではないリズムの組み合わせといった形でも効果的だという。

●予期しにくい展開を楽曲の中に盛り込んでいく
 「ここはいったいどこなんだ?」という感覚をもたらすため,聴き手が予測不能な変化を作っていく。楽曲が進むにつれて演奏のレイヤーが増えていったり,転調したり,あるいは拍子が変わったりといった技術は有効に利用できる。
 また,ゲーム音楽はループで使われることを意識する必要がある。どんないい音楽を作っても(そしてプレイヤーも「これはいいBGMだ」と思ったとしても),どこでループするかに気づかれると,プレイヤーは急速に「飽きる」傾向にあるという。上記の技法はループポイントを簡単に気づかれないようにするためにも有効だ。

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ゲームに対して真摯であれ


 さて,ここでZur氏は改めて「オリジナリティは本当に必要なのか? 必要なのだとしたらなぜ?」「ハリウッドの映画音楽を聞いてみれば分かるが,どれも似たような“王道”の音楽じゃないか」と問いかけた。

 この点についてZur氏は,まず「映画とゲームは違う」と指摘。ゲームを遊ぼうとする人は,基本的に「人とは違うもの」を求める傾向にあり,むしろ「違いを求めてゲームをする」と言い換えてもいいくらいだという。あくまで王道が求められる映画音楽とは異なり,ゲーム音楽にはそもそも「違い」が求められているというのだ。
 これを指してZur氏は「ゲーム音楽の作曲家はパイオニアである」と語った。

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 しかしながら前述のように,その「違い」が全体の20%を超えてしまうと,「奇妙」になってしまう。プレイヤーは「違い」を求めているのであって,「奇妙」を求めているわけではないのだ。
 従って,全体の80%程度は「王道」を踏まえた展開やリズム,和音といったものを使っていく。あくまで「ちょっとだけ変える」という塩梅が大事なのだ。

 そしてこの「違い」を作るにあたって,まずはゲームに対して真摯でなければならないという。
 ゲームに対して楽曲提供の依頼を受けた作曲家が最初にすべきことは,そのゲームを作っている人々が働くスタジオを訪れ,その段階で作られている画面を見たり,さまざまなアセットを見たり,あるいはそこでゲームを作っている人と話したりすることを通じて,ゲームについて学ぶことなのだ。

 例えばFallout 4の場合,Zur氏は「すべてが少しずつねじれている,パラレルな現実」がこのゲームであると理解したという。
 そしてその理解が,楽曲を作っていく最初のステップとなった。ゲームの楽曲に対して求められる「ちょっとした(20%程度の)特徴」を正しく作るためには,「そのゲームの特徴」を踏まえねばならないというわけだ。

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 Zur氏は「Fallout 4」の楽曲のオリジナリティを高めるため,4つの指針を立てた。

(1)パラレルな現実の中で,パラレルな音楽スタイルを提供する
 楽曲を聴く人が「いったいこれは何の音なんだ?」という疑問を抱くように仕向ける。これを実現するため,音のライブラリはZur氏自身が作ることとなった。
(楽曲例:「Brightness Calling」)

(2)伝統的な楽器を,伝統的ではない方法で演奏する
 「どんな楽器を使うか」ではなく「この楽器をどう使うか」に注目する。
(楽曲例:「Time To Die」)

(3)伝統的ではない楽器を,伝統的な方法で演奏
 ガーデンテーブルやポリタンクといった,楽器として使われないようなものを,クラシックな楽器のように使う。
 (2)と(3)において最も重視したのは,奇抜さではなく,「そういう楽器の使われ方が,Fallout世界ならあり得そうだ」と思えるかどうかであるという。
(楽曲例:「The Infiltrator」)

(4)たくさんの楽器を使い,互いに他の楽器の真似をする
 これも奇をてらったのではなく,そのような楽曲であることがゲームのある場面において必要であったからだという。
(楽曲例:「JY2」)

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ゲームに必要なものを見つけ出す


 音源についても工夫は可能だし,必要でもある。
 「Fallout 4」の場合,前述のように,さまざまな“楽器”が生み出す生音の録音を積極的に行っているという。録音の対象は「変わった楽器の音」だけでなく,自然界の音(風・雷・動物の鳴き声など)も含まれており,逆にさまざまな音源を使って,自然界の音を真似るという技法も使っているという。
 このように,楽曲の中で環境音を利用する場合,ゲームのサウンドエフェクト部門との協力も重要になってくる。「Fallout 4」においては,Zur氏はSE部門からゲーム内で使われる環境音を受け取り,それを真似るような形で音を作ったこともあるという。

 和音の使い方にも工夫の余地がある。主旋律(例示された楽曲ではピアノ)はクラシックな和音によるクラシックなコード進行で構成されている一方,それ以外のレイヤーは曖昧模糊とした空気を作っている。
 このような対比は,聴き手の中にアンビバレンス(相反する感情を同時に抱くさま)を惹起させるという。

 ちなみに「Fallout 4」では「ちょっと変わった音の組み合わせ」としてディジュリドゥ(オーストラリア大陸の先住民,アボリジニが使う管楽器)とボーカルという組み合わせが行われた。これは一見すると奇妙だが,「Fallout 4」における象徴的な楽曲になったという。

 この逸話で重要なのは,意外な組み合わせを見つけたことではなく,「ゲームにとって必要だからそうなった」ことである。「俺様はこんな組み合わせで凄い音楽が作れる賢い人間だ」ということを誇示するためではないのだ。

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 ではZur氏が「工夫した」音源の例を実際に見ていくことにしよう。「これがFalloutアンサンブルだ!」という発表とともに示されたスライドには,私達も知る楽器に加えて,およそ楽器とは呼べないものが並んでいる(なお,このスライドに示された“楽器”は,氷山の一角でしかないとのこと)。

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 左上にあるのは,見ての通りガーデンテーブルのセットだが,これをコンクリ床の上で引きずると“楽器”になる。

 その右にあるのは……何なのだろう。講演では説明されなかった謎のアイテムだが,これもまた“楽器”であるのは間違いない。

 上段右上の2枚はピアノとギターだが,ピアノは弦を指で弾いて演奏し,ギターはヴァイオリンの弓を使って演奏したという。弓で弾くギターは「Fallout 4」の楽曲では比較的よく使われているようで,Zur氏による生演奏がBGMの一部として使われているとのことだ。
 下段左下の2枚は分かりやすい。パイプ椅子は叩いて使い,ポリタンクには水を半分くらい入れると変わった音がするパーカッションになる。そういった「演奏」のレコーディングを行うとき,これらのゴミ……もとい“楽器”にマイクをくっつけた状態で楽器を軽く指で叩くのもいいという。
 また下段右端はディジュリドゥだが,「ディジュリドゥを口にしたまま歌う」といった演奏も試みているという。

 ここにおいても注意すべきは,こういった「変わった楽器」による演奏は,その楽曲の20%程度に押さえておくべきだということ。
 また,Zur氏はここでも「変わった楽器を使うのは,自分が賢いことを誇示するためであってはならない」と再び強調した。ガラクタを使った馬鹿馬鹿しい演奏法を採用するのは,「Fallout 4」世界の持つ馬鹿馬鹿しさや生々しさ,あるいはガラクタに満ちた世界を表現するためであって,作曲家の能力を見せつけるためではないのだ。


あなたを助けてくれる人と仕事をするのは,とても大事なこと


 Zur氏は講演のまとめとして,以下のような点を改めて強調した。

●ゲームのコンセプトが最も重要
「俺様の大傑作」「俺様の音楽」を表現するのではなく,楽曲を提供することでプロジェクトをインスパイアすべき。

●チームワークを意識する
自分はチームの一員であることを理解する。

●チームにいるほかのアーティストから発想をもらう
提供する楽曲は,1つのゲームとともにある。

●自分の音楽に対して意固地にならない
ゲームのためにどうしても必要であれば,その必要性に応じて音楽に手を加えたり,新たな楽曲を作ったりするべき。

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 Zur氏は対話の必要性という点について,「Eagle Flight」に楽曲を提供したときのエピソードを語った。
 VRゲームである「Eagle Flight」では,従来のゲームと異なり,効果音はプレイヤーを包み込む形で発生する。また,ゲームそのものもプレイヤーを包み込むようにして進行している。

 そこでZur氏は,音楽もまたそのようにあるべきではないか? という疑問を抱いた。しかし,プロデューサーにその点を相談したところ,「このゲームをシミュレーションとして考えた場合,BGMは本来どこにも存在しないものだ。音楽はあくまで感情を代弁するものであり,それは頭の内部にある」という指摘を受けたという。かくしてZur氏は「ならば普段通り,あくまでステレオ音源で作ろう」と決意し,そのような楽曲を提供した。

 現代のゲーム,とくにAAAタイトルともなれば,開発チームの規模は巨大になる。またコンピュータ技術は文字通り日進月歩で進んでおり,あらゆる分野における最先端を理解し続けるのは,ほとんど不可能だと言ってもいい。
 最後に「あなたを助けてくれる人と一緒に仕事をするのは,とても大事なことだ」と語ったZur氏。その言葉には,20年という歳月をゲーム業界で生き延びてきただけの重みがあった。

「Fallout 4」公式サイト


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