インタビュー
マインドスポーツを目指す「ウルIV」の次なる一手は? 杉山Pと綾野APに聞くこれからの施策と,初代バトルプランナーが語るセービング誕生秘話
そこで気になるのが,今後のアップデートについて。アーケード版では,稼働からわずか2か月という短いスパンで大幅なアップデート(関連記事)が行われたこともあり,開発元であるカプコンが,これからの方向性をどう考えているのか気になっている人も多いはず。そこで今回4Gamerでは,本作でプロデューサーを務める杉山晃一氏と,アシスタントプロデューサーの綾野智章氏に話を聞いてみた。
またアップデートについてのみならず,8月12日に配信が開始された「バケーションコスチューム」,さらには今後のイベントスケジュールなど,対戦シーンの今後についての話題もあるので,本作のプレイヤーはぜひご一読いただきたい。
また,今回のインタビューにあたって,初代「ストリートファイターIV」の開発に関わったバトルプランナーの方に,メールインタビューする機会を得たので,これも合わせて掲載する。本シリーズ開発初期のエピソードや,シリーズを特徴づけるゲームシステム・セービングアタック誕生の経緯などについてうかがっているので,こちらも要チェックだ。
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「ウルトラストリートファイターIV」公式サイト
「ウルトラストリートファイターIV」アーケード公式サイト
EVO2014で動き出したプレイシーン
4Gamer:
いよいよ家庭用ゲーム機版の「ウルトラストリートファイターIV」(以下,ウルIV)が発売になりました。そこで本作のこれからについて,広くお聞きできればと思うのですが,その前にまず……先日行われたEvolution 2014(以下,EVO2014)はいかがでしたか?
杉山晃一氏(以下,杉山氏):
仕事しながらリアルタイムで見てました(笑)。
綾野智章氏(以下,綾野氏):
毎年,ストIV部門の決勝トーナメントは,日本だと月曜のお昼頃なんですよね。だから観戦しやすくて助かります(笑)。下馬評どおり,ユンばっかりになっちゃうのかなって心配していたんですけど,ローズ使いのLouffy選手が優勝したのには驚かされました。
杉山氏:
プレイヤー,キャラクターともに,Evolutionでは初の優勝ということで,ウルIVの可能性が見えた大会だったと思っています。我々としても,大いに楽しませてもらいました。
4Gamer:
新システムや新キャラクターの使われ方については,どんなご感想を持ちましたか。
綾野氏:
EXレッドセービングアタックは,ユンはもちろん,ザンギエフのSnake Eyez選手などもかなり使いこなしていましたね。一方で,通常のレッドセービングアタックは,使いどころが難しいためかほとんど見られませんでした。まあ,意図どおりではあるんですけど。
杉山氏:
一方で,ディレイスタンディングは地味ながら,かなり試合に影響していたように感じられました。
4Gamer:
ディレイスタンディングの存在は,それこそLouffy選手が優勝を果たした一因と見ることもできます。ローズはこれまで,起き攻めに弱いところがありましたから。
杉山氏:
そうですね。プロモーション的には,一番画面映えしない新システムだったんですけど(笑)。
綾野氏:
そういえば,とある量販店から「家庭ゲーム機版のための店頭用ポップは,真ん中をローズにしてくれ」って依頼があったんですよ。実際に制作してお渡ししたので,どこかの店頭で見られるかもしれません。
4Gamer:
それはEVOでローズが優勝したから? だとしたら,その担当の人はよっぽどのマニアですねえ。
綾野氏:
いや,実際そうなんだと思いますよ。ローズがセンターにいたことなんて,これまで一度もなかったでしょうから。それだけ,EVOに注目していた人は多いということですね。
4Gamer:
そのEVO2014のパネルセッションでは,ウルIVの今後のアップデートについての発表があったと聞いています。改めて日本のプレイヤー向けにお話いただけることがあれば,ここでお願いできますでしょうか。
北米版の発売から1〜2か月が経過して,海外のプレイヤーからもいろいろな要望があがってきているタイミングなんですよ。エディションセレクトのオンライン対応とか,トレーニングモードでのディレイスタンディング対応とか。
杉山氏:
時期についてはまだ言えませんが,対応する方向で検討しています。
綾野氏:
日本のプレイヤーから意見をいただくのはこれからですが,これらの機能が望まれていることは分かっているつもりです。なので,“超・前向き”に検討中!という感じで書いておいていただければと(笑)。
4Gamer:
分かりました(笑)。ではバランスアップデートについてはいかがですか。本作は,家庭用ゲーム機版発売に合わせたVer.1.01,そして1.02と,格闘ゲームとしてはかなり短いスパンでの調整が行われてきました。今後もこのペースで調整が行われるのでしょうか。
杉山氏:
もちろん,バランス調整は今後も継続していくつもりではあります。ただ,国内は10月に公式全国大会である「賞金制全国大会 一秋千撃杯」(以下,一秋千撃杯),北米では12月に「Capcom Cup」と大きな大会が続きますし,その予選に当たる「Capcom Pro Tour」も進行中です。なので大幅な変更を加えるのは,しばらく控えたいなと。
綾野氏:
家庭用ゲーム機版発売直後のアップデート(Ver.1.02)も,バトルバランスの調整はせず,あくまで不具合の修正に止めています。
4Gamer:
ということは,少なくとも年内にバランス調整が入ることはないわけですか。
杉山氏:
そうですね。これまでに寄せられた意見を見ても,キャラクター性能が頻繁に変わることは,皆さんあまり歓迎していないようですし。これはプロゲーマーなどトーナメントコミュニティに属するプレイヤーだけでなく,一般のプレイヤーも含めての話なのですけど。
綾野氏:
もちろん「短いスパンで調整してほしい」という意見もあるにはあります。でも,それをやってしまうと,今度は告知したとたんに次のアップデート待ちになっちゃって,プレイされなくなるのでは,という危惧もある。
4Gamer:
うーん,なるほど。じゃあ次のアップデートは,Ver.2012の時のように,名前が変わるものになるかもしれない?
綾野氏:
かもしれないですし,そうでないかもしれない。まだ決まったわけではないです。
今のバランスってそんなに悪くないのでは? とも思っているんですよ。EVO2014後にトッププレイヤーの皆さんに話を聞いてみたら,「44キャラのうち,半数ぐらいは優勝できるポテンシャルを持っている」という感想でしたし。実際のところどうなのかは,もう少し様子を見てもいいかもしれない。
4Gamer:
なるほど。では,ちょっと切り口を変えさせてください。
EVO直前に掲載した座談会で,ウメハラさんが「うまいプレイヤーが使っているキャラクターが損をする」といった主旨のことを話していました。……実際のところはどうなんでしょうか。
綾野氏:
拝読しました。おっしゃってましたね(笑)。例えばVer.2012の調整を見たら,そう見えてしまうかもしれません。ただ,あれはAEユンがあまりに突出して強かったからで。ウルIVでそこまで極端な調整が入ることはないと思います。
4Gamer:
ウルIVで豪鬼やサガットが弱体化されたのは,ときどさんやボンちゃんの活躍とは関係ないと?
綾野氏:
ないです(笑)。バランス調整は,もっと色々な要素を総合的に判断した結果ですからね。ああでも,大会で目立ったキャラクターには,その分要望が集まりやすいという傾向はあるかもしれない。事実,EVO2014が終わった途端,「ソウルサテライトを弱体化しろ!」って声が山のように……。
(一同笑)
杉山氏:
誤解されないように言っておきたいんですが,次のアップデートでいきなりローズが弱くなる,なんてことはありませんから(笑)。
綾野氏:
バランスに対する評価って,やっぱり難しいんですよ。評価する人の属するコミュニティにどうしても左右されてしまいますし,集計の取り方次第でも変わってきてしまう。例えばさっきのスパIV AEユンなんか,ものすごく強かったと言われていますし,僕らとしてもそこに異論はありませんが,アーケードのサーバーデータを集計してみると,勝率1位はユンではないんです。
4Gamer:
どのキャラクターだったんですか?
綾野氏:
これが実は,ダルシムなんですよ。
4Gamer:
え,それはかなり意外です。
綾野氏:
そんなわけで,バランス調整に関しては,特定のプレイヤーの戦績や大会結果,あるいは統計データのみに偏ることなく,プレイヤーの要望なんかも加味した上で,調整案を考えています。公式ブログのコメント欄に寄せられる意見は,その最たるものの一つですし,今後ともぜひ多くの意見を送っていただければと思います。
杉山氏:
プレイヤーからの意見といえば,熱いお手紙も来たよね。もう何ページにも及ぶようなものが。
4Gamer:
紙で来たんですか?
杉山氏:
ゲームバランスではなく,演出面についてのご意見でしたけど。スクリーンショットも貼ってあって,「この技のカメラワークはこういう風にした方がダイナミックでカッコ良いと思います」といったことが,びっしり書いてありました。
綾野氏:
紙で来たので,僕らも紙で返信したんだよね。そもそもウルIV自体が,海外のプレイヤーから送られてきた紙の企画書が発端でしたし,実はそう珍しいことではないんです。でも……これはあんまり広めないほうがいいかなあ。
4Gamer:
いやいや,これ凄く良いエピソードじゃないですか!
綾野氏:
“紙対応”ですかね?
4Gamer:
……えー,引き続き皆さんからのお手紙をお待ちしております,ということで(笑)。
綾野氏:
いやいや,お手紙は積極的に募集しているわけじゃないですからね!
(コラム)ストIVのバトルデザインとセービングアタック
ストIVシリーズを代表するゲームシステムとなったセービングアタック。プレイヤー達はもはや当たり前のように使いこなしているこのシステムだが,実は結構な発明なのではないかと筆者は思うのだ。
一言でセービングアタックと言っても,その効果は多岐にわたる。差し合いの駆け引きを拡張する「アーマー効果」に,連続技の自由度を広げる「必殺技キャンセル」「腹崩れ」の要素,そして逆転要素であるウルトラコンボにも関連する「リベンジゲージの増加効果」と,セービングアタックというひとつのシステムに,かなりの数のアイデアが盛り込まれているのが分かる。これはつまり,本作における“モダンな格闘ゲーム”の要素が,すべてこれ一つに詰まっているということなのだ。
そんなセービングアタックはいかにして生み出されたのだろうか。初代「ストリートファイターIV」でバトルプランナーを務めた人物(残念ながら名前は明かせないとのこと)にメールで話を聞いてみた。
■「ストリートファイターIV」バトルプランナー メールインタビュー
Q. 「ストリートファイターIV」の制作が決まったときの率直な感想をお聞かせください。
「ストリートファイター」シリーズを遊んでいた世代でもあるので,非常に思い入れの深いタイトルの開発に携われるという喜びはありましたが,それ以上にビッグタイトルを任されたプレッシャーや不安が大きかったのを今でも覚えています。ただ,やるからには自分も愛してやまないストリートファイターの素晴らしさを,より多くの人に伝えたいという気持ちで取り組みました。
Q. カプコンの小野義徳プロデューサーは,当時「原点回帰」というキーワードを掲げていました。バトルデザインについてのカプコンからのオーダーは,当時どんなものでしたか。
- 「前作, ストリートファイターIII 3rd STRIKEを超えること」
- 「対戦格闘ゲームの熱気を取り戻すこと」
この二つが小野プロデューサーからのオーダーでした。
Q. それを踏まえ,ストIVが目指したバトルデザインについて聞かせてください。
ストIIIのシステムは,プレイヤーからも非常に高い評価を受けていましたし,自分としても高い壁でした。最初は延長線上にある答えを模索し続けましたが,過去作を見直した際,延長線上ではなく原点から広がる可能性の方に答えを見出しました。
結果,タイトルコンセプトである「原点回帰」を,バトルコンセプトとしても採用し,飾らない面白さ,キャラクターの遊びに特化したバトルデザインを目指すことになりました。
Q. 「投げ」にまつわるシステムは,ストIIIシリーズを踏襲するものになっていますが,その理由は? また,いわゆる「しゃがみグラップ」を残したのはなぜなのでしょうか。
ストIIIシリーズの投げを踏襲したのは,プレイヤーの選択がゲームに表現され,操作に対する納得性が高いと感じたからです。「しゃがみグラップ」を残したのは,全体的な難度とファジーな部分を残すことで,アナログ的な気持ちよさを表現できればと考えた結果です。
Q. 通常のスパコンゲージとは別に,リベンジゲージを設けた意図はなんでしょうか。
対戦中,劣勢なプレイヤーでも希望が持てて,優勢な側にも緊張感を与えるシステムを入れたいという想いから,リベンジゲージとウルトラコンボというシステムを入れました。
スーパーコンボゲージは能動的な部分が大きいので,優勢な側――つまりテクニックを発揮した側のゲージが貯まるシステムです。そこで受動的な要素の強いリベンジゲージを設けることで,逆転性と緊張感を表現できたと思います。
リベンジゲージ
Q. セービングアタックにおける「アーマー効果」「リカバリアブルゲージ」「腹崩れ」「必殺技キャンセル」「リベンジゲージ(の増加効果)」といった各要素は,どの順番で思いつき,実装されていったのでしょうか。
ストIIIシリーズの延長線上ではないところに答えを見出したストIVシリーズですが,前作のコアシステムでもある「ブロッキング」の素晴らしさ,「後の先」の面白さを取り入れることができればと考えていました。しかし,ブロッキングは「見えない攻撃」とも言われるように,視覚的な表現が事後にしかないことから,理解できるプレイヤーを狭めていました。
そこで,セービングという動作としてこれを視覚化することで,プレイヤーの幅を広げることを目指しました。「アーマー効果」は,この時に生まれたアイデアです。しかし,単純なアーマー効果では,攻防一体である「後の先」を表現できません。そこで,攻撃による「ガード不能と膝崩れ」とステップキャンセルによる「フェイント」を付け加えたのがセービングの原型です。
EXセービングアタックによる「必殺技キャンセル」については,ゲーム全体をシンプル設計としたことで,単純に見てテクニカルな要素が少なくなったという印象から,“セービングを利用した新たな可能性”という形で,かなり早い段階で設計しています。
「リベンジゲージの増加効果」は,リベンジゲージそのものを,スーパーコンボゲージと対になるような存在にしたいと考え,後から追加したものになります。リベンジゲージ自体は体力の減少をトリガーとする受動的なシステムですが,セービングと組み合わせることで能動的な要素も付加してあります。
「リカバリアブルゲージ」については,単純なカウンターシステムとしてではなく,セービングを使うことによるリスクと,リベンジゲージの増加効果の納得性を高める上で付け加えた要素となります。
Q. いわゆる「辻式」ついて。今やかなり一般的になったこのテクニックですが,開発側として,このような使われ方は想定していたでしょうか。
ボタンの同時押し判定に猶予を設定しているのは,全体的なシステムをまとめる上での意図的なものですが,辻式という使い方は想定外でした。
Q. 最後に,プレイヤーへのメッセージをお願いします。
ストIVシリーズも,ウルトラストリートファイターIVで4作目。プレイヤーのみなさんと共に作り上げてきたタイトルだと思います。そして,ストリートファイターの進化はまだまだ止まりません。みなさんの熱いプレイと思いを形にできるよう,開発も頑張っていきますので,これからもストリートファイターをよろしくお願いします。
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