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印刷2015/08/27 00:00

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[CEDEC 2015]クラウド版「ドラゴンクエストX」はこうして作られた。「世界初! 3DSでMMORPGのクラウド開発」セッションレポート

 2015年8月26日から28日まで,パシフィコ横浜でCEDEC 2015が開催されている。本稿では,開催初日に行われたセッション「世界初! 3DSでMMORPGのクラウド開発 〜ドラゴンクエストX クラウド版開発実例紹介〜」の内容をレポートしよう。

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 本セッションでは,スクウェア・エニックス 第6ビジネスディビジョン プログラマー 黒川進一氏と,Ubitas ビジネス・デベロップメント シニアディレクター 春日伸弥氏が,MMORPG「ドラゴンクエストX」のクラウド版において,クラウドサーバーとゲームがどのように連携しているのか,PCゲームをクラウド化するにあたってどのような作業が発生したのかなど,開発工程やコスト,問題点や解決策を中心に紹介した。

左から春日伸弥氏,黒川進一氏
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 クラウド版「ドラゴンクエストX」は,現在dゲームおよびニンテンドー3DSにてサービスを展開している。本セッションでは,主に3DS版の開発事例にフォーカスが当てられた。

セッションの序盤では,クラウド版「ドラゴンクエストX」およびクラウドサーバーを介したゲームサーバーとクライアントのやり取りの仕組みなどが紹介された
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 クラウド版の開発は「実機の動作検証」「サービスインに向けた課題の洗い出し」「実装&検証」という流れで行われた。
 最初に行った実機の動作検証は,クラウドサーバーにインストールしたPC版「ドラゴンクエストX」を起動し,それをストリーミングでどのようにプレイできるか確認するという内容で,簡単に成功したという。

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 続いてサービスインに向けた課題がいくつも洗い出されていった。その中でもとくに大きかったのは,「ゲーム認証フロー」「CCU対応」「低解像度化」「文字の対策」の4つである。
 ゲーム認証フローの課題とは,ログイン周りを簡略化し,プレイヤーに手間を掛けさせずログインさせようというもの。そこで開発チームでは,「スクウェア・エニックス アカウント」と「ニンテンドーネットワークID」の紐付け情報を作成し,最初にアカウントとパスワードを設定したら,次回以降のログインでは入力が不要になる仕組みを構築した。

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 次のCCU(Concurrent Users,同時接続可能なユーザー数)対応という課題については,まずクラウドサーバー内のゲーム実行サーバーにおいて,ログインしているプレイヤーの数だけPC版「ドラゴンクエストX」が起動され,ストリーミング配信がなされているという大前提が説明された。したがって最大CCUは,ゲーム実行サーバーの稼働台数に,1台あたりの多重起動数を掛け算することで求められる。この最大CCUが小さいとサービスが行き届かなくなり,逆に大きすぎるとコストが肥大化するので,バランスを考えなければならない。

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 それでは可能な限り多くのプレイヤーにゲームを遊んでもらうためには,具体的にどうすればいいのか。必要となるのは,ゲーム実行サーバー1台あたりの多重起動数の最適化である。そこで開発チームでは,まずインテル VTune パフォーマンス・アナライザーを使い,地道かつ徹底的にボトルネックとなる部分を解析していった。

 その中で大きな課題となったのは,同期処理の見直しである。と言うのも,PC版「ドラゴンクエストX」がもともと単体での起動を念頭に置いて開発されていたため,多重起動時にグラフィックス描画時のオーバーヘッドなど,無用な処理が発生していたからだ。そのため開発チームでは,多重起動を想定した最適化を図ることで同期処理を改善していったという。結果として,クラウド版「ドラゴンクエストX」は単体起動だと若干パフォーマンスが劣化するという,一般的な高速化とは少々異なるケースが見られるとのこと。

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 また「ドラゴンクエストX」はWii版のサービスインから3年が経過し,アップデートを重ねた結果として,総データ量もかなりのものとなっているが,そうなるとクラウド版におけるCCUもいつの間にか下がっている可能性が生じるという。
 そこで開発チームではCCUの混雑度合いに応じて,ゲームの描画フレームレートを動的に変更するというシステムを導入した。これはCCUが一定数を超えたらフレームレートを落とし,CCUが再び一定数以下になったらフレームレートを戻すというもの。CCUの一時的な水増しではあるが,サーバーの負荷を軽減し,ゲーム実行の安定性につながるというメリットが見込める手法である。
 ただしフレームレートが下がるとゲームプレイに支障が出る可能性があるため,しきい値の設定には配慮する必要がある。開発チームとしては,万が一のケースに備えるものと位置付けているそうだ。

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 低解像度化は,3DS本体の400×240ドットの画面に合わせて,文字どおりグラフィックスの解像度を下げることだが,そのまま実行するとキャラクターの輪郭がぼやけてしまうなど,かなり厳しい状況となってしまったという。そこで,いったん800×480ドットで描画してから,さらに縮小描画をするという手法を取り,表示を綺麗にしている。

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 文字の対策もまた画面表示にまつわる課題で,Windowsのフォントを3DS本体の400×200ドットの画面に表示しようとすると,文字が潰れて視認性が低くなってしまう。そこで縮小の影響が少ないドットバイドットのフォントを採用することで,表示の改善を試みた。それでもプレイヤーからは文字が見にくいとの意見が寄せられたため,フォントのサイズや位置,間隔を調整しているという。

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 セッションの後半では,クラウド側でどのような工夫が行われたか,その事例が紹介された。そこで最初に示されたのが,商用クラウドゲーミングにとって最も重要なことは,“多くのプレイヤーに向けてサービスを提供できること”だという指摘だ。
 データを検証すると,クラウド版「ドラゴンクエストX」では,遊び心地の面では比較的満足できる状況にあったとのこと。しかし実際にサービスを提供するとなると,いくつか問題が見えてきた。

 たとえばメンテナンスの終了直後は,一刻も早く遊びたいというプレイヤーが集まり,1秒間に3桁にもおよぶ数の多重起動が行われる。また定期メンテナンスでは,数時間のうちに全ゲーム実行サーバーに1〜2GBの容量があるパッチを当てなければならない。さらにプレイヤー各自のWi-fi環境もさまざまだ。そういった多様な状況に対応できるよう,商用クラウドゲーミングでは,拡張性・柔軟性のあるスケーラブルな設計にしておく必要が生じるのである。

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 どのようにスケーラブルな設計を実現したかについては,「最適な動画圧縮」「画質に応じた描画時間」「安定系と高速系の分離」「自立分散型構成」の4つが紹介された。
 最適な動画圧縮とは,動画をストリーミングする際に,プレイヤーの環境に合わせた圧縮方式と圧縮率を提供するというもので,事前に大量の圧縮方式と圧縮率の組み合わせをフィールドテストで検証しておき,その時々のプレイヤーの環境に合わせて最適な設定値を動的に選択しているという。非常に地道な作業ではあるが,プレイヤーに快適な環境を提供するうえでは,避けられないファクターとのことだ。

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 しかし,そうやって最適な圧縮率をはじき出しても,実際には描画のカクツキが見られることもある。これは圧縮率が変わることで圧縮ムラも変わることから生じており,クラウド版「ドラゴンクエストX」では圧縮率の異なる画質ごとのジッター(揺らぎ)をミリ秒単位で計測し,描画タイミングに補正を掛けているとのこと。これまた地道で細かい作業だが,やはり重要なポイントだという。

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 加えてクラウド版「ドラゴンクエストX」では,サブシステムを安定系高速系の2種類に分離している。これはクラウドゲーミングのボトルネックがI/O面または計算面のいずれかで生じるためであり,安定系サブシステムではI/Oに特化,高速系サブシステムでは計算負荷が大きくなる部分にそれぞれ特化している。

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 さらにクラウドゲーミングでは非常に多くの技術を使っているため,数多くのモジュールが必要となる。それをそのまま設計に盛り込んでしまうと複雑化し,何か一つメンテナンスをするとなると,その影響が広範囲におよんでしまいかねないのである。
 そこでクラウド版「ドラゴンクエストX」では,一つ一つのモジュールが自立分散的に動くよう設計し,一つのモジュールを切り離しても,残りのモジュールはそのまま処理を継続するような構造になっているとのこと。結果として,モジュール単位での迅速なメンテナンスと効率的な拡張性を実現しているのである。

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 セッションの終盤には,クラウド開発のメリットとデメリットがあらためて紹介された。メリットは「シンプル設計」「開発期間の短縮化」「低スペック環境でも実現できる」の3つ。
 シンプル設計は,PCゲームと異なりクライアントを改ざんされる恐れがないためセキュリティ対策に手間を取られないこと,またシステム的に融通が利きやすいことが挙げられた。

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 また開発期間については,PC版「ドラゴンクエストX」の発売から約半年でdゲーム版が,約1年で3DS版がローンチできたという事例が示された。
 低スペック環境でも実現できた理由は,端末側の主な処理がストリーミング映像のエンコードだからである。とくに昨今のスマートデバイスは高スペックになっているため,ほとんど問題がないという。逆に,あまりスペックが高くないハードであっても,クラウドゲーミングであればMMORPGのプレイを実現できることは3DS版で実証されている。

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 デメリットについては,「ネットワーク混雑」「プラットフォームの制約」「メンテナンスコスト」の3つが挙げられた。
 クラウドゲーミングは,安定したネットワーク環境が前提となっており,仮にネットワークが混雑した場合には画質を下げるなどのストリーミング調整が必要となる。

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 またプラットフォームによっては,3DSの画面表示のような制約があるので,それに応じた調整を施す必要がある。その一方で3DSには最初からコントローラがあり,スマートフォンのようにバーチャルパッドを用意しなくてもいいといった長所もある。つまりプラットフォームにはそれぞれ一長一短あるので,それらの特徴を活かした仕様の設計が必要となるわけだ。
 加えてクラウドゲーミングでは,クラウドサーバーを介してサービスを提供するぶん,運用コストが多く掛かるといったメンテナンスコストの問題も生じる。

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 最後に,黒川氏自身がクラウド開発を経験して感じたことが披露された。それによると,PC版をベースとしたこともあって,クラウド版の開発は非常にやりやすく,自身も含めて開発スタッフ全体に,大きな負担になるようなことはなかったとのこと。その一方で,3DS版とdゲーム版の各プラットフォーム向けの調整は,簡単に解決できるものではなかったという。
 黒川氏は以上の事例から,マルチプラットフォーム施策の一環として,クラウドゲーミングを想定した仕様設計を視野に入れることも決して難しい話ではないと述べ,セッションを締めくくった。

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