≫ 注記:前回も書きましたが、本制作日記は
極めてノンフィクションに近いフィクションです。実在する団体・人物・宣伝戦略案・飲み屋で打ち合わせをセッティングする編集者(平林さんの事)・当時嵌っていたゲーム・嵌りきれなかったゲームなどが登場しますが(ゲーム名については登場しませんが)、全て架空という事にしておかないと誰に怒られるか分からないので引き続きそういう事でヨロシク! では“土屋つかさの『那由多の軌跡』制作日記
「ノベライズに至る軌跡」”第2回スタートです。どぞ!(土屋)
■土屋つかさの『那由多の軌跡』制作日記
第1回:執筆の依頼が来た!
第3回:プロットを書き上げろ!
第4回:議論、そして、執筆へ!
第2回:スケジュールとの格闘!
ライトノベル作家の土屋つかさは、星海社の平林さんからノベライズ版『那由多の軌跡』の執筆依頼を受け、喫茶店での長時間の打ち合わせを経て、平林さんのノベライズに込めた想いを受け止め、この仕事を受けたいと思いました。と、いうのが前回までのあらすじ。
◆ ◆ ◆
そんな訳で、ひとまず、平林さんと土屋は、お互いにノベライズ版『那由多の軌跡』の仕事をやりたいという想いの交換を果たしました。
ところが、ちょっとした事情があって、この段階では正式に「土屋が仕事を受ける」という形にはなりませんでした。お洒落な喫茶店での打ち合わせは、一旦お互いに持ち帰り案件を抱えて解散となったのです。
「ちょっとした事情」とはなんでしょう? この話をする為には、今回のコラボ企画のもう一人のキーキャラクターにご登場願わなければなりません。
◆ ◆ ◆
という訳で、2012年7月某日、――最初に平林さんからメールを貰ってから、既に2ヶ月弱が経過しています――新宿西口で、2回目の打ち合わせが行われました。
木製の台で運ばれてくるお魚の中から選んで焼いて貰うという面白い趣向のお店で、土屋、平林さん、そして今回のコラボ企画のもう一人のお相手である、4Gamer.netの編集者、gingerさんこと田中さん(仮名)と、初めてお会いしました。
ロン毛でいつも黒いキャスケットを被った、飄々とした方である田中さん(仮名)は、土屋、平林さんとも歳が近く、最初の打ち合わせでは(というかその後たびたび行われた打ち合わせにおいても)、ひたすら自分達が遊んで来たゲーム遍歴や、今進めているゲームの進捗の話をしていたように思います。ん、仕事の話してたっけ? してた筈。……多分。
特に初めてお会いしたその日は、土屋と田中さん(仮名)がたまたま同じノベルゲームを遊んでいる最中だったので大変盛り上がり――って、その話は別にいいですね。
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「今回、4Gamer.netの方で、ノベライズをバックアップ出来ればと思うんです」
良い感じに酔ってきて舌も回り始めてきた頃――もとい、もとい。嫌だなあ。真面目な打ち合わせをお酒飲みながらする訳が無いじゃないですか。まさかまさか。フィクションですよフィクション。確か冒頭にもそう書いた筈。
もとい、ソフトドリンクで口を湿らせながら(結局飲み屋なのかよ)、田中さん(仮名)が企画の趣旨を改めて説明してくれます。
今回は「日本ファルコム×星海社×4Gamer.net共同企画」というプロジェクトです。日本ファルコムが原作を提供し、星海社でノベライズを刊行し、4Gamer.netが宣伝協力をするという役割分担になります。
「那由多の軌跡」
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ゲームのノベライズという今回の企画において、特に読んで欲しい読者層として想定したのは「『那由多の軌跡』を既に遊んでいたり、興味を持っているゲーマー」でした。その人たちに本を届けるには、まずその人たちに「ノベライズが星海社から発売されるのだ」という事を知って貰う必要があります。その為に効果的な宣伝を打たなければなりません。
そこで、ゲーム方面に強く、ゲーマー層の巨大なページビューを持つ4Gamer.netさんの力を借りて、より多くの人達――「那由多の軌跡」プレイヤーに限定せず、ゲームのノベライズに興味を持ってもらえそうな多くのゲーマーの皆さん――に、本企画の存在を知って貰い、作品を届けようという訳です。
その中でも、田中さん(仮名)の秘策はこれでした。
「TGSのネット配信で特番を組んで、ノベライズを大々的に発表しましょう!」
2012年9月20日〜9月23日に、幕張メッセで日本最大のゲームショウ「東京ゲームショウ2012」、通称TGSが行われます。4Gamer.netはメディア協賛で各種イベントのUST放送を全日担当します。その中の1枠で日本ファルコムの近藤社長をお呼びして、ノベライズ企画の発表会をやろうというのです。
「那由多の軌跡」の発売からまだそれほど時間も経っていないので、ユーザーの注目度も高く、発表会直後に4Gamer.netと星海社で同時にティザーサイトを立ち上げれば、多くの閲覧を見込めるだろうというのが田中さん(仮名)の考えでした。更に、ティザーサイトで定期的に記事を更新し、発売まで読者の興味を引き続けたいとの事でした。
これはとても効果的だと、平林さんも土屋もなるほどと聞いていました。
ところが、ここで問題が発生します。
スケジュールです。
それ以前から平林さんとメール経由で検討を重ねていたのですが、土屋の執筆スケジュールを考えると、どう予定を調整しても、本の発売が来年(2013年)の初夏になってしまうのです。となると、TGSでの発表から本の発売まで、軽く半年以上は間が空く事になります。さすがにそれだけの長期間を記事の更新でもたせるのは厳しい物があります。
実はこの当時、まだ星海社さんの方で「イース トリビュート」の企画が本当に動かせるのか確定していなかった為、現在の「TGSから年末までは『イース トリビュート月間』、年明けから初夏までを『那由多の軌跡月間』で行く」という形は、まだ構想レベルでしか存在しませんでした。平林さんたちは、あらゆる状況を考慮しなければならなかったのです。
結局、この問題は打ち合わせでは結論が出ず、持ち越しという事になりました。土屋は帰りの電車に揺られながら、今日の打ち合わせでの話を思い出していました。
◆ ◆ ◆
今だからこそ、正直な話をします。土屋はこの時点で、自分が身を引くべきだろうと考えていました。
TGSでの発表は素晴らしい宣伝機会です。対して、出版が来夏になってしまうのは土屋の個人的な事情です。であれば、ここは土屋が降りて、別の――ベストのタイミングで書ける――作家さんにお任せすべきだろうと。電車に揺られながら、そう考えていたのです。
◆ ◆ ◆
なので帰宅して、平林さんにメールを送りました。概ね、上記に書いた通りの内容でした。
すると、速攻で返事がきました。内容は、まとめるとこうでした。
『発表から出版まで間が空いてしまうのは、こちらで対策を考えます。
来夏刊行で行きましょう。
土屋さんに書いて欲しいのです。』
正直、土屋はメールを読んで、平林さんの心意気――いや男気というべきでしょうか――に打たれ、痺れました。そうまで言われて、降りる事が出来るでしょうか。いや、出来ません(反語)。
土屋は、今度こそ――この2ヶ月間していなかった――返事を、平林さんに送りました。つまり、こうです。
『この仕事、お引き受けします。』
(続く)
■土屋つかさの『那由多の軌跡』制作日記
第1回:執筆の依頼が来た!
第3回:プロットを書き上げろ!
第4回:議論、そして、執筆へ!