インタビュー
[COMPUTEX]「Sky Diver」だけじゃない。「Metal対応版&DX12版3DMark」「PCMark for Android」の話も飛び出したFuturemarkインタビュー
Sky Diverは事実上の「Cloud Gate」置き換え
ターゲットはAPUベースのシステムやノートPCに
4Gamer:
Sky Diverの開発期間はどれくらいですか。また,チームの規模は?
開発を始めたのは約1年前なので,開発期間は1年ちょっとくらいですね。3DMarkのチームは,プログラマーが5人くらい,グラフィックス制作担当も5人くらいで,PC向けからモバイルプラットフォーム向けまでをこのチームで開発しています。
ユーザーインタフェースやWebサービス部分,測定データ集計システムなどの担当が8人くらいで,全体としては20人くらいの規模ですね。
4Gamer:
発表にあたって,具体的なリリーススケジュールは出ませんでした。いつリリースされるのでしょう?
Pasi Virtanen氏:
本当はCOMPUTEX TAIPEI 2014に合わせてリリースして,みんなに楽しんでもらいたかったんですが(笑),叶いませんでした。
ただ,開発はもう最終段階で,さまざまな環境での動作試験など,互換性を中心とした最終調整を行っている状態にあります。提供予定日などのアナウンスはCOMPUTEX TAIPEI 2014の閉幕後に行う予定ですけれども,いずれにせよ,極めて近い将来,ユーザーにお届けできるはずです。
4Gamer:
Sky Diverテストはどのように提供されるのでしょう。
Pasi Virtanen氏:
既存の3DMarユーザーに対して無償で提供します。ユーザーには(4Gamerのような)公式ミラーサイトからダウロードしてもらうか,Steamの自動更新を利用してもらうことになりますね。
3DMarkの新版を提供するというよりは,「現行の3DMarkに新テスト追加のアップデートを行う」というイメージです。
4Gamer:
Sky Diverはどういったユーザー層,あるいはハードウェアを想定しているのでしょうか。
「GPUにかかる負荷」という点から話をしますと,Sky Diverは,「Fire Strike」よりも軽量な,DirectX 11世代のテストということになります。
実のところ,Sky Diverは,APUベースのデスクトップPCやノートPCでゲームをプレイするケースを想定したものです。ご存じのとおり,Fire Strikeは,最上位のグラフィックス設定でゲームをプレイするケースを想定したものになっていますが,Sky Diverは,それよりは低いグラフィックス設定でプレイする人,あるいは,それほどスペックの高くないPCでゲームをプレイする人がターゲットになるわけですね。
ただ,注意してほしいのは,いまお話しした「APU」という単語は,AMD製のプロセッサだけではなく,GPUコアを統合したCPU全般のことを指しているということです。実際,Sky Diverは,Intelの最新世代CPU(の一部)で統合されている「Iris Pro」でもスムーズに動きますよ。
4Gamer:
それはつまり,「Cloud Gate」を置き換えるもの,という理解でいいのですか。DirectX 10世代のGPU統合型CPUがターゲットになっているCloud Gateは,AMDとIntelのプロセッサがいずれもDirectX 11をサポートしたことで,立ち位置が微妙になってしまっていますが。
その指摘は正しいです。(Cloud Gateが消えてなくなるわけではないけれども)あえて言うならば,今回のSky Diverは,Cloud Gateを置き換えるものになるでしょう。
4Gamer:
グラフィックスエンジン側についても聞かせてください。Fire Strikeと同じエンジンで,描画負荷を下げている,ということですか。
Pasi Virtanen氏:
使っているエンジンは,我々が以前の3DMark開発時から改良を重ねて使い続けている,内製の「EVA Engine」です。Fire Strikeで使っているものと同じですが,ただ,細かな拡張や機能追加は行っていますね。
我々は,もうゲームを作っておらず,エンジンビジネスもやっていないので,(EVA Engineという)エンジンに(バージョンなどの)新しい名前を与えて大きくアピールしたりはしていません。
4Gamer:
Sky Diverはどんな要素をテストしているのでしょうか。
Pasi Virtanen氏:
DirectX 11の要素を一通り使うようなテストになっています。
3DMarkをはじめとしたベンチマークソフトの開発にあたって我々は「Benchmark Development Program」というプログラムをスタートさせ,参画してくれるハードウェアベンダーと共同で進めています。
実際,3DMarkのリリース当初は,グラフィックス要素の実現方法が実際のゲームアプリケーションにおける実装方法と異なるとか,特定のハードウェアに特化しているとか,いくつかの指摘を頂戴したこともありましたが,BDPのおかげで,現在はかなり改善できたと考えています。
4Gamer:
今回公開されたSky Diverのデモは,“尺”がとても長いと感じたのですが,何か意図はあるのですか。
Pasi Virtanen氏:
デモとして見応えのあるものを提供したかったというのと,ストーリー性を感じさせる内容にしたかったという理由によりますね。これはFire Strikeもそうですし,過去に用意した3DMarkのデモシークエンスとも同じです。
ただし,今回公開したのはあくまでもデモリールであり,実際のテストモードそのものではありません。
4Gamer:
では,ベンチマークテストとしてのSky Diverはどのような構成になっているのでしょう。
Pasi Virtanen氏:
Graphics test 1と2,Combined test,Physics testで,Fire Strikeと同じです。
Graphics test 1は俯瞰視点から地形をレンダリングするもので,近景と遠景とでテッセレーションレベルをコントロールするテッセレーションステージのテストになります。
Graphics Test2は無数の蛍が飛び回るもので,蛍自体が光源を持っていて周囲をライティングします。言うなれば,大量の動的光源を用いたライティングテストですね。
GPUだけでなくCPU負荷もかかるCombined testは,洞窟内で岩崩れが起こる内容です。洞窟内の崩壊で無数の破片が衝突し合う物理シミュレーションはCPUが担当し,これらをGPUが比較的リッチなグラフィックスで描画することによって,双方のプロセッサに対して負荷をかけます。
最後のPhysics testは,これまでの3DMarkにおけるテストとは少々異なっています。
今回のPhysics testは,従来型の「テストを1回行っておしまい」というスタイルではなく,フレームレートが30fpsを下回らない限り,より負荷の高いテストへとどんどん移行していくスタイルにしました。
4Gamer:
新しいPhysics testについて,もう少し詳しく教えていただけますか。
Pasi Virtanen氏:
Sky DiverのPhysics testは,4フェーズから成っていまして,1フェーズが終わると,次のフェーズではさらに“重い”シチュエーションへ移行します。
Sky DiverはAPU向けのテストと説明しましたが,昨今のAPUは,GPU性能こそ単体のGPUと比べ明らかに落ちる一方で,CPU性能はローエンドからハイエンドまで,性能がリニアにスケールしていますよね。Sky Diverでは,こうしたAPUの特性を考慮しました。Graphics testは“ある程度の負荷レベル”に留める一方で,Physics testは,必要な限り負荷を上げていくテスト設計にしたというわけです。
4Gamer:
ところで,今回のSky Diver追加にあたって,たとえば「3DMark 2014 update」のような,バージョン的な表記は検討しなかったのですか。
Pasi Virtanen氏:
過去の3DMarkのように「3DMark03」「3DMark06」といったバージョン名を使ってしまうと,そのバージョンをいつまでも使い続けるユーザーが出てきてしまうんですよ。
なので現在は,「3DMark」というシンプルな名前にして提供し,ユーザーが求める新テストを順次追加していくというか,3DMarkが時間とともにアップデートされていくような形を採用しています。Sky Diverが登場しても,3DMarkは3DMarkです。
Metal版は「検討中」,DX12版は「開発開始」
Android用PCMarkは,向こう数週間以内にリリース
4Gamer:
先ほど,Sky DiverがCloud Gateの置き換えになるという話が出ましたが,モバイルデバイス向けテストである「Ice Storm」はどうでしょう? 昨今のスマートフォン性能向上により,スコアが「Maxed Out!」になるケースが増えてきてしまっていますが。
Ice Stormは,ノートPCとタブレット端末,スマートフォンで同一のテストを行い,クロスプラットフォームでの性能比較を行えるように設計したものでした。そして,これは,リリース当初はうまく機能していたのですが,ご指摘のとおり,スマートフォンの性能が劇的に強化されてしまい,いまや“軽すぎる”状態になってしまいました。60fpsを超えて「Maxed Out!」になってしまうわけですね。
その対策として「Extreme」,そして「Unlimeted」の追加プリセットを用意したというのはご存じのとおりです。
4Gamer:
2014年半ばというこのタイミングでIce Stormを使うとして,選択すべきはUnlimitedということでいいのでしょうか。
Pasi Virtanen氏:
実のところUnlimitedは,実際のゲームグラフィックスではやらない,「無理矢理オフスクリーンバッファ(=表示されないバッファ)へレンダリングする」という処理系にしてあります。現実のゲームからかけ離れたグラフィックス処理になってしまっていますが,ただ,これで少なくとも「クロスプラットフォームで3Dグラフィックス性能を比較する」という目的は達せられるはずです。
もちろん,これは当座しのぎで,我々はIce Stormに代わる,クロスプラットフォームのベンチマークを開発中です。リリース時期など,詳細はまだお話しできませんが(笑)。
4Gamer:
モバイルといえば,先日,Appleが新しいグラフィックスAPI「Metal」を発表しました。Metal対応の可能性はいかがですか。
Pasi Virtanen氏:
まだ具体的な開発プロジェクトがあったりはしませんが,Metalへの対応は極めて前向きに検討しています。これまで,我々は新しいグラフィック技術に対して柔軟に対応してきた実績があるので,Metalへの対応についても,不安はまったく感じていません。
スマートフォン用3DMarkは,PC用に開発したOpenGL版をAndroidやiOSへ移植する形で開発してきました。Metal版も,PC版で開発したものを適宜移植するような形になるでしょう。
4Gamer:
DirectX 12はどうでしょう。DirectX 12版3DMarkの開発はもうスタートしているのですか。
DirectX 12版3DMarkは,Microsoftと一緒に,どういったテスト要素を加えていくべきかの検討を始めたところです。DirectX 12は,DirectX 11以前のDirectXとは構造が異なりますから,テストすべき機能項目の種類も,これまでの3DMarkと違ってくることは間違いありません。
具体的にいえば,「DirectX 12ではDrawcallを大幅に削減できるが,では,この部分をどうテストすべきなのか?」などといったところですね。その意味では,「オブジェクトを大量に動かす」というのは,テスト項目としてはあり得る話でしょう。ただ,開発は始まったばかりなので,形になっているものがあるわけではありません。
4Gamer:
ここまで3DMarkについて伺ってきました。それ以外の製品について,何かアップデートはありますか。
Pasi Virtanen氏:
大きなニュースがあります。去年我々は,PCMarkシリーズのモバイル版リリース計画を発表していますが,そのなかから,「PCMark for Android」を向こう数週間以内にリリースします。
4Gamer:
おお,それはビッグニュースですね。当初はiOS版やWindows RT版も予告されていましたが,最初はAndroid版ということですか。
Pasi Virtanen氏:
はい。モバイル版PCMarkは,将来的にクロスプラットフォームでの比較を行えるようになりますが,まずはAndroid版からです。
4Gamer:
テスト内容はいかがでしょう? PC向けの「PCMark 8」とは,当然異なりますよね。
Pasi Virtanen氏:
PCMark 8とは異なりますね。テスト内容は「Webブラウジング」「ビデオ再生」「写真編集」「バッテリーテスト」の4つです。
Webブラウジングテストは,通信回線の速度を計測するものではなく,あくまで端末側が持つWebブラウザの表示性能を計測するものになります。モデムやWi-Fiといった通信回線のテストは,検討項目としては挙がっていますが,直近で実装しようという動きはありません。また,3DMarkがありますから,3Dグラフィックス関連のテストもモバイル版には含まれません。
今回導入するバッテリーテストは,重要な要素であると我々も考えており,いずれ3DMarkにも実装したいと考えています。ノートPCやスマートフォン,タブレット端末で3Dゲームをプレイするとき,どれくらいのバッテリーが持つのかというのは,いまやユーザーにとって重要な関心事になってきたからです。
今後に期待が持てるFuturemarkのテスト群
Cloud GateやIce Stormが役割を果たせなくなってきている現在,Futuremarkが3DMarkをどうしていくつもりなのかというのが気になるところだったのが,間もなく登場のSky DiverがCloud Gateを置き換え,そしてIce Stormを置き換えるテストが開発中であると判明したのは重要なポイントだ。
また,Metal版3DMarkに向けて前向きに検討中であることや,DirectX 12版3DMarkの開発が始まっていることも大きな情報といえるだろう。1年近く音沙汰のなかったモバイル版が,Android版を皮切りにリリース予定であると判明したのも,気になる人は多そうだ。
2014年は折り返し地点を過ぎたわけだが,後半に向けて,Futuremarkはまだまだ我々を驚かさせてくれそうである。期待して,さらなる続報を待ちたい。(インタビュー:西川善司&佐々山薫郁,構成:西川善司)