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[COMPUTEX]2019年のSoCに使われるArmの新CPU「Cortex-A76」と新GPU「Mali-G76」は,一体何が変わったのか
実のところ,今回の3製品は,英国時間の2018年5月31日に発表済みであり(関連記事),米国・サンフランシスコでは,翌6月1日に開発者向けイベントも開催済みであったりする。ただ,報道関係者も交えて広く発表するのは,今回が初ということで,イベントの概要と合わせて簡単にレポートしよう。
Armも注目するモバイルゲーム
今回の3製品について説明する前に,Nayampally氏は,Armを取り巻く市場概況について簡単に説明した。氏によると,Armは2017年も順調にIPの出荷数を伸ばしており,その状況は今後も変わらない予定であるそうだ。
その中でも,Mobile & Consumer Market,つまりスマートフォンや家電向けの市場は,2020年に770億ドルの市場規模になるという予測を示したNayampally氏は,今後もこの分野は急速に伸びると見ているという。
好調なスマートフォン市場の中でも,とくにゲーマー向け分野は非常に大きな市場になるとArmは予測している。すでに2017年の時点で,モバイル向けゲームは,ゲーム市場全体の半分近くを占めており,2021年には6割近くになると予測されているとのこと。すでにZTE,Xiaomi,Razerといったベンダーは,ゲームをターゲットとしたスマートフォンをリリースしており,今後はこうした製品が次第に増えてくるものと予測されているそうだ。
Cortex-A76
こうした動向を背景に,Armが2019年のスマートフォン向けIPとしてリリースするのが,今回の3製品である。
まず,CPU IPコアのCortex-A76であるが,「ラップトップ(※ノートPC)クラスのCPU性能をスマートフォンにもたらすもの」であるそうだ。スライドには,「Skylake比で9割の性能」なんて表現もあったが,「それならCore i7と同等の性能なのか?」という質問に対して,Nayampally氏は「そもそも消費電力が違うから,絶対性能という意味では同等ではない」と断りつつもの,「同じ消費電力枠ならば競合できる」と答えていた。
Cortex-A76のターゲットプロセスは,7nmプロセスとのことだが,10nm世代のCortex-A75と比較して,35%の性能向上と40%の消費電力あたり性能向上を実現したという。そして,エッジAI向け処理では,4倍の性能向上を果たしたと,Nayampally氏は説明していた。
実際のSoCに搭載する場合は,マルチコア構成技術「DynamIQ technology」を利用して,既存のミドルクラスCPU IPコアである「Cortex-A55」と組み合わせる形になる。この場合はCortex-A55のL2キャッシュも強化するとともに,L3キャッシュ容量を4MB程度まで増やすことになるという話だった。
この構成でのシングルスレッド性能およびトータルでのCPU性能は,従来比で2倍(※ただし2世代前との比較),というのがArmの説明である。
Mali-G76
続いては,GPU IPコアのMali-G76を見ていこう。
Mali-G76は,既存のGPU IPコアである「Mali-G72」と同じBifrostアーキテクチャベースの製品であるが,ゲームにおける性能が1.5倍とNayampally氏は述べていた。
具体的には,30%の性能向上と30%の消費電力削減を実現したそうで,これらの合わせ技によって,同じ消費電力枠なら従来比で5割増ということらしい。
ちなみに,Mali-G76も7nmプロセスがターゲットプロセスで,プロセスの変更によって動作周波数向上と省電力化が図れた,ということらしい。
内部的には,シェーダコアを最大20基まで搭載可能とのこと。Mali-G72の最大32基に比べると減っているように思えるが,第2世代Bifrostアーキテクチャでは,実質的なシェーダコア数が2倍になるので,Mali-G72と同じ数え方なら40基相当になるということだろう。
Mali-V76
さて,最後がMali-V76であるが,こちらは8K解像度で60fpsのデコード性能を持つビデオプロセッサであるという。8Kコンテンツは,まだごくわずかしかないが,コンテンツが増える前にインフラとして用意しておく必要がある,ということだろう。
ただ,デコード性能こそ2倍になっているものの,エンコード面は品質の改善が謳われている程度で,性能面での言及がない。まずはデコード性能を強化しますということのようだ。実際,モバイル端末で8K映像のエンコードというのは,今しばらくは無茶の部類であろう。
Mali-V76では,フルHD解像度なら16本,4K解像度でも4本の動画を60fpsでデコード可能とのこと。Nayampally氏は,Mali-V76を利用することで,複数の動画を同時出力する「Video Wall」用途において,従来比で大幅に性能が改善するとアピールしていた。
さて,今回のIP Suiteで構成したSoCの構造図を見てみよう。あくまでも“全部入り”の構成を想定したものであり,必ずしもこの構成でSoCが作られるというわけではない。ただ,これのサブセット構成を取るモバイル向けSoCが,2018年末〜2019年かけて登場してくる可能性は高そうだ。
最後になるが,今回のIP Suiteは,どれもターゲットプロセスが7nmプロセスであるため,まず最初はTSMCのプロセス「7FF」を利用したものが,2018年末頃に投入されるのではないか,というのがNayampally氏の予測であった。ただ,本格的に搭載製品が登場するのは,2019年以降になると思われる。
Arm公式BlogのCortex-A76に関するポスト(英語)
Arm公式BlogのMali-G76に関するポスト(英語)
Arm公式BlogのMali-V76に関するポスト(英語)
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