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Tegraに賭けつつ,“Fermi Refresh”を経てKepler&Maxwellへ。NVIDIAのビジョンが見えてきた
ここでは,同社社長兼CEOのJen-Hsun Huang(ジェンスン・フアン)氏の発言を中心に,同社から発せられた情報から,注目すべきポイントをまとめて紹介しよう。
KeplerとMaxwellの続報を公開
消費電力は「Fermiと同程度」に
インタビューに答えるJen-Hsun Huang社長兼CEO |
席上で話題の中心となったのは,2011年後半に投入予定のGPU「Kepler」(ケプラー,開発コードネーム),と2013年登場予定の「Maxwell」(マクスウェル,開発コードネーム)だ。
これらのGPUは,GTC 2010の基調講演で公開されたGPUロードマップ上に記載されていたが,消費電力あたりの倍精度演算能力という形で性能目標こそ示されているものの,技術情報はほとんど語られなかった。
同氏は席上で,KeplerとMaxwellの半導体製造プロセスに関してコメント。基調講演では,Keplerが他社に先駆けて28nmプロセスを採用することを公開したが,Maxwellについては具体的な“数字”にこそ触れなかったものの,「その次の世代のメジャープロセス技術」だとは明らかにしている。
現在,同社のGPU製造を担うTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)は,約2年おきに製造プロセスを微細化させている。KeplerとMaxwellの登場時期を含めて推測すると,同社のGPUアーキテクチャは,TSMCの製造プロセスに合わせて世代を交代させる予定と考えるのが妥当ではなかろうか。
次に,KeplerとMaxwellの消費電力設計については「Fermiと同程度になるだろう」とも説明。「製造プロセスの移行が順調に進めば,GPUの性能向上は難しくない。大きなハードルはむしろ,いかにして消費電力を維持し,または減らすかだ」との見解を示し,KeplerとMaxwellの開発において消費電力の減少が大きなテーマとなっていることを示唆した。
続けてMaxwellについて,「仮想メモリやプリエンプション(※優先度の高い命令を実行するため,実行中のタスクを一時的に中断させるテクニック)などの技術を実装する計画だ」とした。
また,「近い将来,Fermiアーキテクチャに拡張を施した中間世代のGPUを投入する。KeplerやMaxwellでもこの戦略は同様だ」(Huang氏)と,2年スパンの中間にも,アーキテクチャ拡張を施したGPUを開発し,細かく性能を向上させていく意向を見せた。
将来に向けたメモリ帯域幅拡大技術や
ストレージI/Fを備えたGPUも研究中
Huang氏はこれらの課題について,「GPUのインタフェースはPCI Expressベースで大きな問題はない。最大の障害はメモリだ」と指摘。
とくにHPC用途などで大きなデータを扱う場合においては,GPUがメインメモリにアクセスする必要が生じる。同氏はGPUとメインメモリ間のレイテンシがボトルネックになると予測しており,今後は仮想メモリ技術を強化してGPU−メインメモリ間のアクセスを最小化していくとの見解を語った。
また,ストレージとGPUのデータ転送を効率化すべく,ストレージインタフェースをGPU側に実装する技術の可能性も探っているという。
一方,グラフィックスメモリ帯域幅の拡張に関しては,同社CTOのBill Dally氏が,GPUとメモリのダイを同じパッケージの中に積層する技術について研究しているとコメント。帯域幅を拡張すべく積極的に取り組んでいることが窺えた。
Tegraに賭けるNVIDIA
CUDA対応版に向けた準備も
Huang氏は,「今後は,個人のノートPCなどのパーソナルな携帯デバイスがタブレット端末やスーパーフォンに置き換えられていく。これは疑いようがない」と切り出した。「スーパーフォン」とは,現在のスマートフォンよりも高機能な携帯端末を指す“NVIDIAの呼称”である。
同氏はGTC 2010最終日に行われた,Forbes誌Quentin Hardy記者との公開対談において,「私は日頃からノートPCを持ち歩いているが,最近はスマートフォンで用を済ますことがほとんどだ。この1週間はノートPCを開くことさえなかった」として,3〜5年後には個人用途のノートPCの多くがタブレット端末やスーパーフォンになっているだろうというビジョンを示した。
また「デバイスの集積がいまのペースで進めば,ノートPCのメイン基板やストレージは液晶パネル側に実装されるのが自然だ。もちろんノートPCという形態は残るだろうが,それは液晶パネル側の本体に外付けキーボードが付随するものとなるだろう」とも発言。
ノートPCからタブレット端末への流れは,デバイスの集積という面でも必然性を持った現象と考えているようだ。
続いて同氏は,Intelの「Sandy Bridge」(開発コードネーム)やAMDのFusion APU(Accelerated Processing Unit)といったライバルのプロセッサにも手厳しいコメントを向けた。「AMDの“Fusion”製品の詳細は知らないが,モバイルではもはや,9〜18Wという消費電力はナンセンスだ」と切り捨てる。
その背景にはNVIDIAが,非PC系のプロセッサベンダーも参入するタブレット端末向けプロセッサにおいては,消費電力がmW単位でなければならないという考えを持っていることがある。そのための強力な武器となるのがTegraというわけだ。
またNVDIAは,TegraにもCUDAを実装する計画をすでに明らかにしているが,このTegra+CUDAプラットフォームの開発者に向けた計画も公開。
「CUDAのエコシステムをTegra環境へスムーズに持ち込めるよう,『CUDA-x86』にARM用のCUDAライブラリを用意し,Tegra向けCUDAアプリケーションの準備を進められるようにしたい」(Huang氏)という。
このニュースからは,CUDA対応Tegraへの下準備が着々と進んでいるように窺えるが,実のところTegraがCUDA対応を果たすには,半導体製造プロセスの進化を待つ必要があったりもする。
現行のTegra 1&2に搭載されている“超低消費電力版GeForce”は,今や4世代前となったGeForce 7ベースだと言われる。そのGPUをCUDA対応にするためには,少なくともG80世代,できればGT100世代へと移行させる必要があるからだ。
Huang氏がHardy氏との対談において,ノートPCからの移行が「3〜5年後」との見解を示したのは,CUDA対応Tegraの製品登場時期と関連するようにも思える。
将来のTegra端末はクラウド経由で
ユーザーの行動を予測する(?)
Tegraベースの携帯端末の成功に絶対の自信を見せるHuang氏だが,その背景には,クラウドサービスの充実があるようだ。
同氏は以前より「いずれユーザーはすべてのデータをクラウドに置き,いくつかのデバイスで情報を共有できるようになる」と語っていた。
今回はそうした予測を進め,「クラウドサービスは日に日に充実してきており,近い将来,個人がクラウド上に十分なデータベースを持てるようになるだろう。その時代のTegra端末は,GPSやカメラなど各種のセンサーで周辺の状況を判断し,同時にデータベースからユーザーの行動を読み取って,ユーザーがこれから何をしたいのかを予測できる能力を持つことになる。ユーザーの状況判断をアシストする“コンパニオン”になれるはずだ」と,携帯デバイスの未来を語った。
その意味では,NVIDIAもIntelも,今後のIT産業の主軸がクラウドサービスを担うサーバーとスーパーコンピュータ分野,そして携帯デバイスという2極に分かれていくと予測しているようだ。
そうした2極化が起こった場合は,その両極を橋渡しするソフトウェアと,それを開発するためのエコシステムこそが,ビジネスの成否のカギとなる。
NVIDIAはGTC 2010で前述の「CUDA-x86」を大々的にアナウンスしたが,これはCUDAが利用できる環境を広げることこそが,エコシステム拡大に役立つと見ていることの一端だろう。
「CryENGINE on Facebook」を実現する
クラウドレンダリングサービスに注目
OTOYは映画「アバター」の制作にも採用されたレイトレーシングエンジン「LightStage」で知られるが,AMDと密接な関係を築いてきたメーカーとしても知られており,2009年にはAMDと共同で,FireGLベースのレンダリングサーバー「OTOY Fusion Render Cloud」を発表していたりする。また,2010年にはOpteronベースのクラウドプラットフォームも発表していた。
その企業が2011年からは,NVIDIAのCUDAを採用することになるのだから,NVIDIAにとっては大きなニュースだ。
OTOYは,レンダリングサーバーをクラウドサービス経由で使うクラウドレンダリングサーバーの技術開発を行っている。今回発表されたエンタープライズクラウドプラットフォームも,この技術に向けたもので,膨大なレンダリングの計算にCUDAを使うわけである。
同社の創業者兼CEOであるJules Urbach氏は「クラウドレンダリングサーバーを利用すれば,ユーザーはクラウド上に仮想マシンを構築するだけで,3Dエンジンの種類を問わずにリアルタイムのレイトレーシングや,フォトリアリスティックな3Dグラフィックスを用いたWebサービスを享受できるようになる」と紹介した。
OTOY Enterprise Cloud Platformの概要。仮想マシン(VM)にデータをアップロードするだけで,SDKの準備なくレンダリングが可能とアピールする |
Urbach氏が紹介したBlue Marsでの事例。「Supporting the Crytek Engine on Facebook」と謳われている |
4Gamer的な注目は,Urbach氏がゲーム向けのクラウドレンダリングサービスにも言及した点だ。
Urbach氏は個人ユーザー向けサービスの事例として,Avatar Realityが開発するバーチャルワールド「Blue Mars」でのケーススタディを紹介。Blue MarsはCrytekの「CryENGINE 2」を採用したタイトルだが,同社のクラウドレンダリングサーバーを通し,Webブラウザ上での表示を可能にしたという。
OTOYは今後,こうしたサーバー側レンダリングが,ゲームでも加速するだろうと予測しているという。同社のWebサイトには,クラウドレンダリングサービスの一例として,Crytekの「Crysis」をiPadでプレイするデモ動画なども掲載されており,この分野に力を入れていくことが窺える。
OTOYの資料には,クラウドレンダリングサービスの次のターゲットとして、「cloud games and films」と紹介されている |
OTOYのゲーム向けクラウドレンダリングサービスは,独自の圧縮アルゴリズムによってスムーズなプレイを実現するという |
しかし,現状でのクラウドベースレンダリングは,ゲームに使うには課題も多い。Dally氏は,「広いネットワーク帯域幅が必要となるため,モバイルでは使えないということが指摘されるが,それはLTEなどの次世代通信規格によって解決できるだろう。むしろ,リアルタイム性が求められるオンラインゲームなどのサービスで,クライアントとサーバー間のレイテンシをどう隠蔽するかが重要になる」と,実装の難しさを認めている。
また,ビジネスモデルという面では,Urbach氏が「クラウドベースレンダリングに対してどのような課金システムを採用するのか,今後の検討課題となるだろう」と発言していた点も指摘しておきたい。
基調講演に続き,ゲーム重視の
姿勢を強調するNVIDIA
GTC 2010では,NVIDIAがGPU開発において,並列コンピューティングをより重視する姿勢があらためて鮮明になった。
しかしHuang氏は,「ゲームはNVIDIAにとって非常に重要な市場だ。KeplerやMaxwell世代でも,Teslaから約3か月差でGeForce製品を投入する」と語っており,PCゲーム市場も重要視している点を改めて強調した。
同氏は記者説明会でも,基調講演でのメッセージである「GPUの並列コンピューティング性能をゲーム内の物理演算に活用すれば,プレイするたびに状況が変わる,よりインタラクティブなゲームタイトルが作れる」を繰り返した。
これは,PCゲームがGeForceの並列コンピューティング性能をより積極的に使うことで,同社が目指すGPUの進化が,PCゲームにも大きなメリットをもたらすと考えているからだろう。
「タブレット端末などの普及により,クライアントPCもより高性能になる必要がある」(Huang氏)の言葉は,NVIDIAが今後もPCの性能を向上させるためのGPUを投入し続ける,という決意表明でもあるのだろう。
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