レビュー
グラフィックスカード用電源回路も多フェーズ時代に突入?
N275GTX Lightning
搭載するGPUはGeForce GTX 275 |
第1弾となった限定モデル「N260GTX Lightning」は,強力な冷却性能を持ったオリジナルクーラー「Twin Frozr」を搭載し,USB接続の専用オーバークロックコントローラ「AirForce Panel」が付属する,徹底したオーバークロック志向が注目を集めた。これに対し,COMPUTEX TAIPEI 2009で初登場となったN275GTX Lightningは,8+2フェーズ電源回路をはじめとする,品質面が前面に押し出されている製品だ。ある意味,インパクトという観点では,やや後退した感もあるが,果たしてこれは,ゲーマーにとって,どのような意味を持つ製品なのだろうか。
今回4Gamerでは,MSIの日本法人であるエムエスアイコンピュータージャパンから,実機の貸し出しを受けたので,その検証結果をレポートしてみたい。
8+2フェーズの電源部にAPSを採用した
N275GTX Lightning
APS回路については,MSIマザーボードの関連情報をチェックしている人なら耳にしたことがあるだろう。多フェーズ電源を用い,負荷に応じて動的にフェーズ数を変えることで消費電力や発熱を抑えるMSI独自の機能である。
APS回路によってきめ細かな電力制御を行うためには電源の多フェーズ化が欠かせないわけで,本カードでも完全な独自設計となる「8+2フェーズ」(GPU 8フェーズ,グラフィックスメモリ 2フェーズ)の電源部を備える。GeForce GTX 275のリファレンスカードは4+2フェーズなので,GPUのフェーズ数が倍増された計算になる。APS回路の動作状況は基板裏面の三つのLEDで確認可能だ。
GPUのコア電圧を示すジャンパピンを使い,電圧を測定する様子を掲載した。グランド(GND)と電圧測定ピンが2.54mmしか離れておらず,ショートして壊れてしまう可能性があるため,普通のテスターを使うのはお勧めできない印象だ。この端子を使って直接電圧を監視できるのは,マニアにとって嬉しい機能だが,実用上はLightning Afterburnerによる確認だけで十分だと思う。
ジャンパピンにテスターをつないでコア電圧を測定してみた。ややブレはあるものの,測定結果は,付属ソフトウェアのLightning Afterburnerで確認できる値と同一 |
ジャンパピンに回路測定用のクランプ型プローブを接続する。ピン間は狭いので,テスターを直接当てるとショートする危険がある。常用するならコネクタを介して線を引き出したほうがいいだろう |
電源周り以外も見ていこう。グラフィックスメモリにはGDDR3 SDRAMを採用し,標準的なGeForce GTX 275搭載グラフィックスカードの2倍の容量にあたる,1792MBを搭載する。
メモリチップの型番はやや見づらいが「HYNIX H5RS1H23MFR N2C」と読める。Hynix Semiconductorのデータシートによれば,VDD1.8V,容量1Gbit,1.2GHz動作のGDDR3 SDRAMであり,1Gbitのメモリチップ14個で,トータル1792MBというわけだ。
異なるグラフィックスチップを搭載する先代とは発熱量に違いがあるだろうし,合計10フェーズを持つ電源部も発熱量の低減に寄与しているはずだ。そうした違いを考慮したうえで,形状などを変更しているのだろう。
MSIは「標準的なGPUクーラーに比べて,最高で約23℃低くなる」としているが,測定条件などが明らかにされているわけではないので,あくまで参考程度に。ただ,GeForce GTX 275のリファレンスクーラーより冷却能力が高いことについては間違いなさそうだ。
ファンは温度によって回転数が制御されており,騒音も高負荷時30dB,低負荷時は20dB(※いずれもメーカー公称値)と,かなり低い。実際,リファレンスカードなどに比べてかなり静かで,高負荷のかかるゲームプレイ中でも,気になる騒音を発生させることはなかった。
ヒートスプレッダ(左)とヒートシンク(右)。ヒートスプレッダの形状やヒートシンクの形状,飾り板の形がN260GTX Lightningと異なっている |
「SuperPipe」と呼ばれる8mm径のヒートパイプ5本を使いヒートシンクを連結する仕組みは,Twin FrozrでもTwin Frozr 2でも同じ |
メーカーがプリセットしたオーバークロック設定で
安定動作を確認
N275GTX Lightningに付属する専用のオーバークロックツール,Lightning Afterburnerについて,以下に見ていこう。
※注意
オーバークロックは,GPUやグラフィックスメーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,システムにダメージを与えたり,GPUやグラフィックスカードが壊れたりする可能性がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果として,なんらかの問題が発生した場合,メーカーや販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません
Lightning Afterburnerでは,GPUのコア電圧,GPUクロックとメモリクロック,ファンの回転数をマニュアルで変更できるほか,「Game」「Power Saving」「Default」という三つのプリセットされたモードが用意されており,ウインドウ左側のボタンで切り替え可能だ。手動での変更が可能なのはGameモードとDefaultモードのときだけで,Power SavingモードではGPUクロックが300MHz,メモリクロックが100MHz,そしてコア電圧は“自動”に固定されている。
それほど多彩な機能を持つツールというわけではないので,Lightning Afterburnerのおおよその機能はスクリーンショットから分かっていただけるだろう。N260GTX Lightningと比較した場合,オーバークロックの設定項目に関しては後退しているといえる。ここまで何度か書いているように,先代のN260GTX Lightningの場合は,AirForce Panelと呼ばれるタッチパネルを使って,オーバークロック関連の操作が行えるようになっていたからだ。
ただし,本カードの10フェーズ電源は,例えばGPUのコア電圧が負荷に応じて動的に制御されるなど,きめこまかな制御に生かされており,試用時にテスターで確認したところ,GPUのコア電圧は最低1.0665Vから1.2V台まで,目まぐるしく変化していた。
なお,N275GTX LightningのLightning Afterburnerでコア電圧が設定できることは画面から確認できると思うが,この設定は「自動制御される電圧に対して加えたい電圧を設定する」ということに注意してほしい。無負荷時の標準は1.0665Vだが,その状態で1.0790Vに変更すると高負荷時にも+0.0125V程度,電圧が高めに推移する。つまり,Lightning Afterburnerで設定したコア電圧に固定されるわけではない点に注意する必要があるわけだ。
N275GTX LightningのLightning Afterburnerで手動設定できるクロックや電圧などの範囲と,変化させられる最小単位を表に示しておこう。
標準(最低) | 最大 | ステップ | |
---|---|---|---|
コア電圧 | 1.0665 | 1.1415 | 0.00625V刻み |
GPUクロック | 633(Default)/700(Game) | 1000 | 1MHz刻み |
メモリクロック | 1134 | 1200 | 1MHz刻み |
ファン | 40 | 100 | 10%刻み |
手動で設定した各クロックやファンの状態はUser Profile欄の[1]〜[3]のボタンに割り当てておくことができ,[Save]ボタンをクリックすることで1〜3の状態を保存できる。ただし,現在の設定に任意の名前を付けて保存といったことはできず,[Load]ボタンはいわばリストアに相当する機能を持っている。設定したクロックやファンの値が気に入らないときには,[Load]ボタンで元に戻せると理解してもらえばいいだろう。
既述したように,コア電圧はいずれのモードでも動的に制御されており,例えばGameモードに切り替えても,無負荷時には最低の1.0665Vをキープする。オーバークロック設定にしたとたんに発熱や騒音が大きくなってしまうグラフィックスカードが多いが,本カードの場合,無負荷であればオーバークロック状態でも比較的静かな状態で利用できるわけで,この点はありがたい。
シェーダクロックを変更することが出来ないため,オーバークロックの効果は限定的だと思われるが,ここで,4Gamerのベンチマークレギュレーション8.1に準拠して,GameモードとDefaultモードにおけるオーバークロック効果を測ってみよう。いずれのテストでも上昇率はごくわずかだが,それなりの効果は得られていることが確認できるはずだ。
個人的には,スコアよりもむしろ,ベンチマーク中に突然ファンの回転数が上がったりしないことに感心させられた。連続してベンチマークを走らせているとファンの回転数は100%にまで上がるが,例えば3DMark06を1回走らせた程度ではそこまで上がらない。
これはほかの一般的なグラフィックスカードにはあまりない動作で,こうした8+2フェーズ電源によるきめ細かな制御こそが,このグラフィックスカードの特徴といえそうだ。
グラフィックスカードにおいても始まる,多フェーズ競争?
しかし,実際に使ってみると,動的なコア電圧の制御など,強化された電源の意義は十分に感じられる。一人のゲーマーとして,グラフィックスカードのオーバークロックを筆者はあまり肯定的に見ていない――ゲーム中にPCが落ちるほどガッカリさせられることはないからだ――が,このグラフィックスカードでは(Gameモードに切り替えても)無負荷時の発熱やファンの騒音が非常に小さく,プリセットされた範囲内でならオーバークロックの利用もいいのではないかと思わせてくれた。
個人的には,独自技術による電源部の強化という質実剛健な方向にLightningシリーズが進化したことは,高く評価したい。
今後の注目は,こうした電源の多フェーズ化がグラフィックスカードにおいても広まるのか,といったあたりだろう。ハイエンドグラフィックスの消費電力はマザーボードよりも大きく,そのため多フェーズ化の恩恵はマザーボードよりも大きいように思える。一方,グラフィックスカードの多フェーズ化は,それなりに設計力があるメーカーでなければ手を出せないところでもあるので,どこまで広がるかはなんともいえない。
いずれにしても,グラフィックスカードの多フェーズ化に大きく踏み出したN275GTX Lightningは注目できる製品だ。MSIには,この路線を堅持しつつ,グラフィックスカードを進化させていくことに期待したい。
- 関連タイトル:
GeForce GTX 200
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