ムービー
[CJ 2008#21]NVIDIA中国向けプレスミーティングで示されたPhysX戦略
昨今のゲームグラフィックスといえば,陰影が綺麗に表示されるようになったり,光のシミュレーションができたりと,その表現力は留まることなく上がり続けているという状況だ。ただ,現実をシミュレートしたリアルな映像表現が簡単にできるようになったのに対して,ゲーム内のいろいろなものの挙動は,徐々にリアルになりつつあるものの,まだまだ立ち遅れているのが実情。
そういった映像のリアルさと挙動の非リアルさという格差を埋めていく意味でも,「これからのゲームでは物理演算が重要になる」と飯田氏は語る。少し考えれば分かるのだが,例えばGeForce GTX 280などは,単にDirectXを実行するだけであれば,あれほどまでのハードウェアを投入する必要はない。同時にさまざまな演算を行うことを最初から想定しているからこそ,あれだけの規模のチップになっているのだ。
NVIDIAでは,TWMTBP(The Way It's Meaned To Be Played)プログラムにより,以前からゲーム制作会社に対するさまざまな技術支援を行っている。これまではGPUのうまい使い方や,高度な映像表現に対するサポートといったものが多かったようだが,AGEIAを手にした現在では,サポートの内容も変わってくる。NVIDIAのサポートチームが今後力を入れていく分野には,PhysXなどの物理演算関係が多く含まれてくるという。
現在,NVIDIAはドライバやデモなどを含めたサポートチームに300人以上の人員を割り当てている。中国だけでも60人ほどが働いているという話。会場には,PhysX関係のサポートスタッフも集まっており,GPU PhysXを使ったさまざまなデモを見せてくれた。
PhysXライブラリは,もともとAGEIA PPU(物理演算ユニット)を対象とし,AGEIA PPUがない場合にはCPUでも処理できるように設計されたものだったのだが,NVIDIAの買収とともに,GPUの演算パワーを使ったGPU PhysXがクローズアップされるようになっている。
……とはいえ,4Gamer的にはそんな小難しい話よりも,実際にどんなことが可能になるのかを見たほうが分かりやすいだろう。以下に直撮りムービーを掲載してあるので,GPU PhysXの効果を確認していこう。
まずは,弾性体(Soft Body)をシミュレートしたエビ(?)状の生物のデモだ。表面の質感もさることながら,ビヨーンビヨーンと伸び縮みする身体に注目。見た目は甲殻類ぽいのだが,ビームの照射で縮んだ身体が勢いよく弾んでおり,ずいぶんとぷりぷりしていることが分かるだろう。このぷりぷりさ加減が物理演算で実現されている。
次に流体のデモである。AGEIA PhisXの頃から流体デモは盛んに行われていたのだが,いま一つ自然な水とは言い難い表現になっていたのが実情であった。ただムービーを見てもらえれば分かるが,GPU PhysXのパワーを使えば,動き自体はかなり自然になっていることが確認できる。フレームレートはさらに倍くらいほしい感じではあるが,クオリティはずいぶん上がっている印象だ。
次は髪の毛と衣服のシミュレーションだ。ファッションショー仕立てのデモで,スカートやネクタイ,髪の毛が物理運動しているのが確認できる。スカートの跳ね方などを見ると必ずしも自然とはいえないが,ついに重力下での髪の毛が実装されたわけだ。個人的には,部分的に弾性体のシミュレーションも取り入れるべきだったのではないかとは思うのだが。
追記:
これは韓国Nurien Softwareが開発中のNurienというアバターベースのSNSの一部だそうだ。
映像デモだけではなく,ゲームでのデモも紹介された。目標軟件(Object Software)が開発しているFPS「MK2」では,さまざまな部分に物理演算が使用されている。銃で撃ったことで破壊されるオブジェクトや爆発など,いろいろなアクションに対して物理的な反応が返ってくるのが分かるだろう。
現在発売されている「Ghost Recon 2」では,主に効果物理が確認できる。風に巻き上げられる木の葉や爆発の様子などが臨場感を上げている。椰子の木を撃つと倒せたりもするのだが,撃った場所と折れた場所がちょっと離れているような気はする。
物理演算をさまざまなレベルに調整するAPEXという仕組み
さて,現時点でGPU PhysXが確認できるゲームは,「Unreal Tournament 3」や「Tom Clancy's Ghost Recon: Advanced Warfighter 2」「Warmonger」の3タイトルだけだが,現在開発中のものを考慮すれば,今後対応するであろうタイトルはかなりの数が控えている。今年,あるいは来年にかけて,物理演算を駆使したさまざまなゲームが遊べるようになるだろう。
ただ,現状のGPU PhysXには大きな課題もある。というのも,AGEIAが開発していたPhysXライブラリは,PCだけでなくXbox 360やPLAYSTATION 3,Wiiなどマルチプラットフォームで展開しているほか,PCだけでもさまざまな性能のグラフィックスカードやCPUを想定しなければならないため,ゲームバランスがどうしても取りにくくなる。単純な話だが,物理演算を「ゲームのルール」として取り入れてしまうと,それが処理できないマシンでは,ゲームそのものが成り立たなくなってしまうというわけだ。ユーザーの環境によって物理演算の適用を効果物理に限定してやるなど,現在いくつかの処理系で行われているような方法で,マシンの性能差がゲームに反映しなくなるような手法も取れなくはないが,それをやってしまっては,それこそ物理演算の醍醐味を損ねてしまう。
そんな問題を解決すべく,NVIDIAが提唱しているのがAPEXという仕組みである。これは,物理演算APIを適用する際に,実行するハードウェアのプロファイルに合せて,物理演算をどの程度細かくやるかを動的に調整するためのものだ。単に物理演算精度というひと括りではなく,Effectにはこれくらい,流体にはこれくらい,Destructionにはこれくらいといった感じで,いくつもの項目別に精度の調整(Level of Deteal)が行われるようなものとなっている。
このような手法は,従来も効果物理では行われていたのだが,物理演算全般に対して行われるのは珍しい。効果物理ならば,ゲームやほかの物理現象への影響を無視しても問題ないのだが,“ゲーム全般に関わる物理演算“ではそうはいかないからだ。一番低いレベルの物理演算だけで発生する要素をゲーム内容から切り離すようにすれば,ゲームプレイへの影響をなくすことはできなくはないのだが,それはそれで先ほども話したように,物理演算の醍醐味をスポイルしてしまいかねない。3Dグラフィックスのように,表示オブジェクトのクオリティを変えるようにはいかないはずなのだが……。実際にはどのように実装されるのか? 正直,具体的な部分が筆者には見えなかった。ちなみに飯田氏に確認してみたところ,効果物理以外の部分で物理演算の精度を下げると,やはりゲームプレイへの影響がありうるということだった。
いずれにせよ,今後GPUは演算パワーをさらに上げていき,PCゲームでもより凄い物理演算を駆使したタイトルが続々と登場してくることだろう。デモ映像を見て,今後のゲームに適用されるとどのようになるのか,最新GPUではどこまでできるのかと夢を膨らませるのもよいだろうが,そういったゲームを裏で支える仕組みや,スタッフの存在についても少しは知っておくとよいかもしれない。TWMTBPロゴのついた多くのゲームには,NVIDIAの技術協力が行われており,それが現在のゲームのクオリティを支えている一つの側面でもあるのだ。今後行われる物理演算周りのサポート強化。それによってハイレベルなゲームが増えてくるとすれば,ゲーマーとしても大いに恩恵を受けることになりそうだ。
- 関連タイトル:
PhysX
- 関連タイトル:
GeForce GTX 200
- 関連タイトル:
MStar
- 関連タイトル:
鉄甲突撃(旧題 鉄甲前伝)
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Copyright(C)2008 NVIDIA Corporation
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