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[E3 2005#146]超戦士の戦いと苦悩を描くRPG「The Witcher」
今年のE3でCD Projekt社は,会場外にあるスタジアムの会議室を間借りして,プレス向け特別デモを行った。筆者は2004年のE3でもThe Witcherのデモを見ているが,一年で見違えるほどのソフトに仕上がってきていた。
The Witcherは,東欧では有名なファンタジー小説の作家Andrzej Sapkowski(アンドレイ・サプコウスキ)氏の原作をゲーム化したもので,同名小説シリーズは累計約300万部の売り上げを記録しているという。
本作の世界は非常にダークで,ジェラルトという白髪の戦士が主人公だ。"ウィッチャー"とは,モンスタースレイヤーとして幼少の頃から血の滲むような訓練を受けてきたエリート戦闘集団で,武器となる剣だけでなく魔術も利用する。悪魔の脅威にさらされているこの世界になくてはならない存在なのだが,一方でウィッチャーを忌み嫌う町の人々も多いという。
The Witcherの世界で生活するのは人間ばかりではなく,さまざまなファンタジー種族が混在している。しかし,長い歴史の中で人間族が台頭しており,戦争の中でエルフは森に追いやられて空しいゲリラ戦を続けている。ノームやドワーフは人間の下級階層に取り込まれて,差別を受けながら貧民街での生活を強要されている状態だ。
ジェラルトは,魔術で驚異的な瞬発力や精神力を得たミュータントで,非常に有能なウィッチャーではあるが過去の記憶を失っているという設定になっている。ゲーム開始時点でウィッチャーの要塞に謎の暗殺者が攻撃を仕掛けてきたことをきっかけに,彼はさまざまな問題に巻き込まれていく。世界の将来に関わると共に,自分の過去にも対峙しなければならない宿命を持つ,影のある男なのである。
The Witcherのゲーム画面でまず気づかされるのが,その美しさである。CD Projekt社は,BioWare社が「NeverWinter Nights」用に開発したAuroraゲームエンジンをライセンスしており,複雑なRPGのバックボーンにしている。ただし,NeverWinter Nightsは確かに美しいゲームではあったが,タイルベースのゲームだったために,今となってはブロッキーな印象を受けるはず。
しかし,CD Projekt社はまったく新しいレンダリングエンジンを上乗せするなど大幅な改良をほどこしており,ピクセルシェーダに対応することで,より自然でリアルなビジュアルを手にしたのだ。
とくに開発チームが気を遣っているのが,光と影。The Witcherには昼夜の概念が取り入れられており,プレイヤーはゲーム世界の中で朝日や朝霧,夏の太陽光から夕日,そして月の光に映し出される風景までを見ることになる。影はNeverWinter Nightsのような真っ黒のものではなく,ソフトシャドウになっていて,リアリティを増している。気象効果の表現もあり,質感のある雲が山の向こうから巻き起こり,豪雨と稲妻をもたらすようなこともあるという。
戦闘システムは,BioWare製品からイメージするようなターンベースのものではなく,すべてリアルタイムで迅速に行える。基本的にはポイント&クリックでの移動と戦闘で,キャラクターの周囲に表示されるマークを押すことで簡単にコンボ技を繰り出せる。モーションキャプチャによるアニメーションで,戦闘だけで200種類程度のバリエーションがあるのだそうだ。
基本的には剣での戦いとなり,ジェラルトはモンスター用の銀の剣と,人間用の鉄の剣を背中に差している。1対1だけではなく,集団で襲いかかってきた敵にも対応でき,剣先の届く限りは複数の敵にダメージを与えられるので,スピーディな戦闘が期待できそうだ。
魔法は"ウィッチャーズサイン"と呼ばれる五つのタイプしかないが,それぞれに5種類の改良型が存在する。また,Criterion社のKarmaフィジックスエンジンをライセンスしてさまざまな物理効果を実現しており,木箱やテーブルは倒れてくる敵によって破壊されるし,NPCもラグドールで吹っ飛んだり樽が坂を転げ落ちたりといった光景が確認できた。本作ではフィニッシュムーヴで首を切り落とすことができるが,首だって物理法則に従って転がり落ちるのだ。RPGでここまでフィジックスエンジンが活用されている例はまだ珍しいだけに,新鮮だった。
The Witherはかなり自由度の高いミッション制になるようで,一つのクエストでも複数の達成方法があるという。メインストーリーはそれぞれが二つのエピソードからなる五つの章で構成され,そのほかにも100種程度のサブクエストが用意されている。NPC達は,それぞれの日常生活に合わせて行動したり,会話を楽しんでいるという。プレイスタイルにより,主人公の町での評判も刻々と変化するシステムだ。
主要キャラクターは,小説から飛び出してきた何十人もの個性的な面々で,友情,裏切り,恋愛などを含むエピックストーリーになるはずとCD Projektのディレクター,Michael Kicinski(ミカエル・キシンスキ)氏は太鼓判を押す。実際にヌードシーンがあるかは不明だが,売春婦の巣くうバーなどもあり,フェロモンが溢れ出ているウィッチャーは,あちこちで女性の誘惑にあうのだそうだ。そのために,このゲームは成人向けになるだろうとキシンスキ氏は語っていた。
同作は,このまま開発が進行すれば2006年中にはマスターアップする予定だ。CD Projektは本作を自己資金で制作しているため,アメリカでもパブリッシャ探しを急ぐ必要はないと言い,より良いパートナーシップを組める相手を時間をかけて求めていく方針と説明していた。2006年のE3では,さらに完成度の高いバージョンとより具体的な発売日程が公表されるだろう。(奥谷海人)
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