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[インタビュー]ヴァナ・ディール秘蔵展の仕掛け人×「FFXI」プロデューサー,展示会の裏話から今後の展望まで,大ボリュームの対談でお届け
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印刷2023/12/22 08:00

インタビュー

[インタビュー]ヴァナ・ディール秘蔵展の仕掛け人×「FFXI」プロデューサー,展示会の裏話から今後の展望まで,大ボリュームの対談でお届け

 2023年8月,東京・有楽町マルイで開催された「ヴァナ・ディールの秘蔵展」は,スクウェア・エニックスが開発・運営しているオンラインRPG「ファイナルファンタジーXI」(以下,FFXI)初の企画展で,それまで冒険者(プレイヤー)の目に触れることのなかった貴重な資料,造形物,レアグッズなどが所狭しと展示されていた。

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 “ヴァナ・ディールを愛し,よく知っているからこそできる”愛と情熱の詰まった秘蔵展は大盛況のうちに幕を閉じ,2023年12月22日から2024年1月8日にかけて,大阪・なんばマルイでの開催も決定している。

 そんな企画展開催までの道筋や,開催にあたっての裏話,大阪開催に向けての情報などを,展示会の仕掛け人であるムービックの稲葉聖弥氏と,FFXIプロデューサーである藤戸洋司氏に聞いた。

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スクウェア・エニックス:FFXIプロデューサー 藤戸洋司氏(右)
ムービック:ライセンス事業本部 稲葉聖弥氏(左)

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 「FINAL FANTASY XI ヴァナ・ディールの秘蔵展」が,東京都千代田区にある有楽町マルイで開催されている。期間は,2023年8月18日から9月4日までで,当日チケットの料金は1800円(税込)。初公開となる数々の資料や造形物が展示されているほか,オリジナルのグッズも販売されている。

[2023/08/21 11:00]

「FFXI ヴァナ・ディールの秘蔵展」公式サイト



「FFXI」と共に人生を歩んできた仕掛け人の情熱が,

「ヴァナ・ディールの秘蔵展」を実現した


4Gamer:
 本日はよろしくお願いいたします。
 まずはおふたりの自己紹介をお願いします。

稲葉聖弥氏(以下,稲葉氏):
 ムービックの稲葉と申します。経歴としてはこれまで10年以上キャラクターグッズを作り続けてきました。最近は,ヴァナ・ディールの秘蔵展(以下,秘蔵展)のこともあって,催事を企画する部署に所属しています。

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4Gamer:
 では,稲葉さんとFFXIの出会い,現在までのプレイ状況なども聞かせてください。

稲葉氏:
 FFXIは,サービス開始時からプレイしています。当時はまだ中学3年生でした。そこからずっと,いつも傍らにはFFXIがある人生を歩んでいます。進学や就職のタイミングで,少し中断したこともありますが。

4Gamer:
 ちなみに種族は……?

稲葉氏:
 今はミスラです。最初は,タルタルの男の子でした。

4Gamer:
 ムービックには新卒で就職されたのですか?

稲葉氏:
 いえ,新卒ではグッズの製造会社に入社しています。その後は独立して自営業をしていました。実はその時期,2019年に渋谷で開催された電撃の旅団さんのイベント(※1)で,藤戸さんと初めてご挨拶しているんです。
 その後にアニメイトグループ(※2)に入ったという経歴です。

※1 電撃の旅団が主催するトークイベント“「FFXI」電撃の旅団 夏祭りオフ会2018”
※2 ムービックは,アニメイトグループの中核企業

4Gamer:
 元々,アニメやゲームのグッズが,お好きだったんですか?

稲葉氏:
 好きです!

4Gamer:
 そしてFFXIも……。

稲葉氏:
 はい,大好きです! 僕の半生を捧げたと言ってもよいです(笑)

4Gamer:
 そんな稲葉さんから,こういった企画が生まれてきたということなんですね。そして時は流れ,現在はお仕事でFFXIにどう関わっているのでしょうか。

稲葉氏:
 今は「展示P」として主に秘蔵展に関わっています。

4Gamer:
 そもそもどういったきっかけで,仕事として関わるようになったのでしょう。

稲葉氏:
 20周年記念のときに,腕時計の企画を持ち込みさせていただき,それが採用されたのがスタートです。


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藤戸氏:
 ちょうど20周年企画をやるということで,記念ウェブサイト「WE ARE VANA'DIEL」や,20周年のWeb番組など,いろいろと作っている最中でした。そこで「グッズは作らないの?」という話も出てはいたんです。
 ただ,うちのゲームプロジェクトがグッズ制作の企画を考えると,良くも悪くも既視感のある、安全なものになってしまいがちだったんです。もうちょっと,冒険者さんの心に届く感じのものが欲しいなと思っていたんですよ。とはいえ,グッズ制作の専門家ではないですし,「皆さんは何が欲しいのか」というマーケティングをしているわけでもないので,それ以上に何も思い付かなくて。

4Gamer:
 ゲームの開発と運営が本業ですもんね。

藤戸氏:
 稲葉さんから腕時計のご提案をいただいたとき,「え? こんなものが作れるの? 作っていいの?」と驚きました。なので,「本当にこれが作れるんですか?」というところからやり取りを始めました。それが一番大きなスタート地点ですね。

稲葉氏:
 そうでしたね。スクウェア・エニックスさんに呼ばれたら,藤戸さんと松井さんがいて……あの緊張は忘れないですよ!

藤戸氏:
 ムービックさんは元々グッズが専門で,いろいろと計画を立てて制作・販売されているんですよね。初めてイベントで稲葉さんと会ったときのことも覚えていたので,「ありがたい。あのときの方が,こういう立場になって来てくれたんだな」と,うれしく思いました。
 初めて会ったとき,「仕事があれば」みたいな話もちょっとはしたんですが,今回は会社としてたくさんの具体的なアイデアを同時に持ち込んでくださったんです。魅力的な提案だったので,できるだけ形にしていこうと,20周年グッズの企画が動いていきました。

4Gamer:
 稲葉さんが藤戸さんに初めて会ったときは,ご自身で会社を経営されていて,20周年企画のときは,ムービックにいらっしゃったということですね。

稲葉氏:
 ええ。でも,普通に考えたら,グッズ企画を突然持ってこられても,「なんだこいつ」って思いますよね……。「突然押し売りが来たぞ!」みたいな……。

藤戸氏:
 最初は,(稲葉さんのことを)何も知りませんからね(笑)。そのときは,「なるほど,こういう仕事をしている方が世の中にはいるんだな」と認識した感じです。でも,だからといっていきなり仕事をお願いするというのもなかなか難しくて。腕時計のときは,正式な手順を踏んでくださったので,スムーズに話を進められました。

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4Gamer:
 稲葉さんのFFXIへの愛と情熱で,企画を実現できたということですね。では,稲葉さんからの情熱を受け取った藤戸さん,これまでのことを含めた自己紹介をお願いします。

藤戸氏:
 FFXIプロデューサーの藤戸です。FFXIは1999年くらいに開発が始まりました。そのとき自分は大阪の開発室にいたのですが,東京の田中弘道さん(当時のプロデューサー。現 ガンホー・オンライン・エンターテイメント執行役員),石井浩一さん(当時のディレクター。現 グレッゾ 代表取締役)達から,自分を含めた大阪の開発室に声がかかって,そこからずっと東京でFFXIの開発に携わっています。プランナーとしてキャリアを積みつつ,チーム運営をメインにやってきて,現在に至ります。

4Gamer:
 最近は,どんなお仕事をされているのでしょう?

藤戸氏:
 自分はプロデューサーになってまだ1年目ですが,FFXIは21周年です。正直,いろんな部分が老朽化してきています。機材にも,人にも,20年分の重みが加わった結果,そのまま進めていくことができない部分が多くなってきました。
 そこで,できるだけ若い力を取り入れつつ,別の勉強をできる環境を整え,運営自体を少人数でちゃんと続けられるようにしています。そこは自分が責任を持ってやっていく……というスタンスでやっています。

4Gamer:
 以前のインタビューでも,そのあたりのお話をうかがいましたが,それが継続できているということですね。

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 今年で21周年を迎えたスクウェア・エニックスのオンラインRPG「ファイナルファンタジーXI」。先日実施されたサーバーのリプレイスや,8月に開催される「ヴァナ・ディール秘蔵展」について,3代目プロデューサーである藤戸洋司氏に話を聞いた。

[2023/08/05 08:00]

藤戸氏:
 はい。コミュニティの皆さんが楽しめる環境を継続するための体制作りですね。ゲームの中身を新たに作る,というよりは,キャンペーンやイベントなど,皆さんが参加できるものを企画していくということが,現在の方針になっています。
 ちょうど秘蔵展は,イベントのひとつとして企画が立ち上がってきましたので,それを大きくしていったという状況ですね。

4Gamer:
 東京での秘蔵展を終えた段階で,藤戸さんはどんな受け止め方をされましたか?

藤戸氏:
 リアルイベントとして,こういう“展示会”は初めてのことでした。これまでのリアルイベントはステージ形式で,そこにお客様をお招きしていました。でも今回は,開催期間中ずっとそこに見たことのない展示があって,行けば何らかの知見が得られる。そして帰りには新しい,しかも冒険者に刺さるグッズが目の前にあって,それを買って帰ることが目的のひとつにもなるという,ちょっとしたお祭りとして長いスパンで楽しめました。
 いつもと毛色は違うけど,すごく楽しかったですね。何回も来ていただいたお客さんもいらっしゃって。

稲葉氏:
 そうですね。本当にありがたいです。SNSに「今日で〇回目の秘蔵展です!」と投稿してくださった方もたくさんいらっしゃいました。

藤戸氏:
 ほかの展示会と比べると,リピート率が高い印象がありました。

稲葉氏:
 実際,ほかの展示会でも,複数回いらっしゃる方はいるのですが,秘蔵展は本当に多くて。もしかして(1回では見きれないくらい)資料を詰め込みすぎちゃったかなと,少し不安にも感じました。

4Gamer:
 確かに,すさまじい情報量なうえ,どれも見たことのない資料ですから,私も大興奮でした。ですがそのためか,帰ってから思い出そうとしても,見た情報の半分くらいが頭から抜けてしまって,「なんかすごかったな……」ということだけは覚えているという状態になってしまって(笑)。なので私も3回行きました。最も多く来場した方は,何回でしょうね。

稲葉氏:
 僕は,頻繁に会場へ出ていましたが,そのときによくお顔を拝見する方がいらっしゃいましたね。4〜5回くらいでしょうか。正確なカウントではありませんが。

4Gamer:
 藤戸さんの講演会を目当てに,再び足を運んだ方もいらっしゃるでしょうね。



稲葉氏:
 展示会がバージョンアップしましたからね。

藤戸氏:
 展示会なのにバージョンアップって,何事だろうと。

稲葉氏:
 あれは僕も,許されるのかな? と若干悩んだところがありました。バージョンアップの前後で冒険者さんの体験に違いが出てしまうので。でも「MMORPGだからこそのバージョンアップ」という感じで,受け入れてくださったんじゃないかなと思っています。

藤戸氏:
 みんなバージョンアップに慣れているんですね……。

稲葉氏:
 ちょこちょこメンテナンスもしてましたね。「メンテナンス終了のお知らせ」を流しもしました。

4Gamer:
 バージョンアップ前の展示がすでに大ボリュームだったことも,満足度が高いものだった理由のひとつだと思いました。展示資料は,本当にほとんどが見たことのないものでしたし。

稲葉氏:
 そうですね。展示する資料は,藤戸さんと相談しつつ決めていきました。「過去,メディアに出ていない資料」というところを第一に考えましたね。

藤戸氏:
 最初に,現存している資料をさらうところから始めて……。

4Gamer:
 そういった開発資料は,タイトルごとにファイリングされていたり,系統立てて保存されていたりはしないものなのでしょうか。

藤戸氏:
 開発資料をファイリングするのは,だいたい最後の工程なんです。ゲームが出来上がって販売され,プロジェクトを閉めるぞというときに,初めてみんなで資料をまとめる事が多いですね。でもFFXIはサービス継続中なので,ずっとそのままだったんです。プロジェクト立ち上げ時に作った資料やイラストなんかも,あちこちに散らばっていたので,それを今回,ひとつのHDDにまとめて。

稲葉氏:
 いやもう,ファイル数の桁がすごかったですね(笑)。僕が見てもいい範囲のファイルを整理するだけで丸3日かかりました!

藤戸氏:
 こんな感じで,一緒にデータを見て,内容のチェックを行っていきました。ウチのプロジェクトでは公開する資料に関しては特に責任者の確認を取ることにしているんですが,もう退社された方が作られたものがほとんどだったので,公開許可を取るのも難航しました。どうしても追跡できない方に関しては,プロジェクト判断ということにはなりましたが。

4Gamer:
 そうだったんですね。美しい絵や驚きの設定などの端々に,開発者の方々の工夫や迷いも伺えるような,見ごたえたっぷりの展示でした。
 では,秘蔵展での思い出深いエピソードなどがあれば教えてください。

稲葉氏:
 足を運んでくださる冒険者さんの年齢層が幅広かったことですね。3歳頃からFFXIに触れているという方もいらっしゃいました。元々,お父様がプレイされていたそうです。

藤戸氏:
 直接お話をした冒険者さんのなかでは,最年少の方でしたね。SNSでも,eスポーツをされている方が,同じようなエピソードを書かれていて。

4Gamer:
 物心がつく前から,すぐそばにFFXIがあるという。

稲葉氏:
 ご夫婦やお子様連れの方もいらっしゃいました。お子様に展示内容を説明されている姿などを見て,「これが20年の重みか」と感じました。

4Gamer:
 本当に幅広いですね。展示を見ながら思い出話をされている方もたくさんいらっしゃいましたよね。

稲葉氏:
 はい,そういった,さまざまな方の交流の場を作れたのは,企画者として本当にうれしいです。

藤戸氏:
 稲葉さんも,けっこう声をかけられていませんでしたか?

稲葉氏:
 そうなんです。【両手棍】と書いたスタッフTシャツを着ていたっていうこともあって,「写真を撮らせてください」とよく声をかけていただきました。


4Gamer:
 秘蔵展には,FFXI関係者の方もたくさん来場されたと聞いています。

稲葉氏:
 はい,開発に関わられた方々をはじめ,メディアの方々,攻略サイトの方々……。本当にたくさんの方がいらっしゃってくださいました。

藤戸氏:
 入り口に置いていたサインボードの書き込みが,日を追うごとに増えていきました。

稲葉氏:
 あのサインボードは,とてもとても貴重なものだと思います。もしかすると一番の秘蔵品かも……。もちろん,大阪の会場にも持っていきます!

4Gamer:
 また,サインの書き込みが増えるかもしれないですね。

稲葉氏:
 【エキサイト】

4Gamer:
 サインボードは,とくに初代プロデューサーの田中弘道さんが自由に書かれていたという印象です。

稲葉氏:
 そうなんです。まさかタイトルロゴのアート部分を書き足すなんて……(笑)。普通思いつきませんよ!? サインボードを見た海外の冒険者さんの反応も,とても良かったんです。漢字が読めないということだったので,説明しました。

藤戸氏:
 秘蔵展は日本だけで開催するイベントなので,海外の方に向けた大々的な宣伝はしていないんですが,やっぱり海外プレイヤーでも知っている方はいて,海外のRedditとかの掲示板にスレッドが立って,見に行くぞ! という流れになっていたようですね。

稲葉氏:
 展示のキャプションは日本語しかなかったんですが,スマホのカメラで自動翻訳できるアプリがあるんですよね。あれを使って見ていらっしゃる方もいて,今はこういうことができちゃうんだと感動しましたね。

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「ヴァナ・ディールの秘蔵展」開催までの経緯

“FFXIには妥協をしたくない”


4Gamer:
 あらためて,秘蔵展の実施までの経緯も教えてください。

稲葉氏:
 確か,「ファイナルファンタジーXI 20周年記念放送 WE ARE VANA'DIEL」の放送後だったような気がします。夏の前ぐらいだったかな。藤戸さんとグッズの話をしてるときに,「展示会のような催事をやってみたいです」と伝えたのが発端でしたよね。

藤戸氏:
 ええ。その時点では,具体的な企画ではなかったんですが,可能性は感じつつも,いったん保留にしていました。ほかにもやらなければならないことが,山積みだったこともあって。そして,来期計画とかを考える段階で,展示会の提案をもらったことを思い出して,「ぜひやりませんか」と声をかけさせていただきました。

4Gamer:
 実は藤戸さんは最初から乗り気だったということでしょうか?

稲葉氏:
 もしそうだったら僕はうれしいですけど,乗り気でいてくださったんですか?

藤戸氏:
 ええ,でも予算の問題とかがありましたから……(笑)。

稲葉氏:
 実は今日,最初に持ち込んだ企画書を持ってきています。(プリントした企画書を広げつつ)この段階ですでに,タイトルは「ヴァナディールの秘蔵」になっているんです。

4Gamer:
 おお! 「ヴァナ・ディールの秘蔵展」という展示会タイトルは,稲葉さん発だったのですね。

藤戸氏:
 そうですね。とくにこちらからは指定していません。

稲葉氏:
 最初は「秘宝」と考えていたんですけど,やっぱり追加ディスク「アトルガンの秘宝」に引っ張られるなと思って。それに「お蔵出し」というような資料ばかりですし。初期構想の段階でも,今まで目に触れなかったものを出したい,ということを打ち出していました。

4Gamer:
 (資料を見ながら)「こういう開発資料を出したい」ということだけではなく,初期段階で具体的な構想が固まっているんですね。

稲葉氏:
 最初にある程度は固めていましたが,実際に動いてみると何をどう見せるかというところにはすごく悩みました。資料がものすごく多かったので,この企画書のとおりには進みませんでしたね。

4Gamer:
 企画書には来場者数の見積もりもありますが,実際のところいかがでしたか?

稲葉氏:
 皆様の応援のおかげで,上回ることができました! 実は当初,大阪での開催予定はなかったんですが,反響がとても大きかったので,大阪でも開催することになりました。

藤戸氏:
 「展示会は,やってみないと分からない」ということは稲葉さんからうかがっていたんですが,大反響だったから次につながるというのは,素直にうれしいものです。
 秘蔵展の発表当初から,東京以外の地域での開催を望む声も上がっていましたしね。本当に実現して良かったです。

4Gamer:
 最初の企画書がこの形に固まるまで,どれぐらい時間がかかったんでしょうか。

稲葉氏:
 割とすぐ固まって,企画書はすぐ作っちゃいました。実はこの頃は日中ずっと秘蔵展のことを考えていたんですよ……。ほかの仕事をしながらも,展示内容を同時に考えていたので,企画にGOサインが出たとき,パッと形にできたぐらいで。

4Gamer:
 すごい瞬発力です。

稲葉氏:
 その間も,ゲーム中のサーチコメントには「ちょっと取材」みたいな感じの書き方をして,いろんなところを見て回って。フレンドからは「なんか変なとこに行くね」って声をかけられたりもしました(笑)。

4Gamer:
 それをほかの業務と並行してやっていたとは……。

稲葉氏:
 そうですね,ほかの企画の仕事をしながらも,「これ,秘蔵展でもできるかも!」と参考にしたり。また,その逆もあります。とくに今回だとバージョンアップする展開などですかね。偶然こういう形になったわけですが,それまでやったことのない試みだったので。

藤戸氏:
 そういうところは自由にやってもらいました。さっきも言いましたが,グッズの企画にしても,本当に心に響くアイデアをどんどん出してくれるので,こちらからは,より良くなりそうな意見を伝える,とった流れが多かったですね。

稲葉氏:
 藤戸さんの監修は的確なんです。とくにぬいぐるみ系では心強いものがありました。魔法人形のマスコットが可愛くなったのは,藤戸さんのおかげなんですよ。

藤戸氏:
 最初はもうちょっと首が長かったんです。それをキュっと縮めてもらって。

4Gamer:
 そんな秘話が……!
 ところで,大阪での展示物などは,東京のものとまったく同じなんでしょうか?

稲葉氏:
 会場の制限などで展示できないものもありまして,その代わりになる新規のものが加わります。とはいえ,9割は同じものです。

藤戸氏:
 同じではない1割は,新規のものだったり,“バージョンアップ”だったりしますね。

4Gamer:
 それは……大阪まで確認しに行きたくなりますね。

稲葉氏:
 実は東京会場では出せなかった,個人的にFFXIの顔だと思っている「とある武具」の造形物を大阪で展示する予定があります。これは秘蔵展で明らかになった設定から,作ってみたいと思い制作したものです。かなりの迫力に仕上がっているのでご期待ください!

 あとはメッセージコーナーも設けたいと考えています。秘蔵展では「主催側からのプレゼント」という面を前に押し出しました。
 ですが,やっぱりFFXIを開発された方々への感謝の声が大きかったので,そこを藤戸さんたちに伝えたいと思いまして。両者の架け橋になるものが,東京では用意できなかったので,大阪では取り入れていきたいと考えています。

4Gamer:
 そこまで考えていらっしゃったとは。皆さんの愛を運ぶエンジェルみたいな感じですね……。

藤戸氏:
 アークじゃないほうのエンジェルですね。あと4人くらいいて……。

4Gamer:
 小さいエンジェルや大きくて耳の長いエンジェルがいて……。

稲葉氏:
 自爆するやつとかもいて……。

一同:
 (笑)。

藤戸氏:
 それは冗談として,稲葉さんの提案する展示の内容,コンセプトなどのネタ出しは,的確でパワーがあるんです。うちの企画に欲しいなと思いました。フットワークも軽いし,できる人だな,と感じましたね。

稲葉氏:
 うれしい限りです。それも,FFXIのことだからですね。FFXIは僕の人生を支えてくれたゲームですから,恩返しという意味でも妥協したくないんです。

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展示物を決定するプレッシャー

まさかの手作り展示品も!?


4Gamer:
 ひとつの展示会を開催するための具体的な流れに関しては,多くの読者にとって未知の領域だと思うんです。そこで,ムービックさんとしての作業内容,藤戸さんの監修など,具体的に当日までの組み立てや動きがどういったものだったのかを教えてください。

稲葉氏:
 組み立て方としては,全体の方向を決めたら,あとは予算とスケジュールの中で要素を盛ったり削ったりを繰り返して整えていく感じですね。これはどんなモノづくりも同じかもしれません。

4Gamer:
 会場を決めるのは,どの段階ですか。

稲葉氏:
 会場を決めるのは最初ですね。企画の規模にあった会場を抑えて,展示のゾーニングを作っていきます。ゾーニングは展示を楽しめるかどうかの大事な要素になるので,ここは盛り上がりを入れて,じゃあ逆にここは疲れちゃうから休憩できるような展示をしてみよう,という工夫をしながら,藤戸さんと話して決めていきました。

藤戸氏:
 コンテンツプランナーがやっていることと,だいたい同じなんですよね。ここでこのモンスターと戦って,仕掛けを解いて,最後のボスと戦闘,勝てたらプレゼント……っていう考え方自体は同じで。うちはプログラムで,稲葉さんは実物を使って場を作るという表現手法の違いはあれど,考え方自体は同じですね。

稲葉氏:
 (Inabaはにやりとしている……。)

藤戸氏:
 割とどんな仕事も,企画を立ち上げて,どう出力していくかということの基礎は同じかなと。稲葉さんは,そういうところにすごいパワーがあります。

4Gamer:
 お話を聞いているだけでもそう感じます。
 では,稲葉さんがそのパワーをもってしても苦労なさった点はありますか?

稲葉氏:
 展示する資料選びの部分ですね。すべてを展示することはできないので厳選するのですが,どれも貴重な資料なので大変でした。さらに実施の機会は,東京一回限りになってしまう可能性もあったので,この選定で本当に満足して貰えるかな……と,怖かった部分が正直あります。

4Gamer:
 葛藤があったんですね。

稲葉氏:
 はい。自分の勘を信じつつ,藤戸さんにも相談に乗っていただきながら決めていきましたが,プレッシャーでしたね。正解は展示会が始まってみないとわからないので,とにかく突き進みましたが!

藤戸氏:
 とりあえず「その資料を出せるかどうか」というところが,大きな判断基準だったんです。絵なんかはとくに,署名があればその人に確認するんですが,さっきも言ったとおり,もう社内にいない人が大半なので。
 というのも絵描きさんって,ラフの絵などを表に出すことを好まない方も多いんです。基本的に「ちゃんと出来上がったものを見せたい」という思いがありますから。それを,こちらで決めてしまっていいのか。あと今回は,石井さんのモンスター設定をちょっと出展させてもらったのですが,そもそもテキストで,しかも企画書ではなく“メモ”です。ということで,石井さんの会社に出向いて許可をいただいてきました。

4Gamer:
 そういう,大事ながらも地道な手続きをされていたんですね。

藤戸氏:
 はい。そのあたりはある程度はこちらでやりましたが,基本的には(稲葉さんから)いただいたアイデアをできるだけ生かす形で,フォローした感じです。

稲葉氏:
 ちょうどその時期,実は1/1リディルを作っていたこともあって,手が回らない部分もたくさんあったので,藤戸さんにご協力いただけたのが,本当にありがたかったです。

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4Gamer:
 え!? もしかして,あの展示していたリディルそのものを作られていたんですか?

稲葉氏:
 はい。あの展示品は,僕が作りました。というのも,東京開催前に秘蔵展をWeb番組「わしゃがなTV」さんで取り上げて頂いたのですが,そのときに「せっかく宣伝していただくのに,なにか大物がないとな……」ということを思ってしまって。それに展示会にも,新たな1/1スケールの造形物が欲しかったんですよね。ゲームから飛び出したようなものが。


4Gamer:
 ……(言葉を失う)。

稲葉氏:
 でもそれを思いついたのが収録の1週間前だったんですよ。業者さんにはもう頼めないので,こりゃもう自分で作るしかないなって。近くのホームセンターで工具と材料をそろえて……。

4Gamer:
 てっきり専門の業者に発注したものと思っていました。稲葉さんは造形を学んでいらっしゃったんですか?

稲葉氏:
 趣味でプラモやフィギュアを作ったりはしていたのですが,こんなに大きいものは初めてでした。柄の部分をうまく湾曲させる方法に悩んでいたところ,娘の椅子の背もたれがちょうどいい感じに湾曲していて,それを切って使ったりしてます(笑)。

4Gamer:
 そんなことが……。

稲葉氏:
 夜な夜な作り続け,収録の日に藤戸さん達のところに持ち込んで,その場で監修していただきました。それが,収録で使われるだけでなく,秘蔵展でも皆さんにたくさん写真を撮っていただけて,とてもうれしかったですね。

4Gamer:
 企画から造形物の制作にいたるまで,本当にすべてに関わっていらっしゃるんですね。

稲葉氏:
 そうですね。あとはグッズのデザインも全て自分で行っています。僕自身も昔からの冒険者ですので,故郷ヴァナ・ディールの奥深さを1人でも多くの方に伝えたいという気持ちで突き進んでいます。そんなわけで,大阪の展示に関してもあれこれ手を動かして頑張っています。
 そういえば,東京会場の最終日,冒険者さんからお花をいただいたんですよ。ほかの展示会ではあまりないことで,すっごくうれしかったです。X(旧Twitter)にも写真を載せさせていただいたんですけど,「ああ,この企画をやってよかったな」と,心から思いました。

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ここでしか見られない展示の内容

東京会場と大阪会場の違いは?


4Gamer:
 そういえば,秘蔵展の展示品には,驚くほどレアなものがさりげなく含まれていてびっくりしたのですが,稲葉さんのFFXIコレクションの中で,最もレアなものは何でしょうか。

稲葉氏:
 開発机ゾーンに飾っていた「チョコボ&エルヴァーン」のフィギュアは,すごく貴重だと思いますね。あれは未開封品を2つ持っていたのですが,ひとつはわしゃがなTVで,もうひとつはこの秘蔵展のために開封しました。コレクターとしては断腸の思いでしたが,綺麗なものを展示したかったので……(笑)。

4Gamer:
 開発チームに,同じフィギュアはなかったのですか……?

藤戸氏:
 あるにはあったんですけど,状態があまり良くなかったんです。自宅にもあるんですが,ダンボールの上に飾られています(笑)。

稲葉氏:
 あと,今日持ってきたんですけど,このタルタルのマスコットストラップもお気に入りです。秘蔵展では同じく開発机ゾーンのロッカーの鍵にこっそり付けていたものです。

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実に味わい深いタルタルの付いたストラップ。2003年ごろに発売されたもの

4Gamer:
 稲葉さんは,同じグッズをいくつも買うタイプなんですか?

稲葉氏:
 もちろん! コレクターですから。所有欲を満たしつつ保全活動に勤しんでいます。しかしこのタルタル,ほんといい顔をしているんですよね。キリッ! としていて……。

4Gamer:
 そうですね。でも,どこかちょっと悲しそうにも見えて……。

稲葉氏:
 そうそう(笑)。FFXIのサービスが開始されてすぐくらいのグッズなんですよね。裏の住所記載を見ると「アルコタワー(※)」になっています。

※1997年から2003年までスクウェア・エニックスの社屋は,目黒のアルコタワーにあった

4Gamer:
 ふたつ前の住所ですね。

稲葉氏:
 それから,これも開発机ブースに置いていた,FFXIコラボスナックの袋(※)でしょうか。ドリトス,チートス,ポップコーンと3種類あって。あれはレア物だと思います。いつか未開封品を手に入れたいなぁ〜。

※ドリトスの袋=2002年,フリトレーよりセブンイレブン限定で販売されたCGイラストカード付きのお菓子

4Gamer:
 グッズではないですが,秘蔵展にあった,造形物もすごかったですね。ソフトバンク クリエイティブ(当時)から出版されていた,「マスターズガイド」シリーズの表紙に使われていたものでしたが,書籍で見たときは,あのオブジェクトはCGだと思っていました。まさか,立体で制作されたものだったとは。

稲葉氏:
 僕もCGだと思っていました。

藤戸氏:
 開発ルームにキャビネットがあって,その上に調理ギルドの看板とか,アトモスとかがずらっと並んでいるんです。ものによっては,えらく埃をかぶったりしていて……。

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4Gamer:
 稲葉さんが見たら,ストレスを感じるんじゃないでしょうか。

稲葉氏:
 僕の怒りが有頂天になるかもしれません(笑)。
 こちらの造形物に関わる話だと,東京での開催中に表紙クリエイティブをご担当された島田忠司様から,当時の貴重な資料を頂戴いたしまして,秘蔵展のXに載せさせていただきました。これは自分としても,予想だにしていなかったバージョンアップな展開でした。



4Gamer:
 素敵なエピソードですね。
 ところで,野村哲也さんのイラストが展示されていたコーナーは,会期中は謎のエリアとされていましたよね。マップも黒塗りにしてあって。あれにはどういった意図があったのでしょう?

藤戸氏:
 「目玉となる新規要素が欲しい」という話を社内でしていたとき,「野村さんに絵を描いてもらえないだろうか」という案がチームから出たんです。それで野村さんに問い合わせてみたら,快く了解していただけました。

4Gamer:
 題材を選ばれたのは野村さんご自身ですか?

藤戸氏:
 はい,そこは野村さんにお任せしました。

稲葉氏:
 本当に驚きました。そして描かれた2人の姿に色んな思いを馳せてしまい,思わず涙腺が緩んでしまいましたね……。


秘蔵展発,こだわりの詰まったグッズ

実現しなかった企画や,人気の商品,お気に入りグッズも


4Gamer:
 秘蔵展に合わせて発売したグッズのうち,最も気に入っているものを教えてください

藤戸氏:
 自分はこの,「キャップ チョコボサーキット」で,いま常にかぶっています。もしこれがダメになったらと思って,“キャップ デュエルシャポー”も準備してあります。

4Gamer:
 藤戸さん,キャップがお似合いですよね。

藤戸氏:
 自分は寝癖がまとまりにくいので,帽子をよくかぶるんですけど,長らくかぶっていたものが汚くなってきてしまって。新しいのが欲しいと思っているところに,ちょうどいいグッズが出たので愛用しています。

4Gamer:
 チョコボの部分が刺繍なのが素敵ですよね。

画像集 No.016のサムネイル画像 / [インタビュー]ヴァナ・ディール秘蔵展の仕掛け人×「FFXI」プロデューサー,展示会の裏話から今後の展望まで,大ボリュームの対談でお届け

稲葉氏:
 さりげなく冒険者アピールができるグッズです。僕もお気に入りは帽子で,「キャップ デュエルシャポー」ですね。当時は喉から手が出るほど欲しかった装備というのもあるのかもしれませんが,かぶるといい感じのテンションになれるんですよ。「バーミリオクロークイメージパーカー」とかもそうですね。

4Gamer:
 着るもの,ということでしょうか。

稲葉氏:
 そうですね。ゲーム中で憧れの装備を身に着けた瞬間に似ていて,なにかがみなぎってくるんです(笑)。リアルだとステータスアップ効果なんて無いんですが……,不思議ですよね。買ってくださった方のテンションも上がってくれていたらうれしいです。

4Gamer:
 身に着けるものは,FFXIの世界に入ったような気分になれますよね。

稲葉氏:
 グッズのコンセプトとして,ふとした瞬間に冒険の日々を思い出せるような,そんな存在であってほしいと思いを込めてもいます。

4Gamer:
 残念ながら商品化できなかったものなどもあるのでしょうか。

稲葉氏:
 いっぱいあります! 例えばクラブのカプセルトイをやりたかったんですよね。「海洋生物コレクション」的な。それから,ゲーム内に登場する「マンドラ★」(※)というゲームも実際に作りたかったんですよ。お正月にみんなが集まったときにやろう! みたいな。

※サービス開始18周年記念のアニバーサリーイベントで実装されたミニゲーム。現在は常設されている。

4Gamer:
 では,東京会場で人気が高かったグッズを教えてください。

稲葉氏:
 Tシャツなどをはじめ,アパレル系はすごく反響が良かったですね。それから「飛空旅行社 パスケース」も,「ゲーム内でランク5になったときに,こんなパスがもらえたら面白いだろうな」と考えて作ったのですが,好評で良かったです。

4Gamer:
 落ち着いたデザインで,普段使いしやすいですよね。プレイヤーとしては,キャラやロゴが大きく配置してあるデザインも良いですが,「キャラが使っているアイテムそのものが欲しい」という想いもありますよね。

稲葉氏:
 ええ,ありますね。

4Gamer:
 Tシャツのラインナップも,さまざまなニーズに応えるものになっていたように感じます。柄のバリエーション,1種類だけ白,というバランス感覚など,どんなジャンルの服を着ている人でも,どこかしらで着られるように考えられているんだな,と。

稲葉氏:
 ありがとうございます。

4Gamer:
 「ネオン風ギルドアイコン」は可愛らしいし,「天体図」は星の部分が蓄光で光るようになっている仕掛けにも驚きました。「Title Logo」は,ずらっと並んだロゴでファンであることをアピールできるだけでなく,追加ディスクの歴史も追えますし。最近はやったフォトTシャツの「石の記憶」,グラフィックスを切り抜いたようなロゴT「限界突破」もおしゃれでした。
 こうしたグッズを考えるにあたって,どんな部分を大事されていたんですか?

稲葉氏:
 秘蔵展に関しては,「何かひとつくらいは欲しいものがある」ようにしたいと思っていました。Tシャツもそうですが,「普段使いできるからこれにしよう」「主張したいからこれがいい」とか。日用品だったらこれはここに置ける,使える,または土産として手に取れるように,と。

 それから,会場にいらっしゃる冒険者さんは,プレイしていた時期が違うと思っていましたから,ゲーム中のネタを拾うのも追加ディスク「プロマシアの呪縛」までを中心にしてみるなど,せっかく来てくださったのに置いてきぼりになってしまわないように意識していました。

4Gamer:
 そんな気遣いがあったんですね。
 では,今後,作ってみたいグッズなどはありますか。

稲葉氏:
 やはり,“ゲーム中に出てきているもの”です。ギルドのエプロンとか,調度品とか。実際に部屋に置けて,ゲーム内の空間が自分の日常でも感じられるようなものを作ってみたいですね。藤戸さんはいかがですか?

藤戸氏:
 調度品の話は,確か以前に稲葉さんとしていたんですよ。そういうのもいいですし,「ハートビーター」といって,2015年のヴァレンティオン・デーに配布していた,料理で使う泡立て器みたいなものがありましたよね(※)。ギルドエプロンもそうですが,普段使っている道具にFFXIのものがあったら……みたいなことは割としょっちゅう思っています。あとは……選択肢が多いので,逆に思いつかないかも。

※ハートビーター=泡立て器のような外見の,可愛らしい片手棍。2015年2月のログインボーナスとして配布された

稲葉氏:
 ヴァナ・ディールはネタの宝庫なんですよ! 極論ですが,たとえば壁のテクスチャなんかそれだけでも美しいので,それを使ったグッズもできちゃいそう。

画像集 No.014のサムネイル画像 / [インタビュー]ヴァナ・ディール秘蔵展の仕掛け人×「FFXI」プロデューサー,展示会の裏話から今後の展望まで,大ボリュームの対談でお届け

藤戸氏:
 稲葉さんはいつも,新しいグッズの候補を大量に提案してくれるので,その中に必ず「これだ!」というものがあるんですよ。自分達が考えると,実際売れるのかとか,在庫リスクのことだとか,いろいろ考えて厳選してしまった結果,幅広くは出せないんです。(稲葉さんは)そういうことを毎回超えてくるんで,何かしら琴線に触れるものがあります。この前だったら,ジェットストリームのペン(※)なんかも良かったですね。あと個人的には,「額付きマグネットコレクション」がすごく好きです。ああいうものが,実際に冷蔵庫とかに貼ってあるのは面白いなって。

※ジェットストリーム=三菱鉛筆が販売している,滑らかな書き味が人気のボールペン。秘蔵展では,サンドリア,バストゥーク,ウィンダス3国の国旗がそれぞれデザインされたものが発売された

稲葉氏:
 絵柄が,マニアックなラインナップでしたよね(笑)。

藤戸氏:
 ゲーム内に飾ってある絵のバージョンと風景のバージョン,2種類あったじゃないですか。最初,風景のほうは絵はがきにしようという話だったんです。でも,絵はがきにするには解像度が足りなかったんですよ。そこで,マグネットのバージョン違いにしたらどうかと提案しました。

稲葉氏:
 あの風景素材,初めて見たときに感動したんですよ。ゲーム中の画像なのに著名なカメラマンの写真みたいに心を掴まれて。きっとヴァナ・ディールの美しさを伝えるために,1枚1枚とても大切に撮影されたのでしょうね。

画像集 No.021のサムネイル画像 / [インタビュー]ヴァナ・ディール秘蔵展の仕掛け人×「FFXI」プロデューサー,展示会の裏話から今後の展望まで,大ボリュームの対談でお届け

4Gamer:
 「フェイス ミニアクリルフィギュアコレクション」も,可愛いサイズ感がすごく飾りやすくて。組み立ての手間もいらず,シンプルで扱いやすいのがうれしいです。
 そういえば,会場の物販でピンバッジのラインナップを見て「何で,カブトムシ……?(※)」と首をひねったり,手を叩いて喜んでいたりする方が何人もいらっしゃいました(笑)。あれは,どういった基準で選定されていたんですか。

※カブトムシ=「ピンバッジ キャラクターシリーズ 甲虫」。秘蔵展で発売されたピンバッジは,ほかに「剣虎」「コリブリ」などの,隠れた人気を誇るマニアックな品ぞろえだった

稲葉氏:
 過去,グッズに登場していないキャラクターたちにフォーカスしたかったんです。カブトムシとかトラとか,多分ここで出さないと2度とグッズが出ないんじゃないかと思って。
 ヴァナ・ディールのキャラクターたちって,もしかすると親よりも接してる時間が長いかもしれないので,親密度が高すぎるんです。でもよく見直したら,まてまて,チョコボとか,モーグリすらラインナップにいなかったな……って(笑)。

4Gamer:
 それが大阪開催で発売されるんですね。……ということは,大阪開催が実現しなかったら,世に出なかった可能性もあるのでしょうか。

稲葉氏:
 もしかしたらそういう“黒き未来”もあったのかもしれません。

藤戸氏:
 FFXIと一緒で,この先があるかどうか分からないときに,「ここに神経を注ぎたい!」みたいな気持ちってあるじゃないですか。それが前回のラインナップにつながったんだと,自分は理解しているんです。
 稲葉さんがプレゼンのときに,「冒険者が一番お世話になっているモンスターを集めた」とおっしゃっていました。確かにそうです。でもさすがに,虎やカブトムシをバッジにするだろうか? と。逆に言うと,普通だったらしないんですよ。だから,「ああそいうことか!」って。
 これ勝算あるの? って稲葉さんに聞いたら,「あります!」ってきっぱりおっしゃってたので,そこまで言うなら……とOKを出したんですよ。そうしたら結果,皆さんが喜んでくださいました。

稲葉氏:
 ありがたかったですね。

藤戸氏:
 結果的に次につながったから,スタンダードなラインナップも大阪会場にあわせてフォローできるようになったという。

稲葉氏:
 これらのグッズが,冒険者さんの日常に溶け込めたらいいな,と思っています。


大阪会場で発売される新グッズにも

冒険者目線でのこだわりが満載


4Gamer:
 もう少し大阪会場での新グッズについて聞かせてください。
 ピンバッジのほかにも,「抱き枕 ワーム」など,インパクトのあるラインナップが,冒険者の間で話題になっています。

稲葉氏:
 僕はアクアリウムコレクションを推したいですね。ちなみに今回の大阪開催でグッズを追加したことで,商品点数が100近くになりました。とんでもない量ですね。普通だと,巡回開催の追加でこんなに新グッズを入れないです。

画像集 No.004のサムネイル画像 / [インタビュー]ヴァナ・ディール秘蔵展の仕掛け人×「FFXI」プロデューサー,展示会の裏話から今後の展望まで,大ボリュームの対談でお届け 画像集 No.003のサムネイル画像 / [インタビュー]ヴァナ・ディール秘蔵展の仕掛け人×「FFXI」プロデューサー,展示会の裏話から今後の展望まで,大ボリュームの対談でお届け

4Gamer:
 (「アクアリウム ミニアクリルフィギュアコレクション」の商品サンプルを見て)これ,すごくいいですね……!

稲葉氏:
 僕も仕事でたくさんグッズを作っていますが,ここまで手間をかけたものはそうないですね。

4Gamer:
 コンプリートしたい人,決まったデザインが欲しい人はもちろんいらっしゃると思いますが,どれが出ても可愛くてうれしくて,飾っておきたいラインナップですよね。フィギュアの横に置いても可愛い。飾り方もいろいろと楽しめそうです。

稲葉氏:
 こだわりには理由があって,ゲーム内で初めて金魚鉢を作ったときに,水槽のなかで金魚が泳いでいることと,その美しさに驚いたんです。調度品ってメインコンテンツではないと思うんですが,ここまでやるんか!と(笑)。その思い出を再現したくて,ここまでこだわってみました。

4Gamer:
 手間がかかっていますよね。アクリルを何層にも分けてプリントするという手法は,ほかのグッズでもよく使われるものなんですか?

稲葉氏:
 2層くらいならよくありますが,今回は3層なんです。これはなかなかないですね。細かい絵素材が必要だったので,ゲーム中でアクアリウムに主観でグリグリしながら撮影しました(笑)。

藤戸氏:
 ここはとくに素材提供をしてないんですよ。

4Gamer:
 ご自分で撮影したんですか!?

稲葉氏:
 基本的に,グッズの素材は僕が撮影しています。フェイスは自分だけだと走り回っちゃって撮れないので,会社の同僚に協力してもらいました(笑)。

藤戸氏:
 実はうちでも,素材が必要なときは同じように撮っているんです。

稲葉氏:
 スクリーンショットは近くで撮るとゆがみが出てしまうので,それをフォトショップで整えたりもしています。

4Gamer:
 それもたいへんな作業ですね……。

稲葉氏:
 でも,こういう作業は楽しくて,全然苦じゃないんですよ。
 撮影していると新しいことに気が付いたり,あまり行かなくなったエリアへ行ったりして,観光しているような気持ちでした。FFXIって街中の小物とかもすごく作りこまれてるじゃないですか。バストゥークの武器屋に飾ってある剣を見て,自分もいつかこれを身に着けられるのかなぁ……なんて考えていたことを思い出したり。

4Gamer:
 抱き枕 ワームについて,ワームをあえて選択したのはどういった理由でしょうか。

稲葉氏:
 これは寝る前に浮かんできてメモしたものが,そのまま商品になった気がします(笑)。

4Gamer:
 ワームを抱き枕に,というアイデアを聞いて,藤戸さんはどう思われましたか。

藤戸氏:
 いやあ……。実際,キワモノっていうイメージはあるじゃないですか。それをどう変えていくかだと思うので,「可愛らしくしてください」とお願いしました。

稲葉氏:
 ワームの手触りには,藤戸さんのこだわりが反映されています。藤戸さんは可愛いものへのこだわりが強い!

藤戸氏:
 横の丸い模様とかは,最初フェルトを貼り付けた感じで試作品ができてきたんですが,触ってチクチクする部分があるのはイヤだという話だけはさせてもらって。

4Gamer:
 この感じだったら,ほかのモンスターのぬいぐるみ化もかなり可愛くなりそうです。クロウラーとか,グゥーブーとか。

稲葉氏:
 いいですね! 僕はウィンダス民なので,クロウラーにはたくさん思い入れがあります。


秘蔵展の図録も現在制作中

大阪開催初日には藤戸氏が会場に?


4Gamer:
 今後の展望についても聞かせてください。
 例えば,ここまでの規模じゃないにしてもポップアップストアぐらいの規模で展示や物販を行う予定などはないのでしょうか?

稲葉氏:
 展示している資料全てで秘蔵展と考えているので,一部をピックアップするような形式の展示はいまのところは考えておりません。とはいえ,東京と大阪だけだとなかなか行けないという方がいらっしゃるのも理解していますので,資料を詰め込んだ公式図録を鋭意制作中です!

4Gamer:
 図録は,出版を望む声が多かったですよね。

稲葉氏:
 僕自身も欲しいと思っていましたから! 資料に込められた,開発の皆様の熱量はすごすぎますよ。

藤戸氏:
 FFXIは今,いろいろなものを形に残そうと動いている最中なので,図録はタイミングも良かったんですよね。門外不出的なものを形に残す,良いチャンスでした。
 展示会もそうですし,「朗読劇 ファイナルファンタジーXI 異聞のウタイビト」,あと「ファイナルファンタジーXIV」とのコラボなど,FFXIの話題が増えてきたからか,冒険者さんがちょっと戻って来てくれているんです。これがずっと続けば,25周年,30周年と何かができるのではないかと思っています。今後もいろいろとチャレンジしていきたいですね。

4Gamer:
 では最後に,「ヴァナ・ディールの秘蔵展」の大阪開催について,読者に向けたメッセージをお願いします。

稲葉氏:
 冒険者の皆様の応援があって,秘蔵展は大阪巡回という次のステップへ進むことができました。本当にありがとうございます。年末年始という,慌ただしい時期ですが,会場まで足を運んでくださった方に「この時期でも来て良かった」と思っていただけるようなものを用意するべく,ギリギリまで準備をしていきます!

藤戸氏:
 東京,大阪と違いのある展示会になるので,東京会場に行った方も,大阪会場で面白いと感じてもらえるんじゃないかなと期待しています。「新グッズを手に入れる旅」として計画を立てていただいても,思い出深い展示会になることでしょう。FFXIは来年,22周年を迎えるんですが,21周年の締めくくりとして,素晴らしいものになると信じています。
 自分も,初日に行こうかなと思っていますので,ぜひ会場でお会いしましょう!

4Gamer:
 ありがとうございました。

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「ファイナルファンタジーXI」公式サイト

「FFXI ヴァナ・ディールの秘蔵展」公式サイト

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    ファイナルファンタジーXI

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