インタビュー
「ファイナルファンタジーXI」開発者インタビュー(後編)。松井プロデューサーと藤戸ディレクターが歩んできた20年。現在のヴァナの様子は
前編では,「FFXI」にお二人がどう関ってきたのかと,メジャーバージョンアップが終了してからの7年を振り返ってもらったが,後半では,この20年で変化したそれぞれの人生についてや,現在の,ヴァナ・ディールについてを伺った。
「ファイナルファンタジーXI」開発者インタビュー(前編)。松井プロデューサーと藤戸ディレクターの20年の軌跡と苦難の7年間を聞く
スクウェア・エニックスが開発・運営するMMORPG「ファイナルファンタジーXI」が,2022年5月16日で20周年を迎えた。本作のプロデューサーである松井聡彦氏と,ディレクターの藤戸洋司氏にさまざまな話を伺ったので,前後編の2回に分けてお届けする。
「ファイナルファンタジーXI」公式サイト
「FF11」と共に歩んできた20年
人生や働き方にも変化が
4Gamer:
20周年を迎えた「FFXI」ですが,ご自身の20年を振り返ってみて,変わったことなどはありますか。
松井氏:
20年もあると,人生にも大きな変化がありますよね。「FFXI」の立ち上げ時から結婚していて子供もいたのですが,今では1番上の息子が同業他社でプログラマーをやってたりします(笑)。一人暮らしをしているのでたまにしか会いませんが,ご飯を一緒に食べるときなどに話を聞くと,「頑張っているな」と思いますね。
4Gamer:
息子さんが同じ業界だと,思うこともいろいろありそうですね。ご自身が同じ年代だったころと比べるとどうでしょう。
松井氏:
今のゲーム業界は,基本まともじゃないですか(笑)。僕がこの世界に入った頃は,かなりルーズで……,と言うより,会社で部活動しているような感じでした。
会社に住んで,生活のほとんどがゲーム作りみたいな人がいっぱいいましたから。今は残業や休日出勤の管理もきちんとしているし,ゲームの制作ノウハウもいろいろ確立していますし。
4Gamer:
良く言えば自由。悪く言えばいい加減な会社が多かったような気がします。
松井氏:
20年もあれば,業界や会社に限らずいろんなものが変わります,だから,自分の子供だけでなく,自社の新入社員に対しても,「自分たちがこうやってきた。こうして成長した」という過去の話をしてもしょうがない。
成長のパスは自分たちと違うだろうと思っているので,我々はなるべく老害って言われないよう,隅っこに居ようかなと思うようになりました。
4Gamer:
藤戸さんはどうでしょう。
藤戸氏:
自分はもう波乱万丈です! 7〜8年ぐらい前までは,酒を飲み歩きながら「もうダメだ!」「これからどうしよっかな」「ま,いっか〜!」みたいな感じで毎日を適当に暮らしていたんですが,ひょんなことからやたら味覚の趣味が似ている女性と知り合いまして,結婚に至りました。おかげで非常に常識的な生活を送れてます(笑)。
ちなみに,結婚する直前に,彼女が「FFXI」のプレイヤーであることを知りました。
4Gamer:
「FFXI」を通じて知り合ったわけではないんですね。奥さんは,藤戸さんのことを“開発者”だとは知っていたのですか。
藤戸氏:
まったく知らなかったというか,「FFXI」のコアプレイヤーなんですが,開発に対する興味は全くなかったみたいです。
当時は,「アドゥリンの魔境」がリリースされた時期で,妻は“スカーム”などを主催する,かなりデキる竜騎士だったんですけど。
4Gamer:
一緒にプレイすることもあったんでしょうか。
藤戸氏:
それがですね……。一緒にプレイすると,あまりの効率の悪さに怒られるんですよ。なので,別々で行動することが多かったです。
結婚は,開発チームが少人数体制に移る1年間前ぐらいでしょうか。新体制に移行した頃に子供ができて,そのタイミングで育休をもらいました。
4Gamer:
積極的に子育てに関わっているのですね。飲み歩いてたという藤戸さんからは想像できない変化です(笑)。
藤戸氏:
松井からもアドバイスとして「初動が大事だ」と教えてもらっていたので,家のことを優先させてもらいました。
2か月程度の育休だったのですが,今のように在宅業務はできないときでしたし,ずっと家事をしていたら閉塞感がすごくて……。これ,パパママになる人は大変だなって思い知りました。
家族を招待する社内のイベントで,2か月になった上の子をお披露目してと,ドタバタした生活を送っています。
4Gamer:
たしかに,波乱万丈ですね。現在は落ち着いてきた感じですか。
藤戸氏:
まだまだてんやわんやな状態です。都内だと保育園に入れないので引っ越して,ローンを背負いました。そこでふたり目の子供が生まれたんですが,その後すぐにコロナ禍になってと。
在宅勤務ができる体制になったので,今も子供の面倒を見ながら働いているのですが,どちらもほったらかしにはできないので,仕事と家庭のバランスをとるのが難しいです。松井さん含め,メンバー全員に協力をお願いして,なんとかやりくりしてます。
松井氏:
20年前には想像できない姿だよね。
藤戸氏:
一緒に働いているメンバーにも,何人か子育て中の人がいるんです。なので,家庭の事も考えられるように,個々が受け持っているタスクを洗い出して,スケジュールが生活を圧縮しないように調整して……,ということを自分の作業を含め取り組んでいますね。
昔,ひとりだったときはこんなことは全然考えなかったのになあ。
4Gamer:
オンラインゲームのサービスが長くなるにつれて,プレイヤーも年を取っていくという話はよく耳にしますが,そういえば開発者も同じだけ歳をとるんですよね。
松井氏:
現在の開発チームでは,たとえ新しい人が入ってきたとしても,その人のキャリア的にプラスなことを教えられないんです。今は「FFXI」のことが好きでやっているベテランスタッフだけでほとんどのことをやっているので,20周年を身近に感じながら,自分たちもそれだけの歳をとったんだなあと思っている感じです。
藤戸氏:
自分が開発チームに入ったのは,リリースの2年前で28歳のときなんです。なので,今年で50歳になったんですよ。えっ!? 50歳!
松井氏:
開発者同士,昔はゲームの話ばっかりしていたんですが,今では健康に関する話も多くなってきました(笑)。
20周年を迎えた今だからこそ遊んでほしい「FFXI」
4Gamer:
現役プレイヤーはもちろんですが,昔プレイしていた人にとっても,サービスが続いているというのは故郷があるみたいでいいですね。
松井氏:
懐かしく思ったら,またヴァナ・ディールに足を踏み入れてみてください! 昔ほどプレイに時間が取れない人も,あまりガチでやろうとしなければ楽しく遊べると思いますから。
今はレベルも上げやすくなっていますし,新しいアカウントやキャラクターを作って遊ぶのも新鮮味があると思います。
4Gamer:
エミネンス・レコードの課題を達成しながら,レベル上げはフェイスと一緒にフィールド・オブ・ヴァラーを……,と進めていれば,ソロプレイでもサクサク進みますよね。
松井氏:
ミッションやクエストを進めるための道筋も用意しているので,新規や復帰勢も遊びやすくなっているかなあと。
4Gamer:
レベル上げですが,キャップの99に到達していないプレイヤーにオススメしたいコンテンツはありますか。
藤戸氏:
レベル上げは,モンスターを倒して経験値を稼ぐのが基本なので,同じことの繰り返しになりがちなんですよね。フィールド・オブ・ヴァラーなんかも,結局はモンスターを倒さないといけないわけですし。
飽きずにレベル上げをしたいのであれば,あちこちのエリアに旅をしてお話を進めながらというのがオススメでしょうか。
4Gamer:
「FFXI」を初めてプレイするといった新規プレイヤーが,レベル99まで上げるのにどのくらいの時間がかかるんでしょうか。
松井氏:
MORPGやMMORPGなどのオンラインゲームの知識がある人や,インターネットで集められる人なら3日もかからないんじゃないでしょうか。
先ほどのオススメとは話が逆になりますが,まずはレベル99まで淡々と上げて,そこからILv117の装備をエミネンス・レコードの交換などで入手してからの方が,ミッションなどを進めやすい気もしますね。ただ,レベルキャップ開放のために,3国のミッションはある程度進める必要もありますが。
藤戸氏:
レベル99まで上げると,基本的にどこでも1人で行けるようになるので,プレイの幅もかなり広がりますからね。ただ,ミッションの後半は敵が強いので,ILv装備も用意しておかないと負けることもあります。
あと,限界突破クエストは今でもレベル50から5レベルごとにクリアする必要があります。ただ,今はレベルを上げやすいので,一時的にそのクエスト群に集中する感じになると思いますが。
松井氏:
レベルアップのスピードが上がった代わりに,手間に感じるようになったクエストもありそうです。チョコボの免許を取るの,こんなに大変だったっけと思ったりとか。
藤戸氏:
チョコボといえば,移動もかなり楽になってます。少し前に実装した「ホームポイントワープ」は,一度調べたことのあるホームポイントにワープできるものです。未到達のホームポイントは,マップを見たときにちょっと点滅していて場所が分かるようになっているので,まずはそれを探す旅をしてみるのもいいでしょう。
松井氏:
便利なんだけど,そのせいで僕はもうユタンガを抜けられない気がする……。
藤戸氏:
昔は徒歩やチョコボでの移動がメインだったので,自然と道を覚えましたが,今は歩くことも少ないですかねえ。あの辺のマップは,ちょっといやらしくもありますし(笑)。
コラボカフェを含むオフラインイベント
20周年記念や次回の開催の予定は?
4Gamer:
2020年に,SQUARE ENIX CAFEで開催された「ヴァナ・ディール カフェ」ですが,展示や料理のクオリティが高く驚きました。20周年を迎えたこともあり,次回の開催を望む声も多いのではないのでしょうか。
藤戸氏:
コラボカフェは,悪い話も聞かず安心したのですが,時期が,新型コロナウイルス感染拡大の第2波にあたってしまいまして……。
松井氏:
現在もコロナ禍ということもあり,次回の開催はいまのところ難しいと思っています。
藤戸氏:
あと,来てくださった人の反応はとてもよかったのですが,体験できたお客さんがそもそも少ないんです。東京と大阪の店舗限定ということもあり,遠方に住んでいると足を運べない人もいますから。
好評なのはありがたいのですが,また開催できたとしても,同じような状態になるのであれば,厳しいかなあと。
4Gamer:
オフラインのイベントは,開催場所が遠い人からすると厳しいですよね。全国でやるというわけにもいきませんし。
松井氏:
コラボ自体は,ショップ側から「一度やってみないか」という話を持ちかけられた形での開催だったんです。食べ物や飲み物にはかなりこだわってもらいましたし,ちょっとした遊びも入れてみたりと,イベントの質はよかったと思いますね。
藤戸氏:
監修がとにかく大変でした。すごく見るべきものが多くて。「展示物とかありますか?」と聞かれて,そういえばあったなと,飛行艇のモデルを引っ張り出して来たら,端が折れていたり羽が取れていたりと。どれも壊れてるから慌てて修理してしましたよ(笑)。
4Gamer:
コラボカフェでも扱っていましたが,グッズは新作が定期的に出ていますよね。
松井氏:
グッズの製作は,開発から依頼することもありますが,基本的にはMD(マーチャンダイジング)部が企画しています。今のプレイヤーが欲しいグッズで,実現可能なものを考えるのは毎年の課題です。
鉄板なのはTシャツとかマグカップとかですが,それ以外のグッズとなると,収益も兼ねて考えないといけないので,なかなか厳しいんですよね。
4Gamer:
Tシャツのデザインが毎回素敵ですよね。マンドラゴラが体に張り付いているものや,山串がデザインされているものは,派手ながら普段使いもできそうで。
藤戸氏:
マンドラゴラのTシャツは,皆川史生先生のデザインです。普段着として使えるようにすることは,担当がこだわった点ですね。
4Gamer:
ゲームのリリースから20年経った今でも,新作にグッズが発売されるというのはすごいですよね。
藤戸氏:
買ってくれる人がいるわけなので,非常にありがたいことです。
20周年を迎えて
これからの「ファイナルファンタジーXI」
4Gamer:
最後になりますが,これからの「ファイナルファンタジーXI」は,どうなっていくのか。そしてプレイヤーへの言葉をお願いします。
松井氏:
この20年で,自分のゲーム制作への考え方もだいぶ変わりました。昔は,小説や映画のように,作り手の個性を選んでもらうため,なるべく自分の考えだけで制作したほうがいいと考えていましたが,MMORPGは,遊んでくれている冒険者さんもコンテンツの一部で,NPC以上に濃い別のプレイヤーのおかげで,より面白いものになっていくのだという考えを持つようになっています。
いいコミュニティが育ってくれないと,いいMMORPGにはできない。それに20年かけて気が付いたわけです。
「FFXI」は,とても素敵なコミュニティに恵まれたなと思っていて,プレイヤーの皆さんには感謝しかありません。今は,20周年の企画でまだお届けできてないものを作り上げることに専念しています。
そこをきちんとやらないと,この先もないと思っていますので。具体的な話ができる段階ではないのですが,今後に関しての構想自体は持っています。
今のヴァナ・ディールなら,大体2か月もあれば,星唄までのストーリーは全部追えるかなと思うんです。新規プレイヤーの方はもちろん,離れていたプレイヤーの皆さんにも,新鮮な気持ちで20年目を楽しんでみてほしいです。20周年,一緒に楽しみましょう。
藤戸氏:
現在は開発の環境がかなり厳しく,更新がかけられないため,拡張版のようなアップデートを実施するのは非常に難しいです。
どれだけサービスを維持していけるのかに注力しているのですが,まずは20周年に対してやるべきことをやっていこうと思っています。
20年という時間を経て,プレイヤーの皆さんのプレイスタイルも多種多様になってきました。そんな中,「FFXI」らしさを失わず,かつ接しやすい環境を整備してきたという自負があります。
遊ぶ時間を無理に作る必要はもうなくなっていて,「ちょっと見てみようかな?」というような,気軽に軽に立ち寄れる世界になっていますので,離れてしまった人は,ぜひ里帰りを兼ねて覗いてみてください。
プレイをずっと続けている人は、今後も無理のない毎日を楽しんでいただけたらと思います。もちろん,新規さんも大歓迎です。
4Gamer:
本日は,たくさんの貴重なお話をありがとうございました。
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