レビュー
Creativeの「これまでにないサウンドデバイス」を試す
Creative Sound BlasterAxx SBX 20
これは割と,というかかなりユニークな製品で,あえて一言でまとめるなら「USB接続のアンプ内蔵型スピーカー」なのだが,実のところ,「スピーカーとマイクを内蔵したUSB接続型サウンド入出力デバイスでありながら,標準でアナログ入力もサポートし,さらに別売のUSB電源アダプタを使用することで,スタンドアローンのBluetooth接続型ワイヤレスサウンド入出力デバイスにもなる(※最下位モデルだけはワイヤード専用)」という代物だったりする。加えて,ステレオスピーカーなのにユニットは1本で,なら最近流行している“サウンドバー”的に横置きするのかと思いきや縦置きタイプで,これまたインパクトが大きい。
CreativeはSound BlasterAxxを「これまでにないサウンドデバイス」と位置づけているのだが(関連記事),果たしてゲーマーに新しいサウンド体験をもたらしてくれるのか。今回は発表時点の最上位モデル「Sound BlasterAxx SBX 20」(以下,SBX 20)を細かくチェックしてみたいと思う。
六角柱にステレオスピーカーとマイクを内蔵し
USB,アナログ,Bluetooth接続に対応
同社の製品情報ページを頼りに話を進めるが,そこで公開されている画像を見ると,左右のスピーカーは縦に,それぞれ正面に対し外を向くような形で配置されているのが分かる。Creativeはこれを「Stacked Speaker」(スタックスピーカー)デザインだとしているが,実際,スピーカーを覆うネット越しに触ってみた感じだと,40mm前後のスピーカードライバーを持つユニットが縦に2つ並んで配置されているようだ。
スピーカーユニットが外を向いているのは,ステレオ感を少しでも稼ごうという意図ではなかろうか。
さて,冒頭でも紹介したとおり,SBX 20はサウンド入力にも対応しており,「無指向性アレイマイク」が内蔵されているのだが,マイクの場所は,外から触るだけでは分からなかった。おそらく,「PCI Express Sound Blaster Recon3D」(以下,Recon3D)のミドルクラス以上に付属するアレイマイクと似たようなものが搭載されているはずで,だとすればマイクの口径も小さいと思われるため,外から触ったくらいだと分からないのは納得できるところだ。
スピーカーの配置を考えれば,マイクはその上,六角柱のかなり天板寄りに置かれていると考えるのが妥当ではなかろうか。
天板の話が出たので続けると,SBX 20で,本体側の操作系はほとんどが本体天板部にタッチセンサーとして用意されている。後述する各種効果のオン/オフはもちろん,音量調整すらタッチ操作で可能というのはスマートだ。
タッチセンサーだと,感度次第ではストレスの原因となりやすいが,意図しない操作が発生することはほとんどなかったので,操作性も良好と述べていいだろう。
天板部のタッチセンサー部。電源投入後しばらくはすべてが白く光るのでそれを撮影した。中央の線が音量調整用スライダーである |
スライダーでは本体中央の白いバーを前後(上下)にドラッグすることで音量調整を行える。ドラッグすると,バーが少し遅れて着いてくるイメージだ |
電源はUSBバスパワード。PCやMacとは付属のUSBケーブルで接続するだけで給電される仕様だ。「USB接続時はBluetooth接続できない」といったこともなく,PCとUSB接続しつつ,Bluetoothで受けることは可能だ。というか,これほど大きなユニットをUSB給電で駆動できるというのには少々驚かされる。
Bluetooth接続時についてもう少し細かく説明しておくと,iPhoneやiPadではAirPlay再生に対応するのが大きな特徴だ。iOSデバイスから音楽を再生するとき,イヤフォンや内蔵スピーカーではなく,SBX 20へと即座に切り替えられるので,外出中はイヤフォンで音楽を聴き,帰宅したらSBX 20で続きを聴くといったことも簡単に行える。
ただし,SBX 20でサポートされるコーデックは,AACと,Bluetoothにおける標準の不可逆圧縮コーデックであるSBC(SubBand Codec)だ。AACフォーマット以外のサウンドファイルは,音楽であろうとゲームのBGMや交換音であろうと,SBCによる再圧縮から逃れられない。もう少しはっきりした言葉でいうと,音質が低下する可能性から逃れられないので,この点は押さえておいたほうがいいだろう。
搭載するDSPはCreative独自の「SB-Axx1」
PCやMac,Android,iOSから設定をカスタマイズ可能
ともあれ,Sound Core3Dベースとなるため,採用されているオーディオプロセッサ(≒サウンド処理)は,Sound BlasterシリーズのPCI Express接続型サウンドカード最新モデル「Sound Blaster Z」と同じく,出力系が「SBX Pro Studio」,入力系が「CrystalVoice」となっている。
SBX Pro Studioは,Creativeの「Sound Blasterブランド名強化」の一環で改名されたもので,Recon3Dの「THX TruStudio Pro」との間に機能面の違いはない。なので,SBX Pro StudioやCrystalVoiceの詳細は,しつこいくらい説明しているRecon3Dのレビューを参照してほしいと思う。
タッチパネル上の仮想ボタンに触れることで,SBX Pro Studioのエフェクトは,[SBX]ボタンから一括してオン/オフを切り替え可能。CrystalVoiceではノイズ低減機能「Noise Reduction」と,アレイマイクに用意された2基の無指向性マイクを使って,マイクの指向性を高める,いわゆるビームフォーミング機能「Voice Focus」を個別にオン/オフできる。さらに,スピーカーおよびマイクのミュート機能や,スマートフォンにかかってきた電話をとれる通話ボタンも,天板部に用意されている。
主要機能の基本操作が本体で完結しているのは素直によいと思った。
いまSBX Pro Studioの設定は一括でオン/オフと述べたが,個別の設定は,Creativeが配布しているツールにより変更可能だ。PCおよびMac用は「Sound BlasterAxx コントロール パネル」,AndroidおよびiOS用は「Sound Blaster Central」といった具合に名前が異なっており,入手先もPC&Mac用がCreativeのダウンロードページ,Andorid用がGoogle Play,iOS用がApp Storeと異なるものの,いずれからも設定の変更は可能だ。
また,Android版とiOS版にはアラーム機能が用意されており,SBX 20を巨大な目覚まし時計(のアラーム再生装置)として利用できるのも特徴といえるだろう。
なお,言うまでもないことだが,設定内容は音楽だけでなく,ゲーム(やムービー)でも有効だ。
Android版Sound Blaster Centralのユーザーインタフェース。SBX Pro StudioやCrystalVoiceの設定画「スピーカー設定」「マイク設定」といった形で用意され,各種オーディオプロセッサの細かな設定も行える。右は代表して掲載したアラームの設定メニュー | ||
こちらはiPhone版のSound Blaster Central。再生ソフトが統合されている |
なお,SBX 20独自の設定項目としては,「高度な機能」の「USB電力を最適化してスピーカー性能を向上」というチェックボックスが挙げられる。これにチェックが入っていると,電力消費を気にすることなく,スピーカードライバーを駆動させるようになる。ただ,これによって音量や音質が変わることは(少なくとも聴感上は)まったくないので,基本的には標準設定のまま,チェックなしで使ってしまって構わない。
出力音質はユニークな形状の影響を受けている印象
Android&iOS端末向けとの組み合わせが“主”か
気になる音質検証に入ろう。筆者のスピーカーレビューでは,音響補正システム「ARC」の計測ツールと,試聴を用いる。ARCを用いたテスト方法の詳細は本稿の終わりにまとめたので,興味のある人は参考にしてほしいと思う。
今回用意した比較用リファレンスは,筆者の音楽制作用メインモニターである,ADAM製パワードスピーカー「S3A」。S3Aは数十万円クラスの製品なので,「用途も価格も違いすぎる」と思う読者はいると思うが,比較対象がないと波形の見方がたいへん分かりにくくなるので,あえて用いる次第だ。
SBX Pro Studioを無効化し,“素”の状態で出力していることをあらかじめお断りしつつ,テスト結果を下のとおり示してみたい。
SBX 20のARC2実行結果。本稿の最後にまとめてあるように,白はARC2による補正後の波形だ。SBX 20自体の波形はオレンジ色のほうを見てほしい |
S3AのARC2実行結果。やはり,オレンジ色の波形がS3Aのテスト結果である |
ぱっと見て気づくのは,S3Aと比べて,左右の波形の違いが大きいこと。左右の高さが均一でない,スタックスピーカーデザインであるというSBX 20の仕様が,こういう結果を生んでいるのだと思われる。
また,聞こえる音の心地よさを左右しやすい,プレゼンス(Presence)と呼ばれる2kHz〜4kHzの帯域がSBX 20は相対的に大きい一方,15kHzくらいより上で一気に落ち込んでいるのも気になるところだ。15kHzくらいから上はほとんど再生されていないと判断していいだろう。
S3Aだと,20kHz付近でも6dB程度しか落ち込んでいないので,「筆者の自宅スタジオ側に何らかの問題があって,高域がフィルタリングされている」とは考えにくい。
というか,一人暮らしの典型的な室内であれば,音量設定は3くらいが上限だろう。SBX 20の音両設定は,1目盛りでの変化が大きく,正直,6以上はほとんど使い物にならない。もう少し低い音量で細かく設定できたほうがよかったのではなかろうか。
また,スタックスピーカーにより音場の広がりがまったく感じられないのも気になった。SBX Pro Studioの「Surround」設定を「100%」にしても,ステレオ感はほぼ皆無だ。まあ,「仮にスピーカーをリスナーから外に向ければステレオ感が増す」のであれば,テレビでも映画館でも制作スタジオでもスピーカーはすべて外を向いているはずである。もちろんそうはなっていないので,これは想像どおりといったところだが。
Creativeの「Surround」プロセッサ自体には十分な効果があることが,これまでのテストから明らかになっている。このプロセッサは,HRTF(※)を応用してマルチチャンネル再生を2chへダウンミックスして,ステレオスピーカーでリアスピーカーの音源を擬似的に定位させるアルゴリズムを用いるのだが,SBX 20にとって問題となるのは,この方式が,指向性の強い高周波をきちんと再生できるスピーカー(やヘッドフォン)ではじめて十分な効果が得られるものであるということだ。
なので,15kHz以上をほとんど再生できず,10kHz前後も弱い――「Crystalizer」を使えば多少の改善は図れるものの,SBX 20の高域特性を前にするとそれは焼け石に水だ――SBX 20にはつらい,ということになる。
※Head-Related Transfer Functionの略で,日本語では「頭部伝達関数」。人間の耳は,音がどこから聞こえたかを「頭や耳の形によって,どれだけ歪んだ状態で鼓膜に届いたか」で判断するようにできている。この「歪み方」を数値化したものをHRTFといい,HRTFを応用すれば,実際には音源が存在しない場所から音が聞こえているように錯覚させることができるという理屈だ。
筆者は持論として,「ほとんどの低価格な民生オーディオ機器はそもそも10〜12kHz以上は再生できない。なので,それらにバーチャルサラウンドスピーカー機能を搭載するのは無意味だ」と考えているが,今のところこの考えが否定されたことは一度もない。
ところで,今回は筆者手持ちのスマートフォン「INFOBAR A01」(Android 2.3.3)とiPhone 5(iOS 6.0.1)を用い,Bluetooth接続時の音も検証してみたが,近くにスマートフォンを置いておく分には,音も途切れず,快適に利用できる。
前述のとおりBluetooth 2.1+EDR仕様であるため,Android接続だと音が再圧縮され,PCとの接続時と比べるとレンジが狭くなり,高域のザラザラした印象も出てくる。典型的なBluetooth 2.xの音といったところだが,皮肉ではなく,そもそもスピーカーの品質がご覧のとおりなので,極端に音が悪化した印象は受けなくて済む。SBCによる再圧縮を伴わないAAC出力でも,音質に大きな違いはない。
あるいは,ハイファイ感はなくなるが,落ち着いた音になる「クリアコミュニケーション」も使いでがあると思う。
マイク特性は上限下限があるものの総じて優秀
Noise ReductionはONがお勧め
続いてはマイク入力である。マイク入力テストは筆者のヘッドセットレビューに準じて行うので,ここで使うのはWaves Audio製オーディオアナライザソフト「PAZ Psychoacoustic Analyzer」による波形測定と,録音した音の試聴だ。こちらも詳細なテスト方法は本稿の最後,出力検証方法説明の次にまとめたので,興味のある人はチェックしてほしい。
なお,PAZのテストにあたってCrystalVoiceは無効化している。
さて,Creativeはアレイマイクの周波数特性に関する情報を公開していないのだが,下に示したとおり,PAZで計測してみると,大きな落ち込みがないのは125Hz〜8kHzあたりであることが分かる。リファレンスとは異なるうえ,125Hzの山はリファレンスと比べて大きいが,これくらい穴のない特性なら,まずまず優秀と言っていいと思う。
Recon3Dのレビューでも説明したが,周波数特性のグラフが8kHzですっぱり切れているのは,処理能力の関係で,SB-Axx1の入力サンプリング周波数が16kHzになっているためだろう。ビームフォーミング機能(Focus)やノイズ低減機能(Noise Reduction)はDSPの“消費量”が高いため,こういった機能を採用する製品では多くの場合,ハードウェアレベルで16kHzまででサンプリング周波数の制限がかかっている。入力系オーディオプロセッサを採用している以上,この特性はいまのところやむを得ない。
一方の位相特性は大変良好。無指向性マイクを複数個搭載していることを考えると,多少なりともズレそうなのだが,不思議なことにキレイなままだ。ひょっとするとCrystalVoiceを無効化するとマイクは1基しか使われないようになっているのか,はたまたCrystalVoiceが無効化されている状態でも何らかの処理が入っているのか,詳細は分からないが,いずれにせよ問題はないと述べていいだろう。
実際に音を録音してみた印象だが,まずCrystalVoice無効時は「素朴で素直な音質傾向」といったところ。
通常我々が聴いているニュースキャスターの声や映画やドラマの声には必ず音響処理――周波数補正とダイナミックレンジ補正――がかけられている。そういった音響処理が入っておらず,かつクセのない周波数特性なのだから,この結果は当然といえる。
少々気になったのは,CrystalVoiceのデフォルトプリセットだと「Noise Reduction」が無効化されていること。Noise Reductionが無効化されたままCrystalVoiceを有効化してしまうと,音響補正によってノイズも持ち上がるので,この点は注意したいところである。
筆者のヘッドセットレビューで繰り返してきているように,入力時に集音されたノイズ成分は,その後のネットワーク転送時に変調がかかって,チャット相手や通話相手へ伝わる声の明瞭感を低下させ,最悪の場合には話者が何を言っているのか分かりづらくする原因となるので,入力時のノイズはできる限り抑えるほうがいい。
ヘッドセットの場合,マイクと口の距離が極めて近いので,指向性さえ適切に設計してあればノイズリダクション機能がなくても何とかなったりするが,SBX 20の場合,マイクと口の間は少なくとも数十cmは離れるはずで,それだけ環境ノイズを拾いやすくなる。なので,Noise Reductionの有効化は必須なのだ。
CrystalVoiceの「Noise Reduction」は,有効化すると多少鼻づまり気味の音になるが,幸いにしてマイク自体の周波数特性が良好なので,ノイズ低減による負の影響はほとんどないまま,すっきりとした音で入力を行える。何も考えず,常時有効で構わないだろう。
もう1つ,ビームフォーミング機能である「Focus」は,Recon3D付属のマイクと比べると性能が向上している印象だ。
あまりにスピーカーからの出力音量が大きすぎるとダメだが,そうでなければ,SBX 20からサウンド出力を行い,さらに別途テレビから音声出力をさせているような局面でも,チャットへ通話への影響はかなり抑えられている。
AndroidやiPhoneと組み合わせ
カジュアルに使いたい人向け
縦型のシングルユニットというのも,たとえば部屋の端にある台とか,ベッドサイドとか,そういう場所へ,邪魔にならないように置く,インテリア的な使い方が想定されているのではなかろうか。極論,ポータブルデバイス向けのバッテリー機器と接続した状態ですら動作するわけで,電源さえ確保できる場所ならどこでもAndroid&iOSデバイスのサウンド周りを拡張できるということに重きが置かれている製品に見える。
どう使うかが最も重要なので,その姿形を見て,置き場所のイメージがぱっと湧いた人には勧められるデバイスとも言えそうである。
……とはいえ,「もう少し音響調整をちゃんとやろうよ」と感じたのも事実。とくに再生側の調整が「ぬるい」どころのレベルでないのは大変気になった。PCサウンドの世界の重鎮なのだから,いくら新機軸を打ち出すにしても,せめて同価格帯のマルチメディアスピーカーに迫るくらいの音質は確保してほしい。そう思うのは,それほど無理な注文でもないと思うのだが。
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クリエイティブメディアのSBX 20製品情報ページ
■ARC2を用いたスピーカー出力測定方法
スピーカーシステムの品質評価にあたっては,伊IK Multimedia製の「ARC2」(Advanced Room Correction 2)というシステムを用いる。
ARCは,米AudesseyのRoom EQ(ルームイコライザ)技術を採用した音響補正用プラグインで,計測用マイク――表記はないが,おそらく独Behringer製――と計測用ユーティリティソフトも同梱された,いわばルームアコースティック計測・補正用のトータルソリューションだ。ARC2はその最新版である。
Audesseyは,部屋の音響や,マルチチャネルスピーカーの位相&遅延補正を含めた音響補正を行うRoom EQ技術のなかでも,トップクラスの技術を持つ会社。国内ではデノン製のAVアンプなどで採用されているが,IK Multimediaがこの技術のライセンスを受け,米Avid製の音楽制作システム「Pro Tools|HD」から利用できるようにしたのが,今回取り上げるARC2ということになる。
言うまでもないことだが,目的は「テスト対象となるスピーカーの音響補正」ではない。部屋の音響を含めた計測結果を得ることが目的なので,ARC2の用途としては相当に特殊だといえるだろう。
ARC2では,室内の最低12か所,スピーカーの前方前面約1.2×0.8mくらいの範囲で,椅子に座った状態における成人男性の耳と同程度の高さに設置したマイクの置き場所を任意に変えながら,専用ユーティリティで計測用のノイズを出力して,集音を繰り返す。それにより,スピーカーから出力された音が部屋の各所で反射することも踏まえた,精密な周波数特性を計測できるのが特徴だ。今回は筆者のスタジオ内12か所で計測することにしている。
なお,テストにあたっては,まずPro Tools|HDがインストールされたMac Pro上で,ARC2に付属する計測ソフト「ARC System 2 Measurement」を起動。ウィザードに従って設定していくと計測用信号が再生されるので,これをアンプへと入力し,アンプ経由でスピーカーから出力することになる。ARC2で測定するのは,このスイープ信号だ。
なお,スイープ信号の出力は,今回,アナログ入出力に飲み対応したSPL製のモニターコントローラ「Surround Monitor Controller Model 2489」(以下,Model 2489)を経由してSBX 20へ入力する。筆者は普段の音楽制作時にCrane Song製の「Avocet」を用いているのだが,今後,サラウンドスピーカーセットを検証することになる可能性を考慮し,スピーカーのテストでは5.1ch対応製品にした次第である。
SBX 20で再生した信号は,ARC2の専用マイクで収録した信号をいつもの独RME Quad Preでレベルマッチングを行ってから192I/Oに入力して解析,という流れになる。
ARC2による測定結果は下に示したとおりだが,オレンジ色の波線が計測結果で,白色のそれは,Audesseyの考える「フラットな」補正結果となる。「もともとオレンジ波線のような状態でしたが,Room EQ処理により,この部屋でこのスピーカーシステムをこの配置で再生したとき,適切な音≒白波線になるよう,デジタルで補正しましたよ」ということを示しているのだ。
波形が2つあるのは,ARC2が,左右のスピーカーを独立して補正するため。左右で波形に違いがあるのは,筆者のホームスタジオだと,右スピーカーが壁に近く,左スピーカーは逆に遠く,加えて左スピーカー横の壁が窓になっていて,音響特性に違いがあるためである。つまり,部屋の音響の違いをARC2では計測できるというわけだ。
なお,本テストにおいては,今回から入出力含め、すべて192I/Oを使用している。出力側はMac Pro→192I/O→SMC2489という信号の流れである。
■マイク特性の測定方法
マイクの品質評価に当たっては,周波数と位相の両特性を測定する。測定に用いるのは,イスラエルのWaves Audio製オーディオアナライザソフト「PAZ Psychoacoustic Analyzer」(以下,PAZ)。筆者の音楽制作用システムに接続してあるスピーカー(ADAM製「S3A」)を,SBX 20の前方30cmのところへ置いてユーザーの口の代わりとし,スピーカーから出力したスイープ波形をSBX 20のアレイマイクへ入力する流れになる。
PAZのデフォルトウインドウ。上に周波数,下に位相の特性を表示するようになっている
PAZを動作させるのは,Sony Creative Software製のサウンド編集用アプリケーションスイート「Sound Forge Pro 10」。スピーカーからの信号出力にあたっては,筆者が音楽制作においてメインで使用しているAvid製システム「Pro Tools|HD」の専用インタフェース「192 I/O」からCrane Songのモニターコントローラ「Avocet」へAES/EBUケーブルで接続し,そこからS3Aと接続する構成だ。
Avocetはジッタ低減と192kHzアップサンプリングが常時有効になっており,デジタル機器ながら,アナログライクでスイートなサウンドが得られるとして,プロオーディオの世界で評価されている,スタジオ品質のモニターコントローラーだ。
測定に利用するオーディオ信号はスイープ波形。これは,サイン波(※一番ピュアな波形)を20Hzから24kHzまで滑らかに変化させた(=スイープさせた)オーディオ信号である。スイープ波形は,テストを行う部屋の音響特性――音が壁面や床や天井面で反射したり吸収されたり,あるいは特定周波数で共振を起こしたり――に影響を受けにくいという利点があるので,以前行っていたピンクノイズによるテスト以上に,正確な周波数特性を計測できるはずだ。
またテストに当たっては,平均音圧レベルの計測値(RMS)をスコアとして取得する。以前行っていたピークレベル計測よりも測定誤差が少なくなる(※完全になくなるわけではない)からである。
結局のところ,「リファレンスの波形からどれくらい乖離しているか」をチェックするわけなので,レビュー記事中では,そこを中心に読み進め,適宜データと照らし合わせてもらいたいと思う。
用語とグラフの見方について補足しておくと,周波数特性とは,オーディオ機器の入出力の強さを「音の高さ」別に計測したデータをまとめたものだ。よくゲームの効果音やBGMに対して「甲高い音」「低音」などといった評価がされるが,この高さは「Hz」(ヘルツ)で表せる。これら高域の音や低域の音をHz単位で拾って折れ線グラフ化し,「○Hzの音は大きい(あるいは小さい)」というためのもの,と考えてもらえばいい。人間の耳が聴き取れる音の高さは20Hzから20kHz(=2万Hz)といわれており,4Gamerのマイクテストでもこの範囲について言及する。
周波数特性の波形の例。実のところ,リファレンスとなるスイープ信号の波形である
上に示したのは,PAZを利用して計測した周波数特性の例だ。グラフの左端が0Hz,右端が20kHzで,波線がその周波数における音の大きさ(「音圧レベル」もしくは「オーディオレベル」という)を示す。また一般論として,リファレンスとなる音が存在する場合は,そのリファレンスの音の波形に近い形であればあるほど,測定対象はオーディオ機器として優秀ということになる。
ただ,ここで注意しておく必要があるのは,「音声チャット&通話用マイクだと,15kHz以上はむしろリファレンス波形よりも弱めのほうがいい」ということ。15kHz以上の高域は,人間の声にまず含まれない。このあたりをマイクが拾ってしまうと,その分だけ単純にノイズが増えてしまい,全体としての「ボイスチャット&通話用音声」に悪影響を与えてしまいかねないからだ。男声に多く含まれる80〜500Hzの帯域を中心に,女声の最大1kHzあたりまでが,その人の声の高さを決める「基本波」と呼ばれる帯域で,これと各自の声のキャラクターを形成する最大4kHzくらいまでの「高次倍音」がリファレンスと近いかどうかが,マイク性能をチェックするうえではポイントになる。
位相は周波数よりさらに難しい概念なので,ここでは思い切って説明を省きたいと思う。PAZのグラフ下部にある半円のうち,弧の色が青い部分にオレンジ色の線が入っていれば合格だ。「AntiPhase」と書かれている赤い部分に及んでいると,左右ステレオの音がズレている(=位相差がある)状態で,左右の音がズレてしまって違和感を生じさせることになる。
位相特性の波形例。こちらもリファレンスだ
マイクに入力した声はチャット/通話相手に届く。それだけに,違和感や不快感を与えない,正常に入力できるマイクかどうかが重要となるわけだ。
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