特集 : 切込隊長 vs. 徳岡正肇。「ハーツ オブ アイアンII」お茶の間コアゲーマー対談

切込隊長 vs. 徳岡正肇。「ハーツ オブ アイアンII」お茶の間コアゲーマー対談

前編:ボードゲームからコンピュータマルチプレイへ

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Text by Guevarista,Photo by 佐々山薫郁

 

1980年代文化としてのボードゲーム

 

4Gamer:

 製品のダメなところはダメなところなりに楽しむという,クローズドコミュニケーションが機能していましたねえ。かつては。しかし,ここまでお聞きしたところでも,かなりボードゲームをやり込んでいる感じなんですね。

切込隊長:

 ええ,やり込んでますよ。

4Gamer:

 ええと……あ,いや。徳岡さんの年代(1970年代半ば生まれ)でやり込めたのだから,必ずしも無理ではないのか。

徳岡正肇氏:

 ただ,私は割と特殊な例に属すると思います。

4Gamer:

 かつて作戦級を中心としていたボードゲーム市場が,1980年代末にはカードゲームとマルチプレイヤーズゲームに席巻されていき,いつしかヘックスを愛して止まない人々は減少の一途をたどっていったというのが,ここまでの経緯ですよね?

切込隊長:

 寂しい話ですがそのとおりですね。

徳岡正肇氏:

 私の時代だと,大学などにボードゲームサークルがあり,そこに作品と人材の蓄積があって,ようやくプレイできたという感触です。

切込隊長:

 「ディプロマシー」とか「超人ロック」とか,やりまくりました。

徳岡正肇氏:

 ええ,やはり「ロック」でしょう。

切込隊長:

 ボードゲーム自体のルールのほかに,各大学(のゲームサークル)が持っているローカルルールがあって。対外試合をやるたびに,ルールをどうするかという議論があったりして。

徳岡正肇氏:

 アナログゲームにそれは付き物でしたね。

切込隊長:

 ゲームデザイナーさんに電話して聞いても,「そこは好きにやってください」とか突き放されたり(笑)。

4Gamer:

 判定の順番とか。確かにそこはそうですね。

切込隊長:

 それと,ちょうど「マジック:ザ・ギャザリング」が4th Editionに切り替わるころでした。

徳岡正肇氏:

 考えてみれば,まったく面識のなかった人とプレイしても,ルールに齟齬が出ないゲームというのは,事実上マジック:ザ・ギャザリングが初めてだった気がします。

切込隊長:

 そうですね。ちゃんとやれたからこそ競技性が出,カードが普及してプレイヤーも増えた。本質的に重要な点は(コンポーネントを分割した形で売るビジネス形式,それに付随したコレクション要素よりも),むしろそこだったのかもしれません。
 もちろん,マジック:ザ・ギャザリングというゲームには,ヒットしたがゆえの功罪両面があったわけですが。

4Gamer:

 誰かが止めるというと,だいたい新しいルールとカードセットが加わったタイミングでしたよね。

徳岡正肇氏:

 続けるとしても,最新のものを買い続けるのは絶対に無理で,使わなくなったものをいいタイミングで売り払って,循環させてなんぼというものでした。

切込隊長:

 大人買いプレイヤーが使わないものをいただく,とかね。そうでないと,絶対に追いつかない。

徳岡正肇氏:

 エポックメイキングだったことを“トレーディングカード”という点に寄せて思い描きがちですが,最大のインパクトはルールのほぼ完全な統一化だったのかもしれません。

切込隊長:

 「ダンジョンズ&ドラゴンズ」(※)に次いで,海外の人とも話が通じる,2番目の例となった気がします。海外のゲーム界でも「トラベラー」とかを知っている人が,枢要の地位を占めていますしねえ。

※ここではもちろん,テーブルトークRPGのそれ。

 

 

「ハーツ オブ アイアンII」のヨーロッパ性

 

4Gamer:

 そうするとウォーストラテジーに限らず,ボードゲーム全般が守備範囲,ということになりますか。

切込隊長:

 ええ,ボードゲーム全般と,カードゲームもやりますし。「モンスターメーカー」(翔企画)とか。コンピュータゲームではMMORPGが「ウルティマ オンライン」,FPSが「DOOM」シリーズ,RTSなら「Age」と,それぞれパイオニアがいるわけですが,振り返って見てみると,ボードゲーム以来の伝統を引き継いだ存在として,Paradox Interactiveの一連の作品があり,そのいまのところの最高到達点が「ハーツ オブ アイアンII ドゥームズデイ」ということになるなあ,と。

4Gamer:

 コンピュータでしか採れない手法と,ボードから受け継がれてきた発想の両方を持っている感じですよね。

徳岡正肇氏:

 Paradox Entertainment自体,もともとボードゲームメーカーですからねえ。

切込隊長:

 実にヨーロッパ製らしい作りなので,第二次世界大戦モチーフが好きな人なら,みんなあれにハマれるかというと,違いそうな気もしますけれども。

徳岡正肇氏:

 「兵器が好き」でもダメですしね。

切込隊長:

 まずダメですね。でも,アビア社(航空機メーカー)とか入ってる時点で「分かってる」のは間違いないんですけどね。いや,個人的にチェコが好きで。まあ,「なにこのイタリアの弱さ」とか,いろいろ言いたいことはあるにせよ。

4Gamer:

 フェティッシュな要素も,それなりに盛り込まれてはいる,と。

切込隊長:

 ただ,ヨーロッパのことはよく分かっている半面,アジアについてはかなり微妙ですしね。

4Gamer:

 知ってたり,知らなかったり,間違ってたり。

徳岡正肇氏:

 だいたいスウェーデン,ドイツを中心に,距離に比例してリサーチ精度が落ちていく。

切込隊長:

 南米なんて,架空世界ですから(笑)。

徳岡正肇氏:

 ああ,中東と南米は悲惨ですね。

南米のリサーチはかなりあやしい。それはそれとして,この画面は正真正銘の仮想戦シナリオ「ラプラタ戦争」のもの

 

4Gamer:

 中東はもう少しなんとかできたんじゃないの? と思いますけどねえ。

切込隊長:

 きちんとした政治情勢の資料がないのかもしれません。傀儡政権を立てたときに,どういった知識人が首班に立つ可能性があったとか。

徳岡正肇氏:

 ペルシアやイラクはともかく「クルディスタンを独立させました。閣僚には誰が入るでしょう?」と言われても,これはどだいリサーチが無理な気もします。

切込隊長:

 パルチザンにしても,あんな平穏な存在のはずがないわけで。そういった理由で,マルチプレイをやるときには,比較的歪みが少ないヨーロッパ勢力限定にしたりとか。
 そこでAI日本がアメリカに宣戦布告したりすると,各陣営に衝撃が走ったりするわけです。

4Gamer:

 連載でも,パルチザンには一杯食わされましたよね。

徳岡正肇氏:

 バージョンごとにパルチザンの「機能」も少しずつ違いますからね。ドゥームズデイでは,パルチザン占領地域からきちんと新しい国家が誕生するようになりましたが,そうなる前に,普通彼らは爆撃で死んでいく運命にあり,行く末を見届けたいと思っても,気の利いた同盟国が爆撃していったりして,なかなか見られません。

切込隊長:

 その,気の利いた同盟国ってのがアメリカだったりしますよね。戦略爆撃が大好きな。

4Gamer:

 アメリカの戦略爆撃もそうですが,AIはフレキシブルじゃないですよね。いかにもその国っぽい方向性が決まってて。

徳岡正肇氏:

 そうですね。とくにドゥームズデイで増えたフィーチャーは,基本的にAIが想定していないらしく,これを多用するとまた面白いことになります。

切込隊長:

 パキスタンと同盟を結ぶと,いきなりイギリスから宣戦布告されたりとかね。「えー!!」って感じですけど。

徳岡正肇氏:

 連載の最終回,汪兆銘傀儡政権のときに日本がすさまじい数の空母を持ってましたが,これはAIが陸海空の軍事ユニット比率を守るように出来ていて,そこでいらん国が空軍ユニットをガンガン輸出したせいで,海軍が無駄に拡張されたせいでしょうし。

切込隊長:

 AIはユニットが輸出で増えたと認識してないですからね。それでとにかく船は増やすけど,艦載機のいない空母とかが現れる。艦載機も一緒に供与しないとね。まあしかし,あれだけプロヴィンスがあって,個々の戦闘結果も記録しながら,重要なプロヴィンスをきちんと割り出して動いてるだけでたいしたものだと思います。

無理矢理樹立した汪兆銘政権とのタッグで日本の勢力が膨張,保有空母数が29隻に達した場面

 

 

「ハーツ オブ アイアンII」の根底に流れるボードゲーム文化

 

徳岡正肇氏:

 曲がりなりにも,ゲームとしてきちんと全体が動いていますからね。

切込隊長:

 重要プロヴィンス選別にしても,包囲網作りにしても,かなり特徴のある方法を始めから組んであるので,よく包囲しようとして逆包囲を受けたりしてますよね。AIは。

4Gamer:

 ソロプレイ重視のゲームでは,宿命的な問題ですね。

切込隊長:

 ええ。そこで自分に縛りをかけてやるのが,こういうゲームで重要な姿勢でしょうね。包囲しちゃダメとか,政体スライダーを動かしちゃダメとか。

徳岡正肇氏:

 良くも悪くもそこはボードゲーム的です。

切込隊長:

 あと,滅びそうな国を選んでどこまで粘るかなどは,典型的に楽しめるプレイ方法ですね。ノルウェーでいかに滅びないようにするか,とか。

4Gamer:

 blogでも「オランダですが……」なんてのがありましたよね。

切込隊長:

 オランダ勝てないっす。要塞なしプレイは絶対無理だろうってことになってますね。一応方法はあるんですけど,あまり現実味がないというか。

徳岡正肇氏:

 ゲームと割り切るなら,枢軸陣営に入るのが,オランダの常套手段になっています。

切込隊長:

 そうです。枢軸オランダでなしに,どうやって粘るか。かなりいろいろ試行錯誤したんですが,まあないと思います。例によって,自分から戦争を起こせないですからね。

低地諸国が迎える,典型的な末路。ドイツのフランス侵攻に当たっては,第一次/第二次大戦どちらでも,通り道にされた

 

徳岡正肇氏:

 始めからインドネシアに引っ込むつもりなら,できなくもないんですよ。ただ,インドネシアにはマンパワーが設定されていないので……。
 それでいて,日本に踏み潰されない工夫するのも,なかなかオツなものです。石油で物資を買い,物資で駆逐艦を買い,それを解体してマンパワーにするとか(笑)。

4Gamer:

 その場合,オランダ軍は何で出来ているんですかね?

徳岡正肇氏:

 主な買い付け先はアメリカですから,かなりアメリカ人水兵で出来ていることになりますね。
 実際に試してみて,日本軍に攻められたタイミングで,技術も戦意も高いオーストラリア兵が援軍として来てくれたことがありました。普通なら喜ぶべきところなのですが,彼らのせいで物資が足りなくなって。そもそも物資からマンパワーを作り出しているので,ここが止まるとアウトです。
 物資が尽き,オーストラリアとインドネシアを結ぶ海上交通路も日本軍に寸断されて,もうどっちが敵なんだか分からない。

 

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タイトル ハーツ オブ アイアンII 完全日本語版
開発元 Paradox Interactive 発売元 サイバーフロント
発売日 2005/12/02 価格 8925円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 9.0以上),CPU:Pentium III/450MHz以上[Pentium III/800MHz以上推奨],メインメモリ:128MB以上[512MB以上推奨],グラフィックスメモリ:4MB以上,HDD空き容量:900MB以上

Hearts of Iron 2(C)Paradox Entertainment AB and Panvision AB. Hearts of Iron is a trademark of Paradox Entertainment AB. Related logos, characters, names, and distinctive likenesses thereof are trademarks of Paradox Entertainment AB unless otherwise noted. All Rights Reserved.


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