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[インタビュー]“ゴタクはいいからゲームをつくろう”——「東京ゲームダンジョン」主催の岩崎氏に聞く,日本のインディーシーンへの批判と提言
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印刷2024/05/30 08:00

インタビュー

[インタビュー]“ゴタクはいいからゲームをつくろう”——「東京ゲームダンジョン」主催の岩崎氏に聞く,日本のインディーシーンへの批判と提言

 インディーゲームとは何か? 極めてシンプルな疑問だが,いまだ明確な答えが出ていない。

画像集 No.003のサムネイル画像 / [インタビュー]“ゴタクはいいからゲームをつくろう”——「東京ゲームダンジョン」主催の岩崎氏に聞く,日本のインディーシーンへの批判と提言

 4Gamerでは,2022年に徳岡正肇氏拡大を続けるインディーゲームの概観をまとめた記事を掲載した。そこでは様々な事例を挙げたのちに「インディーゲームには確かな定義がない」と結論づけ,そのまま産業として拡大していく状況を記している。本記事にのっとれば,インディーゲームは定義を見失ったまま,いまこの瞬間も世界中のクリエイターたちが自分のゲームを作り続けていることになる。

 少なくともビデオゲーム産業から見れば,どうあれインディーゲームはひとつの市場として確立しているのは間違いない。しかし,このジャンルはシンプルに言えば「クリエイターが作りたいゲームを作る,誰よりも強い情熱」が根本にあったはずである。

 それが年々,大企業や出版社の参入もあり,ビジネスとしてのカラーを強めていく状況へ変わったのもあってか,そんな単純な衝動がブレやすい環境になっているかに見える。「誰よりも強い情熱」だけで成功——少なくともクリエイター自身が食えるほどの,ビジネス的なレベルですらも約束されていないのは確かだが,その情熱自体が揺らぎやすいのが今ではないか。

 そんななか,2022年に始まった新興のインディーゲームイベント「東京ゲームダンジョン」は興味深い存在である。本イベントは“クリエイターファースト”を掲げ,他イベントよりも安い出展料で,広いスペースで自作を展示できることを特徴としている。こうした「クリエイターが作りたいゲームを作る」ことをフォローするイベントは4Gamerでも高橋祐介氏がレポートで活況を伝えている。

 筆者が興味深いと思ったのは。東京ゲームダンジョンの施策は現行の日本のインディーゲームシーンに対し,どこか批判的なところがあるように思える点だ。それだけではなく,イベントの公式Xでも定期的にシーンへの提言のような投稿を行っていることも気になった。

 今回,東京ゲームダンジョンの主催,岩崎氏に今のインディーゲームシーンについてうかがった。その予想通り,岩崎氏は朗らかな雰囲気とは裏腹に,その言葉には現状へのシビアな認識を忍ばせていた。

最初は企業とイベントをやるつもりだった


画像集 No.004のサムネイル画像 / [インタビュー]“ゴタクはいいからゲームをつくろう”——「東京ゲームダンジョン」主催の岩崎氏に聞く,日本のインディーシーンへの批判と提言

4Gamer:
 先日の東京ゲームダンジョン5を訪れてみて,2年前に初めて開催したときから出展者数も来場者数も大幅に拡大していて驚きました。まだ2年にも満たないイベントですが,拡大する速度がかなり早いように感じます。

岩崎氏:
 もともと年に2回くらいでやっていこうと思ったんですよ。もっとイベントがあってもいいと考えていて,自分だったらそれくらいできるんじゃないかな,と思って,最初は東京ゲームダンジョンを始めたんです。でも,やってみたら思いのほか需要があるんだなあって。

 最初は,コミティアを参考にしていたんです。漫画だけじゃなくて,ルポ雑誌を作っている方もいますし,あの雰囲気がすごくいいなあと思っていたんです。コミティアは年に4回やっていて,「その回数はできるかもな」みたいな気持ちになってきて(笑)。

4Gamer:
 東京ゲームダンジョンはもともとUnityのクリエイターのコミュニティ「Unityもくもく会」のメンバーが中心なんですよね。岩崎さん自身もクリエイターですし。

岩崎氏:
 そうですね。Unityもくもく会の延長線上で始めた感じです。私はもう10年くらい個人開発者をやっていて,最初はスマホ向けのゲームを作っていたんですけど,いまはフリーゲームばっかりになっちゃって。いずれSteamで買い切りのゲームを作りたいと思っています。

4Gamer:
 いま「作るのはフリーゲームばかり」っておっしゃいましたけど,基本的に岩崎さんは「インディーゲーム開発者で食っていきたい」というより,「まずは自分の作りたいゲームを作る」スタンスなんですよね。

岩崎氏:
 まあ私は他に不動産の仕事があるので,ゲーム開発専業で生活していくことはいまのところ考えていないですね。Unityもくもく会などのコミュニティで,他のゲームクリエイターと趣味の範囲でやっています。

4Gamer:
 岩崎さん自身がゲーム開発やイベント運営が本業ではないというのは,いまの活動に当たって大きいですよね。あらためまして,趣味での開発から,イベントを開催するモチベーションはどこから生まれてきたのでしょうか。

岩崎氏:
 やっぱり新型コロナウィルスの蔓延が大きかったですね。蔓延の初期にはオフラインのイベントがバタバタとなくなっちゃってて。

 そこで一時期オンラインの展示会がやっていましたが,けっこう微妙だなと思っていたんですよね。やっぱり直接,人に会って展示するって意義はあると思っています。誰もやらないんだったら,自分がやろうかなって思ったんです。

4Gamer:
 ただ新型コロナによるイベント開催の影響が大きかったのが2020年〜2021年くらいでしたし,岩崎さんの発想から東京ゲームダンジョンの初開催まで少々のタイムラグがありますね。

岩崎氏:
 最初はコナミさんとやろうと思ってたんですよね。実は。Unityもくもく会もコナミさんの場所を借りていた(※銀座で開催するときはコナミクリエイティブセンターを利用していた)こともあり,コナミさんのビルの2階にちょっとした展示会場があるので,そこでやることを考えたんですね。

4Gamer:
 当初はそんな大企業と一緒にやるつもりだったんですね。

岩崎氏:
 でも,自分の中でも自信がなかったんですよね。Unityもくもく会をやっていますけど,イベントをやるノウハウも分からないし,そこは会社とやれたらいいなと思っていました。「新しいイベントをやって,人も集まるのかな?」と思ったし。

4Gamer:
 たしかに……。初めてのイベントはすごくリスクを考えますよね。

岩崎氏:
 そうなんですよ。でも,1年くらい「やるの? やらないの?」といろいろあって,結局いっしょにできなくなっちゃって。
 
 そのうちにコナミさんはコナミさんでインディーゲームイベント「Indie Games Connect」(以下,IGC)をやることにしていて,私は「じゃあ,別々にやります」って感じになったんです。

4Gamer:
 私は過去にコナミさんが「IGC」を開催した背景についてうかがったことがあって,Unityもくもく会をコナミで開催した関係が発端にあったことまでは存じていたんですけど,まさか東京ゲームダンジョンとそういう関係にあったとは……。

岩崎氏:
 そんなとき,いまイベントで利用している都立産業貿易センターが安く使えることを知ったんです。あそこだったら会場ができたばかりで綺麗だったし,2021年の年末には会場を押さえて,準備を始めていましたね。

既存のイベントに対する不満を払拭するために


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4Gamer:
 東京ゲームダンジョンは他のイベントよりも出展料が安く,出展審査もなく,展示スペースを広く使えるなどクリエイターが中心になれるイベントですよね。そこに今のインディーゲームシーンに対する批判性もあるのかな,と思ったんです。

岩崎氏:
 それは正直ありますね(笑)。インディーゲームイベントによっては「審査の基準が分からない」とか,出展料の高さにみんなが文句をいうこともあり,現地への移動や宿泊費もかかるので,ちょっと気軽に出展できないよねというのがありました。

 また私が出展した経験から,イベントによっては「もう完成され切っていて,これ以上は進化していかないんだな」とも思っていました。

4Gamer:
 「進化していかない」とは,どのような部分でしょうか。

岩崎氏:
 やっぱりイベントによってPVが流せなかったり,出展スペースの大きさが小さかったりすることですね。自分は身体がデカいので,スペースが狭いとキツいのもあります(笑)。そういう経験もあり,「もっとイベントをよくしていくことはできないかな」と思っていたんです。でも人がやっていることに「こうしたらいい」って言うくらいだったら,自分でやったほうがいいのかなと。

4Gamer:
 クリエイターが中心となって開催したイベントは,2019年に「東京電脳特区」がありましたが,一回限りで終わってしまいました。その意味で,東京ゲームダンジョンがコンスタントに開催を続けていることは興味深いです。何がポイントでしたか。

岩崎氏:
 実は最初の東京ゲームダンジョンだけ,出展を抽選にしていたんですよ。でも2回目からはやめて,先着順にしたんです。

 それは自分が応募者から抽選するという作業を減らす意味もあったんですが,私が開発者側と近すぎる問題もありました。抽選にすると,悪さができるんですよね。要するに自分の知り合いばかり当選させることができるわけじゃないですか。

 「なんで俺が選ばれなかったんだろう」とか,抽選ってそういうことが絶対にあると思うんですよね。特に内容の審査によって出展が決まるとなるとなおさら……。やっぱり自分のゲームを自分が一番愛しているわけじゃないですか。だから「なんで落とされたんだ」というのがあるし。

 かつ自分はコミュニティをやっているので,その中の人たちが「東京ゲームダンジョンに出展するよ」と言っていたら,その人たちを抽選で無下に落とすのは辛いんですね。それをやめたんです。それが良かったと思いますね。

4Gamer:
 インディーゲームイベントの出展にありがちな,応募作品の審査や抽選を避けた理由はそこにあったんですね。

岩崎氏:
 先着順だったら,寝坊して申し込めなかったら「そりゃアンタが悪いよ」って言えるので(笑),そうするしかなかったところがあるんです。

4Gamer:
 いまインディーゲームシーンには大企業や出版社が進出していることもあり,どうも商業的な傾向が強くなっていて,肝心のクリエイターが混乱しやすい環境になっているようにも見えるんですね。そこで岩崎さんがクリエイター中心のイベントをやり続ける意味が大きいんじゃないかと思います。

岩崎氏:
 思い切り批判になっちゃうけれど,イベントによっては会場の入り口から企業のブースが目立っていて,奥の方にインディーの開発者のブースが細々とあるって構成は「逆じゃないかな?」と思っています。

 それはイベントの運営上,企業が大口のスポンサーとなっているからなのは分かるんだけど,インディーゲームのイベントと銘打っているのに,なんでそういう配置になるのかは自分ではちょっと分からなくて。

 なので東京ゲームダンジョンは,入り口はチラシ置き場にしているんです。目立っている場所に出展者が誰でもチラシを置けるようにして,公平さを重視しています。やっぱり企業のブースが一番目立ってしまうというのはちょっと違うかなという考えがありますね。

4Gamer:
 たしかにどんどん企業側の進出が目立ち,どこからがインディーゲームなんだ,とは思います。

岩崎氏:
 やっぱりインディーゲームという言葉自体にはっきりした定義が無く,家系ラーメンみたいなものになっちゃってるというか(笑)。正統派なインディーゲームもあれば,これは別にインディーじゃないでしょってものも,同じ括りとして売られていますよね。

イベントの公式Xで提言を投稿する意図とは?


画像集 No.001のサムネイル画像 / [インタビュー]“ゴタクはいいからゲームをつくろう”——「東京ゲームダンジョン」主催の岩崎氏に聞く,日本のインディーシーンへの批判と提言

4Gamer:
 東京ゲームダンジョンで興味深いのは,インディーゲーム界隈が何か妙な話題で騒いでいるタイミングで,公式Xにてインパクトある言葉をアップしていることです。あれはどなたが投稿しているんですか?


岩崎氏:
 あー,私ですね(笑)。全部私がやってます。

4Gamer:
 まるで話題を諫めるかのような投稿で興味深いんですけど,公式イベントのアカウントが行うには正直リスキーなようにも感じていました。あれはどういう意図がありますか。

 たとえば昨年のThe Game Awards 2023にて「デイヴ・ザ・ダイバー」がインディーゲーム部門にノミネートされたとき,「あれは大企業NEXONのタイトルなのにインディーと言えるのか」と話題になったタイミングで,以下の投稿をされています。


岩崎氏:
 「ゴタクはいいから〜」っていうのは,そもそもクリエイターはイベント出展に向けてゲームを作ることが目的ですよね。Xでみんな論客になりがちですけど,「俺らがやることってそっちじゃないよね」っていうことは明確に言い続けたいと思っています。ゲーム開発者として発信する場所がゲームなんじゃないの? っていう。
 
 韓国の「デイヴ・ザ・ダイバー」がヒットしたけど,あれをインディーゲームなのかと議論するより,「デイヴ・ザ・ダイバー」を超えるようなゲームを作ろうよと言うほうが健全だと思っています。

 特にゲーム開発界隈ではしょうもない小競り合いみたいなのが起こりがちだと思うんです。その界隈がそんなので盛り上がっているのもあれなんですけど,それを見て「インディーゲームの人たちってよくケンカしてるな,怖いな」って見られるのも嫌で,ちょっと襟を正そうぜっていうか。ゲームを作らずにぐちゃぐちゃ言ってる人がすごく多いので,そういうのはカッコ悪いんじゃないの? っていうのを言い続けるためですね。

4Gamer:
 SNS上の小競り合いに対してそう言うのはわかるんですけど,最近,驚いたのは経済産業省が主催するゲーム・映像のクリエイター向け支援プログラム「創風」に当てたと思われる,Xへの投稿です。「創風」の応募者の要件で「35歳未満まで」という条件が発覚したときの,次のような画像投稿はびっくりしました。


岩崎氏:
 Unityもくもく会など,自分の周りには35歳を超えている人がいっぱいいるので,国がやる施策としては意味が分からないなと思ったんですよね。窓口が広告代理店(※「創風」では読売広告社が事務局を務める)になっていて,結局優秀な人を選抜して最大500万円を支給するというコンテスト形式だったので,「ありがちだな」と思ってがっかりしました。

 国としてインディーゲームを支援することは素晴らしいことだと思うんですけど,取ってつけた感があって刺さらなかったんですよね。もっとインディーゲーム開発者が盛り上がるような施策をやってほしかった。

4Gamer:
 パッと見はかなり大きな支援プログラムだけに,東京ゲームダンジョンさんがあの意見を出した意図について,あらためてうかがえますか。

岩崎氏:
 結局,それで傷ついている人や白けている人がいるのが嫌だったんです。税金を使ってやっている支援プログラムなら,もうちょっとケアしてほしかったなと思います……アンチですね,なんか(笑)。

4Gamer:
 いまインディーゲームが産業として注目されがちで,クリエイターを取り巻く環境が激変しているせいもあるのか,作る側やファンも、私らメディアの関係者自体も含め、いろんな立場の人が混乱しがちです。そこで岩崎さんが公式Xにて定期的に諫める言葉を発している印象があります。

岩崎氏:
 お客さんには「ああいう攻撃的なポストをするのをやめたほうがいいですよ!」って言われたんですね(笑)。自分はゲーム業界の人間じゃないので,よく分からなかったのがみんなコンテストが好きなことですね。

 何かっていうとコンテストをやって,上位者を集めるというのが常態化していて。コンテストで優秀なクリエイターを集めたいって趣旨はわかるんですよ。でも,たとえばコンテストでノベルゲームとアクションゲームってどうやって比べるの? というのが分からない。

 東京ゲームダンジョンも「アワードとか作らないの?」と言われるんですけど,自分がやっているのはいわば上位者を集めるのではなくて,裾野を広げていくことなので,ぜんぜん方向性が違うと思うんですよね。自分の中ではゲームの上下を付けるのも好きじゃない。お客さんにとっても自分にとっての一番があると思うんですね。

 私は好きなものを作ればいいと思っています。それが売れる,売れないは当然ありますが,お金をどこかからもらうためにコンテストをやると,本質を見失ってしまう気がします。そういうのがクリエイターの混乱を招いている一因だと思います。

クリエイターに必要なものは “コミュニティ”


画像集 No.002のサムネイル画像 / [インタビュー]“ゴタクはいいからゲームをつくろう”——「東京ゲームダンジョン」主催の岩崎氏に聞く,日本のインディーシーンへの批判と提言

4Gamer:
 ここ数年は,「個人開発者として食っていきたい」みたいなスタンスでいたクリエイターが,リリースしたら10数本しか売れなかったとか,年収が数万円にしかならなかった,という嘆きをXやブログに連投する様子も目立つようになりました。

岩崎氏:
 でも,そういうケースってわりとレアだったりするんですよね。表面的にはインディーゲーム残酷物語で,ポストしている人は確かにそうなんだと思うんですけど,そういうのってバズりやすいから,本人も気持ちよくてやっちゃって,それで目立っているところもあると思っています。

 実際に自分のコミュニティで,「ゲームが売れない,終わった」とか「もう開発やめます」みたいなことを言ってる人は一人もいません。わりとみんな計画的にちゃんとやってて,売れなかった売れなかったで「次どうしようか」とやっているので,ちょっと「売れない,終わった」の話は美化されすぎちゃってる気がします。

4Gamer:
 たしかに失敗談は,本人の感情が入った話なので広まりやすいのはありますね。

岩崎氏:
 「売れない,終わった」とかそういう話がXでひとつの文脈みたいになっちゃってるのはXの闇だとは思いますよね。「あー,やっぱりインディーゲームって売れないんだ,かわいそう」って周りも言いたいという。でも実際はそんなことはないと思っています。成功している人もいますし。ただし,やっぱり自作ゲームだけで食えている人が本当に少ないのは確かです。

4Gamer:
 自作の開発のみに専念して食えている人はわずかなケースですよね。だいたい皆さん本業をお持ちだったり,外部から案件を取ってきて仕事したりする人が多いように思います。

岩崎氏:
 Unityもくもく会にいても思うことなんですけど,そもそもゲームを完成させられない人が多いんですね。自分の肌感覚なんですけど,ゲーム開発者が10人いて,自分のゲームを完成させてリリースまで持っていける人は1人くらい。

 その完成させた1人が10人集まったとして,自作ゲームで食えているのはその中の1人という感じなんです。

4Gamer:
 そういう状況のなかで,いまクリエイターへのケアで何が必要だと思いますか。

岩崎氏:
 間違いなくコミュニティだと思います。企業ってお金を配りがちなんですよ。よく「1000万円をあげます」とか言うんですけど,お金ってそんなにいらないんですよ。正直。

4Gamer:
 かなり大胆な発言ですね……! やっぱりクリエイターが「食っていきたい」と考えると,お金が一番大事なポイントになりやすく,どうしても引っ張られると思うんです。

岩崎氏:
 いや,お金が必要な人はいると思います(笑)。それよりもコミュニティが大事なのは,定期的にアウトプットを見てくれることです。アウトプットに対してアドバイスとか別にいらなくて,ただ単に見守ってくれる人がいると全然違うと思うんですね。

 やっぱりゲームって作りはじめてから完成させるまでの期間がほかの創作活動に比べて長くなりやすいと思うんですよ。いろんな要素が絡んでくるし,自分の得意な部分と苦手な部分をぜんぶ織り交ぜてやっていかないといけないんです。

 そうするとやっぱりメンタルを病んじゃう人も出てくる。そもそもゲーム開発自体にそういう問題が絡んでいます。「お金がない」のは悩みのひとつになると思うんですけど,ゲーム開発でスランプ状態になったときに,ちょっと励ましてくれたりとか,普通にご飯を食べにいって「いいじゃん,よく出来てるね」とか,そういう仲間やコミュニティがもっとあったほうがいいです。それがあるのとないのとで,だいぶ違うと思います。

 個人開発者が病んでしまうのは本当にその通りで,結局ゲームを完成させることなく消えていった人をたくさん見てきました。自分のUnityもくもく会というコミュニティは,そういった孤独な開発者を少しでも救いたいという気持ちがあります。

4Gamer:
 たしかにクリエイター個人が抱える作業量も要求される技術も多く,精神を削られるため,いいコミュニティが必要というのは分かる気がします。

岩崎氏:
 でもめんどくさいから,誰もやらないんですよね。企業ってお金を払ったら一発だから,それで解決しようとするんです。「だから1000万円でゲームを作ろう」となると変な方向に行っちゃうと思うんですよ。あんまりいい影響を与えない。

 ゲーム開発って,やっぱりお金をいっぱい入れればいいものができるかっていうと,そうではない。我々も素人に毛が生えたものなので,お金を渡されたところでそれを上手く有効活用できないんじゃないかなって。

4Gamer:
 開発資金の運用のしどころも難しいのは想像できます。 

岩崎氏:
 他の人が「ゲームのプロデューサー的な存在がもっといたらいいんじゃないか」みたいなことを言ってましたね。

 話題として挙がるのは,もともと海外のインディーゲームって文化産業として成熟しているじゃないですか。まだまだ日本のインディーゲームって始まってそんなに経っていないので,これからだと思うんですよね。海外ではプロデューサー的な存在がけっこういると思うんですけど,日本はまだそういう文化が形成されていないので,時間がかかる話なんじゃないかなと思っています。

 やっぱりコミュニティなどが発信し続けることというか,それを「いいじゃん!」と正しく受け止めてあげることをやっていったほうがいいんじゃないか,というのが自分の根幹にあるんですよね。

4Gamer:
 クリエイティブとビジネスを繋げる役割の方が,もう少し増えたほうがいいと。

岩崎氏:
 room6さんわくわくゲームズさんなど,東京ゲームダンジョンによく出展されているインディーゲーム専門の方は,そこらへんの界隈を見ながら適切にプロデュースをされているのかなっていうのは感じるんですけどね。

 そこが商業的にもクリエイターが生活できるレベルになっていって,パブリッシャとも仲良くやっていけるようになれば,それはすごくいいことだなあと思うんです。まだまだ始まったばかりで,海外と比べられる時期でもないのかなと思ったりします。

4Gamer:
 コミュニティが必要とのことですが,様々な要因でコミュニティを運営する負担も大きくなることがあります。東京ゲームダンジョンとしては,コミュニティ運営を補助するための施策を考えていますか。

岩崎氏:
 Unityもくもく会もそうだし,東京ゲームダンジョンのDiscordでコミュニティをやっているんですけど……主催者は,損するものですよね(笑)。キツい目に遭うのは覚悟しなきゃいけなくて,その覚悟がないとコミュニティってやっていけないと思うんです。

 ただ,損得だけを考えてやっていったら絶対に続かないです。自分も面倒見がいい人間ではないと思っているんですけど,そういう人との繋がり自体を楽しめない人はできないですね。誰もがみんな,コミュニティをやってくれるかと言ったらそんなことはないです。

4Gamer:
 最後の質問になりますが,東京ゲームダンジョンをこの2年近く,コンスタントに開催を続けられた要因はなんでしょうか。

岩崎氏:
 やっぱりUnityもくもく会を長く続けてきていたので,そういうオフラインのイベントはUnityもくもく会を拡大させたイベントという感じだと思っているんです。なので,イベントの体制がやる前から出来ていたのがけっこう大きいですね。

4Gamer:
 ここまでのお話をまとめると,そもそもUnityもくもく会というコミュニティからイベントになっているわけですから,岩崎さんの行動には一貫性がありますよね。

岩崎氏:
 あと自分はいま44歳なんですけど,70歳くらいまではゲームを作り続けたい気持ちがあって,それまで自分がゲームを出しても気まずくならないような場所を作りたかったんです。いわば終活みたいな(笑)。

4Gamer:
 まさかの東京ゲームダンジョンが岩崎さんの終活の場だったとは(笑)!

岩崎氏:
 そうそうそう。オタクの終活なんです(笑)。だから盆栽みたいな感じで,ずっと続けているジジイが出展していてもいいじゃんって場所を作りたいのはあったんです。数年でやめるつもりは毛頭なくて,年に何回もやって開発しているゲームの進捗を出したいんですね。

 まだ残念ながら自分は出展はできていないんですけど,今後は運営はほかの人にまかせて自分も出展側に回りたいんです。なんのためにやっているか分からないので(笑)。イベンターとしてやっていきたい気持ちがあるわけじゃないので,開発者がベースだからこそ,東京ゲームダンジョンを続けていけるのがあるのかもしれません。


■葛西 祝■
ジャンル複合ライティング。ビデオゲームを中核に,映画や美術,文学などを越境するテキストを手掛けている。
X:EAbase887
公式サイト:http://site-1400789-9271-5372.strikingly.com/

東京ゲームダンジョン 公式サイト

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