インタビュー
[インタビュー]アニメ業界の巨人,東映アニメーションがゲームをはじめとするデジタルコンテンツ事業に注力する理由とこれからの戦略
「ドラゴンボール」「ONE PIECE」「美少女戦士セーラームーン」をはじめ,今年20周年を迎えた「プリキュア」シリーズなど,数えればキリがないほどの膨大なコンテンツを世に送り出し,近年では映画「THE FIRST SLAM DUNK」といった劇場作品でも大ヒットを飛ばしている。
そんな同社が数年前から,ゲームを含むデジタルコンテンツに注力していることをご存じだろうか。2021年にデジタルプロダクト推進室を新設し,デジタルコンテンツ事業の本格的な取り組みを開始している。
アニメ業界の巨人,東映アニメーションはなぜデジタルコンテンツに力を入れているのか。先月(2023年8月)に発表された新作スマホゲーム「金色のガッシュベル!! 永遠の絆の仲間たち」(iOS / Andorid)のエピソードを皮切りに,営業推進部 デジタルプロダクト推進室長兼プロデューサーの植野良太郎氏,同じくプロデューサーの永田康弘氏,そして入社2年目のアシスタントマネージャー 石川桜子氏に話を伺った。
新作スマホゲーム「金色のガッシュベル!! 永遠の絆の仲間たち」,2023年内に配信決定。クローズドベータテストの参加者募集がスタート
東映アニメーションは本日,TVアニメ「金色のガッシュベル!!」の放映開始から20周年を記念した新作スマホゲーム「金色のガッシュベル!! 永遠の絆の仲間たち」を2023年内にリリースすると発表した。本作は,好きな魔物でチームを編成し,術(スキル)や技で敵を倒していく「絆育成RPG」だという。
東映アニメーション 公式サイト
「金色のガッシュベル!! 永遠の絆の仲間たち」公式サイト
新作「金色のガッシュベル!!」は「好き」の連鎖から生まれた
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
さっそくですが,東映アニメーションから「金色のガッシュベル!!」(以下,ガッシュベル)の新作スマホゲームが発表された経緯を聞かせてください。
永田氏:
今回の新作は弊社とNEOWIZ,そしてゲームオンの3社共同プロジェクトになります。デジタルプロダクト推進室が発足するちょっと前の2020年にまず,ゲームオンさんから「『ガッシュベル』のゲームを作りたい」と申し出があったんです。
基本的に我々は「こういう作品がありますよ」と各社に営業をかけて,その動きの中で「これ知ってる!」「この作品,好きだった!」という形でお声がけをいただくことが多いです。しかし,今回は売り込む前に「『ガッシュベル』をゲームにしたい!」と非常に熱い想いを語ってもらった形になります。
当初は弊社とゲームオン,2社の取り組みになる予定だったんですが,ゲームオンさんから親会社のNEOWIZさんに話が伝わった結果,韓国にもすごく「ガッシュベル」を好きな人がいたことから一緒に作ることになりました。
4Gamer:
「好き」の連鎖から3社のプロジェクトになったんですね。
2023年はTVアニメ放送の20周年にあたりますが,これは念頭にあったのでしょうか。
永田氏:
たまたまその時期だったということで(笑)。企画を立ち上げるときに,原作の漫画やアニメのスタート時期を確認しました。ゲームの開発には2〜3年かかるので,「ちょうどアニメの20周年に出せます」と各方面を説得したり,協力を取り付けたりしながらプロジェクトを進められました。
4Gamer:
東映アニメーションには強力なコンテンツがたくさんありますが,なぜ「ガッシュベル」だったのでしょうか。
永田氏:
ゲームオンさんの担当者の知り合いが,弊社にいたということが大きいですね。ゲーム会社が弊社のIPを「ゲーム化したい」と考えたとしても,どこに声をかけていいのかが分からないということを聞きました。
「ガッシュベル」についても,過去いくつかゲームが出ていたので,そちらを経由しないといけないと思われていたようです。
4Gamer:
漫画の続編「金色のガッシュ!! 2」が連載されていますし,いろいろな動きが重なっていますね。
永田氏:
アニメ放送から20年が経ち,当時「ガッシュベル」を見ていた世代が新人として入社してきています。もちろん僕も見ていますが,子供の頃に見ていた世代はやはり思い入れの熱量が違います。「ガッシュが好きだから,一緒にゲームを作りたい」と,熱い気持ちを持ってガツガツと動いてくれますね。
4Gamer:
石川さんは「子供の頃に見ていた世代」ですが,「ガッシュベル」のプロジェクトにはご自身の意志で参加されたんですね。
石川氏:
入社してから部署に配属される前に,いろいろなプロジェクトの説明を受けたんですが,デジタルプロダクト推進室では「ガッシュベル」をやっていると聞いたので,手を上げて参加させてもらいました。
4Gamer:
実際に参加してみていかがでしたか。
石川氏:
新卒で入社したばかりだったので覚えることもたくさんありますし,発表してからはリリースの準備で忙しくて大変です(笑)。でもそれを超える楽しさがずっと勝っていて,「良いものを作ろう」と気づいたら仕事をしている状態です。
4Gamer:
アニメ放送当時,女子のあいだでは「ガッシュベル」の人気はどうでしたか。
石川氏:
私は幼稚園のときに「ガッシュベル」を見ていましたが,かなり記憶に残っているんですよ。
植野氏:
幼稚園のときに見ていたアニメを覚えているのはすごいね。
石川氏:
覚えていますよ! 「チチをもげ!」も熱唱していましたし(笑)。ギャグが面白いし,歌もおかしくて,そういうところを楽しんでいました。
※「チチをもげ!」は登場キャラクターのパルコ・フォルゴレ(CV:高橋広樹)が劇中で歌う大ヒットソング。極めて中毒性が高い
4Gamer:
当時の女子が「チチをもげ!」を歌っていた……貴重な証言が得られました(笑)。ところで,新作ゲームはどのような層をターゲットにしているのでしょうか。
永田氏:
アニメ放送当時,子供だった20代前半から30代前半がメインターゲットになります。実は女性誌で「記憶に残っているアニメ」特集が組まれたときに,「美少女戦士セーラームーン」や「おジャ魔女どれみ」に交ざって,「ガッシュベル」もランクインしていたんですよ。
もちろんゲーマーもターゲットではありますが,普段あまりゲームをしない女性でも気軽に遊べるようなゲームシステムを目指しています。ベースはRPGですね。昔,どこかで見たようなノスタルジーを感じさせるものの,内容自体は最近のゲームになっています。雷句先生のファン層には熱量の高い方が多いので,メインターゲットを大切にしつつ,ファン全体に届けたいと考えています。
東映アニメーションが東京ゲームショウに出展する意味
4Gamer:
今年の東京ゲームショウでは,東映アニメーションのブース出展が予定されています。「ガッシュベル」のアピールが狙いなのでしょうか。
永田氏:
東映アニメーションはアニメのイベントには出展していましたが,ゲームのイベントには出ていませんでした。ビジネスデイに視察したり,挨拶したりしていたんですが,やはり自分たちから出展をしてアピールしないと,ゲーム事業を手がけていることをなかなか知ってもらえません。こういった出展を繰り返して,ゲームをはじめとするデジタル事業の存在を知ってもらいたいと考えています。
ゲームとしては,これまで版権事業の一部としてやっていましたが,自ら事業としてやろうとした場合,実はあまりゲーム会社との直接のつながりがないんです。ゲーム会社とどれだけつながれるかというのが重要ですが,まだそこが弱い。
僕らはパートナーがいないと何もできないし,開発もパブリッシング機能もない。ビジネスパートナーになってもらえる会社さんを探すために出展する意味合いも強いです。
4Gamer:
営業のチャンスとして,東京ゲームショウは絶好の機会になるんですね。
永田氏:
僕らがゲーム事業をしていることを知られていない以上,こちらから出ていかないといけないんです。ビジネスデイではパートナーの募集を前面に出して,「我々もゲーム事業をやっています。これから力を入れていきます」とアピールしていく流れですね。
4Gamer:
さまざまなゲーム会社と交渉されているようですが,どのような成果がありましたか。
永田氏:
現在,ゲーム化されていない弊社の作品はたくさんあります。我々の部署にはあまり人数がいないので「あれもやろう」「これもやろう」とはいかないんですが,それでも好きな作品で共感を得られるパートナーさんとは取り組みを始めている状況ですね。
なぜ,デジタルコンテンツなのか
4Gamer:
東映アニメーションではゲームをはじめとするデジタルコンテンツに力を入れているようですが,どのような経緯があるのでしょうか。
植野氏:
一昔前の弊社には,「ゲームをお金にしよう」という部署がまったくなかったんです。しかし,手を上げればやらせてくれる土壌はあったので,アニメの企画部がノベルゲームをリリースしたこともありました。「ゲームを作りたい」というよりも,「新規IPを作りたい」という動機ですね。
しかし,近年はデジタル方面に強みを持つ部署も必要になっているので,得意な人間を社外からもどんどん集めて,2021年にデジタルプロダクト推進室を発足しました。
4Gamer:
まだ新しい部署ということですね。
植野氏:
「デジタルプロダクトを立ち上げたい」と会社に提案したのは約5年前でした。5億円もあればソーシャルゲームを立ち上げられた時期でしたが,今は海外メーカーがプロモーション費を50億円も使う時代です。ゲームもやりたいのですが,ゲーム以外のIP創出だったり,新しいビジネスチャンスを作ったりしようと模索した結果と言えます。
4Gamer:
デジタルプロダクト推進室はどのような事業を展開しているのでしょうか。
植野氏:
これが本当に多岐にわたります。弊社は最終的にアニメやその先にあるビジネスを目指していますが,そのためにはIPを作らなくてはならない。その手段としてスマホアプリを立ち上げようとしていますし,ノベルを作ったり,NFTを売ってみたり,メタバース空間で挑戦しようとしていたり,とにかくいろいろなことに挑戦しています。
例えば,石川は「ガッシュベル」だけでなくNFTのサービスを兼任していたり,ハイパーカジュアルゲームと動画配信を掛け合わせたYouTubeチャンネル「スーちゃんねる」を立ち上げました。
4Gamer:
「スーちゃんねる」について紹介していただけますか。
石川氏:
「うちの3姉妹」の次女・スーちゃんのモデルになった方が,ハイパーカジュアルゲームの制作に挑戦する姿をYouTubeにて配信しています。最終的にゲームが完成した暁には,今まで動画を視聴していただいた皆さんにプレイしていただきたいと思っています。
4Gamer:
企画のテーマとして,ハイパーカジュアルを選んだ理由はなんでしょう。
石川氏:
「うちの3姉妹」が大好きで,スーちゃんの魅力が伝わるターゲットは女性だと考えたところ,コアゲーマー層が少ない女性でも気軽に遊べるハイパーカジュアルゲームに注目しました。
日本におけるハイパーカジュアルゲームは認知度が低く,広告を見てもらいづらい印象を受けます。しかし,ターゲットを絞ったプロモーションを行えば,ちゃんと広告を見てもらえる,遊んでみたら意外に楽しいと思ってもらえる余地があるんじゃないかなと思います。
4Gamer:
「好き」だから企画になったんですね(笑)。現在の開発状況を教えてください。
石川氏:
ハイパーカジュアルゲームの開発システムは,広告テストをクリアしたものだけが本開発に入れる仕組みになっています。今は広告テストの合格に向けて開発を続けながら,YouTubeでもプロモーションを進めています。
植野氏:
石川は入社2年目ですが,企画を立案したのは去年でした。東映アニメーションは新人でも「これをやりたい」と起案したら,それが通る会社なんですよ(笑)。これで周りの人間も奮い立たなければいけないと思いますし。
4Gamer:
新企画と言えば,今年発表のNFTプロジェクト「電殿神伝-DenDekaDen-(でんでかでん)」もデジタルプロダクトに力を入れている流れの一環ですよね。
植野氏:
はい。今年1月に公開しましたが,一部のNFTファンの中では非常に注目されている状態です。日本発のNFTという意味では,知名度でも販売するNFTの数や額でもトップクラスの自負があります。
しかし,NFT自体がまだニッチな世界ではあるので,IP展開にはつながりにくく,今後の課題は「どう殻を破っていくか」だと思います。
4Gamer:
「The Sandbox」における新規事業も発表されています。
植野氏:
グローバルの大勢の人に「コンテンツを届けたい」ということから,NFTプロジェクトとSandboxプロジェクトを同時に立ち上げました。ただ,電殿神伝のほうが一足早く,お客さまへお届けできる形なりました。
東映アニメーション×Mintoがメタバース「The Sandbox」で協業。アニメ作品のLANDプロデュースに乗り出す
Mintoは本日(2023年2月16日),The Sandboxおよび東映アニメーションと協業し,Web3ゲーミングメタバース「The Sandbox」上で,東映アニメーションの保有IPとコラボする“LANDプロデュース”を実施すると発表した。
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4Gamer:
NFTやメタバースに対する動きは,先行投資の意味合いが大きいのでしょうか。
植野氏:
永田も自分もゲーム会社出身なので,プロジェクトの打率はそんなに高いものではないと考えています。もちろん先行投資という認識は頭の中にありますが,事業として立ち上げる以上,常に黒字,お金をかけたらそれ以上のリターンも会社からは期待されています。
ただ,新規事業を毎回黒字にできる天才なんているわけないので,10個のプロダクトを作ったら,そのうちの1個で回収すればいいと思っています。
4Gamer:
アニメ事業も基本的には,打率が低いものだと認識していました。
植野氏:
スマホゲームだって,ちゃんとリリースして月商数億円にできれば,年間でかなりの金額になります。しかし,そこのポジションを狙うにはプロモーションや開発にかなりの費用が必要です。
東映アニメーションにはライセンス事業という鉄板ビジネスがあって,IPをお使いいただくことでリターンを得ています。これと比べられると,どうしてもゲームを事業として行うと利益率がライセンス事業よりも利益率が低くなってしまうんです。
4Gamer:
現代のゲーム事業には開発や宣伝にお金がかかります。
永田氏:
最近では「原神」や「ウマ娘」が韓国でもヒットしていますが,彼らにとってはIPものではなかった。既存の人気IPに頼らなくてもドカンと行けるというのは,面白いゲームをしっかり作って,しっかりお金をかけて売れば成功の可能性が高いのかなと思ってます。でも,それはお金のある会社ができることであって,まだ我々には難しい。
もし海外で売ろうとするならば,IPで売るのではなくて,ゲームのシステムで売る。Steamなどでリリースして「このゲーム,面白いね。このキャラはなんだろう?」という,逆の流れで認知してもらう方法もあるのかなと。
4Gamer:
スマホゲームにこだわっているということでもない?
永田氏:
去年からさまざまなゲーム会社の方とお会いさせていただいて,昨今のスマホアプリで戦うには中途半端が一番ダメ,開発とプロモーションにしっかりお金をかけないといけないことが分かりました。開発費もプロモーション費も高いし,何より毎月の運営費がキツイと。それで「Steamや家庭用ゲームの企画はないんですか」と逆に聞かれたんですが,これまで関わったことがなかったので,我々には最初にその考えはなかったんですよ。
今ではプラットフォームにこだわらず,日本以外の地域での展開もありだと考えるようになりました。例えば,ある作品が特定の地域で流行していることが分かれば,その地域だけにゲームを作るという可能性もありますね。
4Gamer:
やはり東映アニメーションのIPを活用する形で動いていくことになりますか。
永田氏:
基本は「東映アニメーションの作品をいかに転換していくか」というのが念頭にありますが,「原作を生み出してからアニメに昇華する」ことも考えられます。
一方で「このコンテンツをアニメ化したい」という話もありますし,「IPのメディアミックス展開に力を貸してほしい」といったご相談をいただくこともあります。ゲームありき,IPありきではなく,いろいろな方向から検討できますので,「これはダメかな」ということは定めていません。我々に興味を持っていただけたら,一緒に何ができるのかを考えるパートナーになってほしいですね。
4Gamer:
今後のプロジェクト展開に期待しています。本日はありがとうございました。
東映アニメーション 公式サイト
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