インタビュー
[インタビュー]ブロックチェーンによって新しい価値を提供して,ユーザーがもっと夢中になれる環境を作りたい―――YGG Japanは,ゲーム業界に何をもたらそうとしているのか
2022年9月15日から4日間,3年ぶりにオフラインで開催された東京ゲームショウにおいてもその影響は顕著で,すでに一定の理解と浸透を得ているeスポーツを越える勢いで,NFTとブロックチェーン関連ブースのなんと多かったことか。
中でもちょっと異質な出展をしていたのが「YGG Japan」だ。YGGとは「Yield Guild Games」の頭文字を取ったもので,世界最大のDAO型ゲーミングギルドだ。
DAO型……の説明はあとでするとして,「ゲーミングギルド」と言っても,MMORPGのそれとはだいぶ趣が違う。シンプルに書くと「ブロックチェーンゲームのプレイヤーを集めた組織」で,ブロックチェーンゲーム界隈の人がよく使うキャッチフレーズ「Play to Earn」を地で行くプレイヤーの集団なのだ。
そんなYGG Japanのブースは大きかったが,やってることは基本的にひたすらセミナーだ。「ブロックチェーン最高!」みたいな雰囲気とノリで彩られて,儲かる(とされる)話を延々とされてコインとかバンバン配ってるんだろうと思ってのぞいてみたら,ちょっと雰囲気が違う。
ブースのテーマカラーこそ赤で派手だったが,「ちょっとうさん臭い」と思ってる人が多いであろうブロックチェーンゲームを,こんな地味な展示でどうやってアピールし,それで一体何がしたいのだろうか。
東京ゲームショウの最終日に,YGG JapanのCo-Founder兼ForNのCEOである藤原哲哉氏に時間をいただき,いろいろと話を聞いてみた。ゲームが好きな普通のゲーマーにとって,ブロックチェーンゲームとはまだ未知で異質なものかもしれないが,業界の状況や雰囲気をなんとなくつかむためにも,ぜひお読みいただきたい。
4Gamer:
TGS最終日の午後という,とても疲れてるタイミングにお時間ありがとうございます。
ブロックチェーン界隈の人に改めて言うことでもないんですが,基本的にゲーム業界全体は,雰囲気としてブロックチェーンゲームというものをやや遠巻きにしてる感がありますよね。
藤原哲哉氏(以下,藤原氏):
その話で言うならば,業界の人達は見てくれてると思うんです。むしろ受け入れてもらえてないのは,ユーザーさんのほうじゃないかなという気がしています。
4Gamer:
なるほど,意外と冷静でした。
藤原氏:
事業者さんがなぜ受け入れざるを得ないかというと,ソーシャルゲーム事業者さんは,開発・マーケ共に次の一手を模索しているから,という状況があると思うんですよね。
4Gamer:
確かに昔のようにはいかず過当競争ですし,やや行き詰まり感はあるかもしれません。
次のビジネスを探さなくてはならないという時点で,やはりブロックチェーンは外せないです。なにせ,東南アジアでの勢いが凄まじすぎるので。そのあたりも考えてマネタイズして日本でもビジネスを作っていかないと,自分達のポジションが作れませんから。
4Gamer:
僕も長いことゲーム業界は見ていますが,それにしたって今回のこれ(ブロックチェーンゲーム)はイノベーションの速度が速すぎだと思うんです。
グラフィックス技術なんかのイノベーションは幾度となくありましたが,それは「以前の延長線上」だったわけです。でもこれは違います。「アイテム課金」が登場したときと,ちょっとだけ近いかもしれません。
藤原氏:
そうですね。法整備なんかも全然追いついてないですし,監査法人がどう扱うのか,会計をどうやってやればいいのかとか,そのあたりは参入するときのネックにはなりますね,やはり。
4Gamer:
会社の運用方法にまで影響するわけですしね。
藤原氏:
あともう一つ無視できないのは,大手のパブッリシャさんにおけるステークホルダーやIPホルダーさんだと思いますね。ブロックチェーンゲームにおける「稼ぐ」というところは,ゲームと相性がいいのかとか,IPにマッチしてるのかとか,そういう部分が適切なのかどうかという部分で問題になるかもしれません。
4Gamer:
エンターテイメントの消費行動に「カネ」を持ち込むのか,と。
藤原氏:
ええ。そもそも日本人は投資というものに対してそこまでビビッドな反応をする人種でもないですし,いまおっしゃったように「エンターテイメントとしてのゲーム」と「ゲームの領域を“稼ぐ”ことで拡張していいのか」という部分の議論は課題になっていると思いますね。
4Gamer:
というかそもそも「Play to Earn」という言葉自体がおかしくないですか?
藤原氏:
そうなんです。ですから私達はそもそも「Play and Earn」という言葉しか使ってないです。
4Gamer:
いや……というか「earn」なんですか? playとearnって概念として同じ線上に共存するんでしょうか。
藤原氏:
楽しみながら稼ぐっていうのは,共存できる可能性があると思いますよ。もちろん「稼ぐ」って言っても,1万円入れたら100万円になったとかそういう話じゃなくて,1万円入れたら1年後に1万円返ってくる……みたいなのでもいいですよね。
4Gamer:
うーん,まぁおっしゃることは分かります。
藤原氏:
ゲームという体験の中に「稼ぐ」という付加価値がプラスされて,それによって「やめない理由」が出来てくると思うんです。その新しい価値体験を推し進めていかないと,このマーケットは大きくなっていかないんです。
4Gamer:
なるほど。それでもこれはearnではなくてprofitなんじゃないかと思うんです。earnという時点でそれはもうplayではないのでは? いや言葉遊びだと言われたらそれで終わっちゃうんですが,それにしても最初から用語に誤認を含ませてる感じがちょっとイヤなんです。
藤原氏:
なるほど。
4Gamer:
この手の「おいしい話」ばかりをそれっぽく書いてるブログとかメディアとか,大体同じトーンですよね。胡散臭そうな話ばかりしてますが,そんなに釣れるの? って思っちゃうんですが。
藤原氏:
それに関してはシンプルで,なんでそんなにearnの話ばっかりなのかというと,彼らが考えられるマーケティングメッセージがそれ以外ないからです。
4Gamer:
あぁ……なるほど。
藤原氏:
そういうメッセージしか出せない理由もシンプルで,そもそもブロックチェーンゲームが東南アジアの国々で盛んになったということは,それらの国々に対して適切な形でGameFi※っていうものが生まれたからだと思うんです。
※GameFi:Game(ゲーム)とFinance(金融)を組み合わせた造語で,ゲームの金融化を意味する言葉。ざっくり言うと「ゲームで稼ぐことができるようになっていること」を指すことが多い。
4Gamer:
はい。その言葉もなんだかなぁ……という気はしていますが。Gameという言葉でラップすればいいんでしょ,みたいな感じがちょっとモヤモヤするといいますか。さっきの言い方で言うなら,若干の誤認を含ませてるといいますか。
藤原氏:
なるほど。
4Gamer:
要はFinanceがGameでくるまれてるだけですよね。つまり基本的にはゲームの種別を指す用語ではなくて金融(Finance)の1ジャンルだと思うんですが。
藤原氏:
はい,おっしゃってる意味は分かりますし,そういう部分が強く見えることも否定はできません。
でもそのGameFiという概念が先進国に浸透していくにあたって,ちょっとずつGameFiという言葉が淘汰されていきました。playすることに対してgainがあるということ,そしてそのgainに対しての新しい価値提供によって,ユーザーがもっとゲームに対して夢中になれるかもしれないっていうのが,用語の意味とかはいったん置いておいて,このイノベーションの本質だと思うんです。
4Gamer:
しかし冒頭のお話で言うなら,ユーザーは……というかゲーム業界人もまだそこまでは,そのイノベーションにはついていってない気がします。
藤原氏:
そこってたぶん結構シンプルな話で,例えばウォレット※を作るのが大変だよねとか,どのドキュメントも英語なので読めないとか読みたくないとか,そういうことなんじゃないかなと。
※ウォレット:その呼び名のとおり,仮想通貨を保管する場所を指す。取引所であるCoincheckやbitFlyerを筆頭に,MetaMaskやPhantom Walletなどその種類は多い
4Gamer:
確かにそれは否定できません……。
藤原氏:
普通のスマホゲームって,海外のものであってもローカライズされてカルチャライズされて,日本語以外を読むことはほとんどないと思うんですが,ブロックチェーンゲームはその生い立ちからしてもグローバルをベースにして作るのが普通なので,あらゆるものが英語で書かれていることが多いんですよね。そういういろんな「参入障壁」があるんじゃないかなと。
4Gamer:
暗号資産を手に入れて売買するだけでも結構面倒くさいのに,そこへ持ってきてウォレットを作れとか何をしろとかあれをしろとかもう。自分は割とオタク寄りでそういうのも全然平気な方なんですが,それにしたって全部1個でやらせてくれよ,って思います。
藤原氏:
あとはさっきもちょっと触れましたが日本人って「投資」ということを教育的にも教わってきていないですよね。そこでも壁はあるでしょうし,経済についてもキチンと概念から教わって浸透しているわけではないので,仮想通貨ってホントに大丈夫なのかとか,そういう部分も大きな参入障壁になると思います。
ゲームの選択肢が増えて業界が大きくなればいい。ゲームがすべてブロックチェーンゲームになる必要なんか,ないんです
私,去年の11月(2021年11月)に創業したんですけど,実はそれまでMetaMask※とか作ったことなくてですね……。
※MetaMask:イーサリウム系ブロックチェーンに対応した仮想通貨ウォレットで,今最も普及しているソフトウェアウォレットの1つ。ブロックチェーンゲームをやろうとするなら,いつかおそらく作ることになる。
4Gamer:
あれ,そうなんですか?
藤原氏:
ええ,仮想通貨にも一回も挑戦したことなくて。それでまぁがんばって挑戦して1回やってみて思ったのは「あぁもうスマホゲームはできないな」と。
4Gamer:
それはどういう意味でしょう。
藤原氏:
先ほどから話題にのぼる「お金」の部分も確かにありますが,それよりもブロックチェーンゲームにはいろんな違う楽しみ方があるんです。例えばゲームに依存しないコミュニティが出来て新しい仲間が増えて,逆にもっとゲームに時間をかけたいって思ったりというか……分かります?
4Gamer:
分かるような気もしますが,でもそれはゲームである必然性がないのでは?
藤原氏:
いやゲームだから楽しいんですよ。株やってるわけじゃないですから(笑)。なのでそういう新しい魅力については,ゲームユーザーさんにメッセージとして出せるんじゃないかなと思ってます。
4Gamer:
なるほど。
藤原氏:
だから私達の今回の東京ゲームショウの出展テーマは「ゲームはもっと夢中になれる」というのにしたんです。例えば社会に出てゲームからちょっと離れてしまったり,最近忙しくてゲームがご無沙汰だったり,そういう人達を業界に呼び戻す,いいきっかけにもなるんじゃないかなと,ちょっと思ってます。
[TGS2022]「THE KING OF FIGHTERS ARENA」など,6タイトルのブロックチェーンゲームをYGG Japanブースでチェック
TGS 2022のYGG Japanブースでは,MARBLEXやdouble jump.tokyoなど5社が共同で出展しており,最新のブロックチェーンゲーム計6タイトルが展示されていた。本稿では,ブースにいたスタッフに話を聞きつつ,最新タイトルを遊んできたので,それぞれ簡単に紹介したい。
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- ニュース
- 編集部:T田
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- ブロックチェーン
4Gamer:
新しいゲームのジャンルとして捉えてほしい,みたいな?
藤原氏:
はい。ゲームがすべてブロックチェーンゲームになる必要なんかないんです。ブロックチェーンゲームというものがはやることによって,よりゲームの選択肢が増えてゲーム市場が大きくなれば,より多くのユーザーさんだったり多くの資本だったり,そういうものがこの業界に入ってくるようになります。
4Gamer:
そこは確かにそうですね。
藤原氏:
なので,その新しいリソースを使ってAAAのコンソールゲームを作るのもいいし,もっとリッチなスマホゲームを作るのもいいし,もっと稼げるブロックチェーンゲームを作るのもいいと思うんです。どうであれ,もっと業界は盛り上がっていくと思うので,ブロックチェーンゲームは新しい選択肢として,業界に貢献できればいいなと。
4Gamer:
ではその理想を実現するために,まず御社がしなければいけないことはなんだと思いますか?
藤原氏:
そこは間違いなく「チャネルの整備」と「マスアダプション化」※だと思ってます。
チャネルというところで言うと,まだまだなさすぎます。インフルエンサーも少ないですし,情報メディアも少ないし,ありとあらゆるものが足りてなさすぎだと思います。なのでまずチャネルを拡大させないと。
※マスアダプション化:「大衆化」の意味で使われており,世間一般に向けて価値や物事を届けること。
4Gamer:
その場合の「チャネル」は販売チャネルとかマーケティングチャネルとかそういう意味合いも含みますか?
藤原氏:
はい。パブリッシャって,広告を使ってダイレクトマーケティングをして人を増やすわけです。でもブロックチェーンはまだ基本的にマーケットが整ってないし,チャネルもないし,みんな打つ手がないんですよ。だからまずマーケットとチャネルを拡張させなきゃいけないというのが一つのポイントだと思っています。
4Gamer:
でも,そもそもゲーム業界的な文脈で言うなら,そこでマーケティングをするほどタイトルって出揃ってましたっけ。
藤原氏:
いま言おうとしたのはまさにそこに関わることで,違う部分で必要なものは,やはりキラーコンテンツとなるような面白いゲームです。それが出てこないことには進みません。
そしてそのキラーコンテンツが出てきたときに、ゲームユーザーの皆様がちゃんと戸惑うことなく遊べるようなフォーマットを整えてあげることが重要かなと。
4Gamer:
課題が結構ありますね。
藤原氏:
そうなんです(笑)。
4Gamer:
正直に言うことが許されるなら,いまあるラインナップはどれもちょっとあまりゲームとして興味を引かれないといいますか。まぁ「ゲーム」というエンターテイメントとして作ってないからだとは思うんですが。なので今はまだ「これで遊ぼうぜ」と誘われても,ちょっとないかなぁと。
藤原氏:
まぁ今はそうかもしれませんね。
4Gamer:
たださっき話題に出たように,コンピューターゲームの広がりの一環として,一つの新しい柱として,ブロックチェーンゲームが並び立つのは全然いいと思うんですよね。テクノロジーに罪はないので,胡散臭いとかそういう理由で嫌うのはよくないと思いますし。
大手ゲームメーカーさん達がブロックチェーンゲームに入ってきたそのときが,このジャンルにとっての大きな転換になります
4Gamer:
ただそれにしても……なんでしょう,ちょっと話の続きみたいになっちゃいますが,ブロックチェーン界隈の人達が増やしたいと思っている僕らユーザー側が,それを選択するメリットがちょっと見えないんです。そこは今後,どのようにアピールしていくんでしょうか。
藤原氏:
なるほど。たぶんですが,今のこの市場で,事業者の皆様もこのトレンドとか状況を見ちゃってるので,“投資”とか“儲かる”とか,ブロックチェーンゲームがそういう価値感になってしまってるのかなというのは,結構思っています。
4Gamer:
時期がくれば変わるということですか?
藤原氏:
よくポンジ・スキーム※みたいな言葉でも言われたりしますが,これからのフェーズで言うと,よりサステナブルなモデルで,よりお客様が長く楽しめるようなゲームはいくつも出てきますし,Unreal Engine 5を使ったリッチな体験ができるゲームとかも出てきたりするので,プレイヤーさんそのものが変わるはずなんですよ。
※ポンジ・スキーム(Ponzi scheme):投資詐欺の一種。実際には資金運用を行わず,後から参加する出資者から新たに集めたお金を,以前からの出資者に向けて分配する手法。
4Gamer:
ブロックチェーンゲームにおける「ゲーム部分」がもっとゲーム性を増したものになるにつれて,既存のゲームユーザーが入ってくるはずなので,必然的に変わるんじゃないかという感じですね。
藤原氏:
はい。今までは,基本的にスタートアップ企業さんたちがゲームを作ってましたが,これからは大手のゲームメーカーさん達が,このブロックチェーンゲームに入ってくるわけで,この“作り手の転換”が,ブロックチェーンゲームの大きな転換なのかなと個人的には思ってます。
4Gamer:
ソシャゲ/スマホゲーと同じ道を辿る,と。
藤原氏:
そうですね。やっぱりソーシャルゲームでも最初「ガチャ」が登場したときにかなりのアレルギー反応があって,「誰がやるんだこんなの」とまで言われてましたが,その5年後には,ゲーム業界全体の売り上げ規模は軽く20倍くらいになったわけです。※
※参考:国内スマホゲーム市場、1兆円に迫る規模に メーカー寡占化進む(ITmedia:2016年3月14日)
4Gamer:
あぁ……そんなになったんですね,あのとき。
藤原氏:
それはやはり“ガチャ”という文化が結果的にはゲームユーザーに受け入れられて,しっかりと根付いた証拠だと思うんです。今回は,ブロックチェーンゲームというものが同じところにトライしているという話だと思うので,それを,世界とか世論とかユーザーさんがどう評価するかというところではないかと。
4Gamer:
そもそも業界もゲームユーザーも,まだうまく評価できないんだと思うんですよね。さっきの話ではないですが,あまりにも進む速度が速すぎて,どんどんよく分からないものになっていく……ように見える。
藤原氏:
はい。そこに関してよくなかったなと思うのは,例えば2018年にSkyMavis社による「Axie Infinity」※というゲームが出てきましたが,あまりにも急速に売り上げとユーザーが増えすぎてしまったんですよね。
※Axie Infinity:ベトナムのSkyMavisから2018年にリリースされたブロックチェーンゲーム。「NFTゲーム」「ブロックチェーンゲーム」の話をするときには必ずと言っていいほどその名が登場する。
4Gamer:
実は当時はそんなにちゃんと追ってなかったんですけど,そんなにすごかったんですね。まぁあれこそがポンジ・スキームみたいなものですから,急成長も納得ですが。
藤原氏:
まぁ確かにそう言われることもありますね。
そういうことも含め,なんか数段飛ばしで進んでしまったというところが結構ありました。でも重要なのは,その新しいイノベーションでビジネスモデルがまだ未成熟な中で,分かりやすく“よくない”ところに,あまりにも人が付きすぎてしまったというところなんですよね。今のブロックチェーンゲーム領域って,いろんなものを飛ばしすぎてるんですよ。
4Gamer:
業界という意味では当事者であるからこそ,余計にそう思うわけですね。
藤原氏:
ええ。本来取らなきゃいけないプロセスが正しく取れていないから,先ほどからご指摘を受けてるようにまったく固まってないんですよ。固まっていないのに,ズブズブと踏み込みすぎてるがゆえに,危なっかしい領域に見られてしまってるってのが,よくないと思いますね。
4Gamer:
土台がまだ乾いてない泥なのに,上に積み木をどんどん積み重ねている感じがとても不安定に思えます。ちょっとずつ固くなってきましたが,それでもまだ「いつか倒れそう」なものに見えると言いますか。これこそが,御社のような事業者が何とかしなければならない問題ではないかと。
藤原氏:
そういう意味で我々が最初に打つ手は,まずプラットフォームです。
本家「YGG」と違って,稼ぐというところには重きを置かない。日本向けにカルチャライズされた独立された方針で動く
4Gamer:
プラットフォームというのは,もちろんブロックチェーンゲームの?
もちろんです。ブロックチェーンゲームに特化したプラットフォームの開発を今やっていて,それを提供する理由のまず一つになるのが仮想通貨です。これが絡んできてしまってるので,いまは詐欺のプロジェクトが多いんですよね。
4Gamer:
そうでしょうねえ。
藤原氏:
それを正しく精査して,ユーザーの皆さんに正しい情報をしっかりと届けたい。どれぐらいお金がかかるのかとか,こういう面白さがあるとか,そういうことがしっかり整えられた情報プラットフォームを作らなきゃいけないと思ってます。
4Gamer:
でもそういうのって,事業者側の人が作って信憑性はあるんでしょうか。ゲームプレイヤーから見たときに。
藤原氏:
あるかないかで言うと,まず初めはないと思います。
4Gamer:
それを承知の上でやる?
藤原氏:
はい。信憑性を持ってもらえるようにちゃんと育てていかないとならないし,そのためにしっかりとした事業者と付き合うことが重要だと思っていて……例えばそのスタートアップを例に取っても,とにかく新しいものや話題のものだけを取り扱うというよりは,キチンとした大手だったり,実績のある会社だったり,そういう皆様のゲームとかを取り扱いながらプラットフォームを作っていく,みたいな部分は大切にしていきたいなと思ってます。
4Gamer:
まあスタートアップの皆さんがやることは,基本的に会社のバリューを上げるしかないというのは分かるんですが,それにしたっていつも同じ手法なので,ちょっとさすがに……。
藤原氏:
ですので我々は,グローバルのギルドと違って「稼ぐ」というところに重きを置いてないんですよね。
4Gamer:
……YGGなのに?※
※冒頭で書いたように,YGGとはブロックチェーンゲームのプレイヤーを集めたギルドのことで,一般的なMMORPGなどのギルドとは違い,まさに“稼ぐため”に集まっている集団が,(本家の)YGGなのだ。
藤原氏:
あ,そこは結構皆さんに勘違いされるところなんですが,YGG Japanって,基本的には……ええと,なんて言うのがいいでしょうか……。
4Gamer:
YGGのサテライトオフィスではない?
藤原氏:
はい。我々は看板を借りている会社であって,YGGのサテライトオフィスとか日本ブランチとかではないんですよ。ですので,基本的に我々が事業方針を決めて,我々が日本のカルチャーに合わせた展開を行っているんです。
Yahoo!とヤフー株式会社みたいなもの……かな?
なるほど。でも知ってる人から見たら,正直なところ「YGG」と付くだけでちょっと眉をひそめる人だって少なからずいるわけじゃないですか。何も,その名前にしなくてもよかったのでは……と思ってまして。
藤原氏:
私はこのForNという会社を,Web3のマーケティングを解決するために作ったんですね。それがなんでYGG Japanをやってるかというと,これが一番ベターだからです。
4Gamer:
ベターというのはどういう意味においてでしょうか。
藤原氏:
私は元々ネットマーブルという会社にいて,いわゆる外資系ですが,そこでゲームのマーケティングとかプロデュース業務とかやってたときに,垂直立ち上げの大切さというものを身に染みて感じたんです。
4Gamer:
元ネットマーブルが多いですよね,御社。
藤原氏:
はい。私はネットマーブルの前はサイバーエージェントだったんですが,そのときにも新作ゲームを出しました,その時の予算バジェットはあまり大きくなくて,でもプロモやりました,そして埋もれました。
4Gamer:
すごくありそうな話です。
藤原氏:
そうなんですけど,垂直立ち上げがいかにトレンドを作っていくかというのを肌で感じてたんです。そのときのことを考えると,私がForNという小さい会社で「日本をブロックチェーンゲームで変えるんだ!」と声高に叫んだところで,その声はどこまで届くのかなと思ってまして。
4Gamer:
冷静な判断のもとでの看板借りなんですね。
藤原氏:
ええ。世界を見渡したときに,やはりYGGが世界ナンバーワンであることは揺るぎません。であれば,少なくともブロックチェーンの事業者はまず話を聞いてくれるんじゃないかと。そこで,私達はYGG Japanって言ってるけど,YGGと同じことはやらないよ,と。
基本的には,私達がやりたい事業方針とはこういうものだと,しっかり伝えたうえで誤解を誤解を解きながら,カルチャライズしていく。そういうことを考えています。
4Gamer:
いやあ……リリース※には「YGG Japanの国内運営を行うことを発表いたしました」って書いてありましたし,それは説明してもらわないと分からないですねきっと。
※2022年3月24日のリリースにはそう書いてある。(外部サイト)
藤原氏:
そうですよね。私は外資系にいたので,ヘッドクォーターとの関係性の難しさを感じたこともありました。自分自身で色々やりたくて起業したので,できるだけ自由にやれる環境を求めていたんです。
4Gamer:
でもそういう個人の思いをいったん脇に置いても,YGGと組むのが日本のブロックチェーンゲーム界隈においては最善手であると思ったわけですよね。
藤原氏:
はい。日本のゲーム文化をもう一歩進めるためには,垂直立ち上げしなきゃいけないんです。だとするならば,やはりちゃんとした母体が裏にいて……そうだ,まさに先ほどおっしゃっていた「本当にそれは正しい情報なのか」みたいなこともそうですが,小さい会社の私達がやったところで「あぁまた詐欺ですか」みたいになって日本のゲームカルチャーからリジェクトされちゃうと思っていて。そういう事態を解消したかったから,YGG Japanとして大きなところと組んだというのはあります。
4Gamer:
なんでわざわざ「Japan」を付けてこれをやるんだろうと思ってたんですけど,なるほど理解できました。おっしゃるとおり,界隈では少なくとも名前を知らない人はいないですしね。
藤原氏:
私は……もちろん自分でやりたかったです。今でもその野望は持ってますし,なんなら本体のYGGを越えたいとさえ思っています。そして私のその「越えたい」という思いは,YGGとしても非常にいいものであるはずなんですよね。
4Gamer:
そうなんですか?
藤原氏:
すべてのsubDAO※が本家を越えるつもりで新しい正攻法を作っていって,それを取り入れてグループとして大きくなっていけばいいと私は思っているし,それが彼らに対しての「還元」にもなるはずなんです。
※DAO(Decentralized Autonomous Organization)は日本語で「分散型自律組織」と呼ばれる,支配階層を持たない組織の形態。巨大化しすぎると統治を持たないことで崩れかねないDAOを,小さい単位に分けてフラットに競合させ,機動的に動けるようにしたものがsubDAO。本稿の場合は本家YGGに対し,各リージョンごとの組織を指す。
4Gamer:
独立した方針で歩んでいくのだと。
藤原氏:
彼らの指示に従って,同じビジネスモデルを日本でやるよりは,そもそも私達は彼らより日本のマーケットを知っていますよね。日本でカルチャライズするんだったら,このギルドのシステムが一番いいはずだと私は本家の彼らに訴えかけていて,それが一定の理解や納得を得ているからこそ,おそらくこういうビジネスをやらせてくれているはずなんです。
4Gamer:
なるほど,だいぶ関係性が分かってきました。
藤原氏:
悲しいのは,東南アジアで流行ったギルドのモデルを,日本でそのまま展開しているギルドもいますが,なかなか東南アジアの再現とはなっていないことです。
なので早くチャネルを確立し,ビジネスモデルを正しく見せることによってロールモデルを作り,この業界はこういう方向で発展させなければブロックチェーンゲームは日本で流行らないというところを,我々が正しく見せつけないといけないんです。
4Gamer:
なかなか大きい感じできましたね。
お金の話を避けてキレイごとを言う前に,まずビジネスとして正しく成り立つ形を作らなくてはいけない
藤原氏:
私達が,ちゃんと汚れ役をやらなきゃいけないと思うんです。おそらくWeb3の人達からは絶対に文句を言われますし,なんでそんな旧来のビジネスモデルを反映させてゲームのところをやるんだとか,Web3の概念はそんなものじゃないとか,いろいろ文句は言われます。
4Gamer:
それは……なかなか大変そうです(笑)。
藤原氏:
そもそもWeb2.0と3.0をわざわざ言葉で分けて考えるよりも,ゲームの文化が新しいイノベーションを取り入れることでその先に進むということが重要だと考えているわけで。
4Gamer:
まぁそのへんの定義は些細なことですし,そもそもWeb2.0と呼ばれていたものはこういうものだった,と正確に定義できたのはけっこうあとになってからですよね。Web3.0もいま定義するのは難しそうです。
でもたぶんWeb3には「自分のデータは自分のもの」というのが大原則であるわけで,そういう意味では現時点ではその最先端がブロックチェーン……ということになりますが。
藤原氏:
はい,そうだと思います。
でもとにかく重要なのはそんな定義とかではなくて,お客様達がこのブロックチェーンゲームに触れて,慣れて,プレイして,よりゲーム業界が大きくなって選択肢が増えて,ゲーム業界にお金とユーザーがもっともっと入ってくるようになることで,そうなればまた日本が世界に誇るゲーム文化が作れるはずだと思ってます。
4Gamer:
ゲーム業界全体の問題であると。
藤原氏:
かつて自分が外資系にいた,その口で言うのも大変おこがましいんですが,外資に食い荒らされた日本が結構イヤだったんですよね。日本人はもっと面白いゲームを作れるはずだし,IPを作るパワーも素晴らしいです。漫画というジャンルでは勝ってるのに,それがゲームだとなんで負けるのかといったら,やっぱり向こうのほうが圧倒的にスピードが速い。作るスピードが速いし,技術力も高い。
4Gamer:
そうですね。ホントに速度感に関しては,日本は世界の何分の1なんだろうと思うことがあります。
藤原氏:
やはり日本は慎重にやりすぎているところもあるし,そもそもビジネス面で見るならばソーシャルゲームってグローバル展開を結構失敗してるんですよね。
でもブロックチェーンゲームは基本的に全世界でつながってるものなので,日本はブロックチェーンゲーム対応でまだまだいけるはずです。
4Gamer:
開拓の余地が大きいからですか?
ええ。1人当たりのゲーム課金額は世界一の国だし,日本のマーケットってグローバルで見てもアメリカ,中国に続いて第3位の国になってるわけで,ゲームに対しての可能性が大きいマーケットなはずです。
4Gamer:
そういう意味で言うなら,確かにブロックチェーンゲームはまだ全然ですね。
藤原氏:
ブロックチェーンゲームについては世界から周回遅れという評価を受けているのも,まぁ理解できます。この問題は国との調整という部分が重要だというのがもちろんあるわけですけど。……とはいえ悔しい部分も結構ありますが。
4Gamer:
では日本がブロックチェーンゲームが盛り上がってお金が動き出すと,まずどんなことが起きると思いますか?
藤原氏:
いろんな雇用形態が生み出せるはずだと思ってます。例えばブロックチェーンゲームのビジネスで言うと,コミュニティマネージャーとかはすごく重宝されるはずなんですよね。コミュニティというものが今後非常に大きく重要なものになっていくでしょうから。
あと“ゲーマー”という職業の人も増えてくるはずです。なぜかというと,Play to Earnみたいなところでお金が稼げるゲームが普通に増えてきますから。
4Gamer:
周辺領域も巻き込んで大きくなっていくというわけですね。
藤原氏:
周辺という意味では,配信者ももっと盛り上がってくるはずですし,メディアも盛り上がってくるはずです。……うん,国内のマーケットが育つ周辺領域もあるはずです。なにせお金が動きますからね。
4Gamer:
お金が動くことにはいろんな意味がありますし,「お金の話かよ」って嫌われがちですが,やはり一つの正義ですから。
藤原氏:
はい。それがないとモノが作れないし,それがないとマーケティングもできません。キレイごとを語る前に,やはりまず正しくビジネスとして成り立つ形を作った上で,お客様に還元できるビジネスモデルを作っていかないとダメです。
4Gamer:
まぁでも我々日本人にとって「カネ」の話はセンシティブですよね。お金の話は汚い,お金の話は下品だ……ぼんやりとそんなイメージを持っている人もまだまだ結構多いんじゃないでしょうか。このあと広めるにあたり,そのあたりの解消はどのように考えてます?
藤原氏:
そこは……実は結構根深いんじゃないかと思ってます。
日本の1人あたりのARPPUって世界でナンバーワンになっていて,ゲームにお金を使うことに対してアレルギーは出ないはずです。ただ,たぶん彼らは「エンターテイメントであるゲーム」に対してお金を浪費しているわけで,エンターテイメントというコンテンツに対してキレイなお金である1万円を使っているわけです。1万円に相当する,正しい価値還元を受けているというマインドなわけですね。
4Gamer:
浪費ではなくて消費です(笑)。
藤原氏:
そう,そうです! 消費です! ……それで,いままでのその消費活動がお金に変わるというのが,まずアレルギー反応を起こす理由の1つだと思うんです。ただ,体験としてそれが行われたときに,おそらくユーザーたちはガチャで1万円使ったお金が,いずれ1000円とか2000円で返ってくるような体験をまだしてきていないだけだと思うんですね。
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