インタビュー
EVOのもっとも大切な価値観は参加者が家族のように協力しあい,楽しむ時間を過ごせること――Joey Cuellar氏,Mark Julio氏インタビュー
アメリカの格闘ゲームシーンを育て上げてきた2人が,今年で3年目を迎えたEVO Japanをどのように分析しているのか。また,EVO Japan 2019の時にJoey氏より発信された“Core Values(基本的価値観)”にはどんな意味が含まれていたのか。さまざまな質問をぶつけてきたので,その内容をお届けしたい。
「EVO2020」公式サイト
「EVO Japan 2020」公式サイト
我々はコミュニティファーストで考えている
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。EVO Japanの開催も今年で3回目となりました。まだ最終日が残っていますが,EVO Japan 2020について,意見や感想を聞かせてください。
※インタビューは2020年1月25日に収録
またこうして日本に来られたことをうれしく思っているよ。EVO Japanは日本のコミュニティに留まらず,世界中のプレイヤーから名声を獲得していて,それは本当に喜ばしいことだね。
4Gamer:
ただ,本家EVOと比較するとシーンへの影響力はまだまだ足りないように思うのですが,いかがでしょうか。
Joey Cuellar氏(以下,Joey氏):
EVOの名誉は積み上げてきた歴史によって生み出されているんだ。EVOは20年以上前に始まり,参加した人が地元に戻って口コミで拡散し,来年はその地元の友達と一緒に参加して……といった風にドンドンと規模が拡大していった。
EVO Japanも同じで,日本国内だけでなく海外からの参加者も増えているよね。まだ3年めだけど順調に成長しているのを感じているよ。
4Gamer:
参加者といえば,EVO2019,そしてEVO Japan 2020では「スマブラ」シリーズのプレイヤーが最大勢力になっています。これまでは毎年「ストリートファイター」シリーズの参加者がもっとも多かったんですが,このことについて何か思うところはありますか。
Mark氏:
EVO Japan 2018の時から「スマブラ」部門には多くのプレイヤーが参加してくれていたし,個人的にはそこまで意外ではなかったかな。今アメリカでは大規模大会の「Genesis 6」が開催されているんだけど,そっちにもたくさんのスマブラプレイヤーが参加している。日本を含めて,世界中にそれだけ多くのプレイヤーがいることが分かったのはとてもうれしいね。
4Gamer:
昨年開催されたEVO Japan 2019について聞かせてください。Arslan Ash選手の登場と活躍に全世界が驚かされました。EVOの歴史から見ても稀有な出来事だったと思うのですが,お二人はどう感じましたか。
Mark氏:
彼は本当の実力を知られていない状態でEVO Japanを制し,そしてアメリカのEVOでも優勝を果たしたんだ。こんな出来事はEVOの歴史から見ても初めてのことで,コミュニティにとってすごくプラスに働いたと思っているよ。「鉄拳」シリーズがより注目される一因にもなったんじゃないかな。
4Gamer:
EVO Japan 2019では,「DEAD OR ALIVE 6」のイベント中に内容が過激すぎるということで放送が中止され,その後Joey氏から「EVOと格闘ゲームコミュニティの“Core Values”に反するため放送を中止した」といった内容のツイートがありました。EVOのCore Valuesについて詳しく聞かせてください。
Mark氏:
驚いたかもしれないけど,僕らはEVOをプレイヤーだけでなく,一般的なファミリー層にも受け入れられるべきイベントだと考えているんだ。日本とアメリカの文化は確かに大きく異なるけど,あの出来事についてはいずれにせよ不適切だと判断したよ。
本来我々が考えているEVOの“Core Values”――もっとも大切にしている価値観は,参加している皆が家族のように協力しあい,楽しい時間を過ごせるようにすることなんだ。
Mark氏:
そのうえで重要なポイントが3つあって。1つめは,競技性を追求した大会であること。EVOはいつだってトーナメントとして開催していて,これはより高みを目指す選手たちのためのポイントだね。
2つめは,よりよいプレイヤーになるために自分自身で答えを見つけ出すための場所にすること。同じ考えを持つ人が集まるコミュニティはそのために存在していて,そこに触れる機会となることが大切なんだ。
そして3つめが,コミュニティそのものだね。コミュニティに属するプレイヤーたちが集まれる機会を設けること。EVOはこの3つを大切にすることが,自分たちのブランドを守ることにつながると考えて活動している。
4Gamer:
コミュニティがポイントの1つということですが,コンテンツを借りるメーカーの協力もEVOには不可欠だと思います。プレイヤーとメーカーが求めるものは必ずしも一致しないと思いますが,こうしたバランスについて,どう考えていますか。
Joey氏:
それでも我々はコミュニティファーストで考えているよ。メーカーからすれば自分たちの一番新しいゲームをメイントーナメントに採用してもらって盛り上げたいという気持ちがあるのは分かる。しかし,シーンを見ていればどのタイトルが盛り上がっているかは一目瞭然だよね。我々の使命はプレイヤーがもっとも楽しめるタイトルを選ぶことなんだ。
Mark氏:
実現できるなら,すべての格闘ゲームをメインタイトルに選びたい。ただEVOは3日間しかない。だから,いろいろなタイトルのプレイヤーが楽しめるようにBYOCエリアやサイドトーナメントを設けているわけだし。それと同時に,メインタイトルの進行順序は現地の盛り上がりを高める,配信を見た人が興味をもって自分もやってみようと思えるタイトルを考えた上で予定を組んでいるよ。
EVOブランドを常に守らなければならない
大切なことはファンの信頼を失わないこと
4Gamer:
先ほど日本とアメリカの文化は大きく異なるとおっしゃられました。ワールドワイドに展開しているEVOにとって,文化の違いはネックになる部分の1つだと思います。今後どのように解消,また吸収していくのでしょうか。
それは本当に難しい問題だと考えている……。僕らはアメリカ人でアメリカの会社で働いていて,アメリカの考え方で物を見る。ほかの国との間にあるその差を埋めるためには,まずなによりコミュニケーションが大切だと思う。
そのうえで,Joeyが常に言っている「EVOブランドを常に守らなければならない」ということが,僕らの立場では重要になってくるのかな。EVOに参加してくれる人たち,配信を見ている人たちは,EVOというブランドを信頼して時間とお金をかけて参加してくれているわけだから,その人々の信頼を失わないようにすることが,興行としてもっとも大切なことなんだ。今後もその思想は変わらないし,今後より気を付けていくから前回のような事件は起きなくなると思うよ。
4Gamer:
日本では今まさにeスポーツが盛り上がりを見せています。海外のeスポーツチームであるTeam LiquidやFnaticが日本に進出するなど,海外からも注目されているように感じられますが,お二人は近年の日本のeスポーツシーンについて何か思うところはありますか。
Joey氏:
アメリカと比べると日本はまだまだ発展途上じゃないかな。アメリカではイベントを行うときに支払う賞金といった法律の問題はすべて解決されているんだ。しかし日本ではこれがあるから,プレイヤーやコミュニティに対し,自由に褒賞を与えられないよね。
Mark氏:
アメリカや欧州では,MLG,ESL,Dreamhackといった団体がeスポーツを仕切っているけど,日本はメーカーがマーケティングに使っている。これは大きな違いなんだけど,目標は実は同じで,プレイヤーの数をとにかく増やすことにある。日本とアメリカで発展していく道筋はまったく違うのに,目指している場所は同じというのはとても面白いことだと感じているよ。
4Gamer:
日本のeスポーツシーンがアメリカに追いつける日は来ると思いますか。
Joey氏:
追いつけないとは思わないかな。ただ,それには政府のサポートが必要不可欠とも思う。日本の政府は新しいものへの対応がすごく遅いよね? まずはそこがどうにかならないと難しいんじゃないかな。
4Gamer:
日本のみならずeスポーツは世界的な盛り上がりを見せていますが,Echo Foxの解散やOverwatch Leagueの存続危機など,マイナスな出来事も増えてきています。今後,eスポーツの未来はどうなっていくと思いますか。
Mark氏:
正直に言ってそれは誰にも予想できないことだと思っている。eスポーツは変わっていくものだし,もし新しいゲームが面白くなければ,人々の興味はほかのコンテンツに向いてしまうかもしれない。ただ,変わらないものもある。
4Gamer:
それがコミュニティなのですね。今日のインタビューではたびたびコミュニティという言葉が出ています。これを成長させるのにもっとも大切なことは何だと考えていますか。
Joey氏:
コミュニティは多くのプレイヤーが組み立てているものであって,成長させようと思うのであれば,プレイヤーの声を聴くしかない。その声をメーカーに届けることが大切で,プレイヤーとメーカーを巻き込んで発展させていくことが大切なことの1つだと考えているよ。
Mark氏:
我々が作り上げたEVOというコミュニティの役目は,すばらしい経験を参加者に与えることだから。トーナメントに勝ち残った最後のひとりのための大会ではなく,参加者全員が楽しめるものにするために改善していくことが重要だと思っているんだ。
4Gamer:
コミュニティがひとつのゲームでずっと盛り上がっていくことは,メーカーの利益になりにくいという側面があります。これについて意見や解消するプランはなにかあると思いますか。
当然その問題があることは認識している。だから我々はコミュニティを尊重しつつ,メーカーの意思も取り入れてイベントを作り上げている。その中でとても難しい決断を下さないといけない場面もあった。例えばEVO2019では,19年続いてきた「大乱闘スマッシュブラザーズDX」を選出しなかった。今でもたくさんのプレイヤーがいて,人気のタイトルであることは間違いないけど,より大きな展開,新しく興味をもった人への将来的な影響を考えると,新しいゲームを取り入れたほうがよりシーンの発展につながる方法だと判断したんだ。
また,パブリッシャが自分たちのタイトルや新作をメイントーナメントにしてほしい,大きな展開ができるようにしてほしいと期待していることは理解している。ただEVOのブランドを守っていく。相談をもらった新作タイトルとコミュニティの支持はきちんと見極められるよう努力していくよ。
4Gamer:
最後に今後のEVO,そしてEVO Japanについてお話しできることがあれば聞かせてください。
Joey氏:
本家のEVOに関しては2月4日にメイントーナメントの種目が発表されるから楽しみにしていてほしいね。そして次のEVO Japanだけど……我々もいいニュースが発表できることを願っているよ。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
―――2020年1月25日収録
「EVO2020」メインタイトルが発表。「グラブル ヴァーサス」「UNI Exe:Late[cl-r]」が初選出され,招待制「MvC2」部門の実施も
2020年7月31日から8月2日にかけて開催される格闘ゲームイベント「EVO2020」のメインタイトルが本日,TwitchのEVO公式チャンネルにて発表された。昨年も選出された6タイトルに加え,「グラブル ヴァーサス」「UNI Exe:Late[cl-r]」が選出されたほか,招待制「MvC2」部門が実施される。
「EVO2020」公式サイト
「EVO Japan 2020」公式サイト
- この記事のURL:
キーワード