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グローバル展開に必要なものとは。「Developers Go Global with Google Play」での日本人開発者によるパネルディスカッションをレポート
Google Play App and Gamesコンテンツ開拓担当 ゲーム部門 日本統括部長 キム・チョンサ氏によると,世界で20億台以上使われているAndroid端末だが,Google Playでの月間ダウンロード数は伸び続け,いまや80億ダウンロード以上の規模になっているという。その中では,日本のさまざまなゲームも配信されており,Google Playを通じて世界に広がっていると氏は話す。ただ,配信国を増やしたからといって簡単に遊んでくれるわけでもないようだ。
グローバル展開するデベロッパは,どのように遊んでほしいのか,スマホの普及率やネットワーク速度はどうなのか,文化的親和性,言語,マーケティングのコストについてなど,いろいろな戦略を練って動いているのである。
そこで,今回のパネルディスカッションでは,「先進国やライジングスターと呼ばれる発展途上国で,どういうことを考えて展開しているのか」をグローバルで展開するゲームメーカーに聞いていこうというわけだ。パネリストは,スクウェア・エニックス 藤本広貴氏,KLab 森田英克氏,トランスリミット 高場大樹氏の3人となる。
世界的な有名人とのコラボで新規ユーザーを増やした「FFBE」
最初にキム氏は,「ファイナルファンタジー」というIPを世界中で展開しているスクウェア・エニックスが,北米で,いろいろユニークなマーケティングをしていることに触れた。
これについて藤本氏は,「ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス」(iOS / Android)で2017年1月に行った,アリアナ・グランデさんとのコラボレーションを紹介した。
「FFブレイブエクスヴィアス」が歌手のアリアナ・グランデさんとコラボ。ドット絵のキャラクターになってゲーム内に参戦
スクウェア・エニックスは本日(2017年1月6日),スマホ向けRPG「ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス」で,歌手や女優として活動するアリアナ・グランデ(Ariana Grande)さんとのコラボが決定したことを発表した。本コラボでは,ドット絵で描かれたグランデさんがゲーム内に登場し,プレイヤーと一緒に冒険できるという。
藤本氏によると,このコラボレーションで大きかったのは,アリアナさんのフォロワーが1億人以上いるSNSで,コラボの話題を投稿してもらったこと,一般メディアを含めた100以上のメディアに情報が掲載されたことだという。実際にその効果は大きく,イベントが始まったときは新規UU(ユニークユーザー)の伸びが前日比で330%もアップしたそうだ。
ただ,アリアナさんのような世界でもトップクラスの有名人を起用するのは,正攻法では難しいという。このときのコラボでも,最終的にはアリアナさんのお母さんの友達みたいなところから始めて,なんとか話をこぎつけたのだとか。
そのコラボイベントも終わり,今後どうするのかという点について藤本氏は,日本では12月2日に,グローバル版では12月8日と9日にアメリカのカリフォルニア州で,FFBEファンフェスタが開催されることを紹介した。ここではARを使った体感ゲームが楽しめるそうだが,「こういった大きな催しでは,きっと何か大きなニュースがあると思う」と,明言はしないまでも,しっかりとアピール。どんな発表があるのか期待したいところだ。
この話を受けてキム氏は,コラボのアピールをテレビCMなどでするのではなく,なぜ今回のような手法を取ったのかと質問する。
藤本氏は,グローバルの場合,例えばアメリカならチャンネル数が多くてどこに出せばいいのか分からないということ,またアメリカだけで出してもほかの地域はどうするのかということなどがあり,「同じお金を使うのであれば,全世界に響くものにできないか」を考えたのだという。今回のアリアナさんの起用では,アメリカ,ヨーロッパのプレイヤーはもちろん,アジア圏でも知名度があるため,非常に効果的だったわけだ。
「自分達でやってみたらできた」KLabのグローバル運営
続いてキム氏は,Google Playの各国ストアのチャートで,KLabのいろいろなタイトルを見ると話し,大きな市場だけではなく,これから来るような市場でもヒットさせていく,何か構造化された仕組みのような秘訣があるのではないかと森田氏に質問した。
「アリアナさんの話を聞いてコラボをやりたいと思った」という森田氏は,なぜグローバルで成功したのかを一言で「やるぞと決めたから」だと話す。同社では,様子を見てからではなく,全社をあげて最初からやるという意思決定のもとに進めているそうだ。
とはいえ,成功にはいくつか要因があるようで,その1つがKLabの作品はIPタイトルが多いということを挙げる。つまり,最初から世界中にファンコミュニティがあり,ゼロからの戦いではないという点だ。そのため,ゲームが面白く,ファンの期待に応えられるものを作ってさえいれば,ある程度はインストールしてもらえる土壌があるのだという。
また,グローバル展開をするときに低リソースで効率化するために,最初から言語の切り替え機能やワンビルドの配信の仕組み,ワールド管理,通貨管理など,システム側がグローバル対応で面倒になる要素を吸収できるような作り方をしていたそうだ。タイトルによってはビルドだけ分かれているが,アプリのバージョンそのものは1本だけという感じで,とにかく管理を複雑にしないことを重点的に行ってきたのだという。
次に運営について同社は,海外で展開するときゲームを遊ぶのは“日本のカルチャーにある程度の理解がある海外プレイヤーだ”と割り切り,日本での運営をしていたという。カルチャライズをしっかりして運営を分けたほうがいいという意見もあったが,そもそも(KLabの)人員が少ないことが前提にあったので,そのまま行くほかなかったというのが実情らしい。そして,結果としてそれが成功だったと森田氏は述べた。
実のところ「ラブライブ」は当初,日本版と海外版の運営に半年くらいのラグがあったため,海外プレイヤーから海外版の更新が遅いという不満があがっていたのだという。一方,「BLEACH」や「キャプテン翼」は,国内外でほぼ同時運営をしているため,そうした不満がなくなり,セールスにも良い影響が出ているそうだ。
マーケティングも同様で,2013年〜2014年のころは,海外に拠点を作らなければと考えていたが,実際には自分達でやってみると日本からでもできたという。
海外で一番有効なマーケティングは,話題の種になるものをリアルイベントやインゲームイベントで運営から仕込むことだと森田氏は述べ,それをYouTubeなどの公式放送で配信することでインフルエンサーが情報を拡散し,ファンコミュニティがFacebookやTwitterでさらに広めていくというサイクルをうまく作り上げることで,日本からでも十分に情報が行きわたることが分かったそうだ。とはいえ,これも扱っているのがIPタイトルであり,コミュニティのつながりが強かったからこそ有効な手法だったという。
最後に広告やネットワークの運用だが,最初は海外の代理店に委託しないと,うまくいくかどうか不安だったそうだ。しかし,自分達でやってみるとその運用がどんどん上達し,いまや半分を社内で行えるようになったのだという。一方で,ローカライズチームも社内で言語ごとに責任者が必ずつくようにし,データ分析チームも国やエリア別,OS別という具合に,細々と分析しフィードバックしているとのこと。また,最近は欧州あたりで法律の規制が厳しいため,そうした情報を法務と横断システムを作っている部門が連携して,法律を守って運営しているそうだ。
良いプロダクトを制作するための7つのポイント
キム氏は,ここまでの2人の話には,大きなマーケティングだったり,組織体制だったり,予算であったりしないと難しいことも含まれているだろうと指摘する。一方,トランスリミットは,今や5000万ダウンロードを超える実績を持ち,海外比率が90%超えという数字を残しているが,会社を立ち上げたころからゲーム事業を始めており,2社とはやり方が全然違うのではないかと問いかけた。
「スタートアップならではの戦い方を聞かせてほしい」と言われた高場氏は,20名くらいの小規模な開発チームで,人もいなければお金もない状態でどう戦うかというと,「全世界を(最初から)ターゲットにすること」だと答える。では,どうやってそこでプロモーションしていくのか。それは,自分達の力だけではなく,遊んでくれたプレイヤーの力を借りて伸ばしていくことだと高場氏は話した。そのために一番良いマーケティング,プロモーションは,一番良いプロダクトを作ることなのだという。
そのとき,高場氏は下記の7つのポイントを意識しているそうだ。
・新しい体験をつくる
アプリがごまんとある世界で,一度遊んだゲームだったり,似たようなゲームだったりは遊ばない。重要なのは,初めてのゲームや初めての体験である。
・つかみで魅せる
微妙だと思ったらすぐにゲームを閉じたり,消されたりするので,起動してから10〜20秒のあいだに「このゲームは面白い,やってみたい」と思わせなければならない。
・世界的なテーマ選択
なるべく多くの人に届けられるテーマを考える。日本的な文化だと日本人には刺さるが,全世界では刺さらないので,全世界の皆が知っているような内容やテーマを考えることが重要だ。
・世界に向けたデザイン
世界に向けたデザインがどういうものなのかは,なかなか定義できない。世界で大きく売れたもの,皆に受け入れられるものが世界的なテーマだとすると,高場氏が参考にするのはOSのテーマ(※編注:OSごとのUIデザインを指すと思われる)だという。例えばAndroidのテーマ,iOSのテーマ,そういったOSのテーマは全世界何十億台と普及しており,OSに近いデザインをするということは,限りなく世界に向けたものだと感じているとのこと。
・シンプルなルール
複雑なゲームになればなるほど理解に苦しむし,プレイする人を選んでしまう。そこで,なるべく簡単な,ボールとボールをぶつけるだけ……くらいにシンプルなルールを考える。
・最小限のテキスト
最小限のテキストにするのは,言語に頼らないというメッセージだという。トランスリミットは,シンプルなパズルゲームからスタートした会社であり,ストーリーや物語は弱みになっているそうだ。だからこそ逆に,パズルやシンプルなゲームにすることでストーリーをなくし,ただ楽しむという体験をたくさん積ませるようにしているのだという。
・3/5感に頼る
人間の五感のうち「目で見る」「聴く」「触る」がデジタルにおける三感だとし,なるべく知識が必要なく,理由も必要なく,説明も必要としないようにする。内容を感じられるぐらい,人間のネイティブな部分に訴えかけるということがキモなのだという。
グローバル展開に必要な「メンタリティ」
それぞれのグローバルへの取り組み方を聞いたキム氏は,いまデバイスのスペックがどんどん上がり,カジュアルゲームであれば,ハイパーカジュアルだと言われるようなジャンルが出てきたり,リアルタイムでPvPが当たり前になってきたりと,新しいトレンドが出てくると思っていると話す。これを踏まえキム氏は,3人が気にしているテクノロジーやトレンドについて質問した。
藤本氏がFFBEで考えているのは,とにかく言語を増やすことだ。ただ,地域によっては技術的だったり,倫理的だったりの面で,カルチャライズが非常に難しいのだという。とくにファイナルファンタジーシリーズの場合,神様を殺したりすることがあり,それがまずいこともあるので,どうやって解決するかを常に考えているそうだ。
森田氏は,トレンドを見るとマルチプレイやPvP,GvGみたいなところに取り組むべきだと思っているのだという。その理由として,日本人は対人戦は“あんまり”という印象だったが,「幽☆遊☆白書 100%本気(マジ)バトル」では対人戦がメインで熱量が上がっており,IPタイトルで幅広いプレイヤーが遊んでいるタイトルでも,やはり対人戦で熱量を生んでいるからだ。そのため,協力,競争といったところにいろいろアプローチしてみたいとのことだった。
高場氏は,ハイパーカジュアルというジャンルに注目している。というのも,ここ数年で動画で見せる広告が増えたことから,昔よりも面白そう,やってみようというハードルが下がり,カジュアルゲームのダウンロード率が高くなっているからだ。ハイパーカジュアルにチャレンジして,全世界の多くの人にプレイしてもらいたいと氏は述べた。
続けてキム氏は,日本のゲーム会社やクリエイターがもっと海外に打って出るために,必要なものを1つ挙げるなら何か。また,日本のゲームをもっと海外に出してほしいというメッセージがあればと3人に質問する。
藤本氏は,森田氏が話していたように「やると決めたら,海外でもやる」というメンタリティが必要だと話す。とくに会社の規模が大きいと,リスクを避けるために,まず日本版を出して成功してから海外に行こうというのが多くなる。しかし,最近は日本で必ず成功するというわけでもないため,“日本と海外で出す”ということをやっていくべきだと考えているそうだ。
森田氏は,藤本氏の意見に同意しつつ,それに対して会社がしっかり意思決定していくことがスタート地点だと話す。氏はクリエイターに向けて,会社がなかなかオーケーを出してくれないなら,こうした記事をプリントアウトし,それを見せて熱意で説得して道を切り開いてほしいと,やや冗談交じりで述べた。
また,森田氏は世界中を視察しながら,各国で受け入れられているゲームの8〜9割が韓国や中国のゲームになっていると話し,現状が長く続くと日本のゲーム会社が世界で戦える度合いが下がり,力がなくなってしまうと危惧する。そのため,「みんな世界へ行きましょう」と呼びかけた。
高場氏も2人とほぼ一緒の意見で,「やるからやるし,そこを目指さないとできない。世界を取りに行くぞと初めから考えるのが一番重要」だと考えているという。
もう1つ必要なのが「成功者」で,日本のデベロッパが世界を取ったと胸を張って言えるレベルの成功がないと皆が続いてくれないので,そういう先駆者,先導役が必要だという見解を示した。
最後に,森田氏が個人的な意見としながら,日本のIPを海外の会社に直接ライセンスするのはやめたほうがいいと話す。その理由は,海外のパブリッシャは日本のIPを使って自分達のビジネスを大きくしていくのが目的であり,あまりやりすぎてしまうと,日本の会社が本当に海外で戦えなくなってしまうからだという。氏は,自分達じゃなくてもいいので,日本の会社と組んで,大きいビジネスを仕掛けてほしいと述べて,ディスカッションを締めくくった。
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