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[JAEPO2020]“カチカチ”から“ズッシリ”まで。ボタンやレバーの感触を多彩に変えられる,あの「磁気粘性流体」のデバイスを見てきた
これまで,CEATECのレポート(関連記事1,関連記事2)や,西川善司氏がPlayStation 5のゲームパッドを予想するというコラムでも紹介している磁気粘性流体。その製品であるSoftMRFを用いたトルク制御デバイスのゲームでの利用に関して簡単に説明すると,ボタンやツマミ,レバー(ジョイスティック)の感触を,ある時はスムーズに,ある時は少し抵抗がある感じに,ある時はカチカチという感触を伴って,という具合に,多彩に変えることができるものだ。
SoftMRFを用いたトルク制御デバイスのデモ機。ボタンとツマミの感触が多彩に変化する |
トルク制御デバイスへの電流と周波数を調整する機器。これを使ってボタンとツマミの感触を変化させる |
「感触を変えるなら,部品を変えればいいだけでは?」と考える人もいると思うが,この技術で実現できることで面白いのは「部品を変えることなく感触だけを変えられる」こと,そして「ユーザー側からだけでなく,ゲーム側からも感触を変えられる」ことにある。
つまり,ユーザー側としては,好みの感触を持つ部品を買ってきて既存のものと交換するという手間を省ける。一方のゲーム側は,ゲームの展開に応じて,たとえば突然レバーが動かしにくくなったり,ある程度以上傾けられなくなったり――といった演出が可能となるのだ。
ブースに展示されていたデモ機の1つ。2つツマミの組み合わせで,ハンドルの回し心地が変化する。中には,最初の回し心地は軽いものの,回すうちにどんどん重くなっていくというものも |
こちらは「封入型デモ機」。中央にはSoftMRFが入っており,感触の変化を触れて体感できる |
こうした変幻自在の感触を実現するのが,トルク制御デバイスの中に入っているSoftMRFだ。これはナノサイズの鉄微粒子を溶媒の中に溶かしたもので,平常時は液体状だが,磁場を作用させている間は(粘度変化が起こって)固まり,磁場の強さを細かく調整することにより,固まり具合を変えることができる。これが,部品を変えることなく感触だけを変えられるトルク制御デバイスの秘密である。どれぐらい粘度が変化するかは,公式サイトの動画(リンク。「Q2 SoftMRFで何ができるの?」項目)を観れば一目瞭然だろう。
トルク制御デバイスの解説図 |
SoftMRF。普段は液状だが,磁気によって固まる |
栗本鐵工所ブースの担当者によると,トルク制御デバイスは小さな電力で動作するうえ耐久性も高く,ゲーマー向けデバイスに組み込むのに適したものであるという。すでにバンダイナムコアミューズメントの「釣りVR GIJIESTA」(リンク)のリール部分に使われ,ゲームの状況に応じてハンドルの手応えが変化する演出が実現されている。会場には展示されていなかったが,ボタンやツマミだけでなくジョイスティックにも組み込めるという。
元々栗本鐵工所自体は,ゲームとは無関係の企業である。上下水道用のパイプラインや,鍛圧機・混練機などの産業用設備,建築・土木用資材といった製品を手がけているのだが,SoftMRFがゲーマー向けデバイスに適したものであるため,JAEPO2020に出展する運びになったのだそうだ。
たしかにゲームでの利用は想像するだけで夢が広がる。戦闘機にかかるGで操縦桿が重くなったり,銃を撃つうちに故障して引き金が引けなくなったり――。ジャンルを問わずさまざまな演出に使えそうだ。
SoftMRFを用いたハプティクス(感触)デバイス。球体を握り込んだ時の感触がさまざまに変化する |
水風船の場合,最初のうちは弾力があるが,握りが強すぎると破裂して弾力が失われる |
いかにもゲームっぽい雷の球。握り込むとスパークを表現した細かな振動が感じられる |
このSoftMRFは,千葉県・幕張メッセで2020年2月26日から2月28日まで開催される「3D&バーチャルリアリティ展」(リンク)にも出展される予定だ。興味がある人は会場で,実際にチェックしてみるといいだろう。
栗本鐵工所公式Webサイトの「SoftMRF 世界を変える可能性」ページ
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