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ディスプレイ最大手のSamsungがAMDの「FreeSync」に対応。業界標準の地位を得られるか?
具体的には,ディスプレイ業界の最大手であるSamsung Electronics(以下,Samsung)が,2015年に発売予定の4K液晶ディスプレイすべてをFreeSyncへ対応させるという発表があった。そこで本稿では,FreeSyncのおさらいをしつつ,Samsungの発表とその意味をレポートしてみたいと思う。
NVIDIAの「G-SYNC」と覇を競うFreeSync
VESA標準にも採用
現在市販されているディスプレイやテレビは,一部の高リフレッシュレート対応製品といった例外を除き,毎秒60回の画面表示を行う60Hzのサイクルで動作している。しかし,ゲームはリアルタイムに映像を作っているため,毎秒60コマ(=60fps)のサイクルで映像を生成できず,ゲーム映像の描画サイクルがディスプレイ側の60Hzを下回るケースというのが,往々にして発生してしまう。
そして,ゲーム側の描画サイクルがディスプレイ側の60Hz周期からずれてしまうと,映像表示が画面上の中途で分断されて行われる「テアリング」(Tearing,日本では誤読の「ティアリング」読みが主流)現象や,表示がカクつく「スタッター」(Stutter)現象が起きる。テアリングはディスプレイの60Hzと同期していない状態(Vsync無効)で描画サイクルが低下した場合に,スタッターは60Hzと同期した状態(Vsync有効)で低下した場合に発生する現象だ。
これを回避するために,映像の送出元,つまりGPU側で映像表示タイミングを制御する技術が考案されることとなった。NVIDIAが独自の手法で実現したのが「G-SYNC」であり,対抗するAMDが考案したのがFreeSyncというわけだ。
G-SYNCとFreeSyncの長所や短所,技術的バックグラウンドについては,COMPUTEX TAIPEI 2014で取材した記事を掲載している(G-SYNC関連記事,FreeSync関連記事)のでそちらも参照してほしいが,その違いを簡単に説明しておこう。
NVIDIAのG-SYNCでは,ディスプレイに内蔵する専用ハードウェアとGPU側が連携することで,映像表示タイミングを制御する。それに対してAMDのFreeSyncは,組み込み機器向けDisplayPort規格にあった仕様「Ignore MSA」(MSA:Main Stream Attribute)を転用して映像表示タイミングの制御を実現するものだ。VESA規格の「Adaptive-Sync」として標準化されてDisplayPort 1.2aのオプション仕様となったこともあり,「FreeSyncは独自のハードウェアを使わず,クローズドな独自規格でもなく,ライセンス料も取らない」と,説明するHuddy氏の声にも力が入る。
FreeSyncは,テアリングもスタッターもなく,映像の前フレームを正しく表示できるだけでなく,表示遅延もないとされる |
NVIDIAのG-SYNCに対して,FreeSyncは「特別なハードウェアを使わず,独自規格でもなく,ライセンス料も取らない」という |
Samsung製4K液晶ディスプレイの対応でFreeSyncの普及は一気に進む?
世界市場でこれまでに最も売れた4K液晶ディスプレイはSamsung製だそうだ |
4K液晶ディスプレイでのFreeSync対応を打ち出すSamsung。業界への強いアピールとなるか |
そのラインナップとして名前が挙がったのは,23.6インチと28インチの2モデル展開となるUE590シリーズと,23.6インチと28インチ,31.5インチの3モデル展開となるUE850シリーズの計5製品だ。各製品の価格や発売時期については言及されず,実機の展示もなかった。おそらくは,2015年1月に米国ラスベガスで開催される家電展示会「International CES 2015」のSamsungブースで,実機が披露されるのではないかと筆者は予想している。
Chan氏のプレゼンテーションはこれだけで,技術的にどうしたといった話はなし。おそらく,「SamsungはFreeSyncを支持する」とディスプレイ業界にアピールすることが目的だったのだろう。
もっとも,Samsungが支持を表明したからといって,業界全体がFreeSyncで迅速にまとまるかどうかは別の話だ。たとえば,SamsungのライバルであるLG Electronicsも「24GM77-B」のようなゲーマー向け液晶ディスプレイを販売しているが,FreeSyncとG-SYNCのどちらにも支持は表明していない。
FreeSyncは,DisplayPort規格に含まれるオープン規格であり,NVIDIAのGPUがこれをサポートするための技術的な障害はなさそうに思える。しかし,G-SYNCを推しているNVIDIAが,同社のGPUで直ちにこれをサポートする可能性は低いだろう。そうなると,当面は「FreeSync対G-SYNC」の戦いが継続するわけで,規格争いに決着がつくまでの間,NVIDIA製GPUのユーザーはG-SYNC,AMD製GPUのユーザーはFreeSyncに対応するディスプレイを選ぶしかないという,なんとも悩ましい状況に置かれることになる。
この規格争いに終止符が打たれるのがいつになるのかは,まったく予想がつかない。当面はゲーマーも液晶ディスプレイ業界の動向に注目しておく必要がありそうだ。
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