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[SIGGRAPH 2014]Oculus Riftと一緒に装着して鳥になる「鳥人間スーツ」が大ウケ。先端技術展示会「Emerging Technologies」レポート Part1
SIGGRAPHで開かれる展示会のうち,一般展示部門は出展料さえ払えば誰でも出展できるのだが,E-TECHは違う。論文をSIGGRAPHに提出して運営側の審査を通らなければ,出展が許可されないのだ。つまり,E-TECHに展示されている新技術は,その年の“選ばれし新技術”といえる。8月12日に掲載したNVIDIAのAR技術も,こうした審査を通過したものなのだ。
さて,そんなE-TECHの2014年は,Oculus VRの仮想現実(VR)対応型HMD「Rift」が起こしたVRブームの影響で,VR対応型HMDに関連した展示が多く,いずれも好評を博していた。E-TECHブースレポートの1回めとなる今回は,それらVR系の展示をレポートしていこう。
多人数で同時参加できる「Project Morpheus」のVRデモをAMDが公開
MorpheusはPlayStation 4(以下,PS4)と組み合わせて利用するHMDであり,PS4の心臓部であるAPUを開発したのはAMDだ。だから,MorpheusとAMDはまったく無関係というわけでもないのだが,未発売の機材を何台も用意してVRデモを披露していたのには少々驚かされた。ちなみに,展示会場にいた日本のSCE関係者も「知らなかった(笑)」と述べていたので,サプライズ出展だったようだ。
この展示の筆頭開発者であるRemi Arnaud氏は,AMDでチーフソフトウェアアーキテクトを務めているが,かつてはSCEで,PlayStation 3用ソフトウェア開発キットを担当するチームに所属していたエンジニアだという。SCEと同氏の強いコネクションが,この展示を実現させたのかもしれない。
実際の展示内容だが,体験者はMorpheusを装着して両手に1本ずつ「PlayStation Move」(以下,PS Move)を握り,デモを体験するという形で行われていた。
Morpheusを装着して,両手にPS Moveを握ってデモを体験している様子(左)。体験者の前に置かれたデモ映像表示用ディスプレイの上には,体験者の動きを追跡するためのPlayStation Cameraが設置されている(右) |
AMDが公開したデモの解説動画も掲載しておこう。
Mito from ACM SIGGRAPH on Vimeo.
モンスターといっても,Pixarのアニメ映画に出てきそうなかわいらしい外見で,おどろおどろしいものではない。彼ら(彼女ら?)はそれぞれがなにかの楽器を携えていて,自分が演奏するパートが来ると楽器を奏でるという流れで進んでいく。
体験者はモンスターが演奏している楽器の音量を変えたり,モンスターの立ち位置を変更したりできる。ところが,6人の体験者が1つの仮想空間を同時に体験しているので,モンスターの選択は早い者勝ち。楽器の音を聞いたら,音が鳴っている方向を向き,その楽器を演奏しているモンスターを他の体験者よりも素早く操作できるかを競うという,ゲームっぽい体験を楽しめた。
2014年1月に米国ラスベガスで開催された家電見本市「2014 International CES」(以下,CES 2014)にて,AMDは屋外にドーム型のブースを設営し,6基のプロジェクタを使ってドーム内に映像を投影するという形で同じようなデモを披露していたのだ。
開発者のArnaud氏に話を聞いたところ,今回のE-TECH版は,CES 2014で披露したデモのグラフィックスやサウンド,プログラムをそのまま利用しつつ,操作系をMorpheusに対応させたバージョンだとのこと。移植作業を始めたのは2014年6月頃で,わずか数週間で完成させたそうだ。
ちなみにCES 2014のデモは,デスクトップワークステーション向けGPUの最上位モデル「FirePro W9100」搭載のPC 1台に,6基のプロジェクタを接続し,約1400万ピクセルもの映像をドーム内側の半球型スクリーンに投影させていたという。
PS4とPCはLANで接続されており,PS4はMorpheusとPlayStation Cameraによってプレイヤーの位置情報などを取得し,PCはそれを受けて映像の生成と出力を行うという仕組みで動いていた。これは,今のところMorpheusを使用するためには,PS4が必須という仕組みになっているためである。
E-TECH版Monsters in the Orchestraのデモシステム構成図。左の画像は1人分のシステム構成で,「VR-Box」とあるのはPS4のこと。映像とサウンドの生成を含むデモプログラムの動作は「AMD PC」が担う。右はデモシステムの全体像で,6セットのデモシステムはすべてLANで接続されている |
デモそのものは非常にシンプルなものだったが,今後登場するであろうVRゲームの可能性を,垣間見せてくれたように思う。
仮想世界を自分の足で歩く体感型VRインタフェース
Cyberith Virtualizer
MorpheusやOculus VRのRiftによるVR体験では,仮想空間内を移動するのに,ゲームパッドのスティックを使うものが大半だ。慣れていて使いやすいのは確かだが,せっかく装着者が頭を動かして視界を変えられるのだから,装着者の足で「歩く」「走る」ことで仮想空間内を移動できるようになれば,究極の没入感を得られるのではないだろうか?
そう考えたいくつかのメーカーが,装着者の体の動きをトレースする体感型VRインタフェースの商品化に向けて取り組んでいる。その1つが,Virtuixの「Omni」で,4GamerでもCES 2014に出展されたOmniをレポートしたことがある。
Virtualizerは,3つのセンサー・コンポーネントから構成されている。
1つめは体験者の歩行を認識する光学センサーで,床側に設置される円盤型プレートの底面に埋め込まれている。体験者がプレート上で,足を滑らすように“すり足”で歩くと,すり足の動きや速さを認識するという仕組みになっている。説明員によると,この光学センサーは赤外光レーザーを使用しているそうで,設置場所の照明環境に左右されない認識が可能であるとのことだ。
プレート側の歩行センサーとリングの回転センサーは連動しているので,正面を向いたまま横に歩く“カニ歩き”も検出できるそうだ。
3つめのセンサーは,リングの周囲を取り囲む3本の柱にある。柱の内側はレールのような構造となっていて,ここにリングから伸びる金属のフレームが接続されていた。先述のとおり,体験者の腰はハーネスでリングに固定されているので,腰の高さが変わるとリングは上下に動き,それが柱とつながったフレームも上下に動かす。その動きを柱内のセンサーで読み取れば,腰の高さを検出できるという仕掛けだ。
上下の動きを検出するセンサーは,約1cmの精度で腰の高さをリアルタイムに検出できるという。歩行時に腰が上下するのを検出するだけでなく,しゃがんだりジャンプしたりする動作も,このセンサーによって検出できる。ゲームを例にとると,障害物の影でしゃがんだプレイヤーが,ソロソロと腰を上げていくような動作も,この上下センサーのデータを使えば再現可能というわけだ。
リングの周囲を囲む柱は,腰の上下動を検出するセンサーを装備(左)。内側にあるレールに,リングから伸びたフレームが接続されていて,ここが上下に動く仕組み。ちなみに,レール部分の下部にはストッパーがあり(右),体験者がしゃがんだとき,接続部がここに当たるとそれ以上動かず,体験者が倒れないように体重を支えるのだそうだ |
こんな面白そうな機器を体験しない手はない。筆者も順番待ちの列に1時間ほど並んで,Virtualizerを体験してみた。今回体験できたのは「Dreadhalls」というRift用に開発されたVRゲームで,古城の地下牢を探検していくような内容だ。
左右が崖になっている細い回廊を,実際にすり足で歩いて綱渡りのように渡るシーンもあれば,部屋に入ると突然後ろから物音がして,振り向いたらモンスターとご対面する場面もあるなど,RiftとVirtualizerの組み合わせで実現されるVRホラーゲームのエッセンスが詰め込まれたなかなか面白いデモであった。デモ動画が公開されているので,下に掲載しておこう。
体験する前は,「わざわざ仮想空間を足で歩かなくても……」と思っていたのだが,いざ体験してみると,ゲームパッドのスティックを使った移動よりも,没入感は圧倒的に高い。大がかりに見えるシステムだが,手助けする人がいれば脱着の手間もあまりかからない。多人数参加型のVRアトラクションをRiftとVirtualizerで遊んでみると楽しそうに思えた。
Virtualizerは現在,Kickstarterで出資を募っている最中で,25万ドルの予定ラインはすでにクリアし,現在は約28万8000ドル近くの出資が集まっている。基本セット価格は749ドルで,出荷は2015年春を予定しているとのことだ。安い買い物ではないが,興味がある人は出資してみてはいかがだろう。
SIGGRAPHのコンテストで優勝! スーツを着て仮想空間を飛ぶ鳥人間シミュレータ「Birdly」
表示デバイスにRiftを使用するBirdlyは,ゲームエンジンの「Unity」を使用し,高層ビルが建ち並ぶ都会の街並みを再現して,その中を自由に飛ぶというゲーム風のデモとなっている。
それだけならば驚くようなものではないが,研究グループは「鳥になる体験とは何か」を研究し続けた結果,ついに専用の「VR鳥人間スーツ」までも作り上げてしまったのだ。下にBirdlyの公式動画を掲載しておくので,まずはこれを見てほしい。
Birdly from ACM SIGGRAPH on Vimeo.
鳥人間スーツと書いたものの,実際のBirdlyは「着る」というよりも,「うつぶせになって乗る」といった装置になっている。体験者は,上から見るとT字型をしたBirdlyにうつぶせになって乗り,両手を左右に広げて,指を装置先端にあるパドルのグリップのようなところに通す。
この状態で,自分の腕を上下にばたつかせると,腕の動きを鳥人間スーツのセンサーが検出して,仮想空間内で鳥の羽ばたきに再現する。Birdlyはあくまでも「鳥になる体験」を再現するものなので,推進力を得るには自分で羽(=腕)をばたつかせなくてはならないというわけだ。
なんだか難しいことをやっているように聞こえるかもしれないが,おかしな機械の上で漫画のように手をばたつかせている様子はかなり滑稽で,理屈抜きに笑えるはずだ。
体験者は,両手をばたつかせることで羽ばたき動作ができるほか,手の平が置かれたパドル部分を前に傾ければ降下,後ろに傾けると上昇。左右のパドルをそれぞれ逆向きに傾けると旋回といった動作が可能だ。
一度,飛び上がってしまえば風に乗ることができるので,高度を上げるとき以外,羽根をばたつかせなくても空を飛んでいられる。このあたりもきちんと鳥の飛行を再現しているといえよう。
Birdlyの鳥人間スーツは,3本の支柱によって支えられており,各支柱はそれぞれが強力なモーターと接続されている。モーターの回転で支柱を動かすことで,現実世界の体験者の姿勢を仮想空間内での上下左右方向や旋回方向と同期させている。さすがにG(加速度)までは再現できないが,重力の方向は感じられるから,「飛ぶというのはこういう感覚なのか」という体験が可能というわけだ。
別の角度から。足は単に乗せているだけで,動いたり飛行の制御に使ったりはできない |
台座部分には3基のモーターを搭載しており,支柱の動きを制御して3軸自由度の動きを再現する |
眼下を見下ろせば,まさにそこにはバードビュー視点の街並みが広がり,左右を見れば,鳥になった自分の翼も見える。ビルの近くを飛べば,ちゃんと翼を広げた鳥の影が壁面に重なるといった凝りよう。飛行シミュレーションはゲーム的に簡易に作ったもので,正確な鳥の飛行を再現したものではないそうだが,飛行機とはまったく違った飛行感覚を体験できるのは面白い。
風向きはさすがに正面一方向に限定されるが,速度に応じて風力が増減するとのこと。両手のパドルを下げて急降下すると風力も増し,視覚だけでなく体全体で滑空している感覚を味わえるのだ。
Birdlyは飛ぶだけでは飽き足らず,「鳥になる」というVR体験を見事に実現したといっても過言ではないだろう。
研究メンバーによると,Birdlyは研究費のスポンサー向けに3台が製作されて納品済みとのことだが,今のところ量産や販売の予定はないという。今後も,VR関連学会の展示会でしかお目にかかれそうもないようだ。日本で体験できる機会がなさそうなのは残念である。
Emerging Technologies|SIGGRAPH 2014
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