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西川善司が見た「E3 2014のゲームグラフィックス最前線」(1) 最新世代のゲームは自動生成で宇宙を作り,物理法則どおりにボールを動かす?
2013年は,PlayStation 4(以下,PS4)やXbox Oneといった“次世代機”の発売年――日本ではいずれも2014年になったが――ということで,とにかくゲーム機本体にスポットライトが当たっていたが,今年のPS4とXbox Oneは“現世代機”だ。
実際,E3 2014に出展されたゲームの多くは,主要なゲームスタジオにおける2本めの開発タイトルとなっていた。開発者側のハードウェアに対する理解度も高まったところで,本当の意味での「新世代ゲームグラフィックス」が期待されるタイミングになったといえるだろう。
今回は,そんなE3 2014の会期中に筆者が遭遇したタイトルのうち,グラフィックス的に魅了された作品を,2回に分けてピックアップしていきたいと思う。「『あれ』はどうして入ってないの?」というツッコミは当然あると思うが,わずか3日間,“0日め”を入れても4日間の会期ですべてのタイトルを見ることは不可能なので,その点はご了承を。あくまでも筆者が自分の目で見たタイトルに絞っている。
No Man’s Sky
〜プロシージャル技術が魅せるシームレスな宇宙
まずは,PS4用タイトル「No Man’s Sky」からだ。いろいろ語る前に,とにかく一度,次のビデオを見てみてほしい。
原色を強めにフィーチャーしたグラフィックスは,手描きのコミックをイメージさせるスタイライズドレンダリング(Stylized Rendering)の雰囲気にも似た,独特のものだ。見るからに未開といった趣の星を進んで行くと,その場にそぐわない宇宙船が見えてくる。そして,宇宙船に乗って一気に大気圏の外へ出たあとは,船団による戦闘をやり過ごしつつ,別の星の大気圏に突入する。
読み込み画面もなく,星の地表と広大な宇宙空間とをシームレスに行き来できているこの映像は,PS4の実機上で動いているものだそうだ。
No Man’s Skyのゲーム画面スクリーンショット |
Sony Computer Entertainment America(以下,SCEA)のプレスカンファレンスで電撃的に発表され,詰めかけた報道関係者から大喝采を浴びたNo Man’s Skyを手がけたのは,英国に拠点を構えるHello Gamesという小規模スタジオである。メインのスタッフは,創設者であるSean Murray氏を含め,たったの4人だという。
にわかには信じがたい事実だが,ここでキモとなるのが,プロシージャル(Procedural)技術だ。プロシージャルというのは,シムシティの開発者として知られるWill Wright(ウィル・ライト)氏が2008年の「SPORE」で採用して話題になった技術で,簡単にまとめるなら,「アルゴリズムで自動的に意味のあるコンテンツを作り出す技術」のことを指す。
最近の研究では,植物や地形,生物といった,自然界にあるものの多くがプロシージャル――極端にいえば関数――で表現できることが分かってきている。No Man’s Skyは,そうした技術をリアルタイムのゲームに用いているというわけだ。
そんなことができるのかと思うかもしれないが,実際のところ,地形や雲,波といった自然の風景は,ニューヨーク大学教授のKen Perlin氏が発明した「Perlin Noise」(パーリンノイズ)という算術生成テクスチャの技術を応用することで,かなりリアルなものを作り出せるようになっている。
また,植物の形状は,生物学者のAristid Lindenmayer氏によって,自己相似性(=フラクタル)と記号変換の組み合わせで表現できることが発見されている。アルゴリズムは「L-System」として発表済みだ。
プロシージャル技術を使った地形生成ソフト「Terragen」による地形の例 |
こちらはL-Systemベースのプログラムで自動生成されたヒマワリの画像 |
さらに,スイス・チューリッヒ工科大学のYoav I H Parish氏とPascal Muller氏が,「L-Systemは,町や建物の構造にも応用できるのではないか」と研究を進め,その研究成果を基に,映画やゲーム向けの都市景観生成ミドルウェア「CityEngine」(関連記事)を生み出したのは,ゲーム業界でよく知られている話だ。
そのほか,「生物を関数で表現する研究」について言えば,カリフォルニア工科大学のKurt W. Fleischer氏とDavid H. Laidlaw氏らが「細胞テクスチャ生成」(Cellular Texture Generation)法を発表したり,カルガリー大学のDeborah R. Fowler氏らが,生物の成長メカニズムをプロシージャル表現する論文を発表したりしている。
「細胞テクスチャ生成」法によってプロシージャル生成した棘(左)や鱗(右)のテクスチャ |
また,最近の研究では,シマウマやキリン,トラなどにある複雑な模様も,反応拡散法(Reaction-Diffusion)によってプロシージャル生成できることが分かってきている(関連リンク)。
反応拡散法によってプロシージャル生成したシマウマ(左)とキリン(右)の毛並み模様 |
「神はいない、神はプロシージャル技術だ」とまで言い切るのは早計だとしても,自然界にあるものの多くをプロシージャル技術で模倣して描けるともいえるわけだ。
これは,生物の成長メカニズムをプロシージャル技術によって再現した例。左が実物の写真で右がプロシージャル生成した貝殻だ |
No Man’s Skyでは,登場するすべての惑星上に下り立つことができる。また,このゲーム世界で夜空を見上げたとき目にできる星々の1つ1つは実際に恒星として存在し,そこへ実際に行くこともできるそうだ。
スペースオペラ的なストーリーはなく,宇宙開拓や探索を楽しむタイプのゲームになるらしい。また,自分が冒険している銀河と,フレンドが冒険している銀河をシェアするようなオンライン要素も盛り込まれるようである。
SCE Worldwide Studios代表取締役の吉田修平氏もお気に入りの一作とのことで,リリースに期待したい。発売は2015年が予定されている。
FIFA 15
〜AIとアニメーションが相互連携して,選手の感情までも表現
サッカーゲームのメジャーブランドであるElectronic ArtsのFIFAシリーズ。毎年,着実な進化を遂げている本シリーズだが,最新作「FIFA 15」(PC / PlayStation 4 / Xbox One / PlayStation 3 / Xbox 360 / PlayStation Vita)は,メインのプラットフォームをPS4,Xbox Oneとしたためか,飛躍的な進化を果たしている印象が強い。
たとえば,操作しているキャラクターを,小さい半径の円周上で円の中央を常に向くよう旋回させながら走らせた場合,前作「FIFA 14」では,「左右のステップ移動アニメーション」が間に介在してしまい,「走る→ステップ→走る→ステップ……」といった,人間の旋回走りとは異なる,不自然な挙動が見られた。それがFIFA 15では,自然に走りながら旋回できるようになっている。
FIFA 15のプロデューサーであるSebastian Enrique氏によれば,これは「人間のプロシージャル移動アニメーション生成エンジンが進化したことによる恩恵」だそうだ。
同時にボール物理の精度も,キャラクターの移動を制御するエンジンに見合うように高めてあり,FIFA 14までのような,足とボールが衝突したとき,ゲームの都合に合わせるための“超”物理力が働くことを排除できているという。たとえば,シリーズ従来作にあった「密着した選手同士がボールを挟み込むように衝突したとき,ボールの挙動が唐突におかしくなる」といったことは,もう「起こりえない」(Enrique氏)らしい。
ドリブルの表現も,FIFA 15で大幅に進化したものの1つだ。もう1人のプロデューサであるAaron Mchardy氏は,ゲーム中でアルゼンチン代表のリオネル・メッシ選手がドリブルをする様子を,拡大したスローモーション映像で見せてくれた。
そこで選手キャラクターは,足のアウトサイドとインサイドとを使い分け,ボールを小刻みに蹴って進路を変えていた。パスを出すときは,ボールの位置とパス相手までの距離に応じて,足の繰り出し方が変わる。
筆者が見たものとは別のものだが,下のムービーでも,足の動きはよく分かるはず。ぜひ再生してみてほしい。
ほんの数年前まで,サッカーゲームにおけるドリブルの表現といえば,「選手にボールがくっつく」という特殊な処理でごまかしていたのだから,これは絶大な進化と断言していいだろう。
Enrique氏がFIFA 15のホットトピックとして取り上げたもう1つの要素が,「AIとアニメーションの相互連携」による表現だ。開発チームは,FIFAシリーズのグラフィックスがリアルになっていくにつれて,ゲーム内で動き回るキャラクター達の動きはどうにも無機質に感じられるようになってきたことを気にしていたという。
サッカーに限らず,スポーツでは感情のぶつかり合いがあり,そこにドラマが生まれる。無機質な,感情のないキャラクターではドラマが生まれない。そこでFIFA 15では,プレイ中だけでなく,オフプレイ中も含むあらゆる部分で,AIとアニメーションが相互に干渉し合って次の行動を算出するようにしたという。
また,体をぶつけたり,シャツを引っ張って相手の姿勢を崩すといったボディコンタクトでも,攻撃をしかけられた側のAIは,その動きに抵抗して姿勢を崩さないように動く。これはあらかじめ定義されたスクリプトに合わせて実現されるのではなく,各選手のAIが,外圧によって乱される自分の動きを維持しようと行動することによって発生するのだそうだ。
また,Mchardy氏はそういった「現状にリアクションするだけのAI」だけでなく,「記憶するAI」や「チームの戦略を担う一員としてのAI」についても言及していた。要するに,各選手キャラクターの行動原理となりうるAIである。
「記憶するAI」はゲーム中,選手ごとに管理されており,フィールド上の選手キャラクター間にはそれぞれの相手に対する意識が生まれ,そこからさまざまな感情表現が生まれるようになっている。FIFA 15では,このことを踏まえ,1プレイ1プレイに対して一喜一憂する選手達の行動を観察すると,これまでとは異なる面白さを味わえるかもしれない。
一方,「チームの戦略を担う一員としてのAI」は,プレイヤーの選手操作を理解し,各選手キャラクターが,自発的にチーム戦術的な行動を取るというものだ。FIFA 15では,現実に存在するサッカーチームの戦術に基づき,パスを受けるために空いているスペースに向かって駆け出したり,複数の選手が同時に特定方向へ向かうような行動が自動的に取られる。こうしたAIは,チームメイト全体で共有されるものになるようだ。
なお両氏によると,今回紹介した新要素は,旧世代のプラットフォームではマシンパワーに応じ,取捨選択されて採用されることになるという。なので,FIFA 15の“完全版”を楽しみたいなら,PC版かPS4版,Xbox One版のいずれかを選んだほうがよさそうだ。
発売は2014年秋の予定となっている。
Uncharted 4: A Thief's End
〜トレイラーの内容が濃い!
「The Last of Us」で世界中のゲーム関連アワードを総なめにしたNaughty Dogは,彼らの代表作であるUnchartedシリーズの最新作「Uncharted 4: A Thief's End」(以下,Uncharted 4)を,2015年の発売に向けて開発している。考古学アドベンチャーものとして,TOMBRAIDERのお株をすっかり奪った感すらある同シリーズの最新作が,来年にはPS4で登場するわけだ。
Naughty Dogには毎回,ファーストパーティならではの,ゲーム機が持つハードスペックを限界まで使いこなした高い表現に期待してしまうわけだが、今回のE3 2014でも,彼らはその期待を裏切らないゲームグラフィックスを見せてくれた。
それが下のムービーだ。冒頭でわざわざ「CAPTURED DIRECTLY FROM A PLAYSTATION 4」(PS4から直接キャプチャした映像である)という断り書きが表示されている点に注目してほしい。
水辺に倒れている主人公ネイサン・ドレイクのアップから始まるムービーでは,まず,人肌表現に注目したい。これは,顔面レンダリングでは必須となりつつある,表面下散乱を使っているように見える。
手法としては,Activision BlizzardのJorge Jimenez氏が発明した,画面座標系で人肌の皮下散乱を実現する「スクリーンスペース・サブサーフェススキャッタリング」(Screen-Space Subsurface Scattering)に準じたものを使っていると思われる。これは,スクウェア・エニックスのリアルタイムレンダリングデモ「Agni's Philosophy」でも使用された手法で(関連記事),PS3やXbox 360世代でも一部で利用されているものだ。
毛髪まわりに目を向けると,現行世代のキャラクターレンダリングにおいて半ば必須と見なされつつある線分ベースの毛髪生成,そして,毛髪表層反射光と毛髪内毛髪出射光によって二重の光沢を表現できる毛髪シェーディングが実装されているように見える。
ネイサンが起き上がるときの水しぶきやしたたり落ちる水は,どのような手法によるものか判別できなかったが,水越しの景色が屈折して見えるなど,かなり自然だ。単純なパーティクルではないという理解でいいだろう。
そもそもUnchartedシリーズは,1作目から水や水面の表現に独創的な技術を採用していたので,Uncharted 4で使ったこの技術も解説されることを期待したい。
余談だが,前作「Uncharted 3: Drake’s Deception」で印象的だった「押し寄せる波」は,高次曲面を応用したプロシージャル的な手法で,沈没する船内に進入してくる水は力業のモデリングとアニメーションでそれぞれ実現されていたことが種明かしされている。
濡れた服や皮製のカバン,プラスチックの時計,はたまた黒光りする拳銃などをじっくり眺めてみると,主光源である月光と周囲の環境光によって,リアルな陰影やハイライトを見せているようだ。これらの表現には,現行世代のゲームグラフィックスにおいて必須と言われる,物理ベースレンダリングを使っているのだろうか。
物理ベースレンダリングとは,入射光の総和と出射光の総和が一致するエネルギー保存の法則に則ったレンダリングを行う手法で,各材質はあらかじめ設定された反射プロファイルに従ってシェーディングされる。物理ベースレンダリングを用いると,陽光下や月光下,室内照明下,複雑な間接光環境下といった,異なる照明条件でライティングしても,「その材質が現実世界で見せる陰影」を見せられるというメリットがある。
最後のジャングルに入っていくシーンも興味深い。
月光に照らし出されたすべての葉から影が生成されていることや,環境光による影とライティングが表現されていることに気がつくだろう。すべての植物が,かなりの数の“関節”を感じさせる形状になっており,それぞれが風になびいていることや,ネイサンが低背の植物に接触したとき,正しく衝突が取られているように見えるところも,「おっ」と思わせてくれる。
この手の表現は,ジャングルの表現が印象的だった「ロスト プラネット 2」も凝っていたが,Uncharted 4ではそれを上回るクオリティの映像を見せてくれそうである。
トレイラーをひととおり見終えて「そういえば」と気が付かされたのは,ムービー全体を通して,ジャギー(Jaggy)や,輪郭付近などでピクセルがうねるように見えるという,MSAA(マルチサンプル・アンチエイリアシング)特有の現象であるピクセルクロール(Pixel Crawling。Pixel Shimmerともいう)が感じられなかったことだ。欧米のゲーム開発シーンではアンチエイリアシングをかなり重視する傾向にあるのだが,今回のトレイラーからは,アンチエイリアシング表現の向上に向けたこだわりも感じられる。
今世代のゲームグラフィックスでも,いきなりMSAAが廃れたりすることはないだろう。ただ,Uncharted 4のトレイラーで確認されたように,品質にこだわるゲームスタジオは,前フレームのピクセル値も参照する,時間方向に配慮したアンチエイリアシング処理や,着目しているピクセル境界を超えた隣接ピクセル値も参照する広域空間に配慮したアンチエイリアシング処理を,新世代機向けのゲーム開発において採用してくると思われる。
Epic Gamesのゲームエンジン「Unreal Engine 4」のリアルタイムデモ「Infiltrator」でもジャギーやピクセルクロールは抑え込まれていたが,Uncharted 4で採用されていた手法は,これと同じものではないだろうか(関連記事)。GPU側でも,こうした新しいアンチエイリアシング手法をハードウェアアクセラレーションすべく対応が進んでおり,たとえばNVIDIAが開発したTXAAなどはその代表格になる。
トレイラーは短かったが,Uncharted 4におけるゲームグラフィックスの進化度合いが分かるという意味において,とても内容の濃い映像だった。完成版のゲームが今から楽しみだ。
4GamerのE3 2014特設ページ
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