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[SIGGRAPH]Adreno GPUを推すQualcomm,EIZOの新4Kディスプレイや最新VR技術が披露された「Exhibition」展示セクションレポート(後編)
なお,企業展示ホールレポート前編は,以下のリンクから参照のこと。
[SIGGRAPH]NVIDIAやImagination,ARMの最新製品が競演。「Exhibition」展示セクションレポート(前編)
独自GPU「Adreno320/330」の実力を誇示するQualcommブース
前編でレポートしているとおり,Imagination Technologies(以下,Imagination)が同世代GPUの「Power
Maroonedはゲームエンジン「Unity 4.2」を使い,OpenGL ES 3.0を用いて制作されたもので,技術的に見るべきポイントがいくつかある。
まず,レポート前編でも紹介した,OpenGL ES 3.0の新機能である「Transform Feedback」機能を駆使したアニメーション部分だ。これは主に宇宙戦士の姿勢制御に使われている。
高品位なテクスチャ圧縮技術である「ETC2」も,OpenGL ES 3.0に導入された新機能で,このデモでは,4096×4096テクセルという大きなテクスチャデータの圧縮に使われている。
影生成には一般的なデプスシャドウ技法が使われているが,生成された影のジャギー低減(ソフトシャドウ化)には,ハードウェア近傍比率フィルタリング(Percentage Closer Filtering,PCF)が用いられている。これもOpenGL ES 3.0で導入された新機能の1つだ。
レンダリングエンジン部は,動的光源を無制限に置ける「Deferred Rendering」が採用されており,これはOpenGL ES 3.0で新たに規定された,「マルチレンダーターゲット」(Multi-Render Target,MRT)を使って実現しているという。ちなみに,OpenGL ES 3.0の標準仕様では,4 MRTまでが規定されており,Adreno 320/330もこの規格に準拠した仕様となっている。
ただし,女性の表情は一切動かないし,すっぽりと帽子を被っているため髪の毛は表現されていないなど,表情豊かなNVIDIAのデモと比べると,地味で寂しい印象を受ける。美人の顔を使いながら毛髪を描かずに済ます理由として,あえて水泳選手をモチーフにしたのでは……と考えるのは邪推がすぎるか。
さて,Swimmerでは表皮の脂質層における鏡面反射モデルに,「KS BRDF」法と呼ばれる手法を採用している。これは,2001年にCsaba Kelemen氏とLaszlo Szirmay-Kalos氏が発表した論文「A Microfacet Based Coupled Specular-Matte BRDF Model with Importance Sampling」(PDFファイル,英語)をベースにした技術だ。
また,実際の人間の皮膚と同じように,フレネル反射にも配慮しており,視線が皮膚をかすめるような浅い角度では,周囲の情景が淡く映り込む効果も表現しているという。
顔に落ちる影は,動的な影生成と自己遮蔽項の描き込みを駆使しているとのこと。なお,顔がまったく動かないのは,アニメーション制作にまで手が回らなかったためという。レンダーターゲットに,メモリ帯域幅への負荷が高い32bit浮動小数点バッファを採用したため,メモリ帯域幅の狭い組み込み機器向けGPUでは性能面で厳しくなってしまい,それに合わせた最適化をする時間的余裕がなかったということらしい。
このほかにQualcommブースでは,過去のイベントで公開された「Snapdragon Fortress Fire」デモも披露されていた。こちらもOpenGL ES 3.0の新機能を活用したデモだが,旗の動きなどはCPUベースのクロス(布)シミュレーションで実現しているとのことで,4基のCPUコアを集積したSnapdragon 600/800の優位性をアピールするといった要素も盛り込まれているのだそうだ。
プロジェクタを使う独自の4Kソリューションで注目を集めた
Christie Digital Systemsブース
業務用プロジェクタメーカーのChristie Digital Systemsは,自社のブースで世界初となる,4K2K(3840×2160ドット,以下4K)映像の120Hz投影に対応した「Christie Mirage 4K35/4K25」のデモを披露して,来場者の注目を集めていた。
これまでの4Kプロジェクタといえば,2Dでは60Hz,3Dでは片目あたり30Hzで投影するのが限界だったので,その限界を突破した4Kプロジェクタともなれば,SIGGRAPH来場者の注目を集めるのも当然か。
ちなみに4K35と4K25の違いは,採用光源ランプの出力による輝度の違い程度で,4K35が35000ルーメン,4K25が25000ルーメンとなっている。メーカー想定売価をたずねたところ,およそ25万ドル(約2500万円)以上になるとのことだ。
ブースで披露されていたデモでは,200インチ程度のスクリーンに対して,左右の目それぞれに60Hzの3D映像を投影していた。デモに用いられた3D映像はリアルタイム生成されたもので,ドイツのRealtime Technology社が開発中の業務用リアルタイムレンダリングソフト「DeltaGen 12」を使用していたそうだ。
片目あたり60Hzの3D映像を上映していたので,来場者はアクティブシャッター式メガネをかけて見る(左)。右はメガネのシャッター同期用トランスミッタ |
4KのCGを,片目あたり60Hzで出力するには,相当な演算能力が必要になる。今回のデモではプロジェクタ1台あたり,NVIDIAの「Quadro」(型式番不明)を2枚搭載したグラフィックスワークステーションを4台,合計8GPUを使って映像を生成していたというから,そのモンスターぶりも分かろうというもの。
HMD不要で没入感抜群の仮想現実システムも人気
さて,Christie Digital Systemsのブースでは,ヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD)を使わずに体験できる,3D立体視による業務用仮想現実(VR)システム「HoloStation」も大きな注目を集めていた。
写真や文字だけではその面白さが伝わりにくいので,まずは下に掲載した動画を見てもらいたい。これは体験者の背後から取ったムービーなので,歪んだ映像が箱の内壁に投影されているようにしか見えない。しかし,3Dメガネをかけた体験者の目には,ほぼつなぎ目のない3D映像が,視界全体に広がるように見える仕組みになっている。「自分を中心にして,キューブマップテクスチャがレンダリングされるイメージ」と言えば,CGクリエイターの人には伝わるだろうか?
そのうえ,体験者の頭部が動くのに合わせて視界が移動したり,対象物に近寄ると映像が拡大されるといった映像が,リアルタイムに生成されるのだ。ムービーは3Dではないものの,この動きに合わせて映像が生成されている様子は理解できるので,どういった雰囲気なのかはつかめると思う。
このシステムは,天井に設置した4台のプロジェクタから,映像の体験者を中心とした前方と下方,および左右の視界にあたる4方向分の3D映像を投影することで,ほぼ完璧に近い没入感を実現するというものだ。使われている4台のプロジェクタは,VR映像投影専用の「Matrix SIM LED simulation projector」で,1台あたりの解像度は1920×1200ドットとのこと。
体験者は3Dメガネを装着し,操作に使うWorldViz社製のVRコントローラを手に持つ。3DメガネとVRコントローラには,トラッキングマーカーが取り付けられていて,頭の動きや操作をシステム側が認識できる。マーカーから体験者の位置や向きを特定することで,体験者の視点に合わせて映像を生成したうえで,箱型スクリーンの歪みを打ち消すように,変形して投影する仕組みというわけだ。3Dメガネは必要だが,HMDを装着する煩わしさと比べれば,はるかに手軽といえよう。
天井に設置された4台のプロジェクタ。これを使って体験者の周囲に3D映像を投影する |
HoloStation用の3DメガネとVRコントローラ。白い球体がトラッキングマーカー。VR空間の移動はVRコントローラ上のアナログスティック操作で行う |
興味があるシーンが来たら前屈みになると,体験者が対象物に近寄ったような拡大映像が,リアルタイムに生成される。ごく普通の3Dメガネをかけているだけなのに,得られる視界と没入感はHMDそのものという,興味深い体験ができるわけだ。
HoloStationはすでに販売中で,業務用システムとして販売実績が増えているという。現時点での顧客は,主に大企業のデザインセンターとのことだが,今後はテーマパークや体験型博物館展示にも訴求中とのこと。近い将来,HoloStationを使ったVRゲームを楽しめるような日が来るかもしれない。
約200万円のEIZO製36.4インチ4K液晶ディスプレイが
リニューアル!?
ディスプレイメーカーのEIZOも,SIGGRAPHの企業展示ホールにブースを出展しており,日本未発表の36.4インチ/4Kディスプレイを出展していた。1本のDisplayPortケーブルで4K/60Hzの出力が可能な,「DisplayPort 1.2」に対応したという。
EIZOが現在販売中の36.4インチ/4Kディスプレイには,解像度4096×2160ドットの「DuraVision FDH3601」や「RadiForce RX840」といった製品がある。しかし,これらが備える映像入力端子は「DisplayPort 1.1a」対応であり,4K出力のためにはグラフィックスカードとDisplayPort入力(またはDual-Link DVI-D入力)を,2本のケーブルで接続しなければならなかった。
新製品ではその点が改善され,ケーブルの取り回しが楽になるだろう。
出展されていた機材はあくまで参考出品であり,製品名や価格,発売時期は未定とのこと。ちなみに,2011年モデルが登場したときの価格は,288万円(税込)だった(現在は195万円)。ビジネス用のハイエンド製品なので,ゲーマーが気軽に買えるような値段には間違ってもならないだろうが,どの程度の価格となるかには注目したい。
Unityと連携して最先端AR/MR体験を提供してみせた
キヤノンブース
2013年4月に開かれたUnity開発者向けイベント「Unite Japan」でもレポートしたように,キヤノンはMREALを,Unityエンジンのプラグインの形で提供しており,高品質な3Dグラフィックスを駆使したインタラクティブVR/MRコンテンツを,比較的効率よく開発できるようになっている。会場スタッフによれば,ブース内のステージで披露した2種類のMR体験デモも,Unityベースで開発されたものだという。
その1つは,SF映画風の世界に飛び込めるというMR体験だ。体験者が装着するHMDの映像は,外から見えるように出力されていなかったので,何に驚いたり喜んでいるのかが分からない。そこがまたミステリアスな体験として,人気を呼んでいた。
映像の内容は,SF映画「Blade Runner」風の世界で,近未来的な高層ビルが立ち並ぶ街の一角にたたずむ体験者の前に,空飛ぶパトカーが着陸して再び飛び立つまでを,1人称視点で自由に見るというものだった。
体験ステージは緑色1色で塗られていて,HMDを被った体験者には,緑色の部分にCG映像が表示されて見える。それ以外のもの,ガイド役の男性や自分自身の手足は,映像の上に合成されて見えるというわけだ。
HMDを装着した体験者(右)。ステージはグリーン1色で,体験者自身やガイド役(左)の姿が,CG映像に合成されて見えている |
CGの世界に入り込んだ体験者が,ガイドや自身の手が見えることに感動している様子 |
「Oculus Rift」のようなHMDを使ってゲームをプレイするときには,自分の手がどこにあるのか見えないことが,問題点として指摘されている。だが,展示のようなMR体験ならば,そうした不満もでないだろう。もちろん,個人のレベルでこれと同じ環境を用意するのは,まず無理な相談だが,現状のAR/MR体験が抱える問題点の1つを克服した仕組みとして,評価できるのではないだろうか。
体験者が装着したHMDの画面には,目の前にあるブースのステージ上で,演者が演示しているようなCG映像が映し出される。体験者が場所を移動したり,見る角度を変えたりすると,映像も追従して向きを変える。現実世界のステージで踊る演者を,位置を変えて見るのと同じような体験ができるわけだ。
このデモが面白いのは,演目の内容に合わせて桜吹雪が舞ったり,炎が燃え上がったりと,CGによるエフェクトが画面に追加されるところだ。演者はステージの中央にいるのだが,立体的に表示されるエフェクトは,体験者の眼前まで迫ってくるので,現実世界で演じられる古典芸能とは,また違った面白さや迫力が味わえるのである。
今回キヤノンが披露した展示は,エンターテインメント性の高いAR/MR体験がメインだったが,ブース内ではこのほかにも,産業用のVRシステムなども展示されていた。ビジネス用途における仮想現実システムの活用が,想像以上に進んでいることがうかがえるブースであった。
こちらは,モーターボート用エンジンを前後左右,あらゆる角度から見られるというMR体験コーナー |
Exhibition|SIGGRAPH 2013
SIGGRAPH 2013 公式Webサイト
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