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[CEDEC 2014]PS4の作り方教えます。SCEのメカ設計担当者自らが内部構造を徹底解説
ソニー・コンピュータエンタテインメント(以下,SCE)関連セッションの多くも,当初は軒並み聴講不可で,CEDEC 2014の会期最終日まで覆らなかったのだが,直前になって,やはり運営側のミスだったことが判明している。本稿で取り上げる「PS4の作り方。PS4の中身を大公開!」セッションもその1つだ。
SCEから公式に記事化OKの許可をもらったので,レポートしてみたい。
PS4の各パーツはどうやって作られているのか
講演者であるSCEの鳳 康宏氏は,「工場見学にでも来たつもりで」と,自身の講演内容を形容していたが,まさにそんな内容だ。
1998年にSCEへ入社してからは,
さて,そんな鳳氏のセッションで最初に解説されたのは,PS4本体がどのようなパーツで構成されているかである。
パーツ単体で次から次へと紹介しても,素人目にはピンとこないこともあるため,親切にも鳳氏はプレゼンテーション内でPS4をバーチャルに分解しながら,各部位を説明していった。4GamerではPS4の分解レポートを掲載しているので,興味のある人はそちらも合わせてチェックしてもらえればと思う。
バーチャルな分解後は,各パーツをどのように製造したかが語られた。
まず,外装となる筐体パーツをはじめとしたプラスチック製のパーツ類は,熱で溶かされたプラスチックを金型に注入して製造されることになる。
金属パーツは,その製造手法にいくつかのパターンがあるようだ。
薄い板状のものはプレス製造となり,金属板の素材を金型に挟んで圧力をかけ,凹凸形成や切断を行う。
複雑な形状の金属パーツでは,同じプレスでも「順送プレス」という方法が採用されている。これは,1回のプレスだけでは完成せず,パイプライン式に複数回のプレスで製造する方式だ。
立体的な形状の金属パーツは,先ほど登場したプラスチックパーツのように,熱して液体化した金属を金型に流し込んで製造する。これはダイキャスト製造と呼ばれる手法だ。
立体的な形状の金属パーツは,金型に部材を押し込んで「ところてん方式」に製造する場合もある。これは「押し出し成形」と呼ばれる手法だ。
ネジのような,細かな溝のあるパーツは,「転造」と呼ばれる製法で作られる。凹凸のある金型で部材を挟み,金型を動かすことで,部材に凹凸を刻んでいくわけだ。
金属の粉末と,「バインダー」と呼ばれる樹脂製粉末の混合物を金型に入れて焼き,オイルを注入して製造する「焼結」で製造されるパーツもある。樹脂パーツは焼き込んだときに蒸発し,金属分子間に適度な隙間が生まれると,注入されたオイルはここに染み入ることになり,結果,摩擦抵抗の少ない金属パーツが製造できるというわけだ。
焼結で製造さえたパーツは,主に軸受けなどの可動・接触パーツの製造に用いられているという。
シール類の製法についても鳳氏は解説した。最近の立体形状のシール類はかなり複雑な積層構造をしているようだ。
シール類の製法図解。シールは台紙を打ち抜いて作るのだが,台紙を切ってしまわないよう,かなり精密な切断技術が採用されている |
実際のシール製造機械。左から部材が挿入されて右から製品パーツのシールが台紙に乗って出てくるという構造になっている |
一度剥がしたら二度と貼れない特殊シールは,粘着剤とシール本体の間にシリコン層が挟み込まれており,シールを剥がしたときにこの部分が分離して貼り痕として残ってしまうようになっているとのこと。要するに,「シリコン層は接着剤で接着できない」ことを応用した構造になっているのだ。
セッションでは,ヒートパイプを組み込んだヒートシンクの製法や,PS4の熱設計などについても解説が行われたが,このあたりは先ほども軽く触れた,熱設計に関するセッションのレポートが詳しいので,本稿では割愛する。
知られざるPlayStationファミリーのトリビア
鳳氏はセッションの後半で,「PlayStationファミリーにまつわる,知られざる小ネタ」を披露した。
鳳氏は,メディアが行っている「ゲーム機発売直後の分解記事」を,毎回ドキドキワクワクしながらチェックしているのだそうだ。ゲーム機である以上,主役はゲームソフトそのものであり,また,機能面の紹介もスペックが中心となる。それだけに,氏が担当した「ゲーム機に詰め込んだメカ」や,「各種構造部分への工夫」に人々が関心を示してくれるのは,こうした分解記事の機会に限られる。なので鳳氏は「あそこに気が付いてくれるかな」といつも期待して読んでしまうのだという。
「各メディアの分解記事における分析はどれも鋭い」と鳳氏は認めつつ,凝りすぎて気づいてもらえない部分も少なくないそうで,今回はそのあたりのネタ公開となったのである。
1つはネジについて。
PS本体に用いられているネジは二重螺旋構造になっているそうで,1回の締め付けで二溝進む構造になっているそうだ。これは製造時のねじ締め短縮に大きく貢献しているのとのこと。「ここはどのメディアも気が付いていない部分」と笑いを取っていた。
2つめは,PlayStation 2のPS2の冷却ファンについて。
実はPS2の冷却ファンは通常の冷却ファンと回転方向が逆なのだという。これは,“1階部分”のメイン基板部にあるホットスポットと,“2階部分”にあるAC/DC基板のホットスポットへうまい具合に気流を当てるための,最もシンプルで効率のいいアイデアだったために採用したそうだが,一般的なファンの完全なミラー製品となっていたため,その特殊性にどのメディアも気づかなかったと鳳氏は述べていた。
3つめは現行型小型PS3のスライドカバーについて。
実は,このカバー横置きの時は早く,縦置きの時は遅く開く。本来なら,自重による落ち込みがあるため,縦置きのほうが早く開きそうなのだが,逆なのだ。この部分は鳳氏肝入りの工夫が入っており,「ぜひ気付いてもらいたかった部分」らしいのだが,言及してくれているメディアはなかったそうである。
氏によると,ここには,「2段変速機」が仕込まれており,これの働きで,縦置きと横置きでカバーの開閉スピードの逆転を実現しているとのこと。
2段変速機はウェイト(錘)と振り子式オイルダンパー付きギアからなっており,回転抵抗の強いオイルダンパー付きギアのほうが開閉スピードを遅くするための役割を果たしている。横置きの時はウェイトがダンパーギアに接続しない方向で安定するため,カバーは早く開くが,縦置き時はウェイトが落ちてこのダンパーギアに接続する形となるため,ゆっくりと開くのだ。
さらに鳳氏は,メディアが気づきようもない,本邦初公開のPlayStationトリビアを紹介していく。
「熱伝導シート」というジャンルの製品だと価格が高いこともあって,「PSXの発熱量なら代用品で問題ない」という判断がなされたという。
もう1つは,2001年に発売された,PS2の出荷2000万台記念モデルにまつわる苦労話。
このときSCEは,欧州ブランドの自動車をイメージして,白・赤・黄・青・銀の5色で自動車用塗装を模した「ヨーロピアン・オートモービル・カラーコレクション」と呼ばれるPS2を発売したのだが,入社以来,今日(こんにち)まででこれの製造が一番大変だったという。
というのも,実際に自動車の塗装で用いられる塗料を使ってPS2を塗ろうとしたところ,それが上手くいかなかったそうなのだ。当時の鳳氏は自動車の塗装についてそれほど深い理解をしていなかったため,「塗ればいいんだろう」程度の考え方でいたところ,それが大きな誤りだったと笑いながら振り返っていた。
いわく,PS2に自動車用の塗料を塗って製品ボックスに箱詰めすると,塗料が緩衝材で押され,塗面になだらかな凹み――ある意味,傷――ができてしまったのこと。自動車用の塗料は,塗装後,磨いて光沢感を出すという思想に基づいて開発されているため塗膜が柔らかいのだが,家電製品用の塗料は塗膜が硬い。これが大きなトラブルを生んだというわけだ。
結果的に,この“自動車塗装型”PS2では,塗装後に硬い塗膜のトップコートを掛けることで対策したとのことであった。つまり,手間が掛かっている分,製造コストが高く付いたというわけである。いろいろな意味で価値の高い限定モデルだったといえるだろう。
鳳氏の設計理念とは
セッションの最後,鳳氏は,自身の仕事に対するこだわり,設計理念のようなものについて述べて講演を締めくくった。以下のとおりまとめて,本稿の締めとしたい。
- 奇をてらうことなく,基本に忠実に物作りを行うこと。人に気が付かれなくても,こだわりを持って物作りを行えば,自ずと「神は細部に宿る」のである
- 技術志向に走らず,ユーザーの立場に立って機能設計を行い,物作りを行うこと。F1カーを形容する言葉に「速いマシンは美しい」という,「技術追求の結果として機能美が現れることを表した名言があるが,まったくそのとおりで,技術を何のために使うかが重要なのだ
PlayStation公式Webサイト
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