ニュース
Intel,デスクトップPC向け新CPU「Core Ultra 200S」を発表。前世代でバカ高かった消費電力を大幅に減らす
これまでIntelは,ノートPC向けに開発コードネーム「Meteor Lake」こと,「Core Ultra 100」シリーズで,「Foveros」と称する3Dパッケージング技術を使用して複数のシリコンチップを組み合わせたプロセッサを提供してきた。しかしデスクトップPC向けCPUは,現行世代の第14世代Coreプロセッサまで,モノリシック(単一のシリコンチップ)構成を続けてきた。新しいCore Ultra 200Sシリーズは,デスクトップPC向けとして初めて,3Dパッケージング技術を使用した製品となる。そういう意味でデスクトップPCに大きな変化をもたらす製品と言っていいだろう。
本稿では,Intelが明らかにした製品構成や,Core Ultra 200Sシリーズの特徴をまとめていきたい。
Core Ultra 200Sのラインナップは合計5製品
まずは,製品ラインナップなどの基本情報を,ざっくりとまとめておこう。
Core Ultra 200Sシリーズは,高性能コア「P-core」に「Lion Cove」を,省電力コア「E-core」に「Skymont」を採用したハイブリッド方式のプロセッサだ。ソケットには,新開発の「LGA1851」を使用しているため,ソケット「LGA1700」を用いる現行のIntel 700/600シリーズチップセット搭載マザーボードとは互換性がない。
Core Ultra 200SシリーズのCPUコア構成は,2024年6月に発表されたノートPC向けの「Lunar Lake」と同じだ。しかしCPUコア以外の構成要素は,Lunar Lakeと異なる。詳細は後段で触れるが,重要なのは,Lunar LakeのLion Coveと同様に,P-coreから「Intel Hyper Threading Technology」がなくなった点だ。したがってCore Ultra 200Sでは,シンプルにCPUコア数と実行スレッド数が等しくなる。
それを踏まえたうえで,Core Ultra 200Sシリーズの製品ラインナップは表1のとおりだ。
フラッグシップモデルの「Core Ultra 9 285K」と,ミドルハイ市場向けの「Core Ultra 7 265K」,ミドルクラス市場向けの「Core Ultra 5 245K」の3つが基本モデル。Ultra 7とUltra 5にはそれぞれに統合GPUのない末尾「F」のモデルもあるので,計5製品という構成だ。
なお,統合GPUのブランド名は「Intel Graphics」となっているが,アーキテクチャはIntel Xeベースだ。ただ,GPUコアであるXeコア数が4基しかないので,ゲームで利用するのは難しい。
ラインナップから読み取れる特徴をざっくり見ていくと,まずCore Ultra 9 285Kの最大クロックが5.7GHzと,やや抑えめというのが目に付く。現行のフラッグシップモデルである「Core i9-14900K」は6GHzに達していたので,300MHzほど低い。Core Ultra 7以下のラインナップも,最大クロックは控えめだ。なお,Core Ultra 5クラスは,Turbo Boost Max 3.0に対応していない。
最大クロックを抑えている理由が,アーキテクチャの改良によるものかプロセス技術によるのか,あるいは電力的な事情なのかは不明だが,製造プロセス技術がTSMCのN3Bとなっているのが,気になる点かもしれない。
冒頭でも触れたように,Core Ultra 200Sシリーズは,デスクトップPC向けCPUとしては初めて,3Dパッケージング技術のFoverosを用いて複数のシリコンチップで構成されたCPUだ。ノートPC向けではMeteor Lake,Lunar Lakeと,すでに2世代にわたって3Dパッケージング技術を採用したCPUが登場しているが,その波がデスクトップPCにもやってきたわけだ。
Core Ultra 200Sシリーズは,CPUコアが実装された「Compute Tile」と,PCI Express(以下,PCIe)コントローラやThunderboltコントローラなどを集積した「IO Tile」,メモリコントローラとNPUがある「SoC Tile」,Intel Xeベースの「GPU Tile」,そしてそれらが載る基板の「Base Tile」で構成される。
Intelによると,各タイルの製造プロセスは,Compute TileがTSMC N3B,IO TileとSoC Tileは「TSMC N6」,GPU Tileは「TSMC N5P」を使用しているそうだ。Intelが製造しているタイルはBase Tileのみで,これは「Intel P1227」というプロセス技術で製造している。
TSMC N3Bは,ハイエンドスマートフォン向けSoC(System-on-a-Chip)で採用事例が多いプロセス技術で,高クロックかつ高TDP(Thermal Design Power,
ちなみに,AMDは,「Ryzen 9000」シリーズで,ハイパフォーマンスCPU向けの製造プロセスである「TSMC N4X」を採用した。微細化では「TSMC N3B」に1歩及ばないが,TSMC N4Xは高クロックに最適化されているのが特徴とされる。IntelとAMDで採用するプロセス技術が別れているわけだ。
Core Ultra 200Sシリーズは,Intel製のデスクトップPC向けのCPUとしては初めて,AIアクセラレータである「NPU」(Neural Processing Unit)を搭載したことも特徴だ。ただ,AI処理の性能は13 TOPSに留まっており,Microsoftが提唱するAI処理対応PC「Copilot+ PC」の条件である40 TOPSには遠く及ばない。
Core Ultra 200SシリーズのNPUについて,Intelは,「Meteor Lakeに搭載したNPUと同じもの」と説明している。「Copilot+ PCの条件を満たさないNPUを,2024年後半のCPUに内蔵するのは意味があるのか」と疑問を持つ読者は多そうだが,Intelは,このNPUに自信があるそうだ。
というのもIntelは,Meteor Lakeにおいて,13 TOPSのNPUを生かすべく多くの努力を重ねて,対応アプリを充実させてきたとのこと。13 TOPSの性能しかなくても,ユーザーはNPUの恩恵を受けることができるという理屈だ。
Core Ultra 200Sシリーズの仕様で,ほかに押さえておきたいのは,まずPCIeが,従来の16レーンから24レーンに強化されている点だ。そのうち4レーンはSSD用のPCIe 4.0となっており,残る20レーンで,16レーンのGPUと4レーンのSSDの両方をPCIe 5.0で接続できる。
また,メモリコントローラは,公式にDDR5-6400に対応する。競合は公式だとDDR5-5600にとどまっているので,この点もアドバンテージと言っていいだろう。
※2024年10月29日追記:Intelからの情報にもとづき,PCIeの情報を修正しました。
気になる価格だが,AMDのフラッグシップCPUである「Ryzen 9 9950X」は649ドル(国内では11万9800円),「Ryzen 9 9900X」は549ドル(同8万8800円)でスタートしたので,フラッグシップに関しては,競合より低い価格でスタートすることになる。十分に競争力のある設定と言えるのではなかろうか。
ゲーム性能は前世代と大差なし?
消費電力が大幅に低下
デスクトップPC向けプロセッサで重要なのは,1にも2にもCPUコアの性能だろう。Intelによると,Core Ultra 200Sシリーズは,前世代である第14世代Coreプロセッサに比べて,クロックあたりの命令実行数(Instruction per Clock:IPC)はP-coreで約9%,E-coreでは実に約32%の向上を実現しているそうだ。
E-coreの性能向上がとくに目立つところだが,これはアーキテクチャの改善に加えて,ノートPC向けのLunar Lakeにはない,大容量の共有キャッシュが性能向上率を引き上げていると,Intelは説明していた。
こうした改良の結果,Core Ultra 9 285Kは,シングルコア性能がRyzen 9 9950Xに対して平均4%,マルチコア性能では平均13%高い性能を実現したと,Intelはアピールする。
しかし,Core Ultra 200Sにおいて,Intelが絶対性能以上にアピールしているのは,電力あたり性能の向上だ。たとえば,Core i9-14900Kが消費電力125Wで達成する性能を,Core Ultra 9 285Kは65Wで,Core i9-14900Kが250Wで達成する性能を,Core Ultra 9 285Kは125Wで達成できるという。
それにより,PC使用時の消費電力が大幅に低下して,主要ベンチマークテスト実行時の消費電力は,実に58%も低下しているのだそうだ。
4Gamer読者にとって重要なゲーム性能については,競合や前世代と同じかやや高い程度というデータをIntelは出しているが,ポイントはゲーム実行時のシステムの消費電力のほうだ。実に最大165W,平均でも73Wも前世代より低くなっているという。
消費電力が低い分だけ,CPU温度も低くなっている。ゲーマーにとっては,より扱いやすくゲームをプレイしやすいPCを構築できるので,この特徴は歓迎できるだろう。もっとも,第14世代Coreプロセッサが極端に消費電力と発熱が大きいだけも言えるが。
興味深いのは,Core Ultra 9 285Kは,「PL1」の設定を125Wにしても,同250Wの設定と同等のゲーム性能が得られていると,Intelが述べていた点だ。PL1は「Long Duration Power Limit」とも呼ばれており,IntelのCPUにおいて,長時間の動作維持が可能な電力設定である。
逆に言えば,PL1を引き上げても,Core Ultra 9 285Kではゲーム性能がほとんど変わらない(≒引き上げるだけ無駄)とも言えようか。こうした特性により,Core Ultra 200Sならば低消費電力で小型のゲームPCを実現できるとIntelは説明していた。
最新のインタフェースに対応するIntel 800シリーズチップセット
冒頭で述べたように,Core Ultra 200Sでは,新しいソケットLGA1851に対応する。それに合わせて,Core Ultra 200SとLGA1851に対応するIntel 800シリーズチップセットが登場するわけだ。
Intelによると,Intel 800シリーズチップセットは,最新のインタフェースに対応するのが特徴とのこと。最大10レーンのUSB 3.2や,Thunderbolt 4を標準で搭載。また,オプションとして「Thunderbolt 5」にも対応する。
また,CPUが20レーンのPCIe 5.0を持つうえ,システム全体では最大48レーンのPCIeに対応できるそうだ。チップセット側のPCIeバスはPCIe 4.0とのことだった。
いずれにしても,Core Ultra 200Sシリーズへの乗り換えを検討しているゲーマーは,マザーボード,あるいはPC自体の新調が必要になる。そのコストが乗り換えへのハードルになりそうだ。
ちなみに,CPUクーラーに関しては取り付け金具(アタッチメント)がLGA1851に対応していれば,従来のCPUクーラーが流用できるとIntelは説明している。ただし,取り付け部のサイズと,CPUに対する圧力がLGA1700とは異なるために,CPUクーラーメーカーへの確認が必要であるそうだ。
ゲーム性能を中心に,Core Ultra 200Sシリーズの概要をまとめてみたが,消費電力については注目だろう。第13〜14世代と極端な消費電力と発熱に戦う必要があったCPUが続いていたので,Intelがアピールしたとおりの電力あたり性能であるならば,ゲーマーにとっても導入しやすいCPUになるはずだ。
IntelのCore Ultra製品情報ページ
- 関連タイトル:
Intel Core Ultra 200(Series 2,Arrow Lake,Lunar Lake)
- この記事のURL: