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AMD,新世代CPUアーキテクチャ「Zen 5」採用の新型CPU「Ryzen 9000」と「Ryzen AI 300」を発表
本稿では,両製品の概要をまとめてみたい。
Ryzen 9からRyzen 5まで4製品が登場するRyzen 9000
Ryzen 9000シリーズは,Zen 5を初めて採用するCPUで開発コードネーム「Granite Ridge」として知られていたCPUだ。現行のRyzen 7000シリーズの後継となるSocket AM5プラットフォーム向けの製品で,2024年7月以降に出荷を開始する。
AMDによると,Zen 5アーキテクチャは,分岐予測の高性能化や実行パイプラインの拡張,並列実行時のウインドウサイズ拡大といった大幅な改良が行われているとのこと。キーワードとして「2倍」を強調している。たとえば,前世代のZen 4アーキテクチャと比べて,命令デコーダーや命令・データキャッシュの帯域幅,そしてAVX-512命令セットのスループットが,いずれも2倍に向上しているという。
AMDがよく引き合いに出すクロックあたりの命令実行数(Instructions Per Clock,以下 IPC)では,Zen 4に対して16%向上しているとのこと。AMDが示しすグラフを見ると,「CINEBENCH R23」や「Blender」といった並列性の高いアプリケーションほど幾何平均(Geomean)のIPC向上率が高いようだ。ただし,「Far Cry 6」や「League of Legends」といったゲームにおいても1割以上のIPC向上が得られているようなので,ゲームにおいても高性能化の効果がありそうだ。
ただ,本稿執筆時点では,まだアーキテクチャの詳細は公開されていない。
Ryzen 9000の製品ラインナップは,最上位の16コア32スレッド対応モデル「Ryzen 9 9950X」を筆頭に,4製品が明らかになった。
16コア,12コア,8コア,6コアという製品構成は,現行の「Ryzen 7000」シリーズや,その前世代である「Ryzen 5000」シリーズの発売時と同じものだ。各製品のL2キャッシュとL3キャッシュの総容量も,Ryzen 7000シリーズと変わっていない。下位2?モデルは,最大ブーストクロックが100MHz引き上げられているが,上位2モデルはここも変わっていない。
AMDが従来製品との違いとして強調していたのは,8コアの「Ryzen 7 9700X」と6コアの「Ryzen 5 9600X」は,TDP(Thermal Design Power,
AMDは,TDPが下がった理由について,Ryzen 9000シリーズの優れた設計と同時に,新たに採用されたTSMCの4nmプロセスによる効果を挙げている。
ラインナップを眺めると,現行のRyzen 7000シリーズとの差異が見えにくいが,先述のように性能は着実に向上したようだ。AMDは,「Ryzen 9 9950Xは卓越したゲーム性能を有する」とアピールする。とくにゲーム性能では,現行世代で最強を誇る「Core i9-14900K」をも上回ると,AMDは主張する。
グラフで示しているとおり,AMDは,Ryzen 9 9950Xにおけるクリエイター向けアプリの性能に関しても競合を圧倒すると謳っている。これについてAMDは,CPU性能の高さとだけでなく,PCI Express(以下,PCIe)5.0の帯域幅が「競合の2倍に相当する」ことも一因だと,少し面白いアピールを行っていた。具体的には,「競合は,ストレージ接続にPCIe 5.0を使用すると,GPUのバス帯域幅が半分になるのに対して,Ryzen 9000はPCIe 5.0の帯域幅をフルに使える」というのだ。
細かな説明なかったので筆者の推測が入るが,Intelの第14世代Coreプロセッサは,GPU向けのPCIe 5.0を16レーンと,ストレージ用にPCIe 4.0を4レーン備える。つまり,ストレージにPCIe 5.0に使ってしまうと,GPUには8レーンしか残らないので,半分になるのではなかろうか。一方のRyzen 9000は,GPUとストレージのどちらもPCIe 5.0なので,フルの帯域幅を使える理屈だ。
そのため,PCIe 5.0を使用するGPUやストレージを使用する場合,Ryzen 9000シリーズに大きなアドバンテージがあるとAMDは主張する。PCIe 5.0に対応するGPUはまだ登場していないが,AMDによると「目前に迫っている」そうだ。
なおAMDは,Ryzen 9000シリーズに合わせて,Socket AM5向けの新チップセット「AMD X870E」と「AMD X870」を発表している。従来のチップセット「AMD X670E/X670」との大きな違いは,「USB4」に対応する点だ。USB4は,「Thunderbolt 3」をベースとして,最大40Gbpsの帯域幅を持つ汎用シリアルバスである。
また,より高クロックの「EXPO」メモリプロファイルに対応できることも,X870E/X870の特徴だという。X670E/X670発売以降のメモリ技術の発展をX870E/X870でキャッチアップしているというふうにAMDは説明していた。
ちなみに,現行世代のチップセットでは,PCIe 5.0をGPUに使用するにはX670Eが必要という差別化があったが,X870E/X870では,どちらもGPUとストレージの両方にPCIe 5.0を使用できるとのこと。「X870EとX870の違いはUSB4のみ」とAMDは説明していたので,詳しい説明はなかったものの搭載可能なポート数が異なるのかもしれない。詳しい仕様がおって発表されるはずだ。
念のために付け加えておくと,AMD X870E/X870は既存のRyzen 8000/7000シリーズにも対応しているし,Ryzen 9000シリーズは,従来の600シリーズチップセットでも利用可能だ。AMDは,当初2025年までとしていたSocket AM5のライフタイムを2027年に延長しており,2027年を超えてもSocket AM5のサポートは続けると明言していた。Socket AM5のユーザーにとっては心強いことだろう。
Socket AM4向けCPU「Ryzen 5000XT」も発表に
Socket AM5の長期サポートを約束しているだけでなく,AMDは今回,前世代のプラットフォームであるSocket AM4に対しても,Zen 3アーキテクチャの新CPU「Ryzen 5000XT」シリーズを2024年7月に投入すると発表した。
ラインナップは,16コア32スレッド対応の「Ryzen 9 5900XT」と,8コア16スレッド対応の「Ryzen 7 5800XT」の2製品だ。Ryzen 7 5800XTには,フルカラーイルミネーション搭載のWraith Prismクーラーが付属する。
既存の「Ryzen 9 5900X」が12コア24スレッドだったのに対して,Ryzen 9 5900XTでは16コア32スレッドに増えたのがポイントだ。AMDは,「非常にお買い得のCPUだ」とアピールしている。実際,価格次第では,Socket AM4ユーザーにとってはお手頃なアップグレードパスになってくれるだろう。
ちなみに,末尾の「XT」は,「従来より少しクロックが上がっていたり性能が上がっていることを示すサフィックス(接尾辞)」であると,AMDは説明している。
50 TOPSのNPUを統合したRyzen AI 300シリーズ
Microsoftは,次世代のWindowsにさまざまなAI機能を統合することを予告している。たとえば,大規模言語モデルを利用したチャットボット「Copilot+」,作業中のWindows画面を一定期間記憶して,あとから検索,参照できる「Recall」,動画の音声をリアルタイムで翻訳したり字幕を入れる「Live captions & Real time Translation」,手書きの絵やテキストから画像を生成する「Co-creator」といった機能の導入を,Microsoftは予定しているのだ。
こうしたAI機能は,これまでならクラウド上で処理するのが一般的だったが,Windowsに統合予定の機能は,ローカルPC上で動作する。したがって,AI機能の動作条件としてMicrosoftは,「40 TOPS以上の性能を持つNPU」の搭載を必須とした。だが,AMDの「Ryzen 8000」シリーズAPUの内蔵NPUが16 TOPS,Intelの「Core Ultra」プロセッサが統合するNPUは12 TOPSなので,どちらも次世代Windowsの条件を満たしていないのだ。
そうした中で,2024年5月にQualcommが発表したArmベースのWindows向けSoC「Snapdragon X Elite」は,45 TOPSの性能を持つNPUを統合しているとされ,次世代WindowsのAI機能に対応可能な初のプロセッサと注目を集めた。AMDやIntelにも,40 TOPSという次世代Windowsの条件を満たすプロセッサの投入が求められている。
そして今回,AMDが発表したRyzen AI 300シリーズは,現時点で業界最高の50 TOPSという性能を持つ「XDNA 2」ベースのNPUを統合した初のAPUであるという。CPUコアは,Ryzen 9000シリーズと同じZen 5アーキテクチャで,統合GPUには,Radeon 7000シリーズの「RDNA 3」よりもアップデートされた「RDNA 3.5」ベースのGPUを採用する。NPU以外も最新の要素で固めてきたわけだ。
製品構成は実にシンプルで,上位モデルの「Ryzen AI 9 HX 370」と,スタンダードクラスとなる「Ryzen AI 9 365」の2モデルのみだ。
Ryzen AI 9 HX 370は,Zen 5アーキテクチャベースの12コア24スレッド対応というノートPC向けとしては強力なCPUを統合しているのがポイントだろう。
ただ,キャッシュメモリ容量がRyzen 9000シリーズの12コア製品とは異なるので,同じZen 5世代でも,ノートPC向けにカスタマイズされているようだ。
AMDによると,Ryzen AI 300シリーズは2製品ともに15〜54Wまでの幅広いTDP枠に対応できるという。したがって,従来のノートPC向けSoC製品とは異なり,TDP枠によるラインナップ区分はないそうだ。
また「HX」は,単に性能が高いことを示すサフィックスで,従来のようにTDP枠を示すものではないとのこと。幅広いTDPに対応できる代わりにラインナップを減らすのは,IntelのCore Ultraシリーズでも見られるので,AMDも考えることは同じなのだろう。
ブランドの命名規則も,これまでのRyzenとは大きく異なる。AMDによると「Ryzen AI」がブランド名で,「9」や「HX」が製品のランクを示し,「3」がシリーズ名で,末尾の2桁がSKU(品目)を示すそうだ。
正直言って,これまでAMDのAPU製品におけるブランド命名規則は,混乱の極みだった。多少詳しい人でも,ブランド名から世代やランクを推測するのが難しいレベルの混乱具合だったが,Ryzen AI 300シリーズは,多少ましになった。購入者は製品を選びやすくなるだろう。
今回,AMDはNPUのアピールに重点を置いており,統合GPUに関する説明はごくわずかだった。だが,4Gamerの読者としては,ゲーム性能を左右するRDNA 3.5世代の統合GPUのほうに興味を惹かれるだろう。
残念ながら,RDNA 3.5に関しては,RDNA 3に対して「クロックあたりの性能を向上させている」という,ごく短い説明があったのみ。世代の違いによる性能差はなんとも言えないが,規模の違いは分かりやすい。
たとえば,シェーダの規模を示すCompute Unit(CU)数は,Ryzen AI 9 HX 370に統合される「Radeon 890M」が16基で,Ryzen AI 9 365に統合される「Radeon 880M」12基となっている。ちなみに,現行世代であるRyzen 7000 APUおよびRyzen 8000シリーズの統合GPUの場合,最も高スペックな「Radeon 780M」でもCU数は12基なので,上位モデルは約1.3倍の規模になっているわけだ。
初出時,Radeon 780MのCU数を8基と記載していましたが,正しくは12基でした。
携帯型ゲームPCでよく使われるRadeon 780Mの性能からすると,その倍の規模を持つRadeon 890Mは,かなりのゲーム性能が期待できると見ていい。AMDによると,Radeon 780M統合のAPUと肩を並べるゲーム性能を謳う「Core Ultra 9 185H」に対して,1.3倍以上の性能を持つとのことだ。単体GPUを搭載しなくても,そこそこ遊べるゲーム性能を期待できるのではなかろうか。
もちろん,Zen 5アーキテクチャで最大12コア24スレッドのCPUを統合している点も,AMDは,大いにアピールしている。Copilot+ PCに対応可能なSnapdragon X Eliteに対しては,x86命令のエミュレーションが不要であるため,より高いアプリケーション性能が得られるそうだ。また24スレッド対応により,「Apple M3」プロセッサよりも,高い性能でクリエーター向けのアプリが動作することをアピールしていた。
そしてAMDがもっとも力を入れているNPUは,初代のXDNA世代から大幅な改良が加えられた。演算能力では最大5倍,電力性能比は2倍に向上していると,AMDはアピールしている。
少し面白いのは,XDNA 2では「Block FP16」を,ネイティブでサポートするという点だ。
既存のNPUは,規模の制約から最大性能を得るために8bit浮動小数点数(FP8)や8bit整数(INT8)での利用が基本だ。ちなみに,XDNA世代のNPUで最大の性能を得られる形式は,INT8である。
一方,いま流通しているメジャーなAIモデルは,たいてい16bit浮動小数点数(FP16)や32bit浮動小数点数(FP32)を使っている。したがって,XDNA世代のNPUに乗せるには,これらをINT8に変換する「量子化」と呼ばれる前処理が必要になるが,ここで量子化誤差が生じるので,上手く動かないこともあるのだ。それに対してXDNA 2のNPUは,「Block FP16でも8bitと同じ性能が得られる」ために,量子化の必要がないとAMDは強調している。
ちなみに,Block FP16についてAMDから詳しい説明はなかったが,一般的には,指数部を共通化した浮動小数点数の塊(ブロック)を指す言葉なので,固定小数点演算の一種と考えていいだろう。Block FP16の形で扱うことにより,8bit演算と同じ性能が得られるということではないか,と推測している。したがって,モデルの前処理が完全に不要とはならないだろう。
だが,少なくともXDNA世代NPUのようなINT8への量子化は必要なさそうなので,扱いやすくなるのかもしれない。このあたりはSDKなどが出てみないことには,何も言えないところだ。
というわけで,初代から実に5倍の性能を得たというXDNA 2ベースのNPUは,次世代Windowsに統合されるAI機能のほかに,150以上の企業によるAIアプリケーションが対応するとAMDはアピールしている。
なお,COMPUTEX 2024では,多数のRyzen AI 300シリーズ搭載PCが発表されるようだ。Snapdragon X Eliteの発表により,「x86の時代は終わる」的な浅はかな論調まで飛び出していたが,AI性能を含めてSnapdragon X Eliteを凌駕しそうなRyzen AI 300シリーズが早々に登場したことで,PCでのAI活用は,さらに面白くなりそうだ。
AMDのCOMPUTEX 2024特設Webページ(英語)
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