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[インタビュー]辞めやすくて,再開しやすい。そんなカードゲームを作りたい――韓国の名門開発チーム「New Normal Soft」は,その名の通り“新しい常識”を目指す
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印刷2023/12/11 12:03

インタビュー

[インタビュー]辞めやすくて,再開しやすい。そんなカードゲームを作りたい――韓国の名門開発チーム「New Normal Soft」は,その名の通り“新しい常識”を目指す

 基本的に人材の流動性が少ない日本という国に比べ,韓国や中国,欧米などは,かなりのハイテンポで人材が移動して,くっついたり,離れたり,またくっついたり,そういうことを繰り返しながら,人脈が広がり,ノウハウが共有され,切磋琢磨しながら作品が作られていく。もちろん良い面ばかりがあるわけではないが,デメリットを補ってもなおメリットがあると思っている。

 そうはいっても皆が皆成功するわけではないので,いろんな会社が出来ては消えていくわけだが,生き残ってキラリと光る会社も数多くあるわけで,今回インタビューしたNew Normal Softもそういう会社の中の1つだ。

New Normal Softの第一作目となる「TEMPEST : Tower of Probatio」
画像集 No.012のサムネイル画像 / [インタビュー]辞めやすくて,再開しやすい。そんなカードゲームを作りたい――韓国の名門開発チーム「New Normal Soft」は,その名の通り“新しい常識”を目指す

 事前に日本で調べたところでは,今年(2023年)創業したにも関わらず,「TEMPEST : Tower of Probatio」PC / iOS / Android
というデジタルカードゲームを1つ出して,G-STAR2023ではなかなか巨大なスペースにブースを構えて,その新作をアピールしている……とのこと。今年創業で作品がすでにあるという時点でなかなかすごいが,G-STARで巨大なスペースを押さえているところもすごい。これは本当に,創業したばかりの会社なんだろうか。
 そんな疑問を胸に向かったのが,以下のインタビューだ。確かに「ポッと出」ではなく,百選錬磨の業界人が作った会社ではあったが,それよりなにより注目すべきは,その運営方針だ。

 デジタルカードゲームはなかなかの狭き門で,そもそも生き残るタイトルが少ないわけだが,マネタイズ手法も「いつものやつ」しかなくて,差別化を図るのが大変に難しいジャンルだ。そこにあえて打って出るわけだが,その運営方針にぜひ注目してほしい。
 デジタルカードゲームにおいて(デジタルじゃなくても出来るけど)筆者は見たことがなかったビジネスの手法だったが,もしどこかですでにやられていることだったら,ぜひご教示いただければ幸いだ。

New Normal Soft CEO Park Jangsu氏(左)
New Normal Soft Business Management/LEAD Kim Euntak氏(右)
画像集 No.001のサムネイル画像 / [インタビュー]辞めやすくて,再開しやすい。そんなカードゲームを作りたい――韓国の名門開発チーム「New Normal Soft」は,その名の通り“新しい常識”を目指す

4Gamer:
 お忙しいタイミングで,時間をとってもらってありがとうございます。ブースも結構大きくて大会ぽいこともしてましたし,いろいろ仕事があったのでは。

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 G-STAR 2023にて,New Normal Softの新作デジタルカードゲーム「TEMPEST : Tower of Probatio」を試遊できた。基本システムは「MARVEL SNAP」と似ているが,「BAN」「ヒーローカード」などオリジナルの要素も光っており,eスポーツ展開が見据えられているそうだ。

[2023/11/18 19:07]

Park Jangsu氏:(以下,Park氏)
 いえいえ。我々みたいな小さい会社のために時間を捻出してくれて,こちらこそ感謝しています。

4Gamer:
 小さい会社はあんなに大きいブースを構えないと思います……。
 しかしNew Normal Softのことをちょっと調べてみたんですが,まだすごく新しい会社ですよね。

Park氏:
 はい。今年創業した会社ですが,メンバーは2016年からずっと行動を共にしてきました。実はNew Normalは,同じメンバーで3社目なんです。前の2社はすごく成功したので,3社目になりました。

4Gamer:
 同じメンツなのがすごいですね……。ではこの“3社目”は,どういう経緯で作られた会社なんですか?

Park氏:
 New Normal Softの目標は,業界で新しい基準/スタンダードを作ることなんです。

4Gamer:
 あぁ……社名が目標そのものなんですね。

Park氏:
 はい。この業界にもともとある習慣なんかをがんばって変えて,“新しいNormal”を作ってみようと思って,メンバーたちもみんなそれに同意してくれたので,作りました。

4Gamer:
 その,ずっと一緒にやってるメンバーたちの経歴とか,何を作った人なのかとか,すごく気になるんですが教えてもらえたりしますか?

Park氏:
 みんなこの業界に20年くらいいます。いろんな会社で,いろんなゲームに関わってきて,もちろんみんな代表作を持ってますけど,結構前のタイトルも多いですし,他社の話もあるので,ちょっとここでは勘弁してください。

4Gamer:
 まぁ確かにちょっと言いづらいですね……。では一緒に作ったものはどんなのがありますか?

Park氏:
 このメンバーで一緒に作ったのは,「アデン」「R0」「カオスモバイル」「イカロスエターナル」ですね。そして5作目が,今回出展している「TEMPEST : Tower of Probatio」(テンペスト)です。

巨大なブースを構えて,「TEMPEST」の試遊列も長く。同時開催されていた大会みたいなものも盛り上がっていた
画像集 No.002のサムネイル画像 / [インタビュー]辞めやすくて,再開しやすい。そんなカードゲームを作りたい――韓国の名門開発チーム「New Normal Soft」は,その名の通り“新しい常識”を目指す

4Gamer:
 ほぼ全部MMORPGじゃないですか。なんで最新作だけカードゲームなんですか?

Park氏:
 例えば,今あなたカードゲームをプレイしているとして,それを1年続けて,その後1年間やめていたあとで再び遊ぼうと思っても,それは非常に難しいことですよね。

4Gamer:
 ええ,まぁ正直相当難しいですね。

Park氏:
 でしょう? なぜなら,カードゲームには新しいカードが出続けて,1年間もあったら下手すると100枚とか出てくるわけです。大がかりなカードゲームになると,1000枚単位で登場するかもしれません。1年やめたあとで遊ぼうとすると,いままでのカードが使えなくなってたりすることもありますし,新しいカードを学ぶ必要もあるわけです。

4Gamer:
 僕自身,以前ずっと「Magic:the Gathering」をやっていたので,すごくよく分かります。

Park氏:
 その問題を解決しようとしているのが,私たちの作る「テンペスト」で,私たちが“New Normal”として作っているゲームの世界観です。
 私たちはユーザーの持つ「価値」を守りたいと思っています。それはもちろん1年後であっても同じ価値のままである必要があるわけで,カードゲームはそれがもっとも難しいジャンルです。

4Gamer:
 確かにそうですね。例えば,5年前のカードがいまも同じ価値である可能性は割と低いと思います。

Kim Euntak氏:(以下,Kim氏)
 ですので私たちは,まずその風習から壊すことを決めました。全てのカードゲームを破壊しようと決めて,それこそが新しいノーマルであると言いたいのです。

4Gamer:
 “新しいノーマル”で重要なことは,「ユーザーの持つ価値」を守ることなんですか?

Park氏:
 そうですね。
 例えばシーズン1の期間中遊んでいたユーザーさんが,シーズン1の後に一度ゲームから離れたとしましょう。2年後に戻ってきましたが,その時にはシーズン10になってました。

4Gamer:
 大なり小なりのブレはあっても,まぁすごくありがちな話だと思います。

画像集 No.003のサムネイル画像 / [インタビュー]辞めやすくて,再開しやすい。そんなカードゲームを作りたい――韓国の名門開発チーム「New Normal Soft」は,その名の通り“新しい常識”を目指す
Park氏:
 2年後に戻ってきたときに,シーズン1の時に集めたカードを300枚持っていたら,シーズン10で再開するときに,300枚のカードを引けるチケットを提供するというのがその手法です。現在の環境に追いつくための余計な課金は不要になります。でも新しいカードですから,そのカードを新たに学習する楽しみは,キチンとあります。

4Gamer:
 なるほど……その発想はなかったです。
 カードゲームはどれも,既存のカードを生かしながら新しいものを付け足していくわけで,それがゆえに,余計に後から初心者が入りづらい原因にもなっていると思うんです。その問題も解消できるプランですよね,それ。

Park氏:
 ありがとうございます(笑)。

4Gamer:
 しかしビジネス的には微妙じゃないですか?

Park氏:
 もちろん,そこは最初に懸念した問題点ではあります。
 でも,シーズンが変わるときに新しいユーザーが入ってきますし,私たちが作って目指しているゲームは,「辞めるときにも不便さがないゲーム」なんです。

4Gamer:
 それを目指しているというのは斬新です。

Kim氏:
 いつ辞めても大丈夫,いつ離れても大丈夫,もったいなくもない。そして,いつ戻ってきても大丈夫。
 計画的に面白いコンテンツを追加して,離れた後でも「こういうのが追加されたみたいだからちょっと気になるな」って言って戻る気になってくれるゲームが理想です。

4Gamer:
 なるほど。シーズンが変わるときに,新しいユーザーを呼び込みつつ,復帰ユーザーも入ってきやすくなる,と。

Park氏:
 はい。そういう風にユーザーを定期的に入れ替えていくことで,シーズンパスみたいなものがあれば,会社は計画的に運営できるんじゃないかなと考えています。
 計画的に面白いコンテンツを追加して,みんなが楽しくプレイできるゲームを作ることで,ライフサイクルが短くてすぐ辞められてしまうゲームよりは,長くみんなで楽しくプレイできて,会社的にもビジネスがやっていけるものを作れるのでは,と。

4Gamer:
 “New Normal”の名前は伊達じゃないですね。

Park氏:
 その名のとおり「新しい基準」になれればいいんですが。

4Gamer:
 僕は仕事柄,いろんなゲームメーカーさんと話をしてきましたが,皆さん口を揃えて言うことは「ユーザーさんの資産を守ること」「ユーザーさんを長く引き止めておくこと」です。確かにその2つはどちらも大事ですが,こういうアプローチで解決しようとしているのは,初めて聞きました。

Park氏:
 そう言ってもらえると嬉しいです。

4Gamer:
 「辞めやすいゲーム」ってホント新鮮でいいです(笑)。

Park氏:
 例えば……ポーカー。誰でも知ってますし,10年間やっていなくて,ある瞬間に「よしやってみよう」と思ったら,トランプを買ってきて遊ぶだけですよね。それくらいのゲームが作りたいのです。

4Gamer:
 そうですねえ。
 ちょっと忙しくなって入れなくなって,アップデートについていけなくなったから面倒くさくなってそのまま辞めちゃったようなゲームが,いままでに一体いくつあることか。

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Kim氏:
 社長も私たちもそうですけど,以前辞めちゃったゲームを再開したいと思っても,やっぱり面倒くさいんですよ(笑)。

Park氏:
 そもそも,せめて1か月くらいは遊ばないと追いつけないし,1年前に辞めちゃったゲームで例えば10万円くらい課金してあったとしても,今の1万円課金したキャラクターには追いつけないわけですよ。結局全然価値が守れていないわけで,そういうのを防ぎたいですね。

4Gamer:
 ある意味「価値を守らない」という方向にシフトしたわけで,その決断が本当に興味深いですね。
 メーカーさんは普通,10万円課金したゲームの,10万円分の価値を守ろうとするわけで,そこに無理が出るわけです。でもそれを「守らない」って割切ってるわけですよねある意味。

Park氏:
 ええ,そうかもしれません。

4Gamer:
 価値を守っていないけど守ってる……いや違うな。守ってはいないですね。「守れないものは守らない」かな?
 しかしその運営システムって,実は結構eスポーツ向きなのでは?

Park氏:
 今だと,「Hearthstone」を始めとする,素晴らしいカードゲームであっても,ロングスパンで生き残るのは簡単なことではありません。そういう既存のやり方を破壊したいですね。

Kim氏:
 ウチの社長は,カードゲームについてかなりよく分かっているので,そういう難しい部分を楽しく解決できるように考えています。
 それが本当に険しい道であることは,皆知っています。「Hearthstone」であっても,1〜2年くらいで下がってきているはずです。そういう風にすぐ寿命がなくなっていく部分を,私たちなりの方法でどうにかしてみて,あわよくば,eスポーツとしても長生きするカードゲームを作ってみようと考えもあります。

4Gamer:
 あぁParkさん,カードゲーム結構詳しいんですね。

Kim氏:
 社長は実は「Hearthstone」の上位ランカーなので,普通の人よりはよく分かっていると思いますよ。

4Gamer:
 おお,そうなんですね。ウチの編集部にも元Hearthstoneのプロ選手がいますが,彼もBlizzardが大会を縮小しちゃっているのをすごく寂しがっていました。
 しかし……そういう発想はどこから生まれてくるんですか?

Park氏:
 私はおそらく,すごくハードコアなゲーマーです。課金もハードコアですし(笑),プレイ時間もハードコアです。要するに,とてもゲームを愛しています。なので,自分がゲームをプレイしながら感じたことや考えたことは,たぶんほかのユーザーさんも考えているんじゃないかと思っています。
 さっきもちょっと話題に出ましたが,リアルの仕事とかで少し忙しくなってゲームから離れていたら,自分のキャラや資産の価値が下がっていて戻れなくなって,でも辞めるのも消すのももったいない……みたいなそういう悔しさとか,きっとほかのユーザーさんも感じていると思うんです。だから,そういうのを壊したかったですね。

そんなコアゲーマーの想いで作ったのが,「TEMPEST : Tower of Probatio」
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4Gamer:
 スマホゲームなんかはとくにそうですけど,結局インフレさせるしかないんですよね。そうじゃないと稼げないので。

Park氏:
 そう。いまのゲームでユーザーさんが少なくなると,結局は過酷な課金圧になる傾向がありますよね。それで売り上げを維持しようとする傾向があるので,そういうゲームのBadなライフサイクルも壊してみようという考えがありました。
 あるとき,それをほかのメンバーにも話したらメンバーたちもみんなそれに同意して,今のチームが作られたんです。

4Gamer:
 今何人くらいでやっているんですか?

Kim氏:
 20人です。

4Gamer:
 どこかの資本は入ってたりしますか?

Park氏:
 入ってないです。それって重要な情報ですか?

4Gamer:
 それほどのチャレンジャブルなコンセプトのゲームは,どこか大手の資本が入っていたら許容してくれないかもしれないなと思いまして。

Park氏:
 あぁなるほど(笑)。
 でも僕たちが今までの会社でやってきたことも,ちょっと普通とは違っていたし,それでいて結構大きい売上を記録していたので,私たちを知っている投資家ならば,そういうことは別に気にしないでしょうね。

4Gamer:
 おお,それはすごいです……。

Kim氏:
 あと,これは社長もいつも言ってる点ですが,「チャレンジャブルな開発」と「売上」は別です。チャレンジャブルだから売上が出ないというのはダメだと思いますよ。

4Gamer:
 いや耳が痛いです……。
 おっしゃるとおりなんですが,一度守りに入っちゃうと,そういうことはなかなか許されないんですよ。シリーズものの作品の数字ばっかり増えていったりして。

Park氏:
 そういう部分は少なからず,どこの会社にもありますよね。

率先して,“未来の標準”(=New Normal)となるものを作ろうという,「New Normal Soft」
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4Gamer:
 しかしそういう「New Normal」を,今作っている別な作品……MMOやボードゲームにも何か入れるんですか?

Park氏:
 入れます。
 私たちNew Normal Softでの名前で開発してリリースするゲームは,全部同じコンセプトで作られています。

4Gamer:
 なんとなく最近は,「ユーザーの資産」を守るためにNFTにしたりとかいろいろ考えてるみたいですが,「そうじゃないのでは」という気はしていて,あなたがたがどのように解決してくれるのかすごく楽しみです。

Park氏:
 MMORPGにNFTを加えることは,僕も好きじゃないですね。そもそもそれは,暗号資産の価値が変動することによって,ユーザーの資産やキャラクターの価値が変わっていくわけで,結局はNFTの価値がゲームに影響を及ぼすわけで,あまり良くないと思います

4Gamer:
 ゲームにトークノミクスをただ入れただけ,というやつですね。

Park氏:
 無理やり入れてもバランスが悪くなるだけなので,我々はそういうことをしないように心がけています。現状のトークン生態系と,ゲームを連結することはできないのです

4Gamer:
 いやホントに,日本でもローンチしてくれるのが楽しみです。

Park氏:
 16か国でローンチする予定ですが,日本の市場に大きな期待を持っています
 もちろん日本の市場は,とても大きくて特殊なので,逆にプレッシャーでもありますけど。

4Gamer:
 そもそも「テンペスト」の日本ローンチはいつになんですか?

Park氏:
 2024年Q1にグローバル同時リリースを考えているので,そこになると思いますよ。

4Gamer:
 今日は興味深い話を聞けて楽しかったです。いろんな作品の日本ローンチに期待してるので,ぜひよろしくお願いします! 今日はありがとうございました。

――2023年11月17日


  • 関連タイトル:

    TEMPEST : Tower of Probatio

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    TEMPEST : Tower of Probatio

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