インタビュー
[インタビュー]スクエニとセガは,ブロックチェーンゲームやNFTに対してどういう姿勢なのか。両社のキーパーソンに,ざっくばらんに聞いてみよう
昨年からは「IVS CRYPTO」も併設されており,Web3ゲーム業界的にもちょっと見ておくべきイベントになっているので,今回4Gamerでも参加してみたのだが,ちょっと場違いな空気感の中でも,チラホラと見かけた顔がある(そしてなぜかホッとする)。
そんなアウェーな会場で,スクウェア・エニックス ブロックチェーン・エンタテインメント事業部 事業部長の畑 圭輔氏と,セガ ビジネス開発本部 ビジネスプロデューサーの西山泰弘氏を見つけ,同じタイミングで時間をもらうことができた。両社のWeb3事業のキーパーソンとも言えるお二人に,無理矢理いろいろ聞いてみることにしよう。
IVS2023 Kyoto
4Gamer:
疲労困憊した最終日の午前中にすみません(笑)。スクウェア・エニックスとセガの,ブロックチェーンゲーム……というかWeb3界隈への取り組みの温度感みたいなものを教えてほしくて,本日お時間をいただきました。
まず西山さんから,一応自己紹介……というか,何をやってる人なのかをお願いします。
西山氏:
ゲーム業界にメガトレンドをどう入れ込んでいくかというミッションで,あれこれやとやってます。それこそAIもリサーチとか含めて色々やってますし,ブロックチェーンもむろんやってますし,メタバースも見ます。CVC部門※のサポートとして,スタートアップさんの新しい取り組みの支援と同時に勉強などもさせてもらっています。
あとクラウドとかにももうちょっとベットしていきたいなとか思ってて,まぁなんというか便利屋もとい,未来を作る担当です……
※Corporate Venture Capitalの省略系でCVC。社内ベンチャーキャピタル,という文字どおりの意味が割とすっきり分かりやすい。自社の事業分野とシナジーを生みそうなベンチャー企業に投資をすることや,それをするための社内組織を指す言葉だ。
4Gamer:
最新テクノロジーの便利屋。
西山氏:
はい,そういう立ち位置でやってますんで,新しい技術としてセガがどう見てるかは,お答えできるんじゃないかなと思います。
4Gamer:
ありがとうございます。では畑さん,お願いします。
畑氏:
私の場合は,ブロックチェーン・エンターテイメント事業部という事業部が,2022年の2月から立ち上がって,だいたい1年半くらい経ったところです。いまその事業部長と,ミリオンアーサー(資産性ミリオンアーサー)と,スクエニの最初のNFTプロジェクトの立ち上げをやってます。今もプロデューサーでもあるわけなので,二足のわらじでやってる,同じく便利屋です。
アニメ・ゲームサミット 2022 Summer「資産性ミリオンアーサー」の講演をレポート。スクエニ初のNFTプロジェクトのこれまでの歩みが語られた
DMM.comのオンライン展示会「アニメ・ゲームサミット 2022 Summer」の講演「『資産性ミリオンアーサー』を通して得た知見と今後の展望について」のレポートをお届けしよう。スクウェア・エニックス初のNFTプロジェクトのこれまでの歩みと今後の展望が語られた。
西山氏:
畑さんは本物の便利屋? いや便利屋っていうか,特攻隊長?
畑氏:
割とそうかもですね。恐れず突っ込んでいく感じが。
4Gamer:
かっこいいじゃないですか……。ということは,今回のイベントはまさにハマり役ですね。
西山氏:
しかしこのイベントは,思ってたよりは元気な印象ですね。
畑氏:
そうですよね。本来は市況感に左右されるはずなのに,そんなの知らずになのか元気にやってる感じがします。
もちろん,日頃からWeb3界隈におけるニュースは見ているんでしょうけど,「開発においてそれ影響します?」みたいな。
西山氏:
「生成系AIに投資のお金が全部流れたよね〜」とか暗い話もしてるんだけど,でも前向きでしたね,皆さん。
4Gamer:
だいぶ流れてるぽいですもんね。
西山氏:
なので逆に,ちゃんと何かしてやろう,みたいなメンバーが残ってて,熱量が高く動き回ってる感じがしましたね。
4Gamer:
Crypto界隈は不況とか冬の時代とか言われてるので,つまりいま残ってる人達は「ちゃんとここに居座ろう」としている人達なわけで,逆に信用できそうというか。
西山氏:
すごくいい感じに見えますね。
畑氏:
昨年のNFT.NYC※に参加させていただいたときには、サイドイベント含めて名刺交換ラッシュでしたが、最近のイベントでは少しづつ落ち着いてきました。見知った方も多いですし。
基本は既存のF2Pの延長で,原資をちゃんとコミュニティに分配する仕組みの話でしかない
4Gamer:
とはいえ,ですね。いろいろとまだリスクもありそうなこの業界の中で,Web3事業を会社としてやっていく上で,どう進めていくかみたいな話はどんな風にお考えですか?
西山氏:
そういう話で言うなら,ウチはスクエニさんとは違ってまだ“知見を溜めているフェーズ”なんですよね。スクエニさんとかバンナムさんとかってホントみんなすごくて,ホントの意味でグローバルにやれてる会社なので。
うちは持ってるポテンシャルはあるし,もともと欧米とかからも結構興味を持たれてたのに,いまいち日本的な色合いが強いところも残ってたんですよね。それが最近一気にグローバルシフトしてるところなんです。なのでセガの欧米におけるプレゼンスは今上がってると思ってて,実際に結果も出てるので,そっちでやらなきゃいけないことを今しっかりやるっていう状態ですね。
4Gamer:
でも三国志大戦も外部に出しちゃいましたし,まだWeb3に本腰入れてるわけではない? さっきの公開収録でも,内海さんはそんなこと言ってましたけども。
大手パブリッシャはブロックチェーンゲームをどう見ているか。セガ副社長とKONAMIのweb3事業部長が戦略を語ったIVS Cryptoのセッション
YGG Japanは2023年6月29日,クリプトカンファレンス「IVS Crypto 2023 KYOTO」で,セガの代表取締役副社長である内海州史氏と,KONAMIのweb3事業部長である金友 健氏をゲストに迎えたセッションを開催した。この領域における両社の戦略が語られた模様をレポートしよう。
西山氏:
業界の進み方が速いから,AIとかWeb3とかもちゃんと見て知見を溜めなきゃいけなくて,じゃあ知見を溜めるにはどうしたらいいんだろうって考えていたら,先方からも“ぜひ(三国志大戦をライセンスアウトで)使いたい”と言っていただいたというのもあるので。
そうした形で間接的な関わりにはなりますけど、どんどん情報をキャッチアップしたりして,それを続けてる感じですね。
「三国志大戦」のIPを使用したブロックチェーンゲームの開発をdouble jump.tokyoが発表。ゲームに特化したブロックチェーン“Oasys”を採用
double jump.tokyoは本日,セガより「三国志大戦」のライセンス許諾を受け,「三国志」をテーマとしたブロックチェーンゲームを開発すると発表した。新たに制作されるゲームでは,「三国志大戦」のIPを使用したアートワークを楽しめるという。開発には,ブロックチェーンプロジェクト「Oasys」を採用する。
畑氏:
セガさんいまそんな感じなんですね。弊社は,ブロックチェーンに関しては,2018年頃からリサーチをはじめつつ,年頭所感に書かれるほどすごい熱が入ってました。
年頭所感 | SQUARE ENIX HOLDINGS(2022.1.1)
4Gamer:
松田さんそんなだったんですね。
畑氏:
私がタスクフォースとして社内のリサーチのリードを担当することになり,自分としてはプロダクトとして何か作って世に出したいなという気持ちが強くなったので資産性ミリオンアーサーを作ったんです。でももし自分じゃなかったら,リサーチで終わってたかもしれないな,という気はしますね。
西山氏:
スクエニのギアを入れた男。
4Gamer:
あ,なんかちょっとカッコいい。
でも確かに,ミリオンアーサーのNFTの話が聞こえたときにはちょっとびっくりしました。最初にやるのはスクエニなんだ? って。
西山氏:
でもやりやすいIPでもあるよね,ミリオンアーサー。
まぁ最初にNFTとかトークンみたいなところがガーッと盛り上がったけど,基本はブロックチェーンの上で成立する仕組みでしかないわけじゃないですか。ブロックチェーンという仕組みがあるからできているものであるんですけど,その本質的な部分とは違う話が多いんですよね。
畑氏:
そうですね。
西山氏:
僕自身はゴリゴリとアプリを作るプロデューサーなんですけど,結構テクニカルな部分を気にしていて,これってデータのセキュリティが担保できる仕組みなわけですよね。
4Gamer:
うん,そうですね。
西山氏:
もうちょっとそれをうまくゲーム業界として使えないかなぁ,と。まぁどこかの会社はやってるかもしれませんけど。例えば,パケットにブロックチェーンの仕組みが載っていてチートされないとか。
畑氏:
チートに困ってる会社さん多いですしね。
西山氏:
最終的には,お客様のデジタル資産,お客様が一生懸命使ったデジタル資産を,お客様のものとして承認する仕組みにしますというのが,お客様にとってはフェアなわけじゃないですか。あとセキュリティツールだから,ゲームの安全性を確保するために,ちゃんとブロックチェーンを使います。それもこれも,お客様に安全に遊んでいただくためで,そういうのであれば共感のある製品づくりが出来るのかなと。
4Gamer:
そういうアプローチはあんまり聞かないですよね。
熱量を作らないで仕組みだけ作るから,世界に勝てないんですよ
西山氏:
まぁウチはともかくそういう捉え方なんです。ゲームでどんなことやったらいいのかな,お客さんにとって本当にいいサービスを作れるかな,みたいな。
4Gamer:
うちもブロックチェーンゲームの記事を載せると,読者の反応として「これホントに儲かるのかな」みたいな反応をする人がいる一方で,「どうせブロックチェーンゲームなんてどれもこれも怪しいでしょ」みたいな反応も多いというのが正直なところですね。
畑氏:
その「怪しい」っていうのは,やっぱり最初にブロックチェーンという技術を使って儲けてやろう! みたいな人たちが荒っぽく動いた結果であって,我々が後から「いやいやこれは正しい技術なんですよ。こういう風に使えるんですよ」と上書きをしてる最中ですね。
4Gamer:
まさにそうですよね。なもんで,今以上にプレイヤーの信頼を勝ち取るためには,どうしていくべきだと思います?
真っ当なコンテンツを作るのが一番いいんだろうとは思います。ミリアサでも「稼げる」とかそういうワーディングを使わないのも,稼ぐということを主にして作ってるコンテンツじゃないからです。新しい仕組みとして稼ぐこともできるけど,それは少額でしかないので。
そういったところで最初の興味を持ってもらって,ゆくゆくはゲームにしっかり引き入れたいと思ってます。
西山氏:
やっぱり「NFL Rivals」※とかは注目してますね。NFT系で最初に始まったのはトップショット(NBA Top Shot)じゃない? トップショットってファンアートで,ファンの大好きな選手を,ちゃんと大事に俺のものとしたいっていうものじゃないですか。
それはゲームじゃなくてファングッズで,なので当然それを欲しい人がいて,欲しい人がいっぱいいるから値が付くわけですよ。私もNBAのゲームとか運営していたらいいな,って普通に思ってるんですけど,今度はNFLですよ。
NFLもファンがいっぱいいる“4大メジャー”ですけど,Mythical Gamesさんが偉いなと思ったのは,ちゃんとゲーム性を入れててちゃんと面白いんです。
※「NFL Rivals」は,NFT化された選手カードを使ってチームを作り、ゲームを戦っていくモバイルアメフトゲーム。NFTであることを全面に打ち出しておらず,プレイヤーは意識することなくプレイを進められる。
[GDC 2023]ブロックチェーンのためのゲームではなく,ゲームのためのブロックチェーンを。NFTゲームプラットフォーム大手・Mythical GamesのCEOにインタビュー
ブロックチェーンゲーム業界大手で,Web3ゲーム展開を推し進めるNFTゲームプラットフォーマーのMythical Games。GDC 2023にて,同社ののCEO / FounderのJohn Linden氏にインタビューをする機会を得たので,Web3ゲームの新作や日本での事業展開の考えなどを聞いてきた。
畑氏:
そうなんですね。
西山氏:
NFLには元々ファンがいて,そこにさらにゲームを足してるわけです。僕らがゲームを作るのって,言うならば僕らが好き放題に作ってるだけじゃない? 俺らが「これ面白いよ」って言って。
ゲームってまずインタラクティブがあって,そこに没入することができて,リアクションが返ってきて,より世界観に入っていけるから,ファン化するわけですよね。で,IP化していく。
4Gamer:
はい,そうですね。
西山氏:
でも「NFLライバル」は,元々ファンがいるところに,さらにゲームという没入させる仕組みを入れてるわけだから,ちゃんとやってきたなーみたいな。
例えば畑さんのミリオンアーサーだって,ある意味スクエニさんが「これ面白いでしょ!」ってやってるので,ミリオンアーサーが面白くないとダメで,ファンのつながりをうまくスクエニさんがプロデュースしないと,ダメなわけですよ。
4Gamer:
はい。
西山氏:
でも最初からファンがいて,さらに没入もさせるんだよ。ずるいよ(笑)。
畑氏:
すっかりMythical Gamesに心奪われてますね(笑)。
西山氏:
ああいうのが正常な形で売れたりすると,アメリカ国内の印象も変わってくるんじゃないですかね。FTXがどうだこうだとか,まぁいろいろあって,アメリカが一気に冷めちゃった感じじゃないですかこの界隈。だから今回のMythicalのNFLのもそうだけど,NFT……っていうかブロックチェーンゲームって面白いじゃん,ちゃんとファンが熱狂する楽しいことやってるじゃん,ってアメリカがなれば,日本側もきっとパタパタパタと……。
これ結構大事だと思うんですけど,“熱量ファースト”なんですよ。ともかく熱量を作らないと。熱量があるからファンがいるわけですよ。それはコンテンツの形でもいいし,ファン同士のつながりなんかでもいい。なんならゲームじゃなくてもいいんです。熱量さえ作れれば。
4Gamer:
なるほど。
西山氏:
でも,熱量を作らないで仕組みだけ作るから,負けてるんですよ。
だからほんと,ブロックチェーンがきたこのタイミングで,日本の企業が結構大きくギアチェンジしてくれるといいな,と思ってます。
4Gamer:
ギアチェンジのやり方はどうするのがいいと思います?
西山氏:
運営型のゲームは熱量をどんどん上げていくことが重要。ファンをとても大事にして,繋がりも大事にしていくんだけど,Web3ってそれがとてもしやすいんですよね。ちゃんと各メーカーが,そういう文脈を気付いて出来たらいいよね。
西山氏:
あとまぁもう一個僕がずっと言ってるのは,日本はハードウェアの国だったから,MODができないのだと思っています。
4Gamer:
その視点はちょっと納得できますね。
西山氏:
もはやMODじゃないだろっていうレベルで凄いものもあるし,有名どころではTeam FortressとかCounterStrikeとか,結構前のタイトルでそういう時代からあるわけですよ。
ああやって“ユーザーに委ねる感じ”が,海外ではモディファイ文化として結構やれてて,実際面白いゲームもいくつも出来てる。でも日本ではそれが出来ない土壌だった。ハードウェアの国でROMだから。
4Gamer:
そこは確かにそうですね。ROMではちょっとMOD文化が華開きようがないというか。
西山氏:
ゲームをユーザーに委ねて,ユーザーもそれを自分たちが担いで……みたいな。MODって,一番最初のUGCだし、まさに究極の形のDAOみたいな感じがするんですよね。
MOD可能なゲームであるために開発者は何をしなくてはならないのか。「Arma」の開発者による講演をレポート
PCゲームにとってMODは大きな楽しみのひとつで,近年ではValveがSteam Workshopという形でより容易にMODの導入を可能とする機能をサービスしているが,開発側にとってみると一筋縄ではいかない厄介な要素でもある。この問題に対し,Bohemia InteractiveのKarel Moricky氏がGDC 2021に登壇し,MOD可能なゲームを作るための課題とその解決法について語った。
4Gamer:
なるほど,そこにつながったんですね。
西山氏:
ウチみたいなクラシカルな老舗の会社が,外資で当時は規模の小さい会社に後塵を拝してる。それって,もちろん彼らがすごいというのもあるけど,それだけじゃなくて,彼らがユーザーと向き合う距離感とか,割り切りとか,そういう部分がすごい。メーカーのプライド,みたいな足枷になるようなものをほとんど持ってないというか。
そういうことの延長に,「DAO」という言葉はやはり絶対に大事なものになると思う。まぁでも完全に委任するDAOなんてまずはできなくて,まずは最初に中央集権型みたいな感じがあったりして,でもそれはしょうがないこと。ギルドとかクランがあったとして,クランの中での遊びの設計は任せるよ,みたいな感じかな。
4Gamer:
なるほど,外側は作っておいて中をまず自由に。
西山氏:
そうそう。それで極端なこと言うなら,PR費払うよりも,この熱量高いコミュニティがいろんな人や新しいユーザーを連れてきてくれてユーザーを支えてくれてるんだとしたらそこに予算を使いたい。それがホントにDAOになる。
畑氏:
いや,ほんとそうですね。
西山氏:
やっぱりメーカーサイドは,出過ぎるマネは結構危ないと思うんだよね。いろいろなタイトル作ってる時に思ったんだけど,特に対戦ゲームや運営型のゲームは、プロデューサーの出方は難しいです。ある意味“答え”を持ってるから,ユーザーさんに向き合っちゃうとリスクがすごく高いわけ。
4Gamer:
あぁ……それはよく分かります。
西山氏:
「それはちょっと難しいです」って言えない人だしね。編集長っていう役職もそうでしょう?
あと極端なこと言えば,これ僕は三国志大戦とかでも言っちゃってるから繰り返しになるんだけど,コアファンがずっと楽しいと思えるゲームを作るわけないよね? っていう話だもん。
4Gamer:
はい,それはそうですね。
西山氏:
僕は,新規アカウントを増やしていって,このコミュニティを横に広げてずっとやっていきたいからやってるわけで、 長くゲームを運営するには,やっぱり適正なバランスにして,多くの人がいつでもチャンスがあるようなゲームにしたいわけです。
そういう風にやり続けて,新しいシステムで刺激を与えたり,環境をリセットしたりして,新しいユーザーが来て。でまた新しくスキルを学んだりしながら,そういうのをやり取りしているうちにコミュニティも活発になって良くなって,対戦量も増えてゲームそのものが活性化するわけ。
4Gamer:
MMORPGなんかもそうだけど,ライフタイムが長い運用型ゲームの宿命ですね。
西山氏:
もうちょっと,開発とお客様の中間の人とか……コミュニティマネージャーとかね。そういうものがある文化も,日本はまだちょっと遅いんですよ。
畑氏:
そうなんですよねえ。
西山氏:
そういう部分,Activisionさんなんかはすごく早くて,コミュニティマネージメントをしてるし,Riotさんなんかももちろんちゃんとやってる。そういうのを通して,今のAMA※みたいなものをもっとやっていく形にしていった方がいいかなと思っています。
※AMA=Ask Me Anythingで,そのまんま「なんでも聞いてくれ」的なセッションの名称として使われる。Redditなど海外系SNSでよく使われた用語だが,最近使われ方が広がりつつある。
4Gamer:
AMAもプロデューサーがやってたりしますからねたまに。
畑氏:
ホントのプロデューサーを前面に出しすぎると,それはそれでさっき西山さんがおっしゃったように,あんまりよろしくないんですよね。
4Gamer:
逃げ道ないですからね。
畑氏:
なんで俺らの声をジャッジしないんだ,となっちゃう。
西山氏:
謝るときだけ出るくらいのほうがいいです。
4Gamer:
最近ではコミュニティというとDiscordを指すことが多いですが,それもうまく運営できてないことありますもんね。
西山氏:
それは結局,そこに対する運営担当をつけるだとか、キャッチアップして精査するとか、人や時間をかけるべき投資額の必然性というか,そこの重要度というか,そういうものをボードメンバーにどうインプット出来ているのか?という。
本当に大事なことは, KPI見て,ARPUがどうとか継続率がどうとか,そういうことだけじゃないわけですよ。ビジネスの構造として,グローバルの人たちはこういう風にコスト構造を変えていて,そこに対してこれくらいコミットしているんだとか,そういう情報がちゃんとボードメンバーにレポーティングできなきゃいけないんだけど,なかなかねえ。
4Gamer:
結果の数字の話は確かに分かりやすいんですが,それが本当に重要なのかというと……。
業界特有の特殊用語むき出しのあれを,とにかく壊したい
4Gamer:
ちょっと話を「熱量」のとこまで戻しちゃうんですけど,なんだかんだ言ってプレイヤーがブロックチェーンゲームで遊ぶためには,まだいろいろなハードルがあります。実際遊ぼうと思うと,やんなきゃいけないことが多すぎるといいますか。そこって熱量だけで超えてこれるようなものなんでしょうか。何らかのサポートだったり,教育だったりは必要になりませんか。
畑氏:
業界特有の特殊用語むき出しでサービス設計するあれを,とにかくなくしたいと思ってます。
4Gamer:
ぜひ(笑)。あれホントにハードル高いと思いますよ。やってる人は気付いてないみたいですが。
畑氏:
“ウォレット”っていう単語をいまだにずっと使い続けてるのも違和感しかないですね。だからもうちょっとゲームに溶け込んだワーディングをそれぞれ作っちゃっていいくらいなのではと思ってます。
4Gamer:
Web3界隈はそこがなかなか厳しいですよね。
畑氏:
「シードフレーズを作ってください」とか普通に出てくるじゃないですか。あれってゲーム屋だったら,質問にちょっと答えていくだけで「シードフレーズが出来上がりました」みたいにうまく言い換えたりできるはずです。そういう変な用語を平然と使ってるから入りづらいということに気がついてすらいないのは危機感を覚えます。
4Gamer:
いや……さすがに気付いているのでは?
畑氏:
そういうゲームがいまだに多く存在するということは,気になってないということですよね。自分たちで設計して変えられるはずですから。僕なんかはそこがとにかく嫌だったので,“ブロックチェーンの言葉”は全然使ってないです。
4Gamer:
いいですね。大手さんにはそういうところホント期待してます。
うちも記事を書くときに若干困ってまして,用語を変えちゃまずいから書きづらいんですよね。注釈くらいは入れられますが,用語そのものは変えようがなく。
西山氏:
レイヤー2とかサイドチェーンとか,何それ? みたいになりますもん。もちろん担当として「それ便利ですよ。ちゃんと知らなきゃダメですよ」とか言いますけど,そこまでの知識とか事情をユーザーに押しつけるのは違うし。
4Gamer:
多いですね。
畑氏:
ウォレットにも種類があって,「これはコントラクトウォレットです」とかみなさんスッと言うんですが,それ街で言ってみんな分かります? みたいな。
西山氏:
まぁでも10%くらいは新しいモノ好きのガジェット好きがいるので,その人達がマウント取りながら共有してるというのがいつものパターンですね。
でも新しいことやるときには,そういった方々がいないと進まないのでもちろんありがたくて,リスペクトではあるんですけどね。
畑氏:
そこはそうですね。
西山氏:
……なんかさ,Web2.5みたいな話がまた出てきてるじゃない。
4Gamer:
出てきてますね。
西山氏:
スマホだと,かつてiOSでプリペイドカード使うかクレジットカード登録するかで,ウチとかスクエニさんとかが“精霊石”みたいな仮想通貨とか作って,それでガチャ回したりとかできたわけじゃない?
4Gamer:
はい。
西山氏:
ブロックチェーンとかNFTもそういう話なんだよね。売りたきゃ売ればいいし。
そういう話も,メーカーさんがゲームらしいゲームをちゃんと出してくれれば,たぶん乗り越えられるんじゃないですかねえ。面白いゲームをやりたいから。
昔だってUO(Ultima Online)をやりたいからみんな一生懸命英語のサイトを読んで,よく分からないクレジットカード登録をして遊んでたわけじゃないですか。
西山氏:
そうそう,そういうことよ。
4Gamer:
あれが起こるはずなんですよ。ここ1年で,「お?」というものが出てきたなという気はしますし。
西山氏:
大手では間違いなくスクエニさんが先行している状態ですよね。
4Gamer:
最初に突っ込んでいくのはスクエニだったのかぁ,という思い。
西山氏:
僕も僕も。
4Gamer:
最初にムーブメントを起こして,大きなところが当ててくれるとかなりいいですよね。
西山氏:
そうですよね。だから変に「金稼ぎかよ」みたいな誤解を受けない話にしないと,です。
今までのデジタル資産は,ウチがサービス辞めたら何の価値もないものになってたというのが,そもそも“アンフェア”だったんだよ,くらいのことをお客さんが思ってもいいんじゃないかなと。まぁでもこの手の話がどんどん進んでいくと,メーカーは取り分が減るんですよ。勝手に流通売買されるわけですから。
4Gamer:
それはまぁそうなんですけど,でもそれって普通に今でもある話ですよね。
西山氏:
そう。カードゲームなんか,日本全国のカードショップさん達がいてくれたから流通してるわけですよね,結局。ユーザーさんがショップにカードを売ってくれたおかげで,それが次のカード代になったりゲーム代になったりしてたわけです。
4Gamer:
同じことですよね。
西山氏:
そうなんですよ。あとはほら,コミュニティとかで頑張ってくれてる人に,なんていうのか……リワードを返したいのよ。でも今までだとそんなことできなかった。業務委託費用です,みたいな。
4Gamer:
そうなっちゃいますよね(笑)。
畑氏:
契約書結んだりしてね。
西山氏:
さっきのデジタル資産の話と,あとユーティリティとかトークン系の話とかそういうのも,コミュニティを活性化するために使えるんだったら,僕らの運営の大事なツールになるわけで,それは最終的にお客様のためになるものじゃないですか,プレイヤーの皆さんのために。
4Gamer:
嫌らしくない感じであげられるのはいいですね。
西山氏:
はい。だからこのへんはもっと研究したいですよね。
あとは……例えばeスポーツの大会の景品とか,みんなそんなリーガル的な不安があるんだったら,お金じゃない「価値があるもの」をあげればいいんじゃないかな。昔大会やったときとか,お金出してもみんなそんなに喜んでなくて,それよりも「誉れ」が欲しいわけ。
4Gamer:
すごく分かります。
西山氏:
うん確かにすごいありがたいし,僕もそのほうがいいな。だから「世界に一つしかないNFT」を渡したりね。
そういうのが結局は一番喜んでいただけるわけで,まさにそれがOne and Onlyなわけです。そういうことが出来るのも,NFTというかブロックチェーンのいいところですよね。
4Gamer:
まだあまりそういう話を聞かないので,今後に期待ですね。
畑氏:
私の部署では,専属でマーケティングチームを作ってます。こういうWeb3用の動きとかに対応して軽いフットワークも含めて動けるように。
4Gamer:
それ地味にすごいですね。
畑氏:
とにかくフットワークを上げたいので。もちろん既存のマーケティングチームともちゃんと連携する,コミュニケーションをする,という前提で。こっちはこっちで知見を溜めて。
日本はいまこそ,いろんな仕掛けや作品が出てくるはずなのに,海外のほうが目立つ
4Gamer:
しかしこれずっと聞こうと思っていまようやく口にするんですが,それぞれの会社の中で,ブロックチェーンゲーム化してみたいIPとか……。
西山氏:
答えられません(即答)。
4Gamer:
まぁそうかなと思いました。
西山氏:
個人の意見だとしても,そこだけ切り取られて「作ること」が既成事実になっちゃうし(笑)。
4Gamer:
そのリスクはありますね確かに。
西山氏:
でもファンとか熱量とか,そういう言葉の延長で何かいいアイデアが出たらやりたいですよね。我々の伝え方をほんのちょっと間違えると,よくない方向に進んじゃったりするし。いまはまさに,いろんな例を見て勉強してるフェーズです。
4Gamer:
過渡期ですね。
西山氏:
だから面白いんですよ。日本はいま雨後のタケノコのようにいろんな仕掛けや作品が出るはずなのに,なんかちょっとみんな日和ってるのかな。海外のほうが目立っちゃうよね。
そういう意味で言うと,シンビオちゃん※とかホント楽しみ。何これ,どうやって収めるの? とか思いながらワクワクして待ってる。スクエニさんなにやってんの,っていう感じがいい。
※SYMBIOGENESIS(シンビオジェネシス)
スクウェア・エニックスのNFTコレクティブルアートプロジェクト,「SYMBIOGENESIS」の公式サイトをオープン。サービス開始に向けたキャンペーン開催中
スクウェア・エニックスは本日,2023年春のリリースを予定しているNFTコレクティブルアートプロジェクト,「SYMBIOGENESIS」の公式サイトと公式Discordをオープンした。サービス開始に先立ち,ゲームで利用可能なポイントが手に入る「トレジャーハンティングキャンペーン」が始まっている。
畑氏:
我々としても,壮大なチャレンジの企画ですからね。
西山氏:
ああいうことやってくれて,あれを落ち着かせられたら,ホントすごいよ。
畑氏:
SYMBIOGENESISのようなタイトルにチャレンジするという意味でも,我々の事業部の存在意義はそこだなと思っています。ほかのプロデューサーとかに聞いて回ったら「これなんなの?」って絶対なっちゃうので。良い意味でツッコミどころ満載だからこそやりがいがあります。
西山氏:
そうそう(笑)。
畑氏:
だけど,やったことないし面白そうじゃん,で,たぶんうちしかやれないんでしょう? となると,じゃあやろうって。
4Gamer:
これまでブロックチェーン関連で大手さんの話を聞いたことなかったので,今日いろいろ聞いてちょっと安心しました。とくにスクエニ。
畑氏:
ありがとうございます。
4Gamer:
口を開けば「Play to Earn」だったので,ちょっともう辟易してるというか。
Earnって言うけど……主婦の皆さんがやってるポイ活みたいな感じならいいと思うんですが,どうもそうじゃない方向に向けようとするし。
畑氏:
ミリアサなんかも,100円とかちょっと稼げる……稼げるというか,ゲームやって遊んでジュースが一本飲めるとか,そういう感じです。
4Gamer:
それくらいでいいです……。
まあでもお二方のような,ちゃんと考えてる人が,これからのゲーム業界のWeb3を引っ張っていってくれれば,もっと盛り上がる気がします。本日はありがとうございました。
――――2023年6月30日
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