インタビュー
ホロライブが夢見る,メタバースとの幸せな関係とは――不定期連載「原田が斬る」,第9回はカバーCEO・谷郷元昭氏がVTuberの未来を語る
メーカーから見たゲーム実況とその課題
4Gamer:
本題からは少し外れるんですが,今日はぜひ聞きたかった質問が一つありまして。これはまず,原田さんにお聞きしたいんですが,ゲームメーカーの側は,VTuberを始めとしたストリーマーを使ったプロモーションをどう考えているのでしょうか。業界的にも,決して無視できない存在になってきていると思うのですが。
原田氏:
VTuberに限らず,配信を使ったプロモーションは今や欠かせない存在ですよね。ホロライブのVTuberさんの場合,ゲームの実況配信をする際,メーカーに問い合わせるんですか?
谷郷氏:
今はそうです。昔はその辺りのルールが曖昧で,いろいろご迷惑をおかけしてしまいました。今はしっかり問い合わせています。
原田氏:
ああ,なるほど。ゲーム配信については,同じ社内でもジャンルによってかなり温度感が違うんですよね。僕も関わることの多い対戦ゲームなら,配信で“面白さ”が削がれる部分が少ないないから,基本的にはフルオープンです。配信がきっかけで盛り上がって,興味を持って応援してもらえるのは大歓迎だし,かわいいVTuberが四苦八苦しながらやってくれたらめちゃくちゃ嬉しい。1週間でいいから「鉄拳」にトライしてくんないかなって(笑)。
4Gamer:
いきなりだと,1週間で心が折れかねないですけど(笑)。
原田氏:
ボコボコにされて最後は折れて去って行く……みたいなことになっても,それはそれで面白いじゃない? でもこれがストーリードリブンの,例えばRPGのようなゲームだと……ちょっと話が変わってくる。
4Gamer:
よく分かるお話です。
原田氏:
音楽やボイス,映像などを主体とした映画に近いコンテンツになってくると,「それを配信されちゃ困る」と考えるチームやタイトルも出てくるわけだ。そんな風にジャンルごとに温度差はあるけども,その上で一つ言えるのは……今はもう,配信を歓迎しているチームのほうが多いんじゃないかな。
4Gamer:
谷郷さんから見て,メーカーさんの反応に変化を感じるところはありますか?
谷郷氏:
昔は交渉がなかなか大変というイメージがありましたが,今は流れが変わった,というのは感じますね。
原田氏:
配信事業という,ゲームにとって第3の経済圏ができることは,市場全体が広がることだから俯瞰的に見たら絶対良いことなんですよ。ここには恐らく,ゲーム業界の誰もがそう思っているはずです。
ただ一方で,「ゲームのプロモになるからいいじゃん」とか「業界が潤うからいいでしょ」って言われると,配信に頼らなくても成り立っているものもあるわけで。メーカーにもいろんな事情があるから,とある部署にとっては「その配信の利益を,もうちょっとメーカー側に還元してくれないと」という考え方になるのも仕方がない。
4Gamer:
ただその辺りの事情や空気感というのは,配信者やその視聴者側からは見えにくいですよね。もちろんオープンにできない理由も分かるんですけど,それが原因で視聴者同士が外野で揉めているのも,しばしば見られる光景です。
原田氏:
それはもう,本当に不毛だよね。今の著作権法では権利者がものすごく強くて,権利者側のさじ加減一つというのが実情です。ホロライブさんなんかは,むしろしっかりやっているわけだし,そこは信用してほしいところです。むしろメーカー側としては,こういう会社さんと一緒にやりたいですよ。Win-Winでありたい。
4Gamer:
配信のガイドラインを出すタイトルや,メーカーさんも増えてきた印象があります。
原田氏:
そうそう。だからこれは配信者側の問題ではなく,実はメーカー側が解決しなきゃいけない課題なんですよ。先にも述べたとおり,少なくとも現状では権利元であるゲームメーカー側が許可/不許可の権利と裁量を握っています。であれば,ゲームメーカー側がこういうルールで利益分配をしましょうって話を進めて行ったほうが物事は進みやすい。今はその対応が遅れてるだけなんじゃないかと。
世界へと広がるVTuberと,その先にあるもの
原田氏:
じゃあ今度は僕から聞きたいんですが,今のホロライブの主な視聴者層って,どんな人達なんですか。ゲームだったら,例えばガリガリ対戦ゲームをやる層と,「アイドルマスター」が好きな層はだいぶ違いますけど。
谷郷氏:
ユーザー属性で言えば,メインはだいたい10代半ばから30代半ばぐらいまでの,主に男性ということになると思います。女性の方も当然いらっしゃいますけど,比率は少ないですね。地域でいうと,日本だったり北米,アジア圏が多いです。
原田氏:
想像よりだいぶ若いですね。新しいテクノロジーへの興味やリテラシーの高さって,30代半ばから40代ぐらいが実はボリュームゾーンなので,それぐらいかと思っていました。だとするとかなり希望が持てる事業ですね。
4Gamer:
年齢と性別以外の属性だと,どうなんでしょうか。例えばゲーム実況を見るためにゲームファンが集まっているのか,それともアバターに惹かれてアニメファンが集まっているのか,というような。
谷郷氏:
日本のファンは,やっぱりゲームからの人が多いように思います。一方で海外のファンは,アニメファンの比重がかなり高いですね。
原田氏:
分かります。そこは想像どおりですね。
4Gamer:
個人的にはニコニコ動画の生放送文化から来ていると思っていたのですが,年齢層を考えるとそうでもなさそうですね。
谷郷氏:
かつてはそういった面もありましたが,今となってはそこに限らないと思います。ファンになっていただくきっかけとして今,多そうなのは,コロナ禍で自宅で仕事していて,BGM代わりにYouTubeを流しっぱなしにしてたら,自分が好きなゲームの実況をしているVTuberがオススメに出てきた,みたいな感じでしょうか。恐らくですが,日本のストリーマーに占めるVTuberの比率が,そもそも高いんだと思います。
4Gamer:
確かに……そうかもしれません。むしろ国内に限れば,ストリーマーの主流はVTuberなのかもしれない。
谷郷氏:
海外ではTwitchなどに多くのストリーマーが集まっていますが,日本は見る側の動画勢はいても,ストリーマーはかなり少ない印象でした。そこに入り込んだのがVTuber,なのかもしれません。
原田氏:
そこは日本人の気質かもしれないですね。顔を晒すのは恥ずかしいし,海外の人みたいなオーバーリアクションもためらわれる。そこにアバターを介して入ることは,文化的にマッチしているのかもしれない。見る側と配信する側の双方にとって。
4Gamer:
海外ファンの話がありましたが,カバーさんは現在,日本のほか英語圏とインドネシアでもVTuber事業を展開されていますよね。海外に進出するきっかけはなんだったのでしょうか。
谷郷氏:
キズナアイさんが海外でバズってたので,もともと需要はあったんだと思います。ただ,それに続くVTuberが出てこないという状況の中で,ホロライブが人気を得始めていたので,それなら頑張ってみようかという感じでした。海外だとアニメ的なコンテンツの供給が少ない,能動的に探して見つけるのも大変なところに,ホロライブの配信がマッチしたんだと思います。
原田氏:
彼らに響くコンテンツを提供しているのは,日本だけですからね。
谷郷氏:
レスポンスも,海外のファンからの方が多いくらいです。先日公開した「ホロライブ・オルタナティブ」のティザーPVも,コメント欄は英語のほうが多いくらいですし。熱狂しているのが目に見えて分かります。
原田氏:
海外のファンは分かりやすくていいですよね。ネガティブなこともハッキリ言うんけど,嬉しいときにも喜びをハッキリと表現してくれる。そこはちょっと,日本と違うところです。
4Gamer:
進出先としてこれらの地域が選ばれたのは,やはりファンのレスポンスが大きいところを選んだわけですか。
谷郷氏:
そうですね。結果として,日本のアニメやコスプレのような文化が受け入れられているエリアと言うこともできます。
原田氏:
そうなると,やっぱり北米と東南アジアですね。
谷郷氏:
ええ。ただ,昔とちょっと違うなと思うのは,僕らが良いものをしっかりと作れば,海外の人にも受け入れてもらえる時代になったことですね。ひと昔前は海外と国内,どちらの市場を狙うかの二者択一な面があったように思うんです。
原田氏:
確かに。テクノロジーの発達で価値観の共有がしやすくなったというのは,あるかもしれないですね。じゃあ,これは個人的な興味からの質問なんなんですが,ホロライブのタレントになりたいって思ったら,どうすればいいんです?
谷郷氏:
基本はオーディションに参加してもらうことになります。
原田氏:
オーディションはどんな内容なんですか?
谷郷氏:
それぞれの事務所でかなり違いはあると思いますが,ホロライブの場合は事前に書類選考があって,すでにYouTube等で活動している人なら,その動画や投稿を確認したりします。
原田氏:
声優さんのオーディションのようにセリフを読んだり,何かやってみせるようなことは?
谷郷氏:
いえ,普通に面接をします。書類選考の次が面接での選考です。
原田氏:
それで分かるものなんですか。こいつは割と行けるぞ! みたいなところが。
谷郷氏:
声質やこれまでの経験も見ますが,一番大事なのはやる気ですからね。
原田氏:
……なるほど。いやあ,僕もVTuberになりたいんですよね。もっとカワイく生まれたかったし,今でこそこんな風にインタビューに出たりもしてますけど,それはマーケティング上,どうしても表に出る必要があると割り切ったからで。VTuberなんてものが可能なら,僕もそうしたかった!
4Gamer:
原田さんなら「鉄拳7」や「サマーレッスン」に登場したご自身の3Dモデルを使えば,個人でもすぐにデビューできそうですけど。
原田氏:
あれじゃ嫌なんだよ! 最悪,声はこのままでいいから,もう少しかわいいアバターで,いろいろ実況したり,アナウンスしたりしたいんだ。そのほうが人気出るじゃない?
4Gamer:
どうでしょう(笑)。人気はもうあるんじゃないですか。とくに海外では。
原田氏:
そうだけど,そういうモテ方じゃないんだよな。本当は,僕はテイラー・スウィフト※みたいに生まれたかった。ギャップがあると思うんですけど,心の中では僕はテイラー・スウィフトなんですよ。
※テイラー・スウィフト……アメリカのシンガーソングライター。リアリティ番組「テラスハウス」主題歌「We Are Never Ever Getting Back Together」などの楽曲で知られる。
4Gamer:
(笑)。谷郷さんも,ファンからはYAGOOの愛称で親しまれていて,配信にもときどき出演されていますけど,あれはご本人的にはどうなんでしょう。メリットを感じてらっしゃるんですか。
谷郷氏:
今はこれで良かったと思っています。たぶん原田さんと同じ理由だと思うんですが,やっぱり運営側ってなかなか表に出にくいものですから。誰かが表に出ることで,ファンの皆さんに情報が伝わりやすくなる。そういう側面はあると思います。
原田氏:
コミュニティに親近感を持ってくれている状態だと,何かをアナウンスするときも受け入れてもらいやすいですからね。登場するだけでも,何か期待してもらえるというような。スティーブ・ジョブズだって,そうでしたから。
谷郷氏:
狙って今の立ち位置になったわけではないですけど,結果的にはプラスになっているんじゃないかと。
原田氏:
では僕からもう一つ。大手の事務所に所属している/いないに関わらず,今や多くのVTuberさんが活動されているわけじゃないですか。これから参集してくる企業もあるでしょうし,それに対するカバーさんの強みであるとか,差別化というのはどう考えていますか。
谷郷氏:
ウチは同期同士だったり,グループの仲がいいところが比較的ウリなのかなと思っています。所属タレントさんも増えましたが,極端に多いわけではありません。ファンの皆さんが追いかけられる範囲なのではないかと。
原田氏:
所属タレントさんは,今は何人いらっしゃるんですか?
谷郷氏:
全世界合わせて68人ですね。ただ男女でグループを分けていますし,リージョンごとにも分かれています。
原田氏:
将来的には,やっぱりもっと増やしていく予定なんですか。
谷郷氏:
そこはファンのニーズに合わせてという感じですね。いたずらに増やしても……とは思っています。
原田氏:
そうなんですか。僕なんかは,むしろ100人,200人と増やしていくものだと思っていました。タレントさんが増えれば,それだけ多くのファンに興味を持ってもらえるきっかけになるでしょうし。最終的には「総勢800人!」とかになるのかと。
谷郷氏:
そこがゲームとは違うところかもしれません。タレントさんの人生もかかっているわけですし,単純に数を増やせばいいわけではない,というのが今の考えですね。
原田氏:
ではホロライブやVTuberの行く末に,谷郷さんはどんな未来を想像されているんですか。先ほどコンテンツビジネスは技術革新によって花開くというお話がありましたが,この先の具体的な展望があるなら,ぜひ教えて欲しいです。
谷郷氏:
それこそがメタバースなんじゃないかと。「ホロアース」は,そこから生まれてきたプロジェクトなんですよ。
原田氏:
ああ,なるほど。やっぱり皆,そうなりますよね。これは次の話にうまくつながりましたね(笑)。
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