インタビュー
ホロライブが夢見る,メタバースとの幸せな関係とは――不定期連載「原田が斬る」,第9回はカバーCEO・谷郷元昭氏がVTuberの未来を語る
メタバースプロジェクト「ホロアース」とは何か
4Gamer:
メタバースの話が出たところで,ここからは「ホロアース」の開発を直接担当されている大岡さんにも同席いただいて,カバーさんが掲げるメタバース事業について聞いていきたいと思います。
はい。よろしくお願いします。
原田氏:
大岡さんは,おいくつなんですか?
大岡氏:
33ですね。
原田氏:
かなりお若いですね。カバーへはどういった経緯で参加されたんですか。
大岡氏:
元々はフリーランスで,長らくソーシャルゲームのエンジニアやサーバーエンジニアを担当していました。前職ではバーチャルライブなどのイベント作りに関わってもいて,その縁でカバーに転職したという流れです。
原田氏:
じゃあ,最初から「ホロアース」を開発するために入社されたわけだ。
大岡氏:
そうですね。ずっとバーチャルな空間を創る仕事をしていたので,そこにVTuberのような存在が組み合わさるとどうなるんだろう,というところに興味を持ち,挑戦してみたくなったんです。
原田氏:
「ホロアース」の開発に取り組んでいるチームは,皆さんそんな感じで?
大岡氏:
チームには,やっぱりオンラインゲームが好きな人間が多いですね。僕自身も,青春時代をオンラインゲームに持っていかれたタイプです(笑)。
原田氏:
やっぱり(笑)。世代的にそうなりますよね。
4Gamer:
まず「ホロアース」というプロジェクトについて,説明をいただけますか。
谷郷氏:
“ホロアース”という言葉そのものは,2年ほど前のコミックマーケット(C97)で販売した小冊子「ホロアースクロニクルズ」で発表したものになります。ウチに所属しているVTuberというのは,実はタレントごとに作り込んだ設定というか,バックストーリーがありまして。皆どこかの仮想世界から現実世界にやってきて,配信やライブ活動をしている……という設定なんですね。
4Gamer:
ああ,そうだったんですね。その元となる世界が“ホロアース”ですか。
谷郷氏:
ええ。仮想の宇宙に”ホロアース”という世界があって,「ホロアースクロニクルズ」はその設定資料集でした。その後,「ホロアースクロニクルズ」は「ホロライブ・オルタナティブ」と名前を変え,今はWebサイトやアニメのティザーPVという形で展開しているところです。で,メタバース事業をやるなら,この資産は活かすべきということで,メタバースとしての「ホロアース」が生まれました。
4Gamer:
では「ホロアース」の構想自体はメタバースのための設定と言うわけでなく,「ホロライブ・オルタナティブ」の後に生まれてきたと。
谷郷氏:
はい。少なくとも「ホロアースクロニクルズ」の段階では,メタバースと組み合わせることは決まっていませんでした。ただ,いつかメタバースをやりたいという考えはずっとあったので……。それこそ,最初に作った卓球ゲームでやろうとしていたのも,ある意味メタバースのようなものですから。小冊子を販売したのも,この世界を使ったメタバースに需要があるかどうか,反応を見たかったという側面がありました。
4Gamer:
後に「ホロアース」のプロジェクトにつながったということは,手ごたえを感じられた?
谷郷氏:
コミックマーケット限定の,しかも有料の小冊子ですから広がり方は限定的になりましたが,買ってくれた人には受け容れてもらえた,という感触だったように思います。その後,もうちょっと多くの人に見てもらいたくて作ったのが後のティザーPVなんですが,その頃にはもう,この世界観でメタバースをやるべきだと思い始めていました。
原田氏:
プラットフォームは何を考えているんですか。クライアントとなるアプリケーションをリリースするのか,それともブラウザ上で動作させるのか。PC以外の展開も考えているのかとか。
大岡氏:
今のところは,PC向けのアプリケーションを想定して開発を進めています。やはり弊社のタレントにはリッチな環境で配信してほしいですし,配信フレンドリーなサービスにするというのは常に心掛けているところです。一方で,ファンの皆さんがタレントに会える場所でもあるわけで,多くの人が手に取りやすいモバイル版も視野には入れていますね。
原田氏:
PCとスマホ,やっぱりそうですよね。リッチにするなら専用のアプリケーションのほうがいいわけだし,そこは気になっていました。
これは答えてもらえるかどうか分からないんですが,初期開発はどの程度の規模を考えていますか。例えばコンソールやPCの“リッチなタイトル”――いわゆるAAAタイトルなどのハイエンドなゲーム開発に限定するなら,もはや最低ラインで50億,実際は100億や150億円は軽くかかる世界になっているわけですけど。
谷郷氏:
ゲームではなくサービスを作っているつもりなので,コストは初期開発よりも,継続的な運営のほうにかかるんじゃないかと思います。でも,そうですね……トータルで考えれば,「ホロアース」も原田さんがおっしゃるような規模になるんじゃないかと思います。
原田氏:
なるほど……。
谷郷氏:
開発費はもちろんですけど,時間も必要だと思っています。VTuber事業もここまで来るのに5年かかっているわけで,きっとホロアースも軌道に乗るまでに,5年や10年はかかると思います。
原田氏:
VTuberの場合,今はマネタイズの方法がある程度,確立されているわけじゃないですか。いわゆる“投げ銭”のような仕組みであったりとか。そこへ行くとメタバース事業のビジネスモデルというのは不確かですよね。どんな形をお考えなんですか。
谷郷氏:
僕らとしては,VTuberのビジネスモデルとそんなに変わらないと思っています。というのも,VTuberのビジネスモデルって投げ銭じゃないんですよ。それはあくまで+αの要素でしかなくて,中心はメンバーシップやマーチャンダイジング,それからライブイベントなどで得られる収益なんです。
4Gamer:
マーチャンダイジングというと,キャラクタービジネスに近いものと考えていいのでしょうか。
谷郷氏:
一概にキャラクタービジネスと括ってしまっていいかは,難しいところです。もちろんアクリルスタンドみたいなグッズもあるんですが,ライセンス商品ではあっても,キャラクターのイラストが入っているとは限りません。どちらかというと,そのIPにまつわるグッズを身に付けたいという感覚なんだと思います。
原田氏:
ウチの場合,「アイドルマスター」がまさにそんな感じですね。ゲームが起点のIPではあるけれど,収益の規模で見たらマーチャンダイジングやライブのほうが大きい。なるほど,これは自分の好きなものをアイデンティティにしてもらう,そういうビジネスなんだ。それをメタバースでもやろうというわけですか。
谷郷氏:
そうですね。例えば今はメンバーシップの機能として提供されている絵文字であったり,ライブ会場で購入できるライブグッズなどは,メタバース上でもチャットのスタンプやアバター衣装に置き換えられます。オンラインでイベントやライブも開けますし,だからビジネスとしては今と変わりません。
原田氏:
ふむふむ……その発想は僕にはなかったですね。すごく面白いです。
谷郷氏:
とくに弊社の場合は海外ファンが多いこともあって,世界中のファンが同じ時間,同じ空間に集う体験を作るのが難しい側面があります。でもメタバースなら,それが可能になる。そこに大きなメリットを感じています。
大岡氏:
「hololive SUPER EXPO 2022」というイベントを先日幕張で開催しましたが,昨今の情勢もあって,ファンの皆さんもなかなか参加が難しい状況です。イベント後にほかのファンと交流できる場所を用意してほしいといった声もいただいているので,それに応えるサービスになればいいと思っています。
4Gamer:
確かにVTuberとの親和性は高そうですね。
谷郷氏:
ええ。そもそもVTuber自体,僕はメタバース上の存在だと思っているので。それなら仮想世界自体を作ってしまって,その中でいろんなイベントやライブを楽しめるようにしたほうが自然なんですよね。そうやってファンの皆さんやタレントさんが活動できる場を増やしていけたらいいな,という。それがホロライブのメタバース「ホロアース」なんです。
原田氏:
それでPCとモバイルから接続できるメタバース世界と,オフラインでのイベントを連携させていくわけですか。将来的にはそこを目指していると。
大岡氏:
そうですね。メタバースがあったとしても,オフラインのイベントが不要になるわけではありません。そこはやっぱり,現実世界あってのメタバースです。だからすべてを仮想世界に持っていこうというミラーワールドのような概念とは,僕らは少し違う方向を向いています。むしろ現実世界がもっと楽しくなるような場を作っていきたいです。
原田氏:
確かにアイドルの応援活動って,現場に直接足を運んでこそっていう側面がありますよね。ファン同士がリアルで会って行う交流が大切だし,それでモチベーションが保たれている側面もある。そういったコミュニティの力は,バカにできません。
大岡氏:
我々も,そしてファンの皆さんも,その辺りは十分に実感しています。ただ一方で,どうしてもイベントに参加できないことはありますし,そういう人にも現地の空気を少しでも感じてもらいたい。そのためにメタバースが活用できればと思っています。リアルとバーチャルのシナジーは,「ホロアース」の課題の一つだと思って取り組んでいるところです。
原田氏:
しかしメタバースって,便利なバズワードですよね。eスポーツなんかと同じで,僕らみたいなゲーム好きにとってみたら“いつか来た道”にすぎないのに,この言葉だけで新しいスポンサーやステークスホルダーが参入してくれる。
4Gamer:
恐らくこの記事を読んでいる人にも,「メタバースってなんなの?」って思ってる人は多いと思いますよ。
原田氏:
それでいいんですよ。一般にはメタバースという言葉は気にしないでいいと思う。なんなら,新しいMMORPGなのかな? ぐらいの認識でいいんです。だけどこの言葉を使うと経営層や資本家が動いてくれるから,僕らは便利に使っているんです。なのに,たまーに真実を話しちゃう人がいてさ。「俺達はあえて黙ってるのに! 言うなよ!」って思うわけ(笑)。
4Gamer:
ああ,ありましたね※(笑)。 ※リンクは外部サイト。
大岡氏:
概ねそれで合ってます(苦笑)。ただ一方で,新しいことをやってみたいという思いももちろんあって。僕らは例えば,“週末にバーチャルライブがあるオンラインゲーム”をやってみたいと思っている。それがファンの皆さんにちゃんと届けば,きっと喜んでもらえると信じているんです。
原田氏:
「ホロアース」が完成したら,また一つハジけそうですよね。ホロライブさんのVTuberの人気がメタバースにつながれば。ますます今のうちに,ホロライブさんの所属タレントになりたくなってきました(笑)。
4Gamer:
バンダイナムコも,中〜長期的にメタバースに取り組むことを発表されていますが(関連記事),狙いとしては同じ方向なんでしょうか。
原田氏:
バンダイナムコもメタバースという言葉を便利に使っているところがありますが,お客さん同士をつなげて相乗効果を狙うというのは,元々課題としてずっと取り組んできたことなんですよ。それはバンダイナムコだけじゃなくどこのメーカーもやってきたことで,それがメタバースって言葉で分かりやすくなっただけなんじゃないかな。
4Gamer:
相乗効果というと,コミュニティを作ると言うことでしょうか。
原田氏:
そう。バンダイナムコはまさにIPで商売している会社だから,ゲームが好きな人,アニメが好きな人,キャラクターが好きな人,声優さんが好きな人達をつなげたくて,メタバースをやろうとしています。そうすればプロモーションもしやすいし,ファンの声を拾うのも役立ちますから。
4Gamer:
確かにそうですね。
原田氏:
だけど単にそのIPが好きな人を集めるだけじゃなくて,その人達が創る世界というのを,我々も見てみたい。だからある意味,自然な流れなんです。今になって,急に流行に乗ってメタバース事業をやろうというんじゃない。たまたまいいバズワードが来たから利用していると,少なくとも僕はそう思っていますね。
タレントとファンが共に作り上げる世界を目指して
原田氏:
ところで,「ホロアース」のローンチはいつ頃の予定ですか。
谷郷氏:
今はゲームの部分とロビーの部分で別に開発を進めていまして,ロビーの方は機能検証テストと称し,先日(3月14日)プロトタイプを公開しました。今のところ参加者同士でチャットができて,スタンプを送り合えるだけなんですが,これを利用したイベントを,この1〜2年でやっていけたらと思っています。
4Gamer:
ゲームの部分も,プロトタイプの映像が一部公開されていますよね。
谷郷氏:
はい。ただゲームの部分はやはり時間がかかるので,もう何年かお待たせすることにはなると思います。
原田氏:
「ホロアース」を開発していて,今現在ハードルを感じているところって,何かあったりするんですか。
大岡氏:
メタバースの技術的基盤はやはりゲーム制作に近しいですので,やはり大手のゲームデベロッパと比べると我々にはノウハウが足らず,それで試行錯誤しているところはあると思います。老舗や大手のメーカーさんに追いつけ追い越せという気持ちで,今はしっかりとしたチーム作りに日々邁進しているところです。
谷郷氏:
チーム作りとゲーム作りを一緒にやっている感じなんですよ。
大岡氏:
私もゲーム開発の現場経験はあるので,どういう人材が必要なのかは概ね分かっているのですが,メタバースを作るにはまだまだ人数が足りません。また,同じ思いをチームで共有できることも重要だと思っているので,着実に進んでいきたいと思っています。
原田氏:
例えばこんなスキルを持った人に来てほしい,といった希望はありますか。
大岡氏:
やはりオンラインゲームやコンシューマゲーム,モバイルゲームの経験者に来ていただけると,すごく助かりますね。ただ一方で,メタバースは作ってみて初めて,その輪郭が見えてくるところもあるので……。
原田氏:
未知数なところがあると。
大岡氏:
はい。だから,やっぱりビジョンを共有できる人に来ていただけるのが一番ですね。かつてのVTuberがそうだったように,今はまだ未知数であっても,その可能性を一緒に信じられる人に。
谷郷氏:
「ホロアース」をプロトタイプの段階で公開したのは,ファンの皆さんと一緒に作っていきたいというメッセージでもあるんです。まだまだ未完成なあのプロトタイプを見て,「一緒に作ってみたい」と思っていただける人なら,きっと楽しく働けると思います。
大岡氏:
実際ファンの皆さんの熱量は本当に高くて,現時点でも,ちょっと追いつかないほどの要望をいただいています。「ホロアース」に“普通のオンラインゲーム”ではない部分があるとしたら,それはやっぱり弊社のタレントと,そのファンの皆さんの持つ熱量だと思うので,そこはぜひ期待してほしいです。
原田氏:
やっぱり,すでに人気のタレントさんを大勢抱えているというのが大きいですよね。「ホロアース」という場が完成した暁には,そこに乗せるコンテンツがもう約束されているわけだから。そこはちょっと,うらやましい。
大岡氏:
先にお話したバーチャルライブはもちろん,バーチャルな空間を使った遊びはどんどん盛り込んでいきたいと思っています。それは弊社のタレントはもちろん,ファンの皆さんと一緒に作り上げていくものだと思っているので,その予測不能なところを楽しんでいただければと。
原田氏:
そうなんですよね。プレイヤーが世界を作っていけちゃうのが,メタバースの面白いところです。僕だったらちょっと広い土地を買って,そこにグランドキャニオンのアメリカ大統領像みたいな,VTuberさんの巨大胸像を彫ったりしてみたいです。で,そこに本物のVTuberさんが来てライブなんてしてくれたら,いくらでもお金を払っちゃいますよ。
大岡氏:
(笑)。でも,そうなったら楽しいですよね。
原田氏:
いや,可能性は僕もすごく感じます。メタバースにはMMORPGの知見がすごく活かせますし,あの価値観ってMMORPGにどっぷりハマった経験がないと磨けないものだと思うんです。仮想世界をどうマネタイズするのかも興味深いですし,時間が許すなら僕自身が参加したいくらい。
しかし,楽しそうな会社ですよね。ゲーム業界にも似てますけど,より趣味性が高いというか。社員さんが皆さん,楽しそうなのが伝わってきます。
谷郷氏:
ありがとうございます。メタバース事業は,とくにそういう側面が強いと思います。
原田氏:
なんというか,ワクワク感が3Dゲーム黎明期のゲーム業界に似ているのかもしれません。将来が明るくて,手探りだけど日々出来ることが広がっていく,あの感覚。すごくうらやましい。
谷郷氏:
イマジニアにいた時は,確かにそういうワクワク感がありました。同じフロアにある傘下の開発会社にシリコングラフィックスの青いマシンが鎮座していて,「すっげえ!」ってなった記憶があります(笑)。
原田氏:
ファンの皆さんが「ホロアース」に期待しているものも,よく分かる気がします。ウチも「アイドルマスター」のスタジオとは,もっと連携した方がいいように思えてきました。そっちの方が新しい世界が生まれるかもしれない。もし何かご一緒にできることがあれば,ぜひ協力させてください。
大岡氏:
ありがとうございます。
4Gamer:
残念ながらそろそろお時間のようです。まだ言い残していることがあれば,お願いできますでしょうか。
谷郷氏:
そうですね……やっぱり絶賛人材募集中ということで,そこをぜひ。とくに「ホロアース」関連は開発やデザイナー・クリエイター職だけでなく,マーケティングやビジネスサイドまで広く人材を募っていますので,興味のある方はぜひ公式サイトの求人情報を見ていただけるとうれしいです。
大岡氏:
いろんな職の枠を開けてお待ちしているので,よろしくお願いします!
原田氏:
僕はタレントになりたいです!
谷郷氏・大岡氏:
(笑)。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
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