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[GDC 2024]「マーベル ミッドナイト・サンズ」の独特なシステムができるまでに味わったFiraxis Gamesの苦悩
「マーベル ミッドナイト・サンズ」公式サイト
最初にWeinhoffer氏が強調したのが,本作を開発するにあたって,マーベル・ヒーローの魅力の1つである“ヒーロー然とした体験”を最重視したことだ。プロジェクトの立ち上げ当初は,「XCOM」のゲームメカニクスをマーベルの世界に落とし込もうと考えていた。しかしXCOMは,プレイヤーが常に劣勢に立たされるように設計されているため,そのままではヒーローの雄姿を描き切れないと気づいたという。
「ハルクの動きを制限したり,攻撃を外したり,隠れることを強いたりするようなルールは受け入れづらかった」とWeinhoffer氏は語る。そこで開発チームはまず,新しい戦術ゲームのプロトタイプ制作に入った。プロトタイプでは,ある意味,XCOMらしさでもあった移動制限や遮蔽物に隠れる必要性,命中判定のランダム性といった要素をすべて除外した。
これにより,ゲームの核となる「要素のループ」は極限まで単純化された。ヒーローはターン内であればどこまでも移動できるし,射程も無制限だ。そして攻撃は100%命中する。それでこそヒーローという感じだ。プレイヤーは自分のターンで目標の敵を選べば,ヒーローは即座に攻撃に移る。……これが最も単純化されたヒーロー体験のループだった。
ただし,このプロトタイプにはゲームとしての深みが欠けていた。ただ敵をなぎ倒すだけで面白くないゲームになってしまったのだ。そこで,XCOM開発で得た知見を生かし,戦術性と緊張感を取り入れつつ,マーベル作品らしいヒーロー体験を損なわないバランスを探る作業に入った。
戦術性を取り入れる最初の試みは,ランダム性の導入だ。しかし,XCOMで採用されていた「命中判定のランダム化」はヒーローの強さを損ねかねない。そこで着目されたのが,カードゲームの発想だった。
ゲーム内でカードを使えば,そのカードに記された効果は100%発動するが,プレイヤーが使えるカードはランダムで決まる。この仕組みで確実性と不確実性という相反する要素を両立させたのだ。
カードゲームのコンセプトを採用したメリットはほかにもある。デッキの概念やカードを引く,捨てるといった慣れ親しんだルールをわざわざ説明する必要はない。さらに,カードそのものが,能力の分かりやすい表現になったという。
その一方,XCOMの戦術性をカードゲームに置き換えると,管理するリソースが大幅に増えてしまった。XCOMはユニット単位でリソースを割り振っていたが,カードゲームでは各ヒーローが個別のリソースを持つ必要がある。そこで開発陣はさまざまな案を検討し,最終的に「チーム共有のリソースプール」に行きついた。
与えられたリソース内で,プレイヤーは自身の手札からプレイ可能なカードを選ぶ。能力の選択は自由だが,使えるリソースには制限がある。このバランスが,十分な戦術性を確保しつつヒーロー体験も損なわないポイントになったという。
次にクリアしなければならなかったのが,移動と位置取りの問題だ。上記のように移動の制約は撤廃されていたが,新たに導入された要素に伴い,ユニット配置の重要性が増したのだ。
具体的には,「ノックバック」と呼ばれる敵の強制移動と,「環境攻撃」だ。ノックバックはヒーロー攻撃の追加効果で,敵を一定方向に押し飛ばす。また環境攻撃は,マップ上のさまざまなオブジェクトを使った特殊攻撃だ。これらを行使するには,敵や自陣の位置を細かく計算する必要がある。
しかしヒーローは自動で移動するため,プレイヤーはその位置を直接コントロールできない。この矛盾に開発陣は頭を悩ませたが,最後はこの矛盾を受け入れたそうだ。
自動移動は簡便さを理由に維持し,「手動で位置調整できる」という例外的なシステムを用意,それ以外の部分で工夫を重ねた。
具体的には,移動が可能なマス目をハイライト表示したり,キャラクターの移動ルートを事前に 提示したりするUIを設けた。また,ノックバックで押し出されたあとの着地位置から,最適なアクションを選べるようにもした。さらに挟撃のアシストなど,環境に合わせた自動位置調整システムも組み込んだ。
戦術システムの設計と並行して,開発では同時にリソース管理システムの構築が進められた。Weinhoffer氏は「XCOMではリソースとしてアクションポイントを使っていましたが,そのままでは本作に適さなかった」と振り返る。
当初は,カードを主たるリソースと位置づけていた。つまり手札のカード枚数に応じて,プレイ可能な手数が与えられる仕組みだ。しかしプレイテストの結果,強力なカードを引いた側が圧倒的に有利になるなど,バランスが取れないという課題が浮かび上がった。
そこで,カードリソース以外に「ヒロイズム値」という補助的なリソースを設けたという。ほとんどのカードは,ヒロイズムを獲得または消費でき,ゲームを通してこのリソースを管理することになった。
「これが意外とうまくいった」とWeinhoffer氏は語る。短期的なリソースとして手札のカードを使い,長期的/戦略的にはヒロイズム値を管理する。この二重の意識が,ゲームにうまくフィットしたそうだ。
さらにヒロイズム値獲得の補助手段も講じたという。一度攻撃を行うと獲得できるスキルカードや,ザコ敵を一撃で倒せる「クイック」などを用意したのだ。こういった仕組みによってゲーム中盤以降,リソース不足に陥ることなくヒーローの本来の力を存分に発揮できるようになった。
以上がマーベル ミッドナイト・サンズの戦術システムが完成に至った過程だ。講演の最後に,Weinhoffer氏は開発を通じて得られた教訓を振り返った。
ゲームデザインにおいて重要なのは,まずゲームの核となる要素を明確にすることだとWeinhoffer氏は説く。それがゲームの北極星になり,機能を追加するたびにその方向性を問い直すことになる。マーベル ミッドナイト・サンズの場合は「ヒーロー体験」というコアバリューがあり,それに反するものは排除されていったという。
また,シンプルなゲームループを作ることが大切だと強調した。プレイヤーが最も頻繁に行うであろう行為をあらかじめ想定し,それを簡略化する。そのうえでゲームに複雑性を付与していく手法だ。ゲームを最初から複雑化してしまうと,後々の調整が困難になると指摘した。
さらにWeinhoffer氏は,ゲームデザインにおける“掟破り”についても言及した。プレイヤーの体験を最優先に考え,状況によっては最初に作った規則を無視するのもアリという考え方だ。ゲーム体験の向上を最優先させるべきだと氏は語る。
マーベル ミッドナイト・サンズはXCOMの戦術システムを出発点に,マーベル・ヒーローの世界観を落とし込みながら徐々に進化を遂げた。その過程で数多くの試行錯誤を重ねながら,コアバリューからそれることなく,新しいジャンルの確立を目指した。その精神が現れた良いゲームになったと自負していると述べ,講演を締めくくった。
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