インタビュー
「スーパーモンキーボール」×「モンスターファーム」コラボ記念対談。2人のゲームクリエイターが語るコラボの契機,仕事術とキャリアについて
スーパーモンキーボールとモンスターファーム。あまり接点がなさそうな両シリーズのコラボを記念して,プロデューサー同士の対談を実施することになった。なんでもスーパーモンキーボールのプロデューサー・城﨑雅夫氏には,業界の大先輩でもあるコーエーテクモゲームスの藤田一巳氏に聞きたいこともあるというので,コラボのきっかけについての話を皮切りに,クリエイターとしての姿勢や仕事術,キャリアの捉え方といったテーマにも話が及んだ,話題のにぎやかなインタビューとなった。
「たべごろ!スーパーモンキーボール1&2リメイク」公式サイト
「モンスターファーム1&2 DX」公式サイト
意外なコラボの意外な理由
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。さっそくですが,まずは両シリーズのコラボについて教えてください。どのような経緯で実現したのでしょう。
城﨑氏:
アーケードの第1作「モンキーボール」がリリースされたのが2001年なんですが,同じ年にPS2用ソフト「モンスターファーム」が発売されています。“いわば同期”というのが,そもそもの発端ではあるんですが……。
藤田氏:
PS2のモンスターファームは実質「3」なんですよ(笑)。初代PSで「1」と「2」を発売後,プラットフォームをPS2に移行するときに,タイトルからナンバリングを無くしたんです。
でも,本当にファンだったんですよ! 小学生の時,クラスで「つのだ☆ひろの『メリー・ジェーン』を入れたら強いモンスターが出る!」という噂が流れました。当然,小学生なので誰も持ってなかったんですが,「お父さんがCDを持ってる」と言った友達の存在感が急上昇したくらい,みんなで遊んでました(笑)。
藤田氏:
当時は皆さんがいろいろなCDを探し回っていたそうですね。今回のコラボの話を聞いたときには,数あるマスコットキャラの中でもスエゾーを選ぶなんて……変わった人だなと思いました。
城﨑氏:
「スエゾーは絶対に収まりがいい!」と思ったんです。ボールに入ってCDを回収していくスエゾー。これは絵にものすごい力があります。プレイヤーが見たときに,「何だ,これ!?」って驚く絵が作れると思ったんです。
藤田氏:
もともとスエゾーはフワフワと浮くキャラクターでしたし,実際に見たときは「なぜスエゾーがこんなに速く転がっているんだろう」と衝撃を受けました。ベロも動いてますし,すごく細かいことをやってくれていますよね。
城﨑氏:
大事なキャラクターをお借りしているわけですから,ウチのデザイナーたちも,それに応えるようがんばってもらいました。昔の映像やアニメシリーズを見たり,資料を調べたりしています。
藤田氏:
ありがとうございます! ゲームもすごく面白かったです。システムも明快で,セガさんのアーケードゲームの作り方に忠実なゲームだなと思いました。最初のプレイで100円を入れて,90秒でゲームの概要を理解してもらう。そして,10〜20秒経ったところで,追加の100円玉を入れたくなる,あの作りですよね。
城﨑氏:
こちらこそ,ありがとうございます!
藤田氏:
僕はテクモ出身で,昔はアーケードゲームに関わっていたのですが,当時の偉い方から「本当に優れたゲームを作る人は,1画面1レバー2ボタンでゲームを作るんだ」と言われたことがあります。複雑すぎない操作で,CGに頼りすぎないゲーム。これを作れるなら本物だ,ということですね。「モンキーボール」は1本のレバーだけでゲームを作ったわけですから,本当にすごいですよ。
城﨑氏:
ボールを転がすゲームは「マーブルマッドネス」※などがありましたが,「おサルをボールの中に入れる」狂気が本当にすごい(笑)。
※マーブルマッドネス……1984年のアーケードゲーム。筐体のトラックボールを手のひらで回転させて画面内のボールを転がし,ゴールへと導いていく
4Gamer:
最初から,ボールの中におサルが入っていたんでしょうか。
城﨑氏:
初代を作った名越さん※によると,当初はボールに何も入っていなかったそうです。進行方向が分かりにくかったので猫や犬などを入れてみたところ,サルが一番しっくり来たらしいですね。
理屈で言えば「二足歩行なので進行方向が分かりやすい」ということですけど,実際にはゲームクリエイターとしての勘の部分だったと思います。
※名越稔洋氏……元セガのゲームクリエイター。「龍が如くスタジオ」を設立した人物として知られる。城﨑氏は「たべごろ!スーパーモンキーボール」(2019年発売)以降のシリーズを受け継いだ
藤田氏:
最近ずっとプレイし続けていたので,夢の中にアイアイが出てきます。もちろん,失敗して落ちまくりですけど(笑)。本当にステージ構成が絶妙で驚かされます。気持ちよく加速していくけれど,ちょっとぶつかっただけですべてが終わってしまう。
僕はモンキーボールのように,論理的に射幸心を煽ってくれるゲームが大好きなんです。スタートから何秒後に「ムキー!」と癇癪(かんしゃく)を起こすかまで計算されているんじゃないですか。
城﨑氏:
「スーパーモンキーボール」「スーパーモンキーボール2」に関しては,大学の建築学部を出た方が専任で300ステージを作られたそうです。以降のシリーズで真似しようとしても,ちょっと同じ感覚ではできません。
藤田氏:
建築の知識だけではあれだけのバランスにならないでしょうし,本当にゲームがお好きな方が作られているんですね。もちろん,リメイク版もいろいろな新要素があって,気合いが入っていると思いました。
城﨑氏:
当時のものをそのまま出すという選択肢もありましたが,いじり始めるとどうしても止まらなくなっちゃって。これはもう性分ですね。凝り始めると「ああ,城﨑が始めちゃったよ。どこまでやるんだ……」と思われているのが,リモート会議の画面越しにも伝わってきます(笑)。
今回はプロデューサーだけでなくディレクターも兼任しているので,予算も管理していて「まだ予備費があるから大丈夫だ」って。
藤田氏:
止める人がいないパターンだ(笑)。
4Gamer:
追加要素のなかでも,とくに印象に残っているものはありますか。
城﨑氏:
ステージを強制クリアするコマンドの「クリアしたことにする」という言葉が気に入っています。
藤田氏:
僕も,あの言葉は大好きです。アイコンが赤色になっているのも,やってはいけないことに手を出しているような感覚がある。プレイヤーが葛藤するところまで読んでいる演出ですよね。
悩んだ末にコマンドを使うと,アイアイが何事もなかったかのように,表情ひとつ変えずに飛んでいくところも心が痛みます(笑)。
城﨑氏:
思いついたときから「クリアしたことにする」という言葉でした。元々はデバッグのために用意したものだったんですけど,「いいじゃん,このまま実装しよう」と。ほかの言葉についても,シンプルに伝わることに気を使いました。
藤田氏:
伝達速度が速い言葉ということですよね。
城﨑氏:
大人が仕様書を書くときには,どうしても難しい言葉を使いがちですが,「普段話している,考えなくても伝わる言葉を使いたい」と思ったんです。最初はスタッフに書いてもらっていたんですが,いろいろと気になってきて,結局自分で書きました。ついつい,やってしまうんです(笑)。
4Gamer:
隅々まで自分で手を入れたいタイプなんですね。
城﨑氏:
細かいネタとして,懐かしい隠しコマンドの裏技も入っています。メインメニューではテーマソング「ハローバナナ!!」のインストバージョンが流れますが,隠しコマンドを入れると通常バージョンに変わるんです。
また,パーティーゲームをローカルで遊んで,「○○の勝利!」と表示されている時に,負けた側のプレイヤーが隠しコマンドを入れると「たまたま」「まぐれで」といった負け惜しみをかぶせることもできますよ。
藤田氏:
こういう人がゲームを作らなきゃいけません。貴重な人材ですよ。
城﨑氏:
小学生の時,「大技林」※を立ち読みして裏技を覚えて,自宅で試したことが頭の中に残っているんです。「いつか,自分がゲームを作ったときには裏技をいっぱい入れるぞ」と。最近のゲームって,いわゆる裏技がないですよね。
※大技林……ゲームの裏技を紹介する事典風の書籍。厚さも事典級で,2011年には1830ページにも及ぶ書籍が発行された
藤田氏:
隠しコマンドならまだしも,場合によってはお叱りをいただくようなことになったりもしますからね。今回の裏技はアーケードゲームっぽい要素だと思いましたが,アーケードゲームの経験はお持ちではないんですよね。
城﨑氏:
ありませんが,名越さんの教えなのかもしれないですね。単にゲームを作るだけじゃなくて,「実はここにこういう仕様があってね……」ということをすごく伝えたいんです(笑)。
最近はこういうタイプのクリエイターが減っていて寂しいんですよ。
製品の完成度やボリュームを数値に例えると,遊ばれる方が1〜2を予想するところに3を作らないと驚いてはもらえない。でも,今の若い子たちの中には1.5でできた! と感じてしまう人もいる。だけど,それでは予想の範囲内だから,せめて予想範囲のいちばん上までは目指しましょう。
城﨑氏:
なるほど。「たべごろ!スーパーモンキーボール 1&2リメイク」の場合は一歩先だと新しすぎるので,半歩先,数値のたとえのお話だと2.5くらいがちょうどいいと思いました。今回はリメイクですし,シリーズ作ではいろいろな方向性を試してきたことも踏まえて,「モンキーボールのモンキーボール化」がテーマだったんです。
モンキーボールらしさを出しつつ,皆さんが求めるものを上回ることを重視しました。
藤田氏:
そこまで考えていることがすごいです。ポジティブな姿勢もいいですよね。
城﨑氏:
チームをまとめるときは,恐いより明るい上司のほうがいいんですよ。ゲームは楽しくなりたくて遊ぶものだし,荒れた気持ちで作ると,作品に出てしまいますから,作ってる本人が楽しい気持ちでないと。
大きいタイトルになればなるほど,いろいろな人の意見とチェックが入ってから世に出るわけですが,「モンキーボール」は最終的な良し悪しを僕が判断できることがありがたいです(笑)。
藤田氏:
若い世代のゲームクリエイターがこれくらい,はっちゃけてくれればもっと面白いものがたくさん出てきますよ。業界の歴史も長くなってきて,システマチックになってきた部分が多くなりました。ここを一度壊してみないと,もっと面白いものは出てこないのではないかと考えたことがあります。
ゲームクリエイターのコミュニケーション術
城﨑氏:
実は,業界の大先輩である藤田さんにお聞きしたいことがいろいろあるんです。まずは,ゲームの新企画を考えるときに,どういったところから始められるのかを教えてください。
ある程度のキャリアを積むと,2歩目以降はどうなっていくのかが分かりますが,藤田さんくらいのキャリアの開発者がその1歩目をどう踏み出すのかを知りたいんですよ。
藤田氏:
なるほど。僕は理屈っぽく,「定性的なことは定量的に。定量的なことは定性的に」というアプローチが多いです。感情で「やりたい!」と思ったことが,理屈にできるか。理屈で考えていることから,感情の動きを起こせるか。感情と理屈の両極に振ってみたときに話が通らないと,自分の中でまとまっていないし,破綻していると思います。
例えば,「ワー!」「きゃー!」と驚いてほしいのであれば,デジタル的な仕様に落とし込めるか,落とし込んだものでどう驚いてもらうか,その両方を最初に考える。そこでどちらも破綻しなさそうなら,そのまま進めていきます。
なるほど。僕の場合は「プレイヤーにこんな気持ちになってもらいたい」というところから始めることが多いです。「こっちのほうが面白いじゃん!」という感覚で判断していたことが多いかも。
全体的な印象の話ですけど,今の若い世代の子はみんな頭がいいというか,いろいろな知識が入っていて説明をきちんとする,企画のプレゼンでもアカデミックにいろいろと説明してくれます。でも,その説明を聞いて「ゲームを作るのは人に喜んでもらうことが目的だから」みたいなことを聞くと,自分の気持ちとかその企画への思いとかとは違う擁護の方に向いちゃう。
藤田氏:
イチかバチか,みたいなところには踏み込んできませんよね,無難なところでしっかり留まる。50になっている自分が「もっとやろうぜ!」と言っているのに,若手のほうが躊躇してしまうケースもありますね。「せっかくゲームクリエイターになったんだから,もっと喜ぼうよ! 爪痕を残そうよ! 僕らはある意味,エゴイストなんだから」とよく伝えています。
城﨑氏:
企画が通らないにしても,理由をしっかり説明しないと納得してくれませんよね。僕の時代だと,上司からは「面白い」か「面白くない」しか返事が帰ってきませんでした(笑)。
藤田氏:
また,企画が通らなかったとき,すごくナーバスになったり,極端な反応を示したりする人はいます。でも,そういう機会はチャンスにできると思っているんですよ。何が面白くないのかを考えたり,面白くないことから離れて新しいことを探したりするための時間ですね。
城﨑氏:
組織に求めてもしょうがない。遊び手からすればゲームなんて,「面白い」か「面白くない」かしかないんだから。
もう一つ,藤田さんにお聞きしたいことがあります。当然,部下やチームに何かを伝えることは多いと思うんですが,その際にどういったことを大切にしていますか? プロデューサーやディレクターは人に仕事をしてもらう職種ですし,同じことを伝えるにしても言い方次第で成果が全然変わります。さらにリモートワークの場合,言葉だけで人を動かさなくてはいけないですし。
藤田氏:
難しいですよね。もちろん正解かどうかは分かりませんが,「チームの横方向に展開してくれる人」に話して,そこからバズってくれたらラッキーだと考えていますね。
城﨑氏:
集団の中にいるインフルエンサーに伝えるということですか。
藤田氏:
伝えたいこと,伝わることは全然違う。これは昔から痛感しています。だから,「それぞれが僕の言葉をどう捉えるか」をある程度,把握してから伝えるようにしています。
例えば,自分の熱意をハイテンションで伝えたりした場合,士気が上がる人とドン引きする人がいるわけです。そこは分かっているから,相手によって言い方を変えないといけない。
僕はどんどん話しちゃうタイプなんです。人の話も聞いたほうがいいと分かってはいるんですが,それより,自分のノリを「面白い」と思ってくれる人を捕まえたほうが早いなって。
若いときはチームの先輩,1人ずつの攻略本を作っていました。名前とか好きなもの,好きな食べ物なんかをどんどん書き加えていくんです。人と人が一緒に仕事をするんですから,話しかけにくいより話しかけやすいほうがいいだろうと。同僚のデスクにフィギュアが飾ってあったら,まずはそこから話題を広げたり,後から調べたりもします。
藤田氏:
ネタを仕入れるんだ(笑)。努力を惜しみませんね。
城﨑氏:
調べていくうちに,自分もフィギュアのことが好きになったりします(笑)。「城﨑がやりたいんなら,まあ付き合ってやるか」とプログラマーやデザイナーに思ってほしいんですよ。
藤田氏:
表面だけで「いいですよね」と言うのではなく,城﨑さんはいろいろと語りたいオーラが漂ってますね。ふたを閉めても溢れてきそうな,まだ誰も聞いてないのに「実はさぁ!」とこだわりを語るみたいな。
城﨑氏:
そうなんですよね,今回のパッケージについて,こだわりを語ってもいいですか(笑)。Switch版では任天堂さんと交渉して,バーコードを波打つデザインにしました。Switch用ソフトでは史上初だそうです。
本当はバナナの香りを付けたりもしたかったんですが,「他の商品に香りが移るので止めてください」って(笑)。
4Gamer:
バーコードを異なるデザインにするというのは,難しいことなんですね。
城﨑氏:
難しい部分はあるみたいですよ。このアイデア自体は「クロヒョウ 龍が如く新章」のときに思いついたんですが,当時は相手にされませんでした(笑)。
オジサンがエンタメの会社にいるということ
藤田氏:
僕からも質問していいですか? 城﨑さんは,これから何か作ってみたいものはありますか。
城﨑氏:
悪夢を見ていると,最大の危機に陥ったところでタイミングよく目覚める。これは誰かに救ってもらってるんじゃないか……と思うことがあります。だから,人を悪夢から救う「夢の警察」の話とかどうでしょう。大体,いつもこんなことばっかり考えています(笑)。
藤田氏:
そういった思いつきをゲームにするときは,どういう手順で進めるんですか。
城﨑氏:
まずは何人かに話してみて,面白がって聞いてくれる人が多かったら,製品になったときのことを真面目に考えます。人に言いたくなるものじゃないと,エンタメじゃないのかなと。
藤田氏:
話が弾んでいかないと,面白くならないですよね。
企画職にとって,ものの言い方はすごく大事だし,言い方を変えて関心を集めることも大事だと思います。例えば,インスタントラーメンを普通に出しても,お腹が減ってなきゃ誰も関心を持ってくれない。でも,CMみたいに新垣結衣さんが作ってくれたら,みんなが食べたいものになると思うんです。
僕は毎日が文化祭の前日だと思って仕事をしています。こういう気持ちのほうが,楽しいエンタメを作っていけるんじゃないかなって。
藤田氏:
クリエイターは,いくつになってもヤンチャがいいですよ。オジサンがエンタメの会社にいるというのは,そういうことです。
ただ,僕くらいの年になると,ふと不安になることもあります。担当者が商品単価を心配しているところで,僕たちはおサルがボールに入って転がる話を真剣にしてるわけですから(笑)。
城﨑氏:
ゲームの企画会議だって,40代とか50代のオジサンが顔を付き合わせて,魔法がどうとか必殺技がどうとか話をしてるんですよね。
藤田氏:
ただ,そこで我に返ってはいけない気がします。
城﨑氏:
いい意味で,ずっと酔っている感じがいいですよね。これができるのはエンタメの力だし,人間は娯楽がないと生きていけない。
だから,エンタメを作るのは尊い仕事だと思います。いい年のオジサンが真剣に娯楽を考えていられるというのは,国が豊かで安全であるからこそです。
藤田氏:
ずっと高いテンションを保ち,好奇心を持っていられることはすごいことですよ。ウチのシブサワ・コウ※なんて70歳を超えていますが,スマホには50本以上のゲームが入っています。先日も「僕がもうちょっと年取ったら,デバッグ要員として使ってよ!」なんて言われました(笑)。
※シブサワ・コウ……コーエーテクモホールディングス 代表取締役社長である襟川陽一氏のペンネーム。「信長の野望」「三國志」など数々のシミュレーションゲームを手がけ,ヘビーゲーマーとして知られる
城﨑氏:
取材が来るレベルで豪勢なデバッガーじゃないですか(笑)。
藤田氏:
ただ,ゲーム業界では職種を問わず,このノリにドップリ浸かっているけれど,世間的には常識じゃないだろうとは思います。
城﨑氏:
それは間違いないですね(笑)。他業種の方と話をすると,はっきりと違いを意識します。
藤田氏:
僕らは,大半の人とは違う道を歩いているんですよね。若い頃はみんなが歩いている道の横を進んでいる気がしましたけど。仕事をするときに,僕らは面白いことを考え,それを最優先にして企画を立てる。でも,同じ「企画」でも,世間一般の会社で最優先されるものは,企画の面白さではないだろうと思うんですよね。
物語の主人公から,師匠役になっていく感覚
城﨑氏:
藤田さんも高いテンションを保たれていますよね。どうやってキープしているんですか。エンタメ業界で長く続けていけるコツを教えてください。
周囲には「楽しそうに仕事をしますね」と言われますが,僕はそんなつもりはないんですよ。ただ,スイッチを入れてから電池が切れるまで頑張るのは好きです。端から見たら,楽しそうに見えたほうが絶対にいい。
僕も年が年なので,身体を鍛えたりはしますね。脳と身体のバランスが取れなくなって,勢いだけでは難しくなってきますから。脳を疲れさせたぶん,身体も疲れさせる。深みにハマって物事が全部面白くなくなったら……。そういう時は30kmくらい走るんです。
城﨑氏:
30kmですか! すごい!
藤田氏:
フルマラソンには17回出場しました。100kmマラソンにも出たことがありますけれど,あれは止めたほうがいい(笑)。でも,城﨑さんは“100km走った自分を語りたい”タイプだから,けっこうハマるかもしれませんね。
城﨑氏:
それは語りたいですよ!
藤田氏:
1回走りきれば,2〜3年は話題のネタに困りません(笑)。ただ,年齢を重ねていくと,世の中と少しずつズレてきてるような感覚があって,これは怖いですね。オリンピックのスケボーを見て,「これは若い世代に任せたほうがいいんじゃないか? 自分がスケボーに乗って怪我をするのも怖いし」と考えてしまう感じでしょうか。
城﨑氏:
物語で言うと,自分が主人公であるよりも師匠の立場になっていく感じですか。
藤田氏:
信念のままに「絶対こうだって!」と突き進むだけでなく,経験を積むほどに迷うことも増えている自分がいるわけです。城﨑さんはそうした感覚はありませんか。
城﨑氏:
30代になってからのほうが,いろいろと言い切れるようになりました。気にしすぎても物事が進まないから,自分を信じるしかないと。
これがあと何年かすると,藤田さんのような心境に変わっていくのかな。たぶん,僕はまだカタカナの「オトナ」なんですよ。じきに漢字の「大人」になっていくんでしょうね。
藤田氏:
スポンジが乾く感覚なんですよ。慣れとは違い,維持できない。テンションはあるのに翌日に残る。残ったら仕事に障ることを言い訳にしている自分が増えていく。前は一段上に上がるために使っていたエネルギーを,今は状態を維持する方に使ってしまって上への推進力が足りない,そんな状態です。
こういう仕事だからこそ,感じることなのかもしれないですね。決して楽をしたいわけじゃないのに,楽なほうに引っ張られていく感じが怖くなります。
人のありがたみを知るエゴイストに
城﨑氏:
今は労働条件に関するチェックが厳しいですから,仕事自体がタイムアタックになっていますよね。できるだけ残業をしないようにしつつ,求められるクオリティは以前とほぼ変わらない。そういう状況なので,「初手の精度をいかに上げるか」を考えることが多くなりました。
そうですね。最近は初手の段階で「頭の中でビルドして」と,スタッフに伝えるようにしています。いきなりビルドして試行錯誤をするのではなく,まずは考えてみようと。
城﨑氏:
そこは名越さんと同じかもしれません。名越さんには「とりあえずやってみて,なんて言うな!」と言われました。プロであるプログラマーやデザイナーを軽々しく使ってはいけない。プロを動かしてものを作るのであれば,指示を出す側もちゃんとプロであれ,ということです。
藤田氏:
ちゃんと考えてから,次の段階に進むべきですよね。
城﨑氏:
はい。あとは「考えるにしても長い時間を掛けるな」とも。
藤田氏:
なるほど。面白いことを考えついても,時間を掛けすぎると邪(よこしま)になっていきますからね。
城﨑氏:
パッと答えられる第一印象のような意見のほうがいいですよね。そうしたときに出る言葉には,これまでにインプットしたものが連なって出てくるものですから。そのために,1年で100本の映画を見る習慣を続けたりと。そういう形でインプットを増やしていかなくてはと思っています。
僕はプログラムも組めない,絵も描けないので,面白いことを言うだけが存在価値だと思うんです。
藤田氏:
プランナーはエゴイストですが,人のありがたみも知っておくべきですよ。エゴイストと孤独な人は違います。
城﨑氏:
はい。助けてくれる人がいてナンボの存在です。これまでもたくさんの人に助けてもらいましたから。
最後の質問になりますが,モンスターファームは来年25周年を迎えますよね。新作の予定はないのでしょうか。
藤田氏:
いろいろと考えてはいるところです。もし形にできるのであれば,初代が持っている「王道で変えるべきでないところは変えない」ものにしたいと思っています。
城﨑氏:
その意味では,モンスターファームとモンキーボールの境遇は似ていますね。
藤田氏:
ええ。変えちゃいけないものは変えない。これはリスペクトです。だからこそ悩んでいるんですが,僕らにとっては,そこが面白いところですよね。25周年のうちに,なんらかの発表ができたらいいですね。
4Gamer:
大いに期待しています。本日はありがとうございました。
ゲームクリエイターとしてのこだわり,エンタメの仕事をしているがゆえに生じる世間とのズレ,そして年齢を重ねていくこと。あまりゲームメディアでは語られないテーマもあったが,共感を覚える人も少なくないと思う。
冒頭で触れたとおり,シリーズ最新作の「たべごろ!スーパーモンキーボール 1&2リメイク」では,スエゾーが登場する有料DLC「スペシャルキャラクター スエゾーfromモンスターファーム」の配信が始まっている。
また,モンスターファームシリーズの最新作「モンスターファーム1&2 DX」(PC / Nintendo Switch)は2021年12月9日に発売予定となっている。シリーズ25周年の動向も気にかけながら,この機会に原点を振り返るのもいいだろう。
「たべごろ!スーパーモンキーボール1&2リメイク」公式サイト
「モンスターファーム1&2 DX」公式サイト
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