インタビュー
「火吹山の魔法使い」と「ELDEN RING」――伝説的ゲームブックの生みの親と宮崎英高氏が語る,ダークファンタジーの創り方【聞き手:安田 均】
「火吹山の魔法使い」はテーブルトークRPGのエッセンスを詰め込みつつ1人でもプレイできるよう本の形に落とし込んだ,「ゲームブック」の元祖にして金字塔と呼べる存在だ。初版はイギリスで1982年8月27日発刊,日本では社会思想社から1984年に翻訳出版され,それぞれミリオンセラーとなっている。90年代に入りブームが静まってからも,そのエッセンスは後のタイトルに深く根を下ろし,アナログ/デジタルを問わず,今なおフォロワーを生み続けている。
そんな「火吹山の魔法使い」を含むゲームブックシリーズの復刻ボックス「ファイティング・ファンタジー・コレクション 〜火吹山の魔法使いふたたび〜」が,2021年にSBクリエイティブからリニューアル発売。翌2022年には「ファイティング・ファンタジー・コレクション 〜レジェンドの復活〜」も登場している。
なお「ファイティング・ファンタジー」というのは,「火吹山の魔法使い」から始まるゲームブックシリーズの総称であり,また,それらのゲームブックと世界観を同じくするテーブルトークRPGのタイトル名でもある。
今回4Gamerでは,この「火吹山の魔法使い」ならびに「ファイティング・ファンタジー」シリーズの40周年を記念して,生みの親であるSteve Jackson(スティーブ・ジャクソン)氏とIan Livingstone(イアン・リビングストン)氏,そして同シリーズを自身の“原体験”と語る,フロム・ソフトウェアの宮崎英高氏の3名による座談会を実施。また座談会の実現に向け,多方面で尽力いただいたグループSNEの安田 均氏にも,進行役としてご参加いただいている。
なお対談はZoomを介してリモートで行っている。アナログとデジタル,双方におけるファンタジーゲームの旗手達によって縦横無尽に繰り広げられた貴重なトークを,楽しんでいただけたら幸いだ。
取材協力/通訳:こあらだまり(グループSNE)
フロム・ソフトウェア 代表取締役社長 宮崎英高氏。言わずと知れた「Demon's Souls」や「DARK SOULS」シリーズ,そして「ELDEN RING」の生みの親で,「ファイティング・ファンタジー」シリーズの大ファンでもある。なお今回の座談会へは,いちファンとしての参加とのこと |
グループSNE代表の安田 均氏。「ファイティング・ファンタジー・コレクション」や「アドバンスト・ファイティング・ファンタジー第2版」の翻訳/監修を務める。また「小説 ダークソウル 弁明の仮面劇」の翻訳も手がけるなど宮崎氏との親交も厚く,今回は対談の進行役としてご活躍いただいた |
ゲームブック「ファイティング・ファンタジー・コレクション」の訳者や表紙,化粧箱のデザインなどが公開。受注締切は5月12日
SBクリエイティブは,完全受注生産のゲームブック集「ファイティング・ファンタジー・コレクション 〜火吹山の魔法使いふたたび〜」の訳者や表紙,化粧箱のデザインなどを公開した。受注締切は2021年5月12日となっているので,うっかり忘れていたという人は,早めに注文しておこう。
「ファイティング・ファンタジー・コレクション 〜レジェンドの復活〜」の書影と豪華化粧箱の画像が公開に
SBクリエイティブは,2022年7月15日に発売を予定している,完全受注生産のゲームブック集「ファイティング・ファンタジー・コレクション 〜レジェンドの復活〜」の書影と豪華化粧箱の画像を公開した。受注締切は5月12日までとなっているので,早めに注文しておこう。
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「ELDEN RING」公式サイト
久方ぶりの再会と,ファンタジーとの邂逅
安田 均氏(以下,安田氏):
今日は「ファイティング・ファンタジー・コレクション 〜レジェンドの復活〜」の出版記念,そして「ファイティング・ファンタジー」シリーズの40周年ということで,その生みの親であるお二人と,シリーズの大ファンだというフロム・ソフトウェアの宮崎英高さんにお集まりいただきました。宮崎さんはGolden Joystick Awards 2018の授賞式で,お二人に対面されているとも聞いています。
宮崎英高氏(以下,宮崎氏):
はい。生涯功労賞をいただくときにプレゼンターとしてご登壇いただいたのですが,事前には何も知らされておらず,とても驚いて,柄にもなく舞い上がってしまったことを覚えています。あのときはバタバタとしてしまって,しっかりとお礼を伝える機会がなく,とても心残りだったので,今回の機会をいただけて,とても嬉しいです。
イアン・リビングストン氏(以下,リビングストン氏):
こちらこそ,またお目にかかれて大変光栄です。今年発売された「ELDEN RING」も素晴らしいゲームで,イギリスのみならず世界中でたいへんな成功を収めました。それを手がけられた宮崎さんとこうしてお話ができるのは,嬉しい限りですよ。
安田氏:
ところで,リビングストンさんもジャクソンさんも,以前日本にお越しになったことがありますよね。当時「ファイティング・ファンタジー」のサポート誌だった「ウォーロック」の企画で,「ライブ・ウォーロック」というイベントを開催したときだから,1986年の4月だったはずです。
リビングストン氏:
ええ。あれから36年も経ったとは信じられません。まさに光陰矢の如しですよ。あの日本旅行はいい思い出になっています。なにせ「ファイティング・ファンタジー」が日本で大成功を収めた様子を目の当たりにできたわけですから。40周年もこうして皆さんに祝っていただいてるわけですし。
スティーブ・ジャクソン氏(以下,ジャクソン氏):
あのときは日本のどこへ行っても歓迎され,プレゼントまでいただいてしまって,とてもいい旅でした。
リビングストン氏:
先週,Games Workshopの歴史をまとめた「Dice Men」という本を出版したんですが,ここにも私達が東京で撮った写真がちゃんと載ってます(笑)。
安田氏:
まず宮崎さんに聞いてみたいのですが,「ファイティング・ファンタジー」に触れたのはまだ子供の頃ですよね。どんな出会いだったんでしょうか。
宮崎氏:
私は家庭の方針もあり,子供の頃はビデオゲームは禁止だったのですが,周りの友達は「ドラゴンクエスト」なんかを遊んでいて。自分もそういう遊びをしたいと思い,手に取ったのがゲームブックでした。両親も本を読むのは良いことだと言ってくれたので,ゲームブックは家庭で許された貴重なゲームだったんです。
4Gamer:
ではそもそもファンタジーとの出会いが,ゲームブックの「ファイティング・ファンタジー」だったわけですか。
宮崎氏:
どちらかというと,ゲームとの出会いと言った方が正しいですかね。当時の私は,世界観や物語といった側面はもちろんとして,ゲームブックの“ゲーム”の部分に強く惹かれていたように思います。パラメータで表現されたモンスターの実在感にワクワクし,ダンジョンの構造を理解しようと自分なりに稚拙なマップを描くといった,すべての経験が新しく刺激的で,それらに夢中になっていました。
4Gamer:
なるほど。ゲームそのものの原体験でもあるんですね。
宮崎氏:
はい。とくに「ファイティング・ファンタジー」は作品ごとにテーマがあり,ゲーム性の進化みたいなものを感じる部分もあったんです。原点である「火吹山の魔法使い」で基本的なシステムを確立した後は,「バルサスの要塞」で魔法の概念と,それを選ぶキャラビルドの楽しさを提示し,3作目となる「運命の森」では冒険の舞台が屋内から屋外になるといったように,常に新鮮なゲーム体験があって……今振り返っても,あれが,私がゲームなるものを知り,魅了される原点ですね。
リビングストン氏:
「ファイティング・ファンタジー」を楽しんでいただけて,うれしい限りです(笑)。では「DARK SOULS」や「ELDEN RING」に,「ファイティング・ファンタジー」が“直接”与えた影響はありましたか。
宮崎氏:
そうですね……。直接という話では,まず世界観とアートワークの方向性かなと思います。あまり誉め言葉のようでなくて恐縮ですが“無慈悲で薄汚い中世ファンタジー”ですね。
安田氏:
いわゆる,ダークファンタジーの世界観ですね。
宮崎氏:
はい。「ファイティング・ファンタジー」も「ソーサリー」も,基本的に世界が優しくないじゃないですか。だからこそ,たまに出てくる良い奴が妙に魅力的だったりする。ああいったところは,影響を受けていると感じますね。
ジャクソン氏:
「優しくない」とは,ずいぶんと柔らかい表現だね(笑)。
リビングストン氏:
宮崎さんに聞いてみたかったんですが,当時プレイしたとき,チートはしましたか?
宮崎氏:
えーと……まあ,人並みにはしたと思います(苦笑)。でも当時は子供でしたから,それでけっこう真剣に後悔したものです。「俺はなんて卑怯な奴なんだろう」って。それで「次こそはサイコロの出目を一切誤魔化さないで冒険するぞ」と,決意を新たにするわけです。
リビングストン氏:
それは何より(笑)。でもチートは皆してるから,そんなに気に病むことではないよ。
宮崎氏:
ありがとうございます。当時の私に伝えてあげたい(笑)。サイコロの出目以外では,「ソーサリー」の呪文書をカンニングしてしまった記憶がありますね。アルファベット三文字の呪文を,どうしてもすべて覚えられなくて。そして,また大後悔です。とくにジャクソンさんの作品には難しいものが多かったので……。
安田氏:
そうなんですよ。ジャクソンさんの作品は,面白いけど難しい。読者からもう少し易しくしてほしいと言われたりしたことはなかったんですか?
ジャクソン氏:
まったくありません。むしろ読者からは「難度を上げれば上げるほど,挑戦し甲斐がある」って言われるから,難度はあえて高くしているくらいです(笑)。
宮崎氏:
分かるような気がします。少し大げさな言い方をすると,ゲームブックにおけるチートする/しないの葛藤って,私の自主性を育んでくれた貴重な体験だったと思っていて。なので,ジャクソンさんの作品の難度にも,今は感謝しているくらいです(笑)。
世界に混沌をもたらすということ
安田氏:
先ほど宮崎さんがアートワークの話をされましたけど,「ファイティング・ファンタジー」はとりわけイラストレーションが素晴らしいシリーズですよね。
アートワークは,それこそ1982年の「火吹山の魔法使い」の当時からとくに重視していた要素の一つです。細部まで描き込まれたイラストはゲームの雰囲気を盛り上げるだけでなく,読者の想像を掻き立てる役割もありますから。ただ,現在Scholastic(スコラスティック)から発売されている復刻シリーズは,イラストがあまり作風に合っていないと感じていて……。
安田氏:
ああ,それは同感です。なので日本の「ファイティング・ファンタジー・コレクション」では,Scholasticの版を底本にしつつ,表紙や挿画は旧版のものを中心に使用しています。
ジャクソン氏:
「ファイティング・ファンタジー・コレクション」は素晴らしい仕上がりです。本当に,最高の仕事だと思いますよ。そうそう,珍しいものをお見せしましょう。これが一番最初のバージョンの「火吹山の魔法使い」。そして,これがいちばん最初の「ソーサリー」です。
宮崎氏:
この「ソーサリー」は初めて見ました。私が最初に見たのは,マンティコアが表紙のものでしたね。
リビングストン氏:
でもScholastic版も,直近の2冊は私達としても申し分のない仕上がりになったんですよ。昔の路線に近い作風のイラストになっていて……意見を出した甲斐がありました。
安田氏:
ああ,40周年に際して書き下ろされたお二人の新作のお話ですね。じゃあちょっとその話も聞かせてください。
ジャクソンさんの「Secrets of Salamonis(サラモニスの秘密)」は三十数年ぶりとなる新作で,チャールズ・ディケンズの小説を読んでいるような絢爛たる描写がお見事でした。ゲームブックとしても自由度の高い構成で,街中を自由に行き来できるのが特徴です。
ジャクソン氏:
自由度が高いのはおっしゃるとおりですね。用意された多くの選択肢をくぐり抜けていくと,徐々に歯ごたえのある冒険に行き着ける構成になっています。あと読者はちょっとしたユーモアが好きなので,私はそうした要素を必ず入れるようにしているんです。例えば「Secrets of Salamonis」には地図売りのRuznik Ullsen(ラズニック・ウルセン)という人物が出てきますが,彼は「火吹山の魔法使い」のイラストレーターであるRuss Nicholson(ラス・ニコルソン)をもじったものです(笑)。
安田氏:
なんと,それは気づきませんでした。一方でリビングストンさんの新作「Shadow of the Giants(巨人の影)」は,火吹山の側で巨人が暴れまくる,とても楽しい作品だと感じました。
リビングストン氏:
40周年記念作品ですから,シリーズのスタート地点である火吹山に戻り,そこから話を始めるのが自然だと思ったんです。そのうえで,アランシア大陸全土を滅ぼそうとする機械仕掛けの巨人が解き放たれてしまうわけですが,この巨人は明らかに普通の手段では倒せない存在です。なのでプレイヤーは知恵をひねり,NPCの助言を得る必要があります。力押し一辺倒では解決できないところに,リアリティを持たせたつもりです。
安田氏:
“破滅もの”の雰囲気がありますよね。この2冊は,我々としてもできるだけ早く日本の読者に届けたいと思っています。
宮崎氏:
私からもお二人に聞いてみたいのですが,「ファイティング・ファンタジー」と「ソーサリー」の舞台になっているタイタンの世界は,どのように作り上げていったのでしょうか? 最初にある程度世界のベースができていて,そこから作品毎に舞台と物語をピックアップしていったのか,それともまず各作品があり,それを徐々に世界としてまとめ上げていったのか。
ジャクソン氏:
ああ,いい質問ですね。どうやってタイタン世界ができあがっていったのか,と。
ご存じだと思いますが,タイタン世界は「火吹山の魔法使い」の舞台があるアランシア,「ソーサリー」の舞台であるカーカバードがある旧世界,そして暗黒大陸クールという3つの大陸――言い換えるなら,3つの世界の組み合わせによってできています。
宮崎氏:
はい。私はタイタンの世界が大好きで,設定資料をボロボロになるまで読み込んだクチなので。それが作り上げられた過程に興味があります。
ジャクソン氏:
まず当たり前ですが,「火吹山の魔法使い」があんなに成功するとは,最初は誰も考えていませんでした。でもアレを読んだ読者は,幸いにもあの世界を気に入ってくれて,背景世界をあれこれ想像するまでになっていったんです。仲間達と一緒に,あの世界で冒険したい! というようにね。それでテーブルトークRPG用に設定をまとめることになりました。
リビングストン氏:
だから,世界全体の地図が最初からあったわけではありません。「運命の森」ならダークウッドの森,「盗賊都市」なら悪徳の街ポート・ブラックサンドというように,もとは作品ごとの舞台設定があったに過ぎません。しかしそれを続けていくうちに,次第に設定の連続性を意識する必要が生じました。
4Gamer:
つまり,タイタン世界は後から生まれたわけですね。
リビングストン氏:
はい。そんな風に,私達はいくつもの大陸や世界,あるいは神話を組み合わせて,タイタン世界を作り上げていきました。
スティーブが初期の設定をまとめてアランシアを作り,さらに「ソーサリー」を中心とした旧世界が生まれました。そこに,多くの作家によって生み出された世界が縦横無尽に広がっていって……それらを最終的にまとめたのが私達の友人であるMarc Gascoigne(マーク・ガスコイン)で,その設定本が「タイタン」というわけです。
安田氏:
興味深いお話ですね。私も「タイタン」の翻訳などを通して,つくづくファンタジーの本質は地図にあると感じています。宮崎さんもゲーム制作ではマップを重視すると,別のインタビューでおっしゃっていましたが,そのあたりはいかがでしょうか。
宮崎氏:
その点は,私にとって課題ですね。世界を地図から作りたい,あるいは地図で世界を語りたい,という思いはあるのですが,正直まだやり切れていません。なので,ファンタジーを作り続けていくのであれば,それは今後の大きな目標ですね。
あと,今のジャクソンさん,リビングストンさんのお話を聞いていて感じたのは,やはりあの世界の魅力は,いい意味での混沌だなあと。ゼロから世界を論理的に作り上げたのではなく,複数人の書き手による個々の作品という刺激が一方にあったことが,あの独特の雑多さ,代えがたい魅力に繋がっているのだなあと。こちらもまた,ぜひ挑戦したい領域ですね。
リビングストン氏:
宮崎さんの作品に,そういった要素が加わるのはとても嬉しいですね(笑)。
宮崎氏:
ハードルはとても高そうですけどね(笑)。
4Gamer:
宮崎さんご自身は,今,どのように世界を作っているんでしょうか。
宮崎氏:
基本的には,ゲームの世界観と物語は,私一人で作っています。世界が整理されすぎないように,ゲーム制作過程におけるさまざまな刺激――スタッフからのアイデアや,ゲーム制作上の問題や制限なども含め,積極的に採り入れるようにはしているのですが……お二人がタイタン世界を生み出した化学反応のようなものには,まだ足りていないと感じています。
ああでも,そういう意味では,「ELDEN RING」でのジョージ・R・R・マーティン氏との協働は特別でしたね。彼の執筆してくれた神話は,我々に素晴らしい刺激を与えてくれたので,また何らかの形で,あのような試みにチャレンジしたいですね。
4Gamer:
ではリビングストンさんとジャクソンさんにお聞きしたいのですが,タイタン世界は今なお多くの書き手によって書き継がれ,広がり続けていますよね。そうしたある種の共同作業において,お二人が注意していることはあるでしょうか。
リビングストン氏:
多くの作家が参加してくれるのは,もちろんありがたいことですが,私達は誰にでも声を掛けているわけではなく,野放図に世界を広げているつもりもありません。私達はタイタン世界の創造主であると同時に,守護者でもあるんです。
ジャクソン氏:
大切なのは根幹を大きく変えないことですね。過去40年間,ファンが親しんできた世界観――それこそ神話や土地,キャラクター,そして難度といったシリーズの諸要素が失われないよう,細心の注意を払っています。
リビングストン氏:
そこで宮崎さんに聞きたいんですが,「ELDEN RING」の基礎となる神話設定は,ジョージ・R・R・マーティンが書いているものですよね。もちろん同作は素晴らしい出来でしたが,次は「ファイティング・ファンタジ―」とコラボレーションするつもりはありませんか?
宮崎氏:
それは……とても光栄なことです。でも正直に言うのなら,腰が引けてしまいますね。
これは「ファイティング・ファンタジ―」に限らずですが,元々私は他作品とのコラボレーションをずっと避けてきました。それには理由がありまして,私がゲームを作る,ディレクションするうえでは,常にゲームが最優先なんですよ。ゲームが面白くなるのであれば,例えば世界観も物語も,そのために調整してしまう。そうしたやり方は,もしかしたら,ときに他作品を傷付けることになってしまうのではないかと……。なので,とくに大好きな作品とのコラボレーションは,憧れよりも恐怖が先に立ってしまいます。
リビングストン氏:
なら「ファイティング・ファンタジー」のゲームブックを,宮崎さんが書いてみるのはどうでしょう。ゲストとして書いてもらえたら,すごく嬉しいのですけど。
宮崎氏:
……正直,とても興味があります。お二人と「ファイティング・ファンタジー」の大ファンだった私にとって,本当に身に余るオファーです。ただ,今はお受けすることは難しいと思います。そのオファーを受けたら,間違いなく私はそれに夢中になり,ほかのすべての業務を放り出してしまうでしょうから。現状の私の立場では,それは許されないことだと思います。
リビングストン氏:
分かります(笑)。
宮崎氏:
でも,このオファーはとても魅力的です……。もう少し時間が経って私の立場が変わったときに,もしこのお話が生きていたら,ぜひともやらせていただきたいです。
リビングストン氏:
このオファーは永続的なものですから。いつまでも待ちますよ。
宮崎氏:
やった! ありがとうございます! その時は,本気でやらせてください!
ファンタジーゲームの未来に向けて
4Gamer:
ここからは皆さんの今後の活動について,話せる範囲で教えていただければと思うのですが,いかがでしょうか。
ジャクソン氏:
日本の「ファイティング・ファンタジー・コレクション」は,次は何が出るんですか。
安田氏:
SBクリエイティブと相談しているところですが,ジャクソンさんとリビングストンさん,それぞれの作品を集めたボックスを1つずつ発売します。ただ同時に出すと読者の負担にもなってしまいますから,半年で1ボックスのペースになるかと思います。
4Gamer:
先ほど話題にのぼった「Secrets of Salamonis」と「Shadow of the Giants」も,そちらに収録されると考えていいのでしょうか。
もちろん,それらは必ず収録します。この2セットのボックスでScholasticから出ているラインナップはあらかたカバーできるはずです。ただ,それで終わりではなくて,かつてPuffin Booksから出ていたシリーズのうち,未訳の34巻以降も出していけたらと思っていますので,ご期待ください※。出したいものがいっぱいあって翻訳も大変なんですが,がんばって進めていきたいと思っています。
※かつて社会思想社から出版されていた「ファイティング・ファンタジー」シリーズは33巻で続刊が途絶え,Puffin Books版の34〜59巻は未訳となっていた。うち34巻「魂を盗むもの」は「ファイティング・ファンタジー・コレクション〜レジェンドの復活」に収録されている。
ジャクソン氏:
それは楽しみです。できる限り,協力させてもらいます。
「ファイティング・ファンタジー・コレクション」40周年記念の2作品が2023年に連続刊行。巨匠二人の最新作を収録
SBクリエイティブは本日,完全受注生産のゲームブック集「ファイティング・ファンタジー・コレクション」の40周年記念の2作品を,2023年に連続刊行すると発表した。第1弾は「イアン・リビングストン編 巨人の影」,第2弾は「スティーブ・ジャクソン編 サラモニスの秘密」となる。
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「ファイティング・ファンタジー・コレクション 40周年記念〜スティーブ・ジャクソン編〜『サラモニスの秘密』」をAmazon.co.jpで購入する(Amazonアソシエイト)
リビングストン氏:
宮崎さんは,今は新作に取り組んでおられるんですか。
宮崎氏:
いくつか並行して新作を準備していますが,この場では言えないことばかりです(苦笑)。各方面から怒られてしまいますので……どうかご期待ください。
リビングストン氏:
では,最近はどんなゲームをプレイされていますか? プライベートなもので構いませんので。
宮崎氏:
「ファイティング・ファンタジー・コレクション」収録の作品から,当時未訳だったものはプレイしましたね。リビングストンさんの「危難の港」とか。
デジタルゲームでは,これは半分くらい仕事になってしまうのですが,「ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク」(PS5 / PS4)を直近でプレイしましたね。あとは,ユーザーとしてはシミュレーションRPGが大好きなので「タクティクスオウガ リボーン」(PS5 / PS4 / Switch / PC)とか。スマホでは「MARVEL SNAP」(iOS / Android / PC)ですね。
安田氏:
宮崎さんは,アナログゲームを作りたいと思ったりはしないものでしょうか。宮崎さんほどアナログゲームを遊んでいるなら,プレイ中になにか閃きそうな気もするのですが。
宮崎氏:
そうですね。将来的にはアナログゲームも作ってみたいと思いますが,現状ではむしろ,アナログゲームのエッセンスを,デジタルゲームに採り入れることに興味があります。最近「グルームヘイヴン」(関連記事)をプレイする機会があったのですが,ああした体験ができるデジタルゲームを作れないものかと,ぼんやりと考えたりします。
4Gamer:
おお,それは楽しそうですね。
宮崎氏:
「今週末,グルームヘイヴンで遊ぶぞ」ってなると,やっぱりワクワクするじゃないですか。大人が一日時間を空けて,皆で準備してじっくり,みたいな特別な体験です。今のデジタルゲームの流行とは違う方向性かと思いますが,一方でそういうものもありじゃないかなと。
安田氏:
一日どっぷりと没入して楽しむような?
宮崎氏:
はい。没入感もそうですけど,一日を豊かに過ごす,特別な時間のためのゲームというアプローチは,デジタルでも可能ではないかと思うんです。
安田氏:
リビングストンさんとジャクソンさんも,最近のボードゲームはいかがですか。後ろにたくさん箱が映ってますけど(笑)。
リビングストン氏:
この部屋には1500近いボードゲームがあって,1980年代から毎週のように遊んでいますよ。新しいメカニクスのゲームにはできるだけ触れるようにしていて,最近ではとくに「宝石の煌めき」や「Stone Age」が気に入っています。
「ファイティング・ファンタジー」の要素を取り入れた,新しいアナログゲームも作りたいと思っているんですが……なにせ年をとってしまったので,思うように進みません(笑)。
ジャクソン氏:
私は1980年代に出した「火吹山の魔法使い」のボードゲームを,リメイクして出したいと思っています。
宮崎氏:
「火吹山」のボードゲーム! 私も持ってますが,ぜひリメイクして欲しいです。
4Gamer:
そろそろお時間のようです。最後に何か,この機会に聞いておきたいことなどがあれば,お願いします。
宮崎氏:
では私から一つ。お二人から見て現在のファンタジーゲーム,とくにデジタルゲームに足りていないものは,何だとお考えですか。
リビングストン氏:
そうですね……もっとダークな世界観のゲームが増えてもいいんじゃないかと思います。暗い世界であればこそ,一時的であれ人々が手を取り合うことに意義が生まれてくるものですから。
ジャクソン氏:
あとちょっとしたユーモアもね。それこそ,ラス・ニコルソンが地図売りとして登場するみたいな(笑)。そういう懐の深さがもっとあってもいいんじゃないかな。
リビングストン氏:
宮崎さん,次の作品に「ファイティング・ファンタジー」の要素を取り入たいと思ったら,いつでも声を掛けてくださいね。
宮崎氏:
はい,ぜひ! それに,先ほどのお約束もずっと覚えておきます。いつか私が「ファイティング・ファンタジー」を書いていいという。
リビングストン氏:
今日はお話できて,とても嬉しかったです。(日本語で)ありがとうございました。
安田氏:
では,これで今回の対談を締めたいと思います。ゲームブックであれデジタルゲームであれ,お三方の作品はこれからも続々と発表され,僕達を楽しませてくれることでしょう。これがきっかけとなって,お三方の作品にプラスの相互作用が生まれることに期待させてください。本日はありがとうございました。
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