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[GDC 2024]「ホグワーツ・レガシー」が取り組んだ,ベテランゲーマーとゲームをしないハリポタファンの両方に向けたオープンワールドRPG
ハリー・ポッターシリーズでおなじみの魔法ワールド(Wizarding World)を舞台とした本作は,ファンの目を引く魔法ワールドを緻密に描いた世界観と物語がある一方,コアなゲーマーも満足のいく探索要素やキャラクター育成,コンバットシステムといった要素も充実している。はたしてどのようなアプローチで,新しいゲーマーとベテランゲーマーの両方が楽しめるバランスでゲームを制作したのか。
スピーカーとして登壇したのは,ホグワーツ・レガシーの開発会社であるAvalanche SoftwareのシニアテクニカルデザイナーStephen Dona氏。システムデザインチームとしてホグワーツ・レガシーの開発に関わっているほか,Player Data Analysisとしてプレイヤーの分析も行っている。
WB Gamesの元でポートキー・ゲームズ(ハリー・ポッターおよび魔法ワールドを舞台としたゲーム)作品の制作を担当することになり,Avalanche Softwareは魔法ワールドのファンという今までと異なるプレイヤー層を迎えることになった。
世界最大級の熱狂的なファンを抱える魔法ワールドだが,書籍や映画といった趣味の客層が多く,ゲームを遊ぶ人は多くない。プレイヤー(RPGをプレイする可能性がもっとも高い人たち)とファン(ハリー・ポッターを好きになりそうな人たち)という“2つのオーディエンス”の特徴を比べると,ゲームプレイヤーは男性が多く,たくさんゲームを遊び,より長いゲームとやりごたえのあるシステムを求める。ファンは主に女性で,滅多にゲームは遊ばず強いストーリー性を求めるというデータが出た。
では,Avalanche Softwareはどちらに向けたゲームを作るべきか。答えは簡単,BOTH(両方)である。Avalanche Softwareは昔から子供向けのゲームを制作しているので,この挑戦自体は決して新しいことではなかったからだ。
とはいえ,ゲーム好きと魔法ワールドファンの両方を見て,となると簡単なことではなかった。そこで,あらためて新しいゲームプレイヤーになる人たちのことを考慮したゲームデザインを学ぶことに。
まずは遊びの要素となる依存性のあるシステムについて。例えばバトルと釣りといったような2つの遊びがある場合,それぞれ独立したものとして遊べる仕組みが好きか,一方を遊んでいるときに,もう一方を考慮する必要がある仕組みがいいかだ。
この場合,プレイヤーは何かしらの依存性がある遊びが好きで,ファンは一方のゲームプレイがもう一方のプレイを左右するようなものを望まなかった。ホグワーツ・レガシーでは,全体的にファンも楽しめる,独立して遊べるシステムを設定し,ある程度コアなゲーマーでなければ触れないであろう部分に,依存し合う要素を入れた。
続いてランダム性。RPG好きのゲーマーであれば,敵がドロップするアイテム,戦利品の個数や品質の変化,魔法の失敗,世界の出来事による影響といったランダム要素も楽しみの1つだろう。
しかし,ここがプレイヤーとファンでもっとも明確で,直接的に対立するものとなった。
プレイヤーの統計では「もっとも価値のあるものの1つ」としてランク付けされたが,ファンの統計ではランダム性は一貫して欲求不満な要素として言及され,ほとんどのファンはランダム性の要素が出た直後にゲームのプレイをやめたという。
これへの対処もシステムとほぼ同じだ。プレイヤーとファンのゲームプールがはっきりと出ているので,プレイヤーが好みそうな部分には意図したものより多くのランダム性を残し,逆にファン向けの部分では想定以上のランダム性を取り除いた。
プレイヤーが選択できるものの数はどうか。ホグワーツ・レガシーにはスキルや才能といったキャラクターの強化や育成に関する要素がいくつかある。ゲーマーにはおなじみやり込みにもつながる部分だが,普段ゲームをしないファンにとっては何をしていいか分からない要素でもある。
実際多くのファンは才能を伸ばさずにポイントを溜め込み,気がついてから一度にいくつも才能を開花させるという人が多かったとか。とはいえ,ここはそもそも触らない選択肢もあるので両者のエンゲージにさほど影響はなかった。
ファンに深刻な問題を与えたのがナビゲートだった。ホグワーツ内で指定された場所を移動してお使いを済ますという序盤のチュートリアルを兼ねたメインクエスト「ホグワーツへようこそ」で,ファンの70%が失敗またはミッションを諦めたのだ。
さらに調べると,プレイヤー(と,Avalancheデザイナー)は世界をホグワーツや禁断の森といったポイントがセットになったものと捉えているのに対し,ファンは地図を“一連の道”と考えていた。
そこで開発陣は,重要なポイントとポイントを簡単に説明できる道,“記憶に残る道”でつなぐことに。そして,ただの道標ではない導き方,「ホグワーツへようこそ」のウィーズリー先生のような,文字通りの「歩きながら話す」道案内も作った。
では難度はどうだったのだろうか。リリースの数か月前には多くのファンが新たなプレイヤーになることを見越していたが,それでも難度が高いという理由で離脱者があった。しかし一方で60%のファンが身近な人にこのゲームを共有したい。このゲームの仲間になりたいというレスポンスをしたという。
また最終的なバランス調整として,ストーリー(メインクエスト)の難度を大幅に下げたという。このあたりは,ストーリーと雰囲気重視で遊ぶ人にはやさしく,やりごたえを求める人はサイドクエストに,という対応だろう。
セッションの最後には,「システムはマッピングして意図的に独立した仕組みを作り,プールは新規プレイヤーにとって嫌なことを避けられるようにする」「経験豊富なプレイヤー向けのプールにのみランダム性を適用し,選択肢はより意味のあるもののみに絞る」「ナビゲーションはポイントではなくパスの集合と考え,難度はソーシャル・インクルージョン(弱い立場にある人を取り残さず参加できるようにしようという考え)を目的に『挑戦しない難度』を含めた調整をする」という,新規プレイヤーを迎えるためのゲームデザインのアイデアがまとめられた。
「ホグワーツ・レガシー」公式サイト
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