インタビュー
クラウドファンディングで注目を集めるARゲーム「ガラパゴスの微振動」開発者インタビュー。ゲームが導くARの未来とは
CAMPFIREのプロジェクトページによると,本作はスマートフォンにインストールされた“過去に接続できるアプリ”を操作して,過去を改変していくという物語となる。まだ明かされていない点も多いが,スマホを使ったノベルゲームのようであり,はたまた謎解きゲーム的な要素も感じられる作りとなっている。
本作は,いったいどんなゲームになるのだろうか。詳しいゲームの内容のほか,AR技術がもたらすエンターテイメントの未来像について,開発者達に話を聞いてみた。
※本取材はリモートで実施し,写真はENDROLL提供のものを掲載しています。
「ガラパゴスの微振動」公式サイト
CAMPFIRE「ガラパゴスの微振動」プロジェクトページ
ENDROLLが目指す新しいエンタメ「ガラパゴスの微振動」
4Gamer:
本日はお時間をいただき,ありがとうございます。まずENDROLLという組織についてからお聞きしたいのですが,いわゆるARゲームを手がけている会社ですよね。
前元氏:
はい。ENDROLLはARを使ったエンターテイメントを提供する企業として,2017年12月に立ち上げました。商業施設や駅,ゲームセンター,スタジアムといったところを中心に,「リアルな場所をゲームの舞台に書き換える」という体験型エンターテイメントを提供しています。
4Gamer:
なるほど。しかし,「ガラパゴスの微振動」はそういったものとは異なるタイプの作品のようです。
前元氏:
おっしゃるとおり,「ガラパゴスの微振動」は家の中に限定したARエンタメとして企画したプロジェクトです。コロナ禍によって,リアルな場所を書き換えるタイプの遊びが難しくなってしまったことが,そもそもの発端でした。
4Gamer:
では,コロナ後にスタートしたプロジェクトなのですね。クラウドファンディングの開始が5月26日というのは,それにしてはすごいスピード感です。
前元氏:
ENDROLLは少数精鋭でやっていますので,開発が早いんですよ(笑)。
4Gamer:
何人くらいが関わっているプロジェクトなのでしょうか。
前元氏:
正社員が8名で,これに外部スタッフが加わる感じですね。複数のプロジェクトが動いているので,皆がこれにかかりきりというわけではないですが,人数で言えばそれぐらいです。
4Gamer:
立ち入った話になりますが,ENDROLL立ち上げ前は,皆さんどんなお仕事をされていたのでしょうか。
前元氏:
僕と大島,そしてあともう1人の計3人で創業した会社なんですが,その全員がゲーム業界外の出身です。とはいえ,もちろんゲームは好きで,僕なんか一時期はeスポーツプレイヤーを目指していたくらいです。最近ですと「IdentityV 第五人格」をよくプレイしています。ちょっと業務に差し障るくらい(笑)。
4Gamer:
ははあ。では,お三方はゲーム仲間だった?
前元氏:
いえ。元々は大学時代に同じNPO法人で活動していたんですよ。そこでの4年間がものすごく楽しくて。その後はそれぞれ就職したんですが,しばらく経ってから居酒屋で話しているうちに,会社を作ることになってました(笑)。
4Gamer:
なんと。居酒屋ではどんな話を?
前元氏:
「なんだかワクワク感が足りないよね。あのときみたいに,世の中にゲームの仕組みを持ち込んだらどうだろう」みたいな話でした。なんというか,大学時代の4年間が,ゲームそのものみたいだったなって感じていたんです。その経験がENDROLLがミッションとして掲げている「Gamify your life」――世の中をゲームのように生きたいという志につながっているわけです。
これはいったい何をするゲームなのか
4Gamer:
では,「ガラパゴスの微振動」の中身についてお聞きしていきます。ティザーサイトによれば,本作は「スマホを使って過去を変えていくゲーム」とのこと。これは……具体的にどういうことなのでしょうか。
大島氏:
ディレクターの自分から説明します。まず一般のプレイヤーの皆さんには,最初にAmazonでキットを購入してもらいます※。すると,謎の組織「Butterfly Rescue」からメンバーズカードが送られてきますので,そこからゲームアプリをダウンロードします。これがスマホを過去に接続するアプリでして……あとはButterfly Rescueからの指示に従い,ゲームを進めていくという流れになります。
※CAMPFIREでの支援者は購入の必要はなく,キットが別送されるとのこと。
4Gamer:
ふむふむ。過去につながったアプリを操作して,過去を改変すると。
大島氏:
はい。そこでキーマンになるのが,“磯部 允(イソベ マコト)”という2020年現在では33歳の人物です。「彼をこのままにしておくとをこのままにしておくとどうなるのか」「磯部にとって重要な人生の分岐点である“2005年の高校の文化祭”にどのような干渉をするべきなのか」を考えながらお楽しみいただけますと幸いです。
4Gamer:
干渉というのは,例えば過去に宛ててメールを送ったりとか?
大島氏:
そういうことですね。ほかにも磯部のガラケーを本人にバレないように操作したりとか。あるいは過去のガラケーの周囲の情景を,アプリ内に再現することもできちゃいます。これがスマホによるAR表現になっていまして,周囲の様子が3Dホログラムで浮かび上がる仕組みです。
4Gamer:
その情景を見ながら,過去を変えるのに必要な何かを探すわけですね。つまり……大雑把に言うと,「ドラえもんになってのび太君をしっかりさせよう!」みたいな?
大島氏:
近いですね(笑)。実際の画面はこんな感じになります。
4Gamer:
ああ,このUIには懐かしさを感じます。この感覚は,ちょっと今の子には伝わらないかも(笑)。
大島氏:
そうした人向けの導線も用意しようとは思っていますが,メインターゲットはやはり20〜30代ですね。実際クラウドファンディングでご支援いただいている方も,20代後半から30代前半の方が多いようでした。
4Gamer:
クラウドファンディングとなると,年齢層はそのぐらいになりそうです。お見受けしたところ,資金獲得はかなり好調のようですね。当初の目標額である150万円は開始3日で達成しましたし。
前元氏:
多くの人にご支援いただけてありがたい限りです。開発資金はもちろんですが,今回のクラウドファンディングには,どういった人達に本作を支持していただけるのかという,アンケート的な側面もありました。結果的に,普段ゲームは遊ばないという人にも興味を持っていただけたようで,大変参考になりました。
大島氏:
もう一つ,クラウドファンディングという手法を選んだのには,一緒に本作を盛り上げてくれる仲間を集める意味もありました。今までにないこの状況下で,まったく新しいエンタメを皆さんとチームになって作り上げていく。そんな思いが込められています。
誰もが思い出す「あの頃」を再現したい
4Gamer:
ゲームの話に戻りますが,体験としてはアプリの中で完結するものなんでしょうか。
大島氏:
アプリ以外にも,WebサイトやLINEなども駆使する形になると思います。代替現実ゲームの面白さは,自分が普段触れているものが,違った意味を帯びてくるところにありますので。ただ,“家の中”では完結するようになっています。
4Gamer:
例えば,ほかのプレイヤーと相談したりといった要素はあるのですか?
大島氏:
いえ。本作は1人用で,協力要素は含んでいません。ただ,相談相手としてButterfly Rescueとはコミュニケーションが取れます。これがLINEを活用するケースの一つです。
4Gamer:
プレイ時間としては,どの程度でしょうか。
大島氏:
実際の時間軸と連動しながら,7日間かけて進める形となる予定です。1日ごとの結果が翌日に反映されながら,7日後に控える文化祭に向かってストーリーが進行していきます。
4Gamer:
リアルで1週間かけて遊ぶんですね。
大島氏:
はい。1日あたりのプレイ時間は,長くとも1〜1.5時間くらいの想定です。完全にリアルタイムでは,仕事などもあって厳しいと思いますので,そのあたりは柔軟に対応できるシステムを検討中です。
4Gamer:
しかし途中で中断はできないですよね。例えば急な出張が入ったり,突然入院することになったりとか,そういった場合は?
大島氏:
スタートするタイミングは自分で決めるシステムですので,ある程度時間が確保できる1週間を見計らっていただく形になると思います。それでも万一のことがあったときにどうするか,リスタートをどこまで許容するかなどは,これから詰めていかなければならない要素です。
前元氏:
ただリアルタイムと連動した要素――現実と物語世界の境目を曖昧にするような没入感というのは,本作ならではの部分と考えています。“いつでもプレイできる”という,従来のゲームに慣れた人には不便に感じるかもしれませんが,そこが僕達の目標でもあるので,臆せずチャレンジしてみたいなと。
4Gamer:
「悪いけど,今日は飲みに行ってる場合じゃないんだ。アイツの命運がかかってるんだよ」みたいな感じですね。
大島氏:
そんなふうに思っていただけたら,うれしい限りですね。
4Gamer:
プレイヤーの行動によって,物語の結末が変わるわけですよね?
大島氏:
そこは現時点では秘密とさせてください。ただ,露骨なバッドエンドに遭遇することはないと思います。皆さんにプレイして良かったと感じてほしいですし,本作のテーマ的にも,この時代に「人とつながること」をポジティブにとらえてほしいという狙いがありますので。
4Gamer:
なるほど。そのストーリー的な部分についてですが,この「過去改変」という題材を選んだのには,なにか理由がありますか。
大島氏:
エンタメ分野におけるARというのは,「妄想を体感する技術」として使われやすいんですが,そんな中で僕らがとくに思いを込められる,ワクワクする妄想って何だろうと考えたんです。そうして出てきたのが,「タイムマシンで青春時代に戻る」「謎の組織に加盟してミッションを与えられる」といったアイデアでした。高校時代というのは,多くの人にとって没入しやすい設定ですし,そこにさかのぼれたら面白いよねと。
4Gamer:
「青春」という共通認識があるからってことですね。
大島氏:
はい。そして,ターゲットとなる磯部のキャラクターは,「ああ,こういうヤツいたなぁ」って誰もが思える存在にしたかった。だからあえて,自意識高めの陰キャっぽい設定にしています。
4Gamer:
「俺が好む音楽やマンガを理解できる人間は,このクラスにいない」とか,「自分は特別な存在だ」と思っている磯部のキャラクターは,わりと特徴的ですよね。このプロジェクトを応援している人の中には,「彼は昔の俺だ」と感じた人も少なくないようです。
大島氏:
そういうコメントをTwitterで見かけて嬉しかったですね。「クラスに1人はいた」と感じてもらいつつ,極端な話ですが「誰もが持っている側面」でもあると思うので。
4Gamer:
一方で……そう思えない人にとってみると,ゲームをプレイするモチベーションが湧かないキャラクター造形という気もするのですが,どうなんでしょうか。極端な話,「どうしてこんなクズ野郎のために行動してやらなきゃいけないんだ」みたいな。
前元氏:
今回の話は「ダメな磯部を救ってやる話」ではなく,「ダメになったきっかけを変えて,磯部を成長させる話」なので,そこはあまり心配していません。2020年の磯部は陰鬱としたブログを書いてるんですが,過去を変えることでそのブログも書き換わっていくんですね。それを見て,彼の成長に共感してもらえたらなと。
大島氏:
彼のブログを見ると「お,自分が昨日関わったことが影響を与えてるぞ」と分かるので,やり甲斐は感じられると思いますよ。それにゲームが進むにつれ,磯部本人だけでなく,彼を中心とした周囲の人間関係に焦点が移っていくので,群像劇的な面白さも感じてもらえるのではないかと。
4Gamer:
イメージビジュアルも“夕暮れの青春群像”という感じですね。
大島氏:
青春といえば,やっぱり放課後。それも夕焼けが映える屋上がいいなと(笑)。岩倉しおりさんという有名な写真家さんがおられるのですが,最初のイメージは,まさに彼女の作品のような景色でした。それからイラストレーターを探して辿り着いたのが,今回ビジュアルを手がけていただいた桜田千尋さんだったんです。後から聞いてみると,桜田さんも岩倉さんの写真が大好きとのことで,ああやっぱりと思いましたね。
4Gamer:
クラウドファンディングのリターンに,「絵本(特別設定資料集)」がありますが,これは?
前元氏:
5月下旬に事前プロモーションとして「機密ファイルのパスワード解読ミッション」という,Twitter上での謎解きイベントを実施したのですが,この絵本はその中に登場したものです。イベントでは,この絵本がButterfly Rescue創設のきっかけであり,かつ行動理念であることがほのめかされていて,「Butterfly Rescueとは何者なのか」という謎の一端に触れられるという趣向でした。
大島氏:
付け加えると,僕らENDROLLはButterfly Rescueのビジネスパートナーという立ち位置なんですね。彼らのお手伝いとして,僕らが過去改変アプリを皆さんにお届けするということになるわけです。
4Gamer:
なるほど。つまり裏設定的な? 絵本を読むと,本作のプレイ時にニヤリとできる部分があるというような。
前元氏:
そうです。絵本がないとゲームができないわけでも,謎解きに有利になるわけでもないですが,世界観をより深く味わえるアイテムとなっています。
4Gamer:
なるほど。ちなみになんですが,このゲームに「うまい」「ヘタ」ってあるものなんでしょうか。プレイヤー自身の知識やスキルが問われるような要素であるとか。
大島氏:
謎や推理の要素があるので,論理的な思考力やひらめきなどで違いが出るとは思います。ただ,そういったことが苦手でも,脱落したりはしない仕組みです。困ったときは,Butterfly Rescueのヘルプもありますしね。
4Gamer:
脚本としてクレジットされている左子光晴氏についてはいかがでしょうか。白羽の矢を立てられた経緯ですとか。
大島氏:
左子さんとは,2019年に池袋PARCOで実施した「あなたが動かすアート展」からのお付きあいで,SFや群像劇を得意とする劇団「ヨーロッパ企画」で作家をされている方でもあります。またUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)のご出身ということで,ARのコンテンツの難しさである「体験性と物語性の両立」にも造詣が深いんですね。
4Gamer:
「体験性と物語性の両立」とは?
大島氏:
ARのコンテンツの難しさって,インタラクションの面白さだけでも,読み物としての面白さだけでもダメなところなんですよ。自分の目線でちゃんと物語が理解できて,かつそれが現実世界で起きても違和感がないものでなくてはならない。「非現実でなく非日常」と僕らは言ってますが,左子さんはそこがうまいんです。まさに,本作にうってつけの作家さんだと思っています。
AR技術の今,そして未来
4Gamer:
ARについてもう少しお聞きしたいんですが,CAMPFIREのプロジェクトページを見ると,Augmented Reality(拡張現実)の短縮形として「AR」が使われていますよね。一方で,世の中には「ARG」(Alternate Reality Game / 代替現実ゲーム)というのもあって,さらには語感の似た用語として「MR」(=Mixed Reality / 複合現実)や「VR」(Virtual Reality / 仮想現実)もあったりする。この違いを簡単に説明いただけますか?
大島氏:
確かにややこしいですよね(笑)。まずこの中では,VRとの違いからお話しするのが分かりやすいかと思います。VRは「まったく新しい世界を,あたかも現実であるかのように思わせる技術」でして,「現実をベースにして世界を拡張していく技術」であるARとは,かなり趣が異なります。
前元氏:
FacebookのMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏の言葉を借りるなら,「VRはテレビ,ARはスマホ」だそうで,それくらいには別の概念だと思っていただいて良いのではないかと。
「ソードアート・オンライン」がVRで,「電脳コイル」がARですよね。おっしゃるとおり,ここは比較的分かりやすいです。ではMRはどうでしょうか。
大島氏:
MRはARとVRの中間に位置する概念で,仮想世界と現実世界を精緻に重ね合わせたものなんですが……線引きが結構曖昧でして(笑)。最近はARとの差異がとても曖昧になってきていて,僕達は明確に区分していません。これは人によると思うのですが,ARとMRは言葉として同一にしても問題ないと考えています。
4Gamer:
あ,そうなんですね。
前元氏:
一方で「ARG」というのは,日常空間と物語空間が交差することで展開されるゲームジャンルを指す言葉です。広義には,いわゆる「リアル脱出ゲーム」のような謎解きイベントもARGの範疇ですが,厳密にいうと議論の余地があるところです。ですのでVR/ARと語感こそ似ていますが, ARGの場合はスマホやHMDのようなものは必ずしも必要ではないわけですね。
4Gamer:
しかし,「ガラパゴスの微振動」のコンセプトとも共通するものがあります。
大島氏:
はい。「ガラパゴスの微振動」はARエンタメであると同時に,ARG的な没入体験を目指しています。同様に,ARの代表格である「ポケモンGO」なども技術を用いて高い没入度を実現しているARG的なゲームと言えるかなと。
4Gamer:
先ほど,「非現実でなく非日常」という話がありましたが,今のお話だとUSJやディズニーランドのようなテーマパークもARGなのでは? それも,お金と手間暇をものすごくかけたタイプの。
大島氏:
「クリアする」という目的がないため,必ずしも「ゲーム」とはいえませんが,ゲストに伝えようとしている感覚は間違いなく類似していると思います。だからARG的な没入度の高い体験は,昔からある長い歴史を持つエンターテイメントなんですよ。
4Gamer:
ちょっと分かってきました。ご説明いただいたさまざまな技術のなかで,ENDROLLさんはとくにARの可能性に着目されたのだと思いますが,これにはどんな理由があるのでしょうか。
前元氏:
そもそもENDROLLはエンタメの会社であって,ARの会社というわけではありません。ですが,僕らが目指す「ゲームのような世界」を作っていくには,もっとも適した技術だと思っています。
4Gamer:
というと?
前元氏:
パソコンからスマホへというこれまでの進化は,コンピュータがより人に近く,直感的なものになっていく進化でした。ARはその先にあって,ディスプレイの中ではなく現実世界に展開される,人間の感覚と地続きのマンマシンインタフェースになります。これってつまり,コンピュータと人の関わり方の革命だと思うんですね。
4Gamer:
そうかもしれません。
前元氏:
ARによってコンピューティングと現実の境目が消え,ゲームと現実の境目も消えていきます。想像によって造られた理想的でワクワクする世界が,現実の仕組みをも変えていくわけす。
もちろん,こうした未来がARだけで実現できるわけではありません。キャラクターと自然に会話するにはAI技術の発達が必要だし,ゲーム内で稼いだお金を現実世界に還元するためには,ブロックチェーン技術が必要になるかもしれない。さまざまなテクノロジーが今動き出していて,その中の一つにARがあるわけです。
4Gamer:
よく分かるお話です。
前元氏:
一方で,新しいハードウェアやテクノロジーが普及するにあたり,最初のインパクトとなったのは,いつだってゲームやコミュニケーションアプリでした。今はまだ,ARを体験するには多大なコストをかけてARグラスを入手したり,スマホを覗き込む必要があるわけで,利用する側に強いモチベーションが必要になります。つまり「ちょっと便利」とかではダメで,強烈な楽しさが必要です。
4Gamer:
つまり,新技術を普及させるには,エンタメが作り出す強烈なモチベーションが必要だと。
前元氏:
はい。その圧倒的な面白さを提供するのが,僕達の使命だと思っています。
そうすることで,今,皆がスマホを使うように,誰しもがARグラスを利用して,コンピュータに自然な形で常時接続する「電脳コイル」のような世界がやってくる。ARには,そういうポストスマホになりうるポテンシャルがあると考えています。
4Gamer:
なるほど……ちょっと脱線するんですが,以前バンダイナムコエンターテインメントの原田勝弘氏に話を聞いたとき,「VRは陰キャ向きで,ARは陽キャ向き」「だから自分はVRをやってる」という主旨の発言をされていたんですが(関連記事)……これってどう思います?
僕はずっと,MMO世界の傍観者だったんです――不定期連載「原田が斬る!」,第3回は「ソードアート・オンライン」川原 礫氏とのVRMMO談義
鉄拳シリーズプロデューサー・原田勝弘氏による対談企画「原田が斬る!」の第3回をお届けする。ゲーム開発者を迎えての対談だった第2回までとは趣を変え,第3回は「ソードアート・オンライン」の作者である川原 礫先生がゲスト。両氏の思い描く未来のMMORPGとは,一体どんなものか。ぜひ期待して読み進めてほしい。
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一同:
(苦笑)。
大島氏:
その分析は,それぞれの技術に関わっている人達を見ると,割と当たっている部分はあると思います(笑)。ただ僕らがARを届けたいのは,現実世界で「自分はモブキャラっぽいな」と思っているような人達なんです。「陰キャ向け」をことさらウリにするわけではないですが,「ガラパゴスの微振動」はそういう人達にこそ届いてほしいと思っています。
前元氏:
僕はVRゲームにも関わったことがあるんですが,そのとき「自分が目指すべきものとはちょっと違うんじゃないか」と思ったんですね。
実は高校生の頃,自分は学校に行けない期間が長くて,FPSばかりやっていました。まさに自分の人生の舞台はFPSの中にあるという感じだったので,作り上げられた世界に浸りたい気持ちは気持ちはよく分かる。でもだからこそ,作られた世界でなく現実世界のほうをゲームにしてやろうという気持ちで,今のプロジェクトに臨めているんだと思います。
4Gamer:
そしてこれまでは,その第一歩として場所とARを組み合わせたエンタメに取り組んでこられた。
前元氏:
そうですね。「生活のゲーム化」というミッションにあたり,僕達はまず,特定の場所をゲームの舞台に書き換えることを選択しました。商業施設などに行ってスマホを見ると,そこがゲームの舞台になり,自分自身がゲームの主人公になって冒険体験ができる。商業施設は今,物を売るだけでは限界で,どうやって体験を提供するかという課題を抱えています。なので設備投資なしに場所をゲームの舞台に変えるARは,そうした需要に応えるものだと考えました。
4Gamer:
タイトーとの協業で,ゲームセンターでのARゲーム開発プロジェクトにも着手されていたとか。
前元氏:
そうです。ゲームセンターのロケーションを活用し,眼鏡型のARデバイスを使った新たな試みとして,実証実験の寸前まで進んだのですが……。
4Gamer:
コロナ禍が起きてしまった。
前元氏:
はい。屋外での活動が制限されてしまい,書き換えるべき場所がなくなってしまいました。もちろん事業が止まってしまったことは辛いのですが,それ以前に僕らはエンターテイナーとして,世の中が暗いムードの中で,何もできないことがすごく悔しかった。そこで立ち上げたのが「ガラパゴスの微振動」だったんです。
4Gamer:
外に出られないなら,家の中を書き換えてしまおうと。実際のところ,家の中でのARってどうなんでしょうか。相性というか。
前元氏:
演出上,ARでは「どこでプレイするか」が重要になるんですが,家の中に限定するなら,それはそれでいろいろな可能性があると思いました。
大島氏:
とくにスマホを使ったARは,機種ごとの性能やバッテリー,それから天候などの環境にも左右されやすいので,それゆえの難しさがありました。ですが家の中に限定するなら,そうした問題の多くはクリアできる。そういう意味でも挑戦しがいのあるロケーションだと思います。
4Gamer:
仮に今後コロナが収束して再び外でのARが可能になったとしたら,「ガラパゴスの微振動」の続編を外で展開する,なんてこともありえるのでしょうか。
前元氏:
これまでやってきた商業施設やゲームセンターでのAR,そして今,力を入れている家の中でのAR。これらすべては最終的に1つにつながるものなので,可能性は十分にありえますね。究極的にはすべての場所,すべての時間をつなぎたいと思っていて,今はそのためのピースを揃えているフェイズなんです。
大島氏:
没入感の高いエンタメにおいては「時間」と「場所」,この二つの連動がとても大切です。今回の「ガラパゴスの微振動」では前者を駆使していますが,いずれは後者ともつなげたいですね。
前元氏:
「ガラパゴスの微振動」と直接関わりがあるかは別として,年内にも別のプロジェクトをお披露目したいと考えています。さらに進化したARエンタメをお目にかけられると思うので,こちらもご期待ください。
4Gamer:
「ガラパゴスの微振動」と合わせ,楽しみにしたいと思います。本日はありがとうございました。
インタビュー収録時点での「ガラパゴスの微振動」の開発進行度は,1日目の設計と基本システムができあがった「20%強くらい」とのことだった。対象プラットフォームはiOSとAndroidで,リリースは2020年の7月から8月にかけてを予定しているということなので,今も急ピッチで開発が進められていることだろう。
インタビューに際して「ARを使ったリアル謎解きゲーム」っぽいイメージを漠然と持っていた筆者だが,話を聞くと伏線などもかなり練られているようで,物語の側面からも期待が持てそうだ。1週間を通し,ハラハラしながら物語を追いかける体験をしてみたい人,またENDROLLが提唱するARの未来に興味が湧いた人は,記事掲載時点でもまだ間に合うハズなので,今からでもクラウドファンディングにも参加してみてはいかがだろうか。
「ガラパゴスの微振動」公式サイト
CAMPFIRE「ガラパゴスの微振動」プロジェクトページ
(C)2020 ENDROLL, K.K.
(C)2020 ENDROLL, K.K.