インタビュー
「マジック:マナストライク」メールインタビュー。マジック:ザ・ギャザリングらしさを活かしたリアルタイム戦略対戦ゲームの開発経緯を聞いた
本作の先行プレイレポートなどを見ても分かるとおり,ジャンルはマジック:ザ・ギャザリングと大きく違っている。それでいて,ヒーローユニットに相当するプレインズウォーカーの存在や,カードのシナジーを活かした戦術など,TCGとは違った形でマジックの醍醐味を味わえる一作だ。
今回は,本作の開発スタッフにメールインタビューを行う機会を得られたので,その内容を紹介しよう。TCGの経験者も,ぜひ一読してほしい。
「マジック:マナストライク」の開発経緯について
4Gamer:
今回はメールインタビューの機会を設けていただき,ありがとうございます。
最初に,あなたが「マジック:マナストライク」(以下,マナストライク)にどのように関わっているのかを教えてください。
ジャン・ヒョニル氏(以下,ジャン氏):
私はNetmarble傘下の開発会社であるNetmarble Monsterに在籍している,ジャン・ヒョニルと申します。開発統括として,プロジェクト全体の舵取りを主に担当しています。
4Gamer:
本作のもととなったTCG「マジック:ザ・ギャザリング」(以下,ギャザリング)に関して,プレイ経験の有無や,個人的な思い入れなどがありましたら教えてください。
ジャン氏:
私はプライベートでも,ギャザリングに長年どっぷりハマり続けています(笑)。ローカルのTCGグループやファンタジーカード同好会のオペレータとして20年以上活動しており,また,いち選手として,ギャザリングの海外大会へ参加したことも数多くあります。日本で開催された大会に出場したこともありますよ。
私にとってギャザリングにおける一番の醍醐味は,カード環境が絶えず変化する点です。四半期ごとに新たなカードセットがリリースされ,そのたびに新たな戦術が登場するので,常に新鮮に楽しめるんですよ。
4Gamer:
今回,Netmarbleがマナストライクを手がけた経緯について教えてください。
ジャン氏:
私に限らずギャザリングの熱心なファンの多くが,プレインズウォーカーやクリーチャーたちがカードから飛び出して,3Dで戦う姿を想像したことがあると思うんです。また,私は以前,リアルタイム戦略対戦ゲームの開発に関わった経験があり,この双方を融合させようと考えたのが直接のきっかけです。
4Gamer:
ギャザリングのIPを所持しているウィザーズ・オブ・ザ・コースト(以下,WotC)とのやりとりは順調に進みましたか?
ジャン氏:
幸いなことに,WotCもギャザリングの新展開を求めていました。しかし,ギャザリングにおける膨大なカードや戦術を活かした新展開というのは,そう簡単には実現できないため,WotCも悩んでいたようです。そこで我々がマナストライクの企画を熱心にアピールして,ようやく許諾を得られました。
マナストライクにおけるマジック:ザ・ギャザリングらしさについて
4Gamer:
ジャン氏:
本作における一番の醍醐味は,ヒーローユニットたるプレインズウォーカーと,他のカードの組み合わせによる戦術を繰り出すことです。そしてマナストライクでは,この戦術を繰り出しやすくするために,各種システムを調整しています。
まず,プレインズウォーカーは召喚時にマナを必要としません。さらに,ゲーム中に残り時間が1分を切ると,マナの蓄積スピードが2倍になる「マナストライク」が発動し,他のカードも出しやすくなります。そのため誰でも手軽に戦術の奥深さを味わえるんです。
4Gamer:
ギャザリングらしさをマナストライクで実現するときに,とくにこだわった部分について,具体的に紹介してください。
ジャン氏:
ギャザリングにおける各色ならではの戦術を,マナストライクで実現した部分ですね。
マナストライクに登場する各カードは,ギャザリングと同様に白,青,黒,赤,緑の5つの色を元にデザインされています。それぞれの色の持ち味を,マナストライクの限られたカードで実現できるようにしたんです。
ちなみに,マナストライクにおける各色が得意とする分野を簡単に紹介すると,以下のようになります。
・白:複数のカードによるシナジー
・青:相手の攪乱と,空中戦
・黒:味方ユニットを犠牲にすることで得られる強化や復活効果
・赤:速攻攻撃と,攻撃系呪文
・緑:高い体力と,マナの回復スピード
4Gamer:
マナストライクでは,カードの2Dイラストをもとに3Dキャラクターが制作されています。この3Dモデリングの開発作業は苦労されましたか?
ジャン氏:
また,呪文のカードのなかにはデザインが複雑で3Dに適していないものや,イラストだけでは攻撃の形や動きを想像することができない場合も多かったです。その都度,WotCにカードの細かな意図などを相談しながら開発作業を進めました。
4Gamer:
これだけ数多くのカードがあると,どれをマナストライクで採用するのかは,とても悩ましかったのではと思います。
ジャン氏:
そうですね。また,採用するカードを決めた後に,マナストライクにおけるスキルやパラメータをどのように設定するのかも困難を極めました。ゼロからクリーチャーを生み出すのではなく,熱心なギャザリングのファンがよく知っているカードを,彼らが納得できるように違う形で実現する必要がありましたから。
試行錯誤の末,カードの中で最も重要な要素を強調し,それ以外は比較的自由に設定することにしました。個人的にはこの作業を通じて,各カードの本質と今一度向き合うことができたと思います。
4Gamer:
適切な形でマナストライクに反映できたカードの具体例を紹介してください。
ジャン氏:
とくに印象に残っているのは,「夜明けのレインジャー」と「血統の守り手」です。これらのカードは,それぞれ“狼男”と“系統の王”に変身する効果を持っており,その部分はマナストライクにもきっち反映しています。それ以外の攻撃力と召喚コストなどは,先ほど申し上げたとおり弊社が独自に設定しており,ちょうどいいバランスに設定できたと思います。
ですので,ギャザリングの熱心なファンの方は,各カードがマナストライクでどのように設定されているのかを見比べるのも興味深いのではないでしょうか。
4Gamer:
逆に,マナストライクで実現したかったものの,導入を断念したカードなどはありましたか?
ジャン氏:
たくさんありますが,個人的にとても悔しいのが,エキスパンションの「エルドラージ覚醒」です。
エルドラージ覚醒では,すべての色に個性的な戦術が用意されています。ただ,全体的にメカニクスが複雑なため,今の段階でマナストライクに導入するとプレイヤーが混乱してしまうでしょう。そのため導入を見送っていますが,個人的にいつか再挑戦したいですね。
『エルドラージ覚醒』紹介ページ
※「マジック:ザ・ギャザリング」公式サイト内
4Gamer:
ギャザリングにおける土地(Land)や,使用済みのカードをタップ(Tap)するシステムが,マナストライクに採用されていないのが意外に思えました。これらをマナストライクで採用する計画はありませんでしたか?
ジャン氏:
仰るとおり,それらはマジックを代表するシステムなので,マナストライクでもぜひ導入したかったです。しかし,開発初期から多くの議論やテストを重ねた結果,最終的に見送ることにしました。
というのも,仮にLandの概念を採用すると,マナのリソース管理がどうしても複雑になってしまうんです。本作はリアルタイム戦略対戦ゲームとして多くの人に触れてほしかったので,リソース管理のシステムは極力シンプルにする必要がありました。Tapに関しても,同様の判断で採用を見送っています。
現在のサービス状況について
4Gamer:
マナストライクが正式サービスを開始して,1か月余りが経過しています。現在の手応えはいかがですか?
ジャン氏:
現在は十分な人数がプレイしており,実力に応じた対戦相手とのマッチングが行えています。今後,開発チーム内でさまざまな分析を行い,必要に応じてカードバランスの調整を行い,より完成度を高めるべく努力していきます。
4Gamer:
マナストライクはワールドワイドで同時ローンチとのことですが,現在サービスを行っている国(と地域)の数と,現在の評価がとくに高い国について教えてください。
ジャン氏:
マナストライクは,中国とベトナムを除く全世界の国と地域でプレイ可能です。
現在プレイヤー数が最も多い国はアメリカですね。そのほかにはカナダ,ドイツ,フランスのプレイヤーも多いです。
4Gamer:
日本のプレイヤーの反響について,率直な感想を聞かせてください。
ジャン氏:
日本人のプレイヤーは,ギャザリングの経験者の割合が他国と比較して高いんですよ。送られてくるフィードバックを見ても,「ギャザリングのシステムをこのように取り入れてはどうだろうか」といった意見や,2Dイラストと3Dモデリングの微妙な違いなど,ギャザリングらしさにこだわる人が多い印象です。弊社の開発スタッフも,皆ギャザリングが大好きなので,とても興味深くフィードバックを拝見しています。
4Gamer:
マナストライクには,カードパックを獲得するガチャや,時間制のトレジャーボックスのシステムが導入されていません。日本人から見ると意外に思えたのですが,ビジネスモデルの基本スタンスについて教えてください。
ジャン氏:
まず,マナストライクのメインコンテンツは1対1のPvPなので,そのゲームバランスを維持することを最優先で考えています。言い方を変えると,短期的な売上より,長いスパンで楽しんでもらうことを目標としています。
仮にガチャを導入して,注ぎ込んだリアルマネーの額で優劣が大きく左右されてしまうと,プレイヤー間の格差が広がりやすくなります。そうなると,実力に応じた対戦相手とのマッチングが成立しにくくなるでしょう。健全なゲームバランスを実現するために,ガチャなどのシステムを導入していないわけです。
そのほかには,高額なアプリ内課金を行わずとも,各コンテンツをまんべんなく楽しむことで,ゲームプレイに必要なカード環境をひととおり獲得できるバランスを目指しています。プレインズウォーカーもデッキ構築に必須なので,獲得するための制限はできるだけ低く設定しています。
今後のアップデート内容について
4Gamer:
今後のアップデートの基本方針について教えてください。
ジャン氏:
まず,マナストライクにおける1か月単位のシーズンごとにアップデートを実施する予定です。このときは主に,新たなプレインズウォーカーやスキンの導入,そしてカードバランスの調整などを行います。
また,それとは別に,ギャザリングにおけるブースターパック(エキスパンション)にちなんだ形で,カード群を実装する計画もあります。
4Gamer:
具体的なアップデート内容について,話せる範囲で教えてください。
ジャン氏:
直近では,2020年4月にブースターパックの「イコリア:巨獣の棲処」にちなんだ大型アップデートを実施する予定です。イコリアらしいバトルフィールドや,プレインズウォーカー用のスキンも開発しているので,ギャザリングの経験者の皆さんもぜひ期待してください。
また同様に,「戦乱のゼンディカー」や「タルキール覇王譚」の開発作業も行っています。今後状況が変わる可能性はありますが,これらは2020年内の実装を目標としています。
4Gamer:
ジャン氏:
現在はサービスを開始してから間もないこともあり,通常のゲームプレイを問題なく行えることを最優先に考えています。一方で,長期的なサービスを踏まえると,まったく新しいコンテンツを導入して新鮮に遊び続けるようにする必要もあるでしょう。これらも随時取り掛かっており,準備ができ次第お知らせいたします。
4Gamer:
そのほか,これまで紹介していない情報で,プレイヤーに伝えたいことがありましたらお願いします。
ジャン氏:
初心者の方が誤解しがちな点について,2つほどアドバイスをさせてください。
プレインズウォーカーの運用に関してですが,多くの人は敵のガーディアンを破壊することに目が行ってしまいがちです。ですが,プレインズウォーカーがより長く生き延びられるよう考え,それに沿った形で他のカードとのシナジーを発揮できるようにすると,さらに強くなれますよ。
それともうひとつは,自分のデッキが得意な時間帯を念頭に置いてプレイすることです。たとえば,マナコストが高いカードが多く含まれるデッキは,マナストライクの最中に真価を発揮します。一方で低コストのデッキは,序盤の1〜2分間に有利に展開できることが多いですね。
4Gamer:
最後に,本作を未プレイの読者に向けてのメッセージをお願いします。
ジャン氏:
「マジック:マナストライク」は,「マジック・ザ・ギャザリング」の魅力的な世界をTCGとは異なるジャンルで実現したゲームです。ギャザリングの経験者なら,プレインズウォーカーをはじめとした見慣れたカードの数々が,3Dグラフィックスで実現されているのは,とても興味深いと思います。
その一方で,ギャザリングの未経験者でも十分に楽しめるように,細かい部分まで配慮して作っています。対戦ゲームが好きな人なら誰でも手軽に遊べるので,ぜひプレイしてください。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
「マジック:マナストライク」公式サイト
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