インタビュー
RAGE総合プロデューサー大友真吾氏インタビュー。「VALORANT」有観客オフラインイベントの開催や,日本でのeスポーツ普及について聞いた
そこで今回は,CyberZ 執行役員であり,RAGEの総合プロデューサーを務める大友真吾氏にオンラインインタビューを実施した。“RAGEってどういう組織なの?”から“今後のeスポーツに必要なもの”,“日本国内で初の「VALORANT」有観客オフラインイベント開催の経緯”まで,さまざまな話を聞くことができたので,ぜひ最後まで読み進めてもらいたい。
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずはじめに,経歴などを含めた大友さんの自己紹介からお願いしてもよろしいでしょうか。
よろしくお願いします。経歴としては,2007年にサイバーエージェントに入社しまして,最初はインターネットの広告営業からキャリアがスタートしました。その後,2009年にCyberZを立ち上げ,現在も在籍しています。
当時はモバイルの広告代理店として誕生したので,その営業の責任者という形でした。以降,2014年から2015年にかけて,OPENREC.tvというゲームに特化した配信プラットフォームを立ち上げたことがきっかけとなり,eスポーツという存在に出会いまして。そのタイミングでRAGEというeスポーツブランドを立ち上げ,2015年に第1回目の大会を開催しております。
エイベックスさん,テレビ朝日さんというパートナーも加わり,プロジェクトは3社の共同事業として展開中です。eスポーツ以外ですと,サイバーエージェントグループのAbemaの番組を活用したイベントなど自社の関連IPを活用した興行イベントなども担当しています。
4Gamer:
RAGEは3社共同事業とのことですが,初めて名前を聞くという方や,“聞いたことはあるけど,何をやっているのかまでは知らない”という方に向けて,どのような展開や取り組みを行っているのかを教えてください。
大友氏:
RAGEは,格闘技で言うところのK-1であったりRIZINであったり,そういった興行名として捉えていただければ分かりやすいかなと思います。特徴として,我々はゲーム会社ではないので,あくまで興行ブランドとして,さまざまなIPホルダーさんのゲームタイトルをお借りした上で,大会やリーグ,イベントといった形での興行ビジネスを主に展開させていただいております。
4Gamer:
なるほど。興行ブランドですか。
大友氏:
そうですね。実際に動いている組織体制としては,弊社の中にeスポーツの事業部がありますので,そこでゲームメーカーさんとのコミュニケーションであったり,企画の立案,運営などをしています。先ほど申し上げた通り,RAGEというプロジェクト自体は3社の共同ユニットとして運営を行っていますが,エイベックスさんはeスポーツに限らず,リアルなイベント周りを得意とされており,テレビ朝日さんは地上波でのメディア力が非常に強力ですので,そういった場面でRAGEの露出や所属キャスターさんのアサインをお願いするなど,メディア的な役割を担っていただいています。
4Gamer:
RAGEがどのような環境をeスポーツに対して提供しているのでしょうか。
大友氏:
選手が活躍できる大会ですとか,そこで有名になった方がチームに所属して,選手として活動できるようなプロリーグの運営をしています。興行ブランドという立場でeスポーツの裾野を広げつつ,選手のキャリアを作っていくという形ですね。
4Gamer:
そうした中での大きな取り組みはありますか。
大友氏:
さまざまなことに取り組ませていただいているのですが,大きく分けると3つですね。
1つが誰でも無料で参加できるオープン型の賞金付き大会の運営です。発足当初から定期的に開催させていただいており,代表的なものですと「Shadowverse」が挙げられますが,3か月に1回,誰でも無料でエントリーでき,今年から賞金総額も跳ね上がって,優勝賞金は1000万円の大会をRAGEとしてプロデュースさせていただいております。
2つ目がプロリーグで,過去にいくつかのタイトルでやらせていただきました。年間でのシーズン制を取って,シーズンチャンピオンを決めたり,年間チャンピオンを決めたり,そういったプロとしての活動をされている方々へ向けたリーグ戦のプロデュースですね。
3つ目は,我々は複合イベントと呼称していますが,単体のタイトルのイベントではなく,例えば「RAGE 2019 SUMMER」のような形で,さまざまなタイトルでの参加型コンテンツや,スペシャルエキシビジョンマッチだったりと,eスポーツのフェスティバルのようなイベントも運営させていただいております。非常に大まかな分類にはなってしまうのですが,そちらの3つを軸にして,大会,イベント等を企画させていただいているという形です。
さらには最近では,競技シーンとエンタメシーンを兼ね備えた複合イベントも展開しています。コロナ禍でタレントはじめインフルエンサーの方がeスポーツタイトルで遊ぶ機会が増えたのも追い風となっており,プロアマ混合のエキシビションマッチやインフルエンサーを対象にしたオンラインイベントなども増えてきております。
4Gamer:
そうした活動を踏まえて,今後,日本のeスポーツのさらなる普及にはどのような要素が必要だとお考えですか。
大友氏:
RAGEを立ち上げた時から目標としていることでもありますが,国民的スターの創出がeスポーツが文化として定着していくためにも,大きな契機となり得るのではないかと考えています。現在でも各タイトル,それぞれのコミュニティでは誰もが知っているような有名選手というのは既に登場していますし,各メディアのeスポーツの取り扱いによって,数年前とは比較にならないほどプロプレーヤー,eスポーツプレーヤー,プロゲーマーという言葉が浸透しているかと思いますが,そのタイトルや,ゲーム自体に興味がない人でも,スター選手が見たくて会場に足を運んだり,大会を配信で視聴したりと,そういった“人”をベースに潜在的なファンを巻き込んでいく,ファン層を広げていけるような国民的スターはまだ登場していないと思うので,我々としては3社の力を集結して,そういったスターを生み出していければと。
4Gamer:
ビジネスとしてのeスポーツという面ではいかがでしょうか。
大友氏:
やはり,eスポーツがブームにはなっていますけども,一時的なものではなく,これから文化として根付き,産業になっていくために,理想や綺麗ごとだけでなく,しっかりとお金を循環させていかなければならないと考えています。現在は一部のトッププロ,一部のイベント制作会社しか収益を上げられていないという実感もありますので,我々を含めて,しっかりと循環させていける世の中を作っていければ,選手のセカンドキャリアにもさまざまなeスポーツ関連企業への就業のようなチャンスが広がると思いますし,鶏が先か卵が先かのような話にはなりますが,イベントや大会などでしっかりとお金が回って,利益を生み出せている会社が増えれば,そうした雇用のチャンスも増える。ですので,新しいeスポーツのエコシステムを作るというのが今後の目標であり,普及にも大きな役割を果たしていくと考えます。
4Gamer:
国内大会「2022 VALORANT Champions Tour - Challengers Japan Stage1」では各配信の同時接続数(YouTube,Twitchの公式チャンネル,ウォッチパーティーを含む)が24万人,国際大会「2022 VALORANT Champions Tour - Masters1」では国内の同時接続数41万人(同上)を突破するなど,日本での「VALORANT」シーンは大きく拡大していると感じていますが,日本国内での大会運営を行う「RAGE」として,シーン拡大のためにどのような動きを行いましたか。
大友氏:
これは「VALORANT」のみならずですけども,やはり先ほど申し上げたように,スターを発掘する,スターを生み出したいという思いがありますので,大会運営として注力したことは,選手へのフォーカスをしっかりと当てることです。ライアットゲームズさんと共に,各選手やチームとも密接に連携し,コミュニケーションを強化することで,これまで話してもらえなかったようなことも話せるようになったり,選手のバックグラウンドを話していただいたり。そうしたインタビューの映像も一つひとつ丁寧に仕上げました。個々の選手にスポットを当て,より多くの選手に,より多くのファンが付いてもらえるよう,そうした面に,今シーズンは今まで以上に力を入れて取り組んでいます。
4Gamer:
VCTでの印象的なエピソードはありますか。
大友氏:
日本代表のチームが海外に渡航して試合をすると思いますが,我々のメンバーの中にも現地に同行する者もいますし,同行しない者でも,空港に出向いて,出発を見送ったりしています。こうした中で,通常ではできないようなコミュニケーションもできるような,より強い選手たちとの関係性を構築できたのは,非常に良かったと考えています。
4Gamer:
ストリーマーやインフルエンサーとeスポーツの関係性,それぞれが与える影響についてはどのように捉えていますか。
大友氏:
影響度がここ2年くらいで非常に高まっているなと感じています。恐らくこれはeスポーツ業界だけでなく,ゲーム業界全体で感じていると思いますが,新型コロナウィルスの影響もあり,ゲームをプレイし始めたり,配信活動を始める方が増えたのもあって,ストリーマーさんであったり,インフルエンサーさんの視聴時間も増えている。そうした方々が参加できるイベント,大会というのも,ここ1〜2年で大きく増えましたので,ライト層を競技シーンに取り込んでもらえる役割を,大きく担っていただいているのではないかなと。
例えば,トッププロだけの配信をした場合の視聴者数を5とします。ストリーマーさん,インフルエンサーさんを巻き込んだウォッチパーティーですとか,大会を実施した後にトッププロの大会を行ったりした場合,視聴者数は10にもなるといったような,乗算にすることが可能になるんです。
4Gamer:
現在の日本国内だと,どうしてもeスポーツというより,ストリーマー,インフルエンサーの人気が先行している現状がありますが,eスポーツがこれに追いつく,もしくは追い越せるようなパワーを持つには,どのような試みが必要だと考えますか。
大友氏:
お互いの相互関係が非常に重要だと考えています。ストリーマー,インフルエンサーの皆さんが発信して視聴者の方にタイトルを認知してもらい,プレイしてもらう。その上で競技シーンに興味を持っていただくプロセスが必要になります。
タイトルやゲームではなく,「○○さんがゲームをしているのが好き」のようなファンの方も多いと思いますが,一方で,その方が出られるようなイベント,大会があった際に,「見てみよう」と視聴していただくと,新たな世界が広がるのではないかと。「○○さんが配信しているゲームってこんなに上手いプレイヤー(プロ選手)がいるんだ!」となれば,ゲームプレイの更なる奥深さであったり,競技シーン,選手に興味を持っていただけることを期待できます。
ありがたいことに,ストリーマーさんやインフルエンサーさんはゲームが本当に大好きなので,タイトルの競技シーンが盛り上がることに期待を抱いてくださっています。日頃より大変ご協力いただいておりますので,良いシナジーを今後とも生み出せていけると信じています。
4Gamer:
2022年5月7日,8日には,日本初の「VALORANT」オフライン有観客イベント「RAGE VALORANT 2022 Spring」が,「RAGE」主催の下で開催されます。難しい状況下での開催になりますが,オフラインイベントを開催する経緯と,目標についてお聞かせください。また,現段階で手応えはありますか。
大友氏:
ありがたいことに大変なご好評をいただき,販売開始後,アリーナ席は即完売でして,その他の席に関しても24時間以内に完売することができました。もちろん,会場の大きなキャパシティ,価格設定から“本当に埋まるのか”という不安も一部ありましたが,過去の「VALORANT Champions Tour」の同時視聴者数などから“狙える”との見立てもありましたので,ひとまず完売することができ,ホッとしているというのが正直なところです。それと同時に「VALORANT」がリリース後,非常に大きなコミュニティを持つタイトルになった1つの証明になると考えています。
4Gamer:
有料でのeスポーツイベントはこれまでにも何度かありましたが,そこで成功するかどうかは一つの指標になりそうですね。
大友氏:
それと,オフラインイベントはRAGEとしても2019年を最後に途絶えており,再チャレンジしたい事項の1つだったというのもあります。新型コロナウィルスの感染状況や,公式大会のスケジュールなどのタイミングがあればやるという状況でしたので,今回はそのタイミングが来た,ということになります。
かなりタイトでリスクもある中でしたが,ここ1〜2年のeスポーツイベントはオンラインでの配信がメインとなっており,リアルイベントは少なかったため,RAGEとしても最初に大きな花火を打ち上げて,業界全体の明るい空気作りをしたいと考えています。予断を許さない情勢下ではありますが,リスクを背負ってでも,eスポーツ業界の発展に寄与するチャレンジを行いたくて,今回のイベントを開催することにしました。
4Gamer:
ありがとうございます。2022年夏には女性プレイヤーに向けた大会「VALORANT Game Changers」(外部リンク)が日本でも開催される予定だとお聞きしています(海外では2021年より開催)。
こちらについてはまだ大きく告知されていないようですが,どのような盛り上がりを見せると考えていますか。
大友氏:
エントリー数は国内初ということもあり,読めない部分も大きいですが,こちらに関しても「VALORANT Champions Tour」と同様の形で,大きく展開していきたい考えです。
4Gamer:
RAGE総合プロデューサーとして,「VALORANT」というタイトルと,日本国内の「VALORANT」シーンがどのように発展していくことを望んでいますか。
大友氏:
リリース直後に視聴者数が跳ね上がるタイトルは多くあると思いますが,その後も衰えることなく,右肩上がりでユニーク数が増加している,本当に稀なタイトルだと思っています。RAGEとしても,さまざまな形式で「VALORANT」というタイトルとお付き合いできればと考えております。
現状,「VALORANT」はPCのみのサービス提供ということもあり,他のデバイスと比較するとプレイにはややハードルがありますが,それを乗り越えて「観る」から「プレイする」側へ移行していただくことをライアットゲームズさんも望んでいると思いますし,自らプレイすることで面白さであったり,奥深さというのを更に実感していただけるのではないかなと。そういったタイトルになるパワーは存分に秘めていると思いますので,お力添えをしつつ,今後,さまざまな切り口で,日本でトップのeスポーツシーンをライアットゲームズさんと共に「VALORANT」で作っていきたいですね。
4Gamer:
今後,RAGEというブランドは,eスポーツシーンでどのような存在になることを目標としていますか。
大友氏:
やはり,“eスポーツといったらRAGEだよね!”というイメージを持っていただくことですね。コアゲーマーだけでなく,ゲームをプレイしていない層にも,“eスポーツ? RAGEのことでしょ?”と言っていただけるような,確固たるポジションを築いていきたいです。
4Gamer:
大友さんは学生時代,バスケットボールを熱心にプレイされており,ゲームとはあまり縁がなかったという記述を見たことがあるのですが,eスポーツに携わられるようになった現在,ゲームに対しての認識はどのようなものになりましたか?
大友氏:
幼少期からバスケットボールをプレイしていまして,学生時代はインターハイであったり,県の代表選手となって国体に出場したりもしています。大学以降もバスケットボールを続けるという選択肢もありましたが,当時はB.LEAGUEのようなものはなく,社会人バスケ(JBL)しかなかったので,“このままバスケ一本で生活していくには難しい”と判断したんです。
キャリアを考えた結果,ビジネスマンになろうと理系の大学に進み,無事にビジネスマンとなったわけですが,eスポーツに出会い,そのシーンを見ていると,自身の過去と重なる部分がありまして。“eスポーツの分野で熱中している若者たちに,僕のような思いをさせたくない”という気持ちが芽生えたんですね。我々を含めたeスポーツ業界で,本気でプロを目指している若いプレイヤーたちの大きな決断を後押しできるような環境を作りたいですし,そのためにも,やはりセカンドキャリアを含めたエコシステム,親御さんもバックアップできるキャリアといった土壌づくりを,RAGEを通じて進めていきたいですね。
4Gamer:
それでは,最後に4Gamerの読者にメッセージをお願いします。
大友氏:
eスポーツの大会であったり,イベントというものを,配信で見た経験がない方もいらっしゃると思いますし,リアルイベントに参加されたことがない方も多いと思いますが,少しでも興味があるタイトル,過去にプレイしたことがあるタイトル,ストリーマーさんやインフルエンサーさんの配信でしか見たことがないタイトル……。そういったタイトルが,もし1つでもあれば,ぜひ大会の配信を視聴していただいたり,可能であれば会場へ足を運んでいただいて,eスポーツの熱気を見て,感じていただければ。
あと,僕自身のTwitterの運用も頑張っていこうと思っていまして,“こうしたイベントをやってほしい!”とか,RAGEに対してのリクエストがあれば,ぜひリプライなどでコミュニケーションを取っていただければと(笑)。
4Gamer:
今後の展開にも期待しております。本日はありがとうございました。
「RAGE VALORANT 2022 Spring」公式サイト
「VALORANT」公式サイト
- 関連タイトル:
VALORANT
- この記事のURL:
(C)2020 Riot Games Inc.