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「Project L」開発者,EVO創始者のキャノン兄弟に聞く,過去の経歴や開発への哲学。“次に何ができるか”という思いが原動力
格闘ゲームの祭典とも呼ばれる大型イベント「EVO」の創始者であり,現在はライアットゲームズの新作格闘ゲーム「Project L」の開発に携わっている二人だが,これまで公の舞台に出ることがあまりなかったため,どういった経歴の人物なのか知らない人も多いだろう。
今回4Gamerは,イベントの聞き手として,eスポーツキャスターとして活躍する,ハメコ。氏を送り込み,さまざまな質問をぶつけてみた。二人の経歴はもちろん,格闘ゲームやコミュニティに対する情熱,開発の哲学,「Project L」の開発話などを聞けたので,ぜひ読み進めてほしい。
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ハメコ。氏:
お二人の過去の経歴,格闘ゲームのルーツやバックグラウンドについて聞かせてください。
Tom Cannon氏(以下,トム氏):
自分の人生はずっと格闘ゲームと共に生きてきました。最初に遊んだタイトルは「ストリートファイターII」で,グラフィックスのすばらしさ,競技としてゲームを楽しめることにすごく驚きました。
当時はeスポーツという言葉はありませんでしたが,いろいろな場所に赴き,大会に参加してきました。その後もさまざまなタイトルを遊んできましたが,2002年にトニーと一緒にイベントを作ることを決め,「EVO」が生まれたんです。当時の大会は小さいもので,参加者は64人ほど。それがドンドンと大きくなって今の規模※にまで成長しました。
ほかにも,2012年頃に格闘ゲームのコミュニティに貢献することを考え,格闘ゲーム「Rising Thunder(ライジングサンダー)」の開発を始めました。小さなチームで1年半ほどかかりましたね。このとき,ライアットゲームズから開発の知見を得ましたが,同時に一緒に組むことでもっと面白いものが作れると思ったんです。そして現在は一緒になって,「Project L」の開発を進めています。
※EVO Japan 2023の来場者数は3万5000人を記録
「EVO Japan 2023」,3日間の来場者は延べ3万5000人を記録。各種目で優勝した選手のコメントも公開に[EVO Japan 2023]
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Tony Cannon氏(以下,トニー氏):
私は大学を卒業後,トムと一緒にIT系企業で働いていました。働きながらシカゴやカリフォルニアで格闘ゲームを遊んでいたんですが,どの場所でもプレイヤーの格闘ゲームへの情熱が変わらないことに気付かされたんです。
2000年には,日本対アメリカのエキシビションマッチがあって,日本に行く機会がありました。当時はお互いにどういった環境で格闘ゲームを遊んでいるか知らない状態でしたが,そこで日本のプレイヤーに圧倒されたことを覚えています。
そういった経験もあって,EVOを世界の格闘ゲーマーを招待するような大きな大会にするべく,少しずつ発展させていきました。2000年初頭と言えば,ときど,MOV,ダイゴ(ウメハラ)など,多くの日本人選手が参加してくれて,より国際的なものになっていきましたね。
ハメコ。氏:
ちなみに二人はこれまでいくどとなく格闘ゲームで対戦してきたと思うんですが,どちらが強いのでしょうか。
トニー氏:
トムと最初に大会で対戦したのは1991年のニューメキシコでした。決勝でトムと戦ったんだけど,優勝したのはトムでした。タイトルはストIIで,トムはダルシム,私はガイルを使っていたんだけどね。それからはいつもトムが好成績を残しています。
ハメコ。氏:
補足すると,ストIIのダルシム対ガイルは,ダルシムがかなり有利な組み合わせです(笑)。
トム氏:
キャラクターだけじゃなくて,自分の腕前だよ(笑)。
ハメコ。氏:
日米のエキシビションがEVOに大きな影響を与えたとのことですが,ほかにモチーフとなった大会や影響を受けた出来事があれば聞かせてください。
トム氏:
国際大会の面白さをとくに感じたのはEVOの2004年大会です。当時はアメリカで「ストリートファイターIII 3rd STRIKE」がとくに流行していて,日本対アメリカの5on5を実施したんです。そのイベントでアメリカは壊滅的な敗北を喫しました。アメリカのレベルは上がっていたんですが,それをさらに上回る日本のプレイヤーを見て,驚きましたし,さらに大会を大きくしていきたいと感じましたね。
2004年大会は,「背水の逆転劇」もありましたが,あれにもすごく驚かせられましたね。当時はすべての攻撃をブロッキングして逆転するなんて考えもできませんでした。不可能と思えることでもゲームで実現できてしまう。これまででもっとも刺激を受けた出来事でした。
トニー氏:
EVOを始める90年代から我々は自分たちで大会を開いていました。参加者はみんな格闘ゲームに情熱をもって取り組んでいましたし,誰がもっとも強いか決めるべく対戦していました。
格闘ゲームはプレイヤー同士で競い合うものであるが,同時に生涯の友情を生み出すものでもあります。だからこそ,EVOは格闘ゲームが好きな人であれば誰でも参加でき,楽しめるオープントーナメントにしています。
ふらっと遊びにきて,1回戦でいきなりウメハラ選手と対戦することだってあります。勝つのは難しいかもしれませんが,誰だってウメハラ選手に挑み,勝利するチャンスが与えられているのです。世界最高の選手でも初心者でも,同じコミュニティの一員になれる。これこそが大会のすばらしいところであると考えています。
ハメコ。氏:
トニー氏はロールバックネットコード「GGPO」の開発でも格闘ゲーム業界に貢献しています。こちらはどういった経緯で開発することに至ったのでしょうか。
トニー氏:
もともと格闘ゲームはアーケードで遊んでいたんですが,仕事が忙しくなり,オンラインで対戦することが増えてきました。ただ,当時のオンラインのディレイ方式はプレイヤーにとってあまり好ましいものではありませんでした。
そこでネット対戦の環境を改善できないか考えたんです。私はコンピューターサイエンスの専攻でしたし,何よりプレイヤーの視点を持っています。いろいろな実験を重ねるうちにロールバックネットコードを思いつき,実際に使って友人と対戦を繰り返しました。
最初はカリフォルニアの州内で,次にカリフォルニアとバージニア間で,そしてカリフォルニアとオーストラリア間でといった形で距離を伸ばしていきました。
ハメコ。氏:
イベントではEVOで,ソフトウェアではGGPOで,格闘ゲーム業界に対して大きな2つの貢献,成功があります。自分たちでこれらの成功をどのように捉えていますか。
トム氏:
成功と言われると恐縮してしまいますね。EVOについては我々が想像していた以上の展開になっていますし,トニーがGGPOを開発したのも,お金を稼ぐためではなく,格闘ゲームをよりよくしていきたいという思いからです。
GGPOはオープンソース化もしていますし,それでたくさんの新しい技術が生まれ,さらに格闘ゲームがよくなっていくことを望んでいます。「次に何ができるか」という思いが,いつも原動力になっています。
ハメコ。氏:
ここからは「Project L」について聞かせてください。開発を進めるうえで過去の格闘ゲーム経験がどのように役立っていますか。
トム氏:
トニーのGGPOの話がとてもいい例ですね。我々はプレイヤー視点を持っているので,どんな体験を提供するべきかを理解していますし,これまでもプレイヤーに楽しんでもらうためにさまざまなことを試してきました。
EVOであれば,これまでのすべての大会でTOP8のフォーマットを採用していますが,これはトーナメントを盛り上げる面白いやり方だと考えています。
そういった取り組みから学んできたことをゲームにも詰め込めると考えています。例えば,ランクシステムもそうですね。プレイヤーが体験する感情の流れがすごく重要だと考えていて,そういった感情を得られるゲームを目指しています。
ハメコ。氏:
「Project L」はFree to Play(F2P)ですが,格闘ゲームにおいてF2Pタイトルが成功した事例はありません。しなかった理由をどのように分析していますか。また,マネタイズの方法は考えていますか。
トニー氏:
より多くのプレイヤーに「Project L」に触れてもらいたいという思いがあります。普通の格闘ゲームですと,さまざまな障壁がありますが,無料であればまず体験しやすくなるのは間違いありません。
そして重要視していることの1つに,ゲーム内で有利になる課金アイテムを売らないことがあります。プレイヤー同士が無料でもフルパワーで楽しめる体験を提供したいと考えています。まずはプレイヤーに「Project L」を好きになってもらうことが大切なんです。
マネタイズに関しては,ライアットゲームズには「リーグ・オブ・レジェンド」や「VALORANT」など,参考にできるタイトルが数多くあります。ただ,それらが格闘ゲームにふさわしい形であるかは考える必要があります。
ハメコ。氏:
「Rising Thunder」もF2Pタイトルでしたが,開発経験はどのように生かされていますか。必殺技のクールダウンシステムを搭載するなど,「リーグ・オブ・レジェンド」のシステムと近く,興味深いタイトルでした。
トム氏:
昨今,本当にたくさんのすばらしい格闘ゲームが生まれています。このEVO Japanでもそんな多くのタイトルを見られてうれしく思っています。それらのタイトルに対抗するためには新しいことに挑戦しなければなりません。より良いものにするべく,新しいことを試し,改善点を見つけていくのです。
「Rising Thunder」のクールダウンシステムは,そうした実験の1つでしたが,うまくいきませんでした。ボタンが使えなくなる,プレイヤーの選択肢を奪うことはあまりいいアイデアではありませんでした。
ただ,そういった経験もすべて「Project L」に落とし込めればと考えています。みなさんが「Project L」を遊ぶとき,プレイヤーから教えられることもたくさんあります。どんなプロジェクトでも常に学ぶ姿勢を崩さず,改善し続けることが大切なんです。
ハメコ。氏:
「リーグ・オブ・レジェンド」は2週間に1度アップデートされますが,「Project L」においてはどのようなアプローチを取る予定でしょうか。
トム氏:
「リーグ・オブ・レジェンド」のいいところは,常にアップデートをしているところです。もしゲームが悪い状態になってもそれは長く続きません。
一方で格闘ゲームの面白いところは強力なテクニックを見つけることで,そこからさらに発展し,対策が生み出されていきます。しかし,頻繁にアップデートをしてしまうと,そういったことは起きなくなります。ですので,2週間といった短いスパンでのアップデートはしない予定です。
格闘ゲームとして最適なアップデートのタイミングを見極めたいと考えています。これはプレイヤーのみなさんの意見を聞きつつ,慎重に決めていきたいですね。
ハメコ。氏:
「Project L」では,現在登場する5人のチャンピオンが発表されています。チャンピオンを選ぶときどんな基準を設けていますか。
トニー氏:
新しいチャンピオンを採用するとき,いろいろと考えることはあります。投げキャラなのか,遠距離キャラなのか,キャラクターの設計図はとても重要です。
ただ,プレイヤーの個性が表現できるかも考えねばいけません。そして同時に「リーグ・オブ・レジェンド」のゲーム要素も考慮しています。そのキャラが持つイメージはどういったものか,それを格闘ゲームで表現するにはどうすればいいかといった具合ですね。
「リーグ・オブ・レジェンド」は俯瞰視点ですが,格闘ゲームの場合,もっと近づいた視点になります。格闘ゲームに落とし込みつ,「リーグ・オブ・レジェンド」としても正しいものにする。良いと思えるまで改善を続けてチャンピオンは作っています。
ハメコ。氏:
最後に,イベントの感想を聞かせてください。
トム氏:
ここからはEVO Japanに遊びにきたみなさんのことが見えています。格闘ゲームを愛する多くの人が,1つの場所に集まるのは本当にすばらしいことです。これだから毎年EVOは楽しみですし,これこそが我々の実現したいことなのです。今日は本当にありがとうございました。
トニー氏:
格闘ゲームを遊んでいて本当にうれしいことは,こういった大会で顔なじみのプレイヤーに会えることなんです。年に1度しか会わない人もいますが,家族との再会や同窓会に参加するときのような気持ちになります。
今日ここでみなさんと会えたことがうれしいですし,格闘ゲームを通じて出会った人々は私の人生になくてはならないものです。みなさんとラスベガスで再会できることを楽しみにしています。
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