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[CEDEC 2023]盛り上がるとは,声が出ていること。講演「協力ゲーム『PICO PARK』で"声"を生み出すために実践したこと」をレポート
TECOPARK代表取締役の三宅俊輔氏 |
「PICO PARK」は三宅氏が音楽以外を1人で制作したインディーゲーム。Nintendo SwitchとPC(Steam)向けに配信されており,現在は350万本を超えるヒットになっている。本作は2〜8人でプレイできる横視点のアクションゲームであり,ステージをクリアするためにはプレイヤー全員が力を合わせる必要があるのだ。
「大人数でわちゃわちゃ盛り上がれる協力ゲーム」というコンセプトで開発がスタートした本作だが,「盛り上がる」といっても何をもって盛り上がったとするかは色々な意見がある。ここで三宅氏は,盛り上がっているゲーム=“声”がよく出ているゲームと定義。プレイヤーたちに声を出させるため,以下に挙げる19点を工夫した。なお,本稿では“死”という言葉が頻繁に使われるが,これはビデオゲーム「PICO PARK」における“ミス”のこと。
1:プレイヤー間で行動制限が生まれるように
2:プレイヤー全体で行動制限が生まれるように
3:小さないじりと笑いを生む低リスクな障害物を設置
4:裏切りやすいギミックを用意
5:ゴール手前でふざけられる要素を用意
6:無意識に非協力的行動に誘導
7:掛け声が生まれやすいギミックを用意
8:“声”が上がる不可抗力ギミックを用意
9:“声”が上がる死に際を大事にステージ設計
10:死んだ直後にちょっとした自由時間を作る
11:得意な人が苦手な人を助けられる仕組みを用意
12:ヒーローを生むステージをごくわずか用意
13:個人責任が強いステージはごくわずか用意
14:制限時間は一部のステージに用意
15:初見殺しは,全体責任になるよう用意
16:場合によっては納得性よりツッコミを優先
17:「なにこれ?」から始まる多種多様なステージを用意
18:感想共有時間を作るためステージは小さめのクリア型
19:「かわいい」と言ってもらえるビジュアルに
1:プレイヤー間で行動制限が生まれるように
本作のプレイヤーキャラクターは,誰かが上に乗ると自分がジャンプできないなど,互いに干渉し合う。行動が制限されるため,自然とプレイヤーは声を掛け合うようになる。
2:プレイヤー全体で行動制限が生まれるように
「ステージ内に青→赤……と移り変わる信号を設置。信号が青の時は動いてOK。赤の時に誰かが動いているとミスになる」など,ステージのルールによってプレイヤーの行動を制限すると,呼びかけやすくなる。
3:小さないじりと笑いを生む低リスクな障害物を設置
引っかかってもミスにならない障害物を設置し,三宅氏曰く「死なない『あ』」を作り出す。例として挙げられたのが,落ちてもミスにならない床の穴だ。例え落ちてもすぐに戻ってこられるため,ゲーム的には無意味に思えるのだが,ミスをしたことでプレイヤー同士の「いじり」や,笑ってのごまかしが始まる。つまり,会話が作り出されるわけだ。ゲームの難度をどうするかというより,どう会話させるかで設置された障害物であり,本作のコンセプトを象徴している。
4:裏切りやすいギミックを用意
5:ゴール手前でふざけられる要素を用意
プレイヤーとひと言でいっても「真面目な人」「ふざけたがる人」など,その性格はさまざまだが,後者は会話のスターターとなり得る。そのため,後者が思わずふざけたくなるようなギミックが用意されている。キーワードは「裏切り」と「ゴール手前」だ。
裏切りの例として挙げられたのは,崖に橋を架けるギミック。対岸にいるプレイヤーがスイッチを押している間だけ橋が架かり,スイッチから離れると橋は消えてしまう。こうなると,ふざけたがる人は渡っている人を落としたくなるのだ。ただ,会話を生み出したい,そのために裏切らせたいとはいっても,プレイヤーの仲を引き裂くのが目的ではない。例に挙げた崖も,落ちてもミスにならない低リスクの穴とすることで,ふざけ合いの範疇に留めている。また,ゴール手前に「ふざけたがる人」を刺激するようなギミックを用意することにより,ステージをクリアしているのにプレイを続けるようなおふざけが発生する。
6:無意識に非協力的行動に誘導
さまざまなプレイヤーたちが集まると,必ず出てくるのが我先にと進みたがる人である。本作ではこうした行動も会話を生み出すきっかけとして利用している。1人が足並みを乱す非協力的な行動をすると,他のプレイヤーがゴールにたどり着けないギミックを用意。残されたプレイヤーから突っ込みが出やすいようにしている。これは個人的な意見だが,裏切るというほどの意志や茶目っ気ではなく,つい取った行動が非協力的なものになってしまった,という位の軽さが本作ならではのチューニングといえるだろう。協力プレイにおいては,我先にと進みたがる人が感情の摩擦を生みがちだが,これを笑いに消化した点で意義深い取り組みに思える。
7:掛け声が生まれやすいギミックを用意
全員が同じ行動を取る場合は掛け声が出やすい。「皆で同じボタンを押すことでキャラクターを操作する」「飛んでくるボールを次々とヘディングで運んでいく」といったギミックは,こうした意図で実装されている。
8:“声”が上がる不可抗力ギミックを用意
仲間に引きずられて崖から落ちる,移動していると壁に押し返されるなど,プレイヤーの意図に反して移動させられるギミックを用意すると,ミスになるかどうかに関わらず声が上がる。
9:“声”が上がる死に際を大事にステージ設計
ここでいう“声”とは悲鳴のこと。「悲鳴は死んだ時でなく,死にそうなときに上がる」「大きな“声”が上がるのは,死んだ瞬間ではなく死に際,つまり死が近づいてきてから実際に死ぬまでの間が長いときである」という三宅氏の分析により,本作では「悲鳴型」「即死型」という2つの死に際が用意されている。悲鳴型は死が近づいて来てから死ぬまでが長く,長い悲鳴を上げさせられる。逆に即死型は死ぬまでが短く,悲鳴というよりは怨嗟の声を上げさせるために用いているという。
10:死んだ直後にちょっとした自由時間を作る
誰かが死ぬとステージの最初からやり直しになるが,本作ではあえてやり直しとなる前に自由に動ける時間を設けている。こうすることにより,残ったプレイヤーは後を追ってギミックに飛び込む後追い自殺的な遊びを始め,ここからも会話が生まれる。もちろん,すでに誰かが死んでいるのでミスは確定しており,自由時間に何をしたからといってやり直しが回避できるわけではない。純粋に会話を起こすために用意された自由時間である辺りが本作らしい。
11:得意な人が苦手な人を助けられる仕組みを用意
12:ヒーローを生むステージをごくわずか用意
13:個人責任が強いステージはごくわずか用意
アクションが得意な人が,そうでない人を助けられるというのは協力プレイの醍醐味だ。その一方で,クリアの責任が誰か1人のプレイヤーに集約されるステージも用意されている。上手くいけばそのプレイヤーはヒーローとなり,皆に褒め称えられることで会話が生まれる。しかしながら,1人だけが目立つステージがあまりに多いと,他のプレイヤーが退屈になるため,ごくわずかにするのがポイントなのだという。また,誰かがミスをしたことで全員がやり直しになるステージも用意されてはいるものの,あまり数は多くない。糾弾や擁護の声が飛び交うため盛り上がりはするが,あくまでスパイス的な扱いなのだそうだ。
14:制限時間は一部のステージに用意
アクションゲームと制限時間は切っても切れない仲。プレイヤー同士が互いに声を掛け合うため,本作のコンセプトとも相性はいいはずなのだが,こうしたステージは一部に留められている。その理由は制限時間が疲労感を増すのに加え,「PICO PARK」がマルチプレイ専用であるから。1人プレイなら自分のペースで遊べばいいが,マルチプレイだと誰かが疲れたら全員のプレイが終わってしまうのである。また「自分は疲れているのに,他の人が楽しんでいるので言い出せない」という問題も出てくるはずだ。こうした事情から,疲労感と制限時間は慎重に取り扱ったのだという。
15:初見殺しは,全体責任になるよう用意
初めて挑戦した状態では,まず回避できないようなステージ構成を「初見殺し」という。本作で初見殺しを扱う際には「みんなが引っかかる」,つまり特定の誰かがミスしたというわけではなく,全員がミスするようなステージ構成にしている。初見殺しはネガティブな感情を生みやすいが,みんなで引っかかれば共感や笑いに転化することが多いという三宅氏の経験則によるもので,実に細かいところまで気を使っていることが分かる。
16:場合によっては納得性よりツッコミを優先
キャラクターを巨大化・縮小できるステージでは,入り口より大きくなった状態でも中に入れるようにしてある。これは突っ込みが生まれるからだ。事実,発売後には多くのゲーム実況者が狙い通りに突っ込みを入れてくれたという。
17:「なにこれ?」から始まる多種多様なステージを用意
多くのパズルゲームでは基本的なギミックを組み合わせることでさまざまなステージを作るが,本作では1面限りのギミックがたくさん用意されている。これまでとは違ったルールのステージが出てくることで,プレイヤー同士の会話が発生するためだ。
18:感想共有時間を作るためステージは小さめのクリア型
1つのステージは短めで,クリア後は必ずステージ選択画面に戻るようにしている。自動で次のステージに進むようにもできるが,そうしていないのはステージ選択画面で感想を語り合って欲しいという意図から。
19:「かわいい」と言ってもらえるビジュアルに
会話を生み出すにはビジュアルも大事なので,かわいらしくカラフルなキャラクターたちが集まるゲームにしている。
数多くの横視点アクションが存在するなか,三宅氏の「PICO PARK」が好評を博しているのは,プレイヤーの盛り上がりを声の有無で捉えたことが大きいだろう。
プレイヤーを盛りあげるというテーマは,普遍的であるがゆえに追及も難しい。しかし,単にプレイヤーを盛りあげるにとどまらず,声が上がっている=盛り上がっている状況であると三宅氏は定義し,この明確な基準によって前述した19点を工夫したのだ。
本作はマーケティング的な思考というよりは,「サターンボンバーマン」「ゼルダの伝説 4つの剣+」といった作品で感じた協力プレイの楽しさを胸に開発を進めたという。そのうえで,イベントやバーに積極的に出展し,テストプレイヤーの声を集めることで改良を進めている。声が上がっている=盛り上がっているという軸がしっかりしてるからこそ,外部の意見も取り入れやすいというわけだ。インディーゲーム開発におけるコンセプトの大切さが再確認できた講演だった。
「PICO PARK」公式サイト
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