プレイレポート
SEGA AGES企画 第5回:家庭用ゲーム機初のRTS「ヘルツォーク ツヴァイ」がNintendo Switchで遊べる! 伝説の名作を検証してみよう
セガの名作を現代に蘇らせるブランド「SEGA AGES(セガエイジス)」シリーズ。Nintendo Switch向けのプロジェクトでは,全19タイトルのラインナップがリリースされている。
今回,4Gamerでは“セガっ子”なライター陣に「心に残るゲーム」について,その思いを綴ってもらってきたが,第5回(最終回)は徳岡正肇氏が選ぶ「ヘルツォーク ツヴァイ」だ。
「SEGA AGES ヘルツォーク ツヴァイ」公式サイト
現代においてはMOBAとして発展したRTS(リアルタイムストラテジー)は,eスポーツシーンを中心に巨大なジャンルとなっている。ただ,このジャンルを家庭用ゲーム機にもたらした最初の作品であるメガドライブ用ソフト「ヘルツォーク ツヴァイ」(1989年)は,長らく現行のコンシューマ機ではプレイできないゲームだった。
しかし,2020年8月にSEGA AGESシリーズの1本として,Nintendo Switchに移植されたことで,ついに誰もがプレイできる作品として復活を果たしている。最初期のRTSは当時,どれくらいRTSとして完成していたのだろうか。「ヘルツォーク ツヴァイ」がどんなゲームなのかを振り返ってみたい。
これが最初期のRTSだ!
「ヘルツォーク ツヴァイ」(以下,HZZ)において,プレイヤーは政府軍ないし革命軍を指揮して,敵対勢力の本拠地の破壊を目指す。画面は見下ろし型で,画面の中央付近にプレイヤーの「自機」がある全方向スクロール型のゲームだ(自機が存在するRTSは,現代においてもやや珍しいと言える)。
さて,HZZは現代の標準的なRTSに比べると,なかなか個性的なシステムを有している。とはいえ,本当に何もかも違うというわけではないので,まずはRTSの基本であるマップから見てみよう。
○マップ
(1)HZZはマップ上に配置された敵の本拠地を破壊するのが目的である。また,自分の本拠地を破壊されてはならない。
(2)マップにはそれぞれの本拠地以外に,中立の拠点が存在する。拠点を占領して自軍の拠点とすることで,さまざまなメリットを得る(敵が占領した拠点を取り返すこともできる)。
(3)マップには平原以外に崖や水など,さまざまな地形がある。大きく分けてマップは8種類あり,それぞれ異なる戦略が求められる。
中立の拠点を占領してアドバンテージを取りつつ,敵の本拠地を破壊する。これは現代においてもRTSの基本だ。なんのかんので,HZZの中心となるのは陣取りである。
○生産
HZZでは自軍のために戦ってくれるユニットを生産できる。
(1)ユニットごとに定められた資金を支払い,一定時間待たなくてはならない。
(2)生産の指示は原則,好きなタイミングで行える。また,このときユニットに対して命令も同時に発行する必要がある(有料)。これについては後述する。
(3)もし,すでに生産のキューが入っている,または生産したユニットが存在する場合は,そのユニットをマップ上に配置するまで次の生産を開始できない。
これだけを見ると,ユニットに対する命令が有料である点と,「生産が終わったユニットをマップに配置するまで次の生産が開始できない」というルール以外は,一般的なRTSの生産システムそのままと言える。
○自機
HZZは自機を中心としてゲームが進行する。
(1)自機はロボット形態と飛行形態に自由に変形できる。
(2)自機は攻撃能力を持ち,敵のユニットや敵機を攻撃できる(拠点や本拠地に対する攻撃力は持たない)。
(3)ロボット形態の移動速度は遅いが,燃料(E)消費が少ない。飛行形態は移動速度が速いが,激しく燃料を消費していく。
(4)燃料が0になると,自機は爆発四散して本拠地でリスポーンする。本拠地や拠点では燃料が補給できる(本拠地または自軍拠点の上空にいれば,自動的に回復する)が,リスポーン直後は燃料が少ないため,数秒間は本拠地上空で待機しなくてはならない。
燃料によって行動範囲が縛られるということ,自機の攻撃が非常に頼りになることが大きな特徴だろうか。とはいえ,対空攻撃ユニットの攻撃力は非常に高いので,「敵がしっかり防御を固めているところに飛び込んで無双」という展開にはならない(むしろ敵ユニットの数によっては,一瞬でリスポーン送りになる)。
○輸送
HZZの鍵となるギミックが「自機によるユニットの輸送」である。
(1)自機が飛行形態の場合,自軍のユニットを空輸できる(イメージとしては「飛行機でユニットをつかみ上げる」感覚)。
(2)ユニットの生産が終わっている場合,本拠地または自軍拠点の上で「ユニットをつかむ」ことで,生産が終わったユニットを空輸できる。これ以外の方法でユニットをマップに配置することはできない。
(3)輸送中は燃料を大量に消費する。
生産したユニットは,自機を使うこと以外にマップ上へ配置する手段がないというのが重要なポイントだ。一般的なRTSのように,生産が完了したら生産施設から自動的にユニットがマップ上に登場してくれることはない。
一方,生産は「特定の拠点で生産している」という概念がないので,生産が完了すれば本拠地ないし好きな自軍拠点から「取り出す」ことができる(取り出したユニットはマップ上に存在し続ける)。このため,これから占領したい拠点の近くにある自軍拠点からユニットを取り出し,すぐ最前線に空輸しては次のユニットを生産したり輸送したり……という流れが基本となる。
○ユニット
HZZには8種類のユニットが存在する。
(1)TAX-52:戦車。地上戦の主力となる。足が遅いのが難点。
(2)FWA:バイク。移動速度は極めて速いが,戦闘力は低い。
(3)SAM-42:対空車両。飛行形態の敵を打ち落としてくれるが,敵がロボット形態になると無力。
(4)AMR-51D:装甲車。バランスのとれたユニットだが,中途半端なことにもなりがち。
(5)GRM-34A:固定砲台。大変に高価だが高い防御力を発揮する。
(6)INFANTRY:歩兵。拠点を占領できる唯一のユニット。非常に重要だが,戦闘力には期待できない。
(7)ST-57U:ボート。水のあるマップで活躍する。
(8)SUPPLY:補給車。周囲のユニットに弾薬を自動的に補給してくれる……のだが,頻繁に迷子になる。チュートリアルでは「迷子になって谷底に落ちていなかったら驚くレベル」とまで言われる。
拠点を占領できるのは歩兵のみであり,敵の本拠地にダメージを与えられるのは生産したユニットのみだ。
また,ユニットは生産時に命令を発行する必要がある(繰り返しになるが命令も有料)。命令にはさまざまな種類があるが,「拠点を占領しろ」(歩兵専用命令)や「基本的に待機し,敵が接近してきたら迎撃しろ」「その場から動かず,迎撃だけ行え」「敵に向かって移動して攻撃しろ」「敵本拠地を攻撃しろ」の5つを使い分けることが基本となるだろう。
この「ユニットに対する命令」が,本作の大きなキモと言える。
現代的なRTSと同じく,本作においても生産したユニットを逐次投入していたのでは,各個撃破されるだけという展開になりがちだ。そこで,まずは「その場から動かず,迎撃だけ行え」系の命令を発行したユニットを生産し,十分な数が揃ったところで「敵本拠地を攻撃しろ」という命令をあらためて発行するというのが,一般的な勝ち筋となる。
そして,本作においてもユニットに対して新しい命令を発行し直すことは可能だ。……可能なのだが,これが非常に大変だ。自機を飛行形態にして,命令を発行し直したいユニットを「つかんで」,新しい命令を発行し,もう一度マップ上に配置し直す。この一連のアクションを,待機状態のユニットに対して1つずつ行わなくてはならない。
本当は一斉に行動してほしいにもかかわらず,ユニットに対して1つずつ命令を発行し直すのだから,「これじゃ全然,一斉行動じゃないぞ」という惨状を呈しやすいのだが,問題はそれだけではない。自機は飛行状態なので燃料はどんどん減り,補給の時間が必要になるし,操作ミスや操作のもたつきもあり得る。このあたりはマウスで範囲選択して一斉行動が可能なゲームに慣れてしまった現代人にとっては,かなり厳しいUIと言えるだろう(もっとも「そういうゲームなのだ」と言われれば,その通りである)。
ちなみにユニットにも燃料と弾薬が設定されているので,放置していると燃料切れや弾薬切れになって戦闘不能に陥る。これらの補給にはSUPPLYを置いておくのがベストだが,ユニットを自軍拠点の上空まで空輸することで強制的に補給させるという手もある(この方法ならユニットのHPも回復する)。
○占領
最後は占領だ。前述のとおり,拠点を占領できるのは歩兵のみである。
(1)拠点に歩兵を4ユニット侵入させると,その拠点を占領できる。
(2)占領した拠点は,敵が歩兵を4ユニット侵入させるまで,自軍の拠点となる。
(3)敵の歩兵が侵入した場合,自軍の歩兵を侵入させ直すことができる(侵入した歩兵は相殺されていく)。
(4)占領した拠点からは,ユニットを生産するためのコスト(G)が毎秒得られる。また,自軍拠点は自機の燃料補給にも利用できる。
ゲームが始まったら,まずは歩兵を生産して,本拠地から一番近い拠点に送り込んでいく。自機は燃料切れでもリスポーン送りになるので,このようにして自軍拠点(=燃料補給地点)を確保しないと,自機の行動範囲が広げられない。燃料が満タンでもマップ全体の半分程度しか移動できないので,初手は近隣の拠点を占領することだと考えていいだろう。
この「自分が行動できる範囲を拡大していくことで優位に立つ」という考え方は,現代的なRTSにも引き継がれている要素だ。
RTSの基本はすでに完成しているが……
さて,こまごまと説明してきたが,あらためて「HZZがどれくらい現代的なRTSと共通しているのか」をチェックしてみよう。
(1)プレイヤーの課題
基本は陣取り。ユニットをマイクロマネージメントしつつ,経済での優位も固めなくてはならない。いまなお多くのRTSにおいて提示される課題を,HZZは提供している。
(2)生産
生産キューが存在しない。実は古いRTS(初期の「Age of Empire」が典型)にも生産キューが存在しない作品はあったので,最初期のRTSであるHZZに生産キューが存在しないのは必然と言えよう。
一方,生産したユニットが自動的に配備されないというのは,今となってはとても珍しい仕様だ。
(3)「自機」の概念
ソロシナリオでもない限り,RTSにおいて「自機」の概念は喪失していると言っていい。その一方で現代に至っては,「自機」のみを操るMOBAがRTSのメインストリームとなっているというのは,実に興味深い流れだ。
ちなみにコンシューマ機でのプレイを前提としたRTS(つまり,マウスではなくコントローラで遊ぶことを前提としたRTS)の中には,「自機」が存在する作品もある。そういう意味でHZZの仕様は,極端に例外的なものではない。
(4)ユニット
「ユニットに一度命令を出せば,あとは命令に従って勝手に行動する」というUIは,これ以降のRTSにも引き継がれている。きめ細かな命令の出し直し(ユニットのマイクロマネージメント)が戦況を変えうるところまで含めて,HZZの段階ですでに完成形と言える。
(5)輸送
HZZをHZZたらしめているのが,このシステムだろうか。
ユニットを高速で輸送できるというメカニズムは,これはこれで展開がスピーディになるため,なかなか面白い。だが,一括輸送ができないこと,そして輸送UIを経由しなくては命令の再発行ができないことが合わさった結果,「純粋に単純作業の精度が高いほうが有利」な状態になっている。「HZZって,そういうところを競って楽しむゲームなの?」という問題は存在する。
HZZの興味深いところは,これほどまでにRTSとして完成しているにもかかわらず,実際にプレイしてみると,非常に独特のプレイフィールが得られてしまうことだろう。その理由はさまざまだが,私見をまとめてみよう。
- 燃料 面白い要素ではあるのだが,ゲームのテンポが崩れる要因にもなっている。とくにRTSはテンポを楽しむ側面が強いこともあり,対戦の駆け引きとは異なるタイミングで小休止を余儀なくされると,そこで「テンポが崩れた」感覚が強くなる。
- 自機の攻撃能力 自機による攻撃の部分だけ,完全にレトロ・シューティングゲームになっているため,とくに目立つ。また,AIがコンピュータならではの精度で自軍のユニットや自機に猛攻撃を仕掛けてくると,「いやいやいや」という顔になりがち。
- 命令の再発行 「さあ総攻撃だ!」というゲームの盛り上がりに対し,実際にはちまちまとした無限の手作業というギャップが生まれる。
以上,苦言めいたことを挙げてみたが,これはあくまでHZZ以降,無数の開発者とプレイヤーが知見と経験を積み上げていった先に完成した「現代的なRTS」というゲームを知っているから感じることだ。「最新のRTSと比べて,ここがダメ!」という評価はさすがにアンフェアだし,HZZはHZZというゲームとして十分に楽しめる。
なお,とにかく操作に慣れないことには話にならないゲームなので,まずは可能な限りプレイヤーにアドバンテージがあるような難度設定で遊んだほうがいい。操作を間違えないようになったら,そこで初めて難度を上げることを考えたほうが無難だ。
また,SEGA AGES版には懇切丁寧なチュートリアルが搭載されているのも嬉しいところだ。チュートリアルの冒頭では「このゲームはとっつきにくい!」という身も蓋もない断言がなされるが,それにふさわしい綿密なチュートリアルが用意されている。……終盤の課題は「本当にこれで良いんですかね?」と言いたくなるくらいの難度だが。
もちろん,オリジナル版と同様,画面分割による2人対戦も可能なので,完全に無抵抗なPlayer2に対して勝利を体験してみるというのも手だろう。
現代のプレイヤーからすれば,HZZはフレンドリーな作品とは言いがたい。ただ,RTSファンを自称するなら,「RTSの始まり」に触れておくことは貴重な経験になると思う。
「SEGA AGES ヘルツォーク ツヴァイ」公式サイト
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