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「Hades」が挑む「死にゲー」の彼岸。死を前提としたシステムが織りなす壮大な家出の物語
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印刷2021/06/30 17:00

レビュー

「Hades」が挑む「死にゲー」の彼岸。死を前提としたシステムが織りなす壮大な家出の物語

「電話も無ェ 瓦斯も無ェ バスは一日一度来る
俺らこんな村いやだ 俺らこんな村いやだ」
作詞・作曲 吉 幾三「俺ら東京さ行ぐだ」より引用

 2021年6月24日にNintendo Switch版がリリースされた「Hades」PC / PS5 / Xbox Series X / PS4 / Xbox One / Nintendo Switch)は,まさに吉 幾三さんがこの哀しい詩をポップなメロディで歌った曲のように,ある一人(一柱?)の若者が田舎から都会へ出ていく,長く苦しいようでどこか楽しい,そんな家出をローグライク風味のアクションで再現したゲームだ。

画像集#001のサムネイル/「Hades」が挑む「死にゲー」の彼岸。死を前提としたシステムが織りなす壮大な家出の物語

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 今年最後のハロー!Steam広場となる第265回は,死の神であるハデスに支配された地下世界からの脱出を目指して,迫り来る敵と戦いながらダンジョン探索を繰り広げていく,斜め見下ろし視点のローグライクアクション「Hades」を紹介しよう。開発は「Bastion」のSupergiant Gamesだ。

[2019/12/20 12:00]

スタイリッシュ家出アクション


 ゲームの舞台はギリシア神話における冥府。ポセイドンとゼウスの兄であるハデスが統治するこの領域は,太陽の光が一切差し込まない洞窟で,死者たちの魂がさまよい,亡骸があちこちに転がっている。
 主人公のザグレウスはそのハデスの息子であり,おそらく自分はこの陰鬱とした世界の後継者で,ずっと自分に口うるさい父親の言いなりになるのかと辟易した末に,ついに家出を決意する。

 ただその家出は容易ではない。なんせ,亡者が巣食うタルタロスを越え,溶岩に満ちたアスポデロスを渡り,神兵たちが待ち受けるエリュシオンを抜け,スティクスの試練を突破しなければいけない。およそ大英雄ヘラクレスでさえ踏破するのは難しいであろう,苦難の道が続く。夜行バスで尻を痛めている方がまだマシかもしれない。

画像集#002のサムネイル/「Hades」が挑む「死にゲー」の彼岸。死を前提としたシステムが織りなす壮大な家出の物語

 そこでザグレウスは父の武器庫から無断で武器を拝借(盗むとも言う)する。武器は剣,弓,大盾,槍,ナックル,銃などが順に開放され,それぞれ通常攻撃,タメ攻撃,特殊攻撃が備わっている(例外もある)。他にザグレウスは「ダークソウル」のローリングのような回避行動と,魔弾という飛び道具を持ち,これらを組み合わせて何とか戦っていく。

 またありがたいことに,よその家庭事情に首を突っ込みたがるオリュンポス十二神が「ザグレウスくん,おじさん(おばさん)は君のこと応援してるからな!」と恩着せがましく「功徳」という強化アイテムを贈ってくれる。これは先ほどの攻撃や回避に属性を付与するパッシブな強化アイテムだ。道中でこれを取得し,ザグレウスを強く鍛え,難関を突破していく。

画像集#003のサムネイル/「Hades」が挑む「死にゲー」の彼岸。死を前提としたシステムが織りなす壮大な家出の物語

 この豊富な武器を介したアクションと,神々に振り回される選択の連続には,真新しい要素はないが非常に出来がいい。
 実は「Hades」は2018年から「アーリーアクセス」を始めていたが,開発したSupergiant Gamesのグレッグ・カサヴィン氏によれば,その後の3年間で2万件に及ぶフィードバックを受け止め,地道な改善を繰り返したらしい(関連リンク)。だから武器を振る,攻撃を避ける瞬間に一切のストレスがなく,アイソメトリックビューで展開される情報量は適切で理不尽な被弾が少ない。

 ところが神々の武器と功徳をもってしても,家出はそう簡単ではない。最初,2〜3回プレイしただけでは最序盤の敵・タルタロスさえも突破は難しいだろう。というのも,奥に進むたびに敵の攻撃は激しくなり,回避も難しくなる。また,このゲームは回復手段が乏しく,数発の被弾さえも致命傷となってしまう。

 極めつけに,このゲームにはいわばチェックポイントが存在せず,死ぬと一からやり直し。つまりは「風来のシレン」のようなローグライクの「風味」がある,ハードコアなゲーム……に最初は思える。


パーマデスに抗うザクレウス


 ただ,「Hades」には古典的なローグライクにない要素として,「冥夜の鏡」がある。これはゲームプレイ中に集まる「冥府の鍵」「闇の結晶」といったアイテムを使い,主人公を恒久的に強化する要素なのだが,その強化の「幅」が極めて大きい。

 例えば,レベルを跨ぐたびに少し回復する「冥府の活力」,回避回数を増やせる「筋力増強」,最大体力を増やす「鉄の皮膚」に加え,なんと一度死んでもその場で復活できる「死神騙し」なんてのもある。しかもこの「死神騙し」はコストこそ高いが,重複させると何度も蘇られるオーバーパワーぶりだ。

 こうして,最序盤のタルタロスが相手でさえ毎回死んでしまうなんて初心者であっても,ゲームをプレイするごとに集まる鍵や結晶を「鏡」で消費し,少しずつザクレウスを強化すれば,ゲームが簡単になっていく。むしろゲームの異様な高難度に反比例するように,「鏡」によるバフはインフレしていく。

画像集#004のサムネイル/「Hades」が挑む「死にゲー」の彼岸。死を前提としたシステムが織りなす壮大な家出の物語

 ザクレウスを強化するのは「鏡」だけではない。「宮大工」に頼めばダンジョンが少しずつ簡単になっていくし,「酒」を神々に捧げて仲良くなれば,専用の強化装備をもらえるうえに,彼らがストーリーの新しい側面を語ってくれたりする。さらには死ぬたびにザグレウスの一家が応援だか罵声だかわからない多種多様な反応をくれる点からも,明らかに繰り返しプレイし,その過程で簡単になっていく前提でゲームが設計されている。

 実際のところ,このような「Hades」は一般に想像される「ローグライク」とは,かなり異なっているように感じるだろう。「ローグライク」の定義として有名な「ベルリン解釈」関連リンク)において「Permadeath」(恒久的な死,以下,パーマデス)が挙げられるように,「風来のシレン」のようなローグライクから,そのメカニクスをアクションやストラテジーに応用した「ローグライト」まで,ほとんどのゲームは死ぬと経験値からゴールドまで何もかも失う,痛烈な罰が失敗したプレイヤーを待ち受ける。

 「Dead Cells」や「Into the Breach」といった進捗を一部引き継げるゲームも増えているが,「Hades」は明らかにローグライクが本来持っていたパーマデスという大きな特徴を削るどころか,むしろ反動的に解釈しているようにさえ思う。
 ザクレウスは悪態こそつくが,何だかんだ家出を旅として楽しんでいるように見えるし,元凶である父ハデスですら「またお前は余計なことしくされやがって!」といちいち怒らせて楽しめる。それこそ,吉 幾三さんの間の抜けたメロディのように,もっと気楽に死のうぜ! と言わんばかりで,多くのローグライクの気難しさとは対極的だ。

画像集#005のサムネイル/「Hades」が挑む「死にゲー」の彼岸。死を前提としたシステムが織りなす壮大な家出の物語

 既存のローグライクから離れて,もっと自由に遊べるよう作ったという「Hades」は,さながら父ハデスから逃げる息子ザクレウスのようだ。
 おかげでNintendo Switchを所有するカジュアル層も気楽に楽しめるようになったが,一方で筋金入りのローグライクファンなら「こんなもの遊べるか!」とちゃぶ台をひっくり返したくなるかもしれない。

 しかし,実際のところ「Hades」は単にローグライクを簡単にしただけのゲームではない。むしろ,数あるローグライクの中でも本質的に「Rogue」とは何か,よく考えられたゲームのように思う。


優しい「結果の拘泥」


 そもそも,「ローグライク」の原点となった「Rogue」を開発したグレン・ウィックマン氏曰く,「死ぬと一からやり直し(所謂,パーマデス)」にした理由は「難しくするため」ではなかったという。従って「パーマデス」という言葉自体も変えるべきだとさえ主張する。

 「パーマデスは『結果への拘泥(consequence persistence)』を作り出すためのものでした。スクロールを使うべきか否か? ポーションを飲むべきか否か? その結果がわからないからプレイヤーは考えるのに,もしゲームをセーブとロードで巻き戻せてしまえば,プレイヤーは考える必要もなく,ゲームのメカニクスが破綻してしまうわけです。」
KOTAKUより引用(引用元リンク


 このようにローグライクにおけるパーマデスは,随所でプレイヤーに適切な意思決定や技術を問い,それによって引き起こされた結果をしかと受け止める(結果への拘泥)うえで,結果的に導入された機能だったと考えられる。パーマデスはそれ自体が目的ではなく,あくまで手段に過ぎない。

 そして「Hades」はパーマデス要素こそ弱いものの(進捗の一部を引き継げる),「結果の拘泥」をむしろ新たな側面から作り出せている。
 何の武器を持ち込み,何の功徳を獲得するかといった従来的なローグライクの拘泥(あるいは緊急性,emergentとも言いかえられる)があるうえに,もっとも興味深いのは,そのような選択肢の中で,「鍵」や「結晶」という持ち帰れるアイテムが紛れ込んでいるのである。

 例えば,次のレベルに進む際に,報酬が「鍵」と「功徳」で分かれているとする。「功徳」をもし獲得すれば,今回の家出は幾ばくか簡単になるだろうし,「鍵」を取れば今回の家出は不利になるものの,家に持ち帰れば次回以降の家出が簡単になる。ただ欲張って「鍵」ばかり取っていれば,次の報酬を獲得する前に死んで送還されてしまうだろう。

画像集#006のサムネイル/「Hades」が挑む「死にゲー」の彼岸。死を前提としたシステムが織りなす壮大な家出の物語
画像集#007のサムネイル/「Hades」が挑む「死にゲー」の彼岸。死を前提としたシステムが織りなす壮大な家出の物語

 今回の家出にすべてを突っ張るか,次回の家出に備えるのか,これはとても悩ましい。「功徳」のようなその場限りの強化を取り続ければリスクが大きく,「鍵」ばかり取ればリターンがない。
 慎重な性格であれば後者を選ぶだろうし,実力に自信がつけば前者を選ばずにいられない。あるいは,序盤に引いた功徳が悪かった時などは「鍵」を優先して取ればいい。

 そしてこのように迷い続ける中で,ザクレウスの心もまた揺れる。
 父は苦手だが尊敬する側面もあり,かたや自分の出自に対する興味もまた尽きない。冥府の仲間たちはどいつも陰険だが憎めず,手助けしてくれるオリュンポスの神々は明るいが妙に胡散臭い。そして断片的な物語がゲームを進めるたび,あるいは戻るたびに語られ,この家出をめぐる重厚な神話が明らかになっていく。

 このような随所での問いかけ,そして意思決定,それが引き起こす結果。「Hades」はパーマデスを部分的に退けることにより,むしろ1980年の「Rogue」が本来目指していた「結果への拘泥」をより広く,新しいカタチで楽しませてくれる。
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