コンパイルハートから,PlayStation 4用ソフト「
アズールレーン クロスウェーブ」が2019年8月29日にリリースされる。本作は,艦船擬人化による多数の美少女キャラクターが登場する人気スマホゲーム
「アズールレーン」(
iOS/
Android)の世界観をもとにした“3Dシューティング+RPG”というハイブリッドスタイルのゲームで,原作アプリの開発を手がけるManjuuと,国内でのパブリッシングを行うYostar,両社の協力を受けて開発されている。
原作ファンから大きな注目を集める本作について,「クロスウェーブ」のプロデューサーを務めるコンパイルハートの
東風輪敬久氏と,日本版「アズールレーン」のディレクターであるYostarの
徐 遅氏に話を聞いた。
企画の発端は「アズールレーン」と「ネプテューヌ」のコラボ
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。いよいよ発売が迫ってきた「アズールレーン クロスウェーブ」ですが,あらためて本作を企画した経緯から教えていただけますか。
東風輪敬久氏(以下,東風輪氏):
最初のきっかけとなったのは,原作の「アズールレーン」と「ネプテューヌ」のコラボレーションでした。原作がリリースされたばかりの頃,自分でもプレイしていて「このキャラクター達はとても良いな」と思い,社内の海外担当に「先方と一緒に何かできないだろうか」と話をしてみたところ,偶然にも担当者が知人としてお付き合いがあることが分かり,その縁でManjuuさん,次にManjuuさん経由でYostarさんに声をかけてもらったんです。
徐 遅氏(以下,徐氏):
まだ日本ではそれほど実績がないうちから声がかかり,ビックリしたのを覚えています。
東風輪氏:
このように原作アプリでのコラボ自体はかなり早い段階で決定しました。そのあと原作の人気が一気に高まった時期にコラボ開催が被さり,おかげさまで非常にクオリティの高いコラボとなりました。このコラボの縁で,ぜひうちでコンシューマゲーム化もさせていただけないか,相談したのがプロジェクトの始まりです。
4Gamer:
コラボした当初から原作のコンシューマゲーム化を見据えていたのでしょうか。
東風輪氏:
何はなくともまずはコラボという感じでしたが,実際にコンシューマゲームの話が決まるまでも非常に早かったですね。お互いに意気投合して,「コンシューマゲームにするなら,バトルの見た目はこうなるよね」みたいな理想を話し合って。あとはManjuuさんのキャラクターやバトルシステムへのこだわりを踏まえて,全体像を決めることになりました。
徐氏:
僕は今回,主にストーリーとキャラクターの監修に携わったんですが,どんなゲームになるのかとワクワクしていました。
4Gamer:
コンシューマゲーム化にあたり,原作サイドからはどんなリクエストがあったんですか。
東風輪氏:
Manjuuさんからは,コンシューマゲーム化するのであれば,2019年の夏頃にはリリースしたいという要望をいただきました。そして,お互いにすり合わせをしていく中で,中心人物となるキャラクターを3Dモデルにすることが決まり,キャラクターの可愛さと海戦の迫力を混在させて煮詰めるという方向性が固まりました。
4Gamer:
ストーリー面ではいかがですか。
東風輪氏:
Manjuuさんはギャグもシリアス展開もある「ネプテューヌ」のストーリーを評価してくださっていて,「クロスウェーブでもネプテューヌのノリを再現してほしいので,あまり既存の設定にとらわれることなく作ってほしい」と。
そうは言っても,キャラクターのイメージが離れすぎてしまうのも問題ですから,徐さんと弊社の
村瀬(本作のシナリオライター。公式サイトのテキストも徐氏と共に担当)が二人三脚でストーリーを作り上げていきました。
徐氏:
僕は運営面でのローカライズ担当というか,原作の設定・展開のディレクションや,キャラクターのセリフまで一部執筆をする役目でして,原作アプリのライター達と協力しながら「このキャラクターは大体こういう方向性で」「日本版のキャラ付けと世界観のポイントをこう押さえてほしい」といった感じで監修をしております。本作でもそれを踏襲して進めました。
実は今回の取り組みのために,あらためてキャラクターのコンセプトをまとめた資料を提供したんです。その中に,「このキャラクターに,こういうことをやらせると面白いのでは?」という僕からの提案も盛り込みました。村瀬さんには,コンセプトや提案を上手に使ってキャラクターごとの魅力を引き出してもらえたと思っています。
原作と少し違う世界観で展開する,もう1つの「アズールレーン」
4Gamer:
本作のメインストーリーは,新キャラクターの
「島風」と
「駿河」を中心に描かれていますが,この2人はもともと原作アプリのために用意されたキャラクターだったと聞きました。
東風輪氏:
お話したとおり,2019年以降のリリースは決まっていましたから,Manjuuさんと「その頃にフィーチャーするなら誰がいいか?」という相談をしつつ,「インパクトのある新キャラクターは誰かいますか?」と質問をしてみたところ,この2人(島風と駿河)の名前が挙がったんです。ただしキャラクターの細部が決まっていない段階だったので,Manjuuさんと協力しゲーム開発と並行して作り上げることになりました。
4Gamer:
ということは,イラストレーターの選定から行っているわけですね。
東風輪氏:
ええ。本作で島風の立ち絵を描いていただいた黒星紅白さんは,本作の開発を手がけるFELISTELLAさんと親交があったので,そのつてでお願いしました。もう一方の駿河を描いていただいた藤ちょこさんは,村瀬からの提案でしたね。
4Gamer:
本作では原作と異なるオリジナルストーリーが展開しますが,その理由を教えてください。
東風輪氏:
主な理由は,原作のストーリーが現在進行形で更新されているからです。そこに本作のストーリーも正式なものとして組み込むのは,いろいろな意味で無理があります。
そこで,既存キャラクターの魅力をより深めることを念頭に置き,たとえ原作を知らない方でも簡単に入っていけるような世界観で作ることになりました。
徐氏:
原作は中国や欧米でも展開しています。一方,クロスウェーブは(今後,海外展開もあるものの)最初にリリースされるのは日本ですから,そのストーリーを正史に組み込んでしまうと,日本とほかの国や地域で情報格差が生じてしまいます。
その事情もあってキャラクターは原作と同じだけれど,世界観とストーリーは少し違うものにしましょうと。このアプローチは,国内で展開しているノベルやアニメについても同様です。
4Gamer:
ストーリーを作るにあたり,いくつか選択肢があったかと思うのですが。
東風輪氏:
最初の案では,原作に寄せつつ「メンタルキューブ」を据えたシリアスなストーリーにしようと考えていました。しかし,それに対してManjuuさんからは先述の事情でNGが出たのですが,その後FELISTELLAさんから
「合同大演習」というキーワードが挙がってきたんです。演習と言ってもオリンピック的なノリにすることで,原作の多彩なキャラクターを違和感なく活躍させられるので,まさに「これしかない!」という感じでしたね。
徐氏:
とは言え,ただキャラクターがワイワイやっているだけでは「アズールレーン」としての個性が出ませんから,残りは村瀬さんがしっかり書いてくださいました。僕もアイデアを出しています。プレイし終えたら,笑えるところばかりでなく,感動するシーンもあったと思ってもらえますよ。
艤装にまでこだわり抜き,コンパイルハート史上最多の3Dモデルを作成
4Gamer:
一作品に登場する3Dの女性キャラクター数として,本作はコンパイルハート史上最多になりますよね。
東風輪氏:
ええ,FELISTELLAさんも
1タイトルで31体の3Dヒロインを管理するのは初めてで,とくに最終調整で苦労されていました。何より,背面など原作のイラストでは見えない部分はまず,すべて想像でデザインし,Manjuuさんのチェックを受けて,OKが出てから3D化してまたチェックしてもらう……という出だしの部分から大変でした。
艤装も3D化する必要がありましたから,元のイラストで斜めに描かれている部分も「これ,どうなっているんだろう?」と悩まれたようです。今回,限定版には特典として
「設定資料ビジュアルブック」が付くんですが,3Dモデル制作用に使った設定画だけでもすごい情報量で,約100ページにもなりました。
4Gamer:
それはファンなら絶対手に入れたいですね。
徐氏:
ただ,1点だけお断りさせていただきたいのですが,これは本作用に作ったもので,イラスト物では細部の解釈が違うデザインが採用されるケースもあります。また今後,原作で背面が公開されるときも,今回とは違うデザインになるかもしれません。
4Gamer:
徐さんから見て,本作の3Dモデルの出来はいかがですか。
徐氏:
すごいです。一番の見どころは,1体1体が元になるイラストの絵柄に合わせて作られていることですね。多数のキャラクターを3Dモデル化する場合,通常は基準となるモデルを数体作り,あとはシェーダやスキン,アクセサリーなどを変えて差別化を図っていきます。ところが本作では,キャラクターごとに全部違う。最初に資料を見たときは「すごいけど,本当に大丈夫かな?」と心配しました。
東風輪氏:
実は今回,3Dモデル化のために原画の2Dデザイナーと3Dモデリングデザイナーを合計で10名以上投入しているんです。原画の時点でも差別化を頑張り,これによってキャラクターの画一化が生まれにくい状況をFELISTELLAさんに作っていただきました。
疾走感を大事にしつつ,初心者から上級者まで楽しめるバランスに
4Gamer:
それではバトルについて,今の形に落ち着いた経緯などを教えてください。
東風輪氏:
当初考えていたゲームは,今とまったく別物だったんです。ザコとの戦闘はほぼ無く,敵戦艦の耐久力がとても高く,砲塔などを破壊しながら時間をかけて撃破するという内容でした。ですが「これでは『アズールレーン』らしさがない」と判断し,どうすれば原作に近づけるか,プロトタイプからの改変を検討していきました。
そこで重視したのが,シューティングゲームとしての
「弾幕」と
「次々と敵を倒すテンポ感」です。原作だと時間制限の関係もあり,1回のバトルが2分以内にほぼ収まるんですが,それがそのまま3D化されたと感じられるくらいになるまで,FELISTELLAさんと試行錯誤しました。
4Gamer:
バトルで,とくにこだわった部分はどこでしょう。
東風輪氏:
全体のスケールですね。女性キャラクターを等身大の人間サイズとしたときに,対する敵戦艦の巨大さをいかに表現するかは,ManjuuさんだけでなくYostarさんもこだわっていました。「海戦を描くにあたり,女の子しか出てこないゲームにはしない」と。
徐氏:
原作に登場する量産型の艦や「自爆ボート」をどう扱うかという課題もありました。これに関してはYostarが手がけるほかのタイトルなどから着想を得て,「コンシューマゲームなら,こんな感じの表現がいい」と提案しています。
東風輪氏:
3Dで迫ってくる自爆ボートは,かなりの迫力ですよ。その自爆ボートをただ厄介な敵にするのではなく,走行中に倒せば回復アイテムをドロップするようにしたところも本作ならではの部分になっています。とくに高難度になると体力回復が重要になってくるので,全力で奪いに行かなければなりません。
4Gamer:
シューティング要素とRPG要素のバランスはどのように取っているのですか。
東風輪氏:
本作はRPGの開発経験者のチームで制作しており,バランスは最後まで議論が分かれたところでした。Manjuuさんは雰囲気を重視したいという意見で「海戦なので,お互いがゆったりと動き,壮大に力をぶつけ合うゲームにしたい」と。むしろ“シミュレーションRPG”的な空気感を求められたわけですが,弊社としては最初のPVでの反響が大きかったキャラクターの疾走感を外すわけにはいかないと考えていたので,申し訳ないのですが無理を言って,ハイスピード・シューティングで通してもらいました。
4Gamer:
確かに,あれを見ると誰もが自分で操作してみたいと感じると思います。
東風輪氏:
ただ,あのバランスの中で誰でも同じようにゲームを楽しめるかと言うと,なかなか難しいのが実情です。そこで編成と難易度設定によって,まったくゲームバランスが異なるように調整しました。イージーならどんな戦い方でもまず負けませんが,ハードだとキャラクターの性能を100%引き出し,装備も編成も整えないと勝てない“RPG+アクション”になるという,誰でも楽しめるゲームを目指したんです。腕に覚えのある方は,ぜひハードで遊んでほしいですね。
徐氏:
実際,難易度の住み分けはかなりいい感じに仕上がっています。本作のノーマルとハードが,ちょうど原作を手動でプレイしたときのノーマルとハードに対応するような手応えで,原作を遊んでいる方でも違和感がないと思います。そして何より,イージーの存在がありがたいですね。僕自身,アクションが苦手なので,ストレスなくキャラクター達とワイワイできることがすごく嬉しいです。
サブストーリーやギャラリーでは,原作で伝えきれていない小ネタも
4Gamer:
ところで,サブストーリーでは原作で見られないキャラクター達の一面が描かれたりもするんですよね。
徐氏:
ええ,各サブストーリーに登場するキャラクターの組み合わせは,ほとんどが原作にはないものになっていますので,そこで違った一面が見られますよ。
東風輪氏:
もちろん,高雄と愛宕のような鉄板の組み合わせも出てきます。それ以外ですと,村瀬自身は艦種が同じキャラクター同士で組み合わせてみたかったようですね。例えば,加賀とユニコーンは陣営も背格好も年齢も全然違うんですが,同じ空母ということで,例えばゲーム開発者で言えば年の離れたデザイナー同士のように,何か共通の話題を出しつつの会話になるんじゃないかとか話していました(笑)。無事,徐さんのOKも出たようで安心しました。
徐氏:
原作とは違う会話ができるということで,思いっきりやりましょうと。もちろん,いわゆるキャラ崩壊を起こさないことは前提ですが。
4Gamer:
ネタバレにならない範囲で,面白いエピソードなどを教えてもらえますか。
徐氏:
サブストーリーではないのですが,公式チャンネルにアップされた赤城の登場するイベントに対して
「きれいな赤城」という反響が寄せられています。あれはもともとの設定に沿ったもので,実は原作の中にも赤城がきちんとしている描写があるにはあるんですが,なかなか伝わっていないんですよね。今回,村瀬さんにも「赤城は立派な人なんです」と念を押しておきました(笑)。
4Gamer:
赤城と言えばヤンデレのイメージが……。
徐氏:
なので,なかなか原作では伝えきれていない小ネタは,本作のサブストーリーでも紹介しています。各キャラクターの趣味や,好きなもの,嫌いなものなども,あとからチュートリアルのデータベースでチェックできるので,ぜひ読んでみてください。
東風輪氏:
キャラクターを「秘書艦」に設定したときのシステムボイスも,多彩なパターンがあるので,そこでも意外な一面が見られると思いますよ。
徐氏:
原作には300体以上のキャラクターがいますが,本作に登場するのは,そのうちの一部のみです。そこで,会話や武器などの説明テキスト,アイテムの名称などに,ゲームには登場しないキャラクターの名前やエピソードを織り込んだりと,いろいろなネタを仕込んでいます。
4Gamer:
例えば,どんなものがあるのでしょう。
徐氏:
そうですね,例えば
「撫順ロケットだったもの」という換金用のアイテムは,撫順がいたずらで爆竹ロケットを作っていたら,失敗して爆発してしまったという原作のシナリオをネタにしたものです。
東風輪氏:
もともとは「鉄くず」のように,いかにも直球で素材的なアイテム名のみだったんですよ。それをより面白くするべく,徐さんが提案してくれたんです。
4Gamer:
本作ではメインストーリーだけでなく,サブストーリーもフルボイスで展開するとのことですが,これも原作にはない魅力の1つですよね。
徐氏:
スマホアプリは容量などの制限があるので,フルボイスにするのは難しいんですが,コンシューマゲームではそれが実現できるので,ぜひにとお願いしました。僕自身,ほぼすべての収録に立ち会って監修したのですが,期待していただいていい仕上がりになっていますよ。
東風輪氏:
システムボイスも含めて,単に声優さんにセリフを読んでもらっただけではない,いかにもそのキャラクターがしゃべっているかのような仕上がりになったと思います。登場キャラクター数を絞ってしまったことについては本当に申し訳ないのですが,ボイスを聞けば今まであまり興味がなかったキャラクターにも愛着が湧いてくるくらいに,こだわりました。
4Gamer:
それは本当に楽しみです。
今後の展開などについて,現時点でお話いただけることはありますか。
東風輪氏:
これは弊社だけで決められる部分ではないのですが,SNSなどはチェックしていますので,ぜひリクエストをお寄せください。可能なものは,どうにかして実現していきたいと考えています。
徐氏:
時期は検討中ですが,島風と駿河を原作に実装する予定です。世界中の原作プレイヤーに「これ,誰?」と思われないよう,周到に準備を進めています。
東風輪氏:
本作で「アズールレーン」を知ったという方には,ぜひとも原作をプレイしてほしいですね。島風と駿河以外のキャラクターはすべて原作に実装されていますし,今後も続々と増えていきます。これはコンシューマゲームでは実現できない魅力ですね。
徐氏:
あとは発表しているとおり,
「アズールレーン」のアニメも10月にスタートします。ゲームと合わせて楽しんでいただけると幸いです。
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4Gamer:
この夏から秋にかけて,ファンには楽しみなことばかりですね。
それでは最後に,本作に期待している人に向けてメッセージをお願いします。
東風輪氏:
何より自分自身が原作の「アズールレーン」を大好きなので,思い入れが強いタイトルとなりました。ファンの皆さんが嬉しいと思えることを,なるべく多く盛り込めたと思います。ぜひ楽しんでください。
徐氏:
「別世界のアズールレーン」として仕上がっています。とにかくキャラクターが可愛いです。ぜひ遊んでいただいて,新しい発見やキャラクターの深掘りなどを楽しんでください。
4Gamer:
ありがとうございました。